新型宇宙船オリオンのミッションの説明から湧き出る疑念
今年の 12月に NASA は、オリオンという有人宇宙ミッション用の宇宙船のテスト発射をおこないます。テスト飛行は「無人」でおこなわれます。
下のような形のものです。
・SORAE
このことについては、すでに日本でも報道されています。
アポロ似の次世代宇宙船「オリオン」公開 NASA、12月に初飛行
産経ニュース 2014.09.12
12月に初の無人飛行に挑む米航空宇宙局(NASA)の次世代宇宙船「オリオン」の試験機が11日、米フロリダ州のケネディ宇宙センターで報道関係者に公開された。
オリオンは2020年代以降に火星や小惑星への有人飛行実現を目指しNASAが開発中の4人乗り宇宙船。12月4日に予定する試験飛行では飛行士を乗せずにデルタ4ロケットで打ち上げ、地球を2周し太平洋に帰還する計画。
NASA は 10月初旬に、このオリオンについての説明動画を YouTube にアップしました。
しかし、これを見ているうちに、私もそうなんですが、多くの人が、
「?」
と思うような説明がクライマックス的に取り上げられていることに気づきます。
それは、下のような説明と共に語られる部分です。
ヴァン・アレン帯とありますが、NASA のこのビデオに登場する人は、「ヴァン・アレン帯がいかに危険なエリアで、そこを2度(行く時に通過して、戻ってくる時も通過するという意味)も通過することが今回の飛行の中でどれだけ重大なことか」ということを熱弁します。
この NASA のビデオは YouTube の、
・Orion: Trial By Fire
にあり、3分ほどのものですが、その中からその「ヴァン・アレン帯についての説明」の部分をピックアップします。字幕をつけたかったのですが、時間的に余裕がなく、英語のままですが、内容は上記しましたように、
「放射線の多い危険なヴァン・アレン帯を通過することがいかに重大か」
ということについて語っているもので、音楽も含めての「盛り上がり方」をご覧頂きたいと思いました。音楽もオリジナルのままで手は一切加えていません。
この NASA の方がかなり熱く「ヴァン・アレン帯の通過ミッション」を語っているということがおわかりかと思います。
この熱弁ぶりを見ますと、今回の無人テスト飛行の重要なミッションのひとつに、「危険なヴァン・アレン帯による宇宙船の機器へのダメージの度合いを確かめる」というものがあると考えても不自然ではない気がします。
それはそれでいいのですが……何となく違和感を感じていました。
そして、その違和感は、このビデオのコメント欄のトップにあるコメント(つまり、最も評価の高いコメント)を書いた人の持つ違和感と同じものでした。
このビデオを見た後、私は、これまで月へのすべての有人飛行が果たして本当にあったのだろうか、と本気で疑ってしまった。
ここにあるようなテクノロジーが、1950年代や 1960年代にあったとは私にはどうしても信じられない。そして、1969年の月面着陸時の時にも。
この NASA のビデオは、宇宙船にヴァン・アレン帯を通過させて地球に戻ってくることが非常に重大で深刻なミッションであることを語っているが、1960年代にこのような高度な技術やコンピュータが存在していたわけがない。
「なるほど……」と私もちょっと同調しそうになりました。
しかし、この意見に完全に同調してしまいますと、
「これまでヴァン・アレン帯をこえて宇宙に行った人類はいない」
という類の話を肯定してしてしまうようなことになってしまい、つまり「月にさえ誰も行っていない」というような、極端な陰謀論者扱いをされかねませんので、まあ、一応は「そう思わざるを得ない部分もないではないというように思わないでもないという部分も少しある」という程度にしておきたいです(ああ、まどろっこしい)。
個々の説明をしておきますと、ヴァン・アレン帯というのは、 Wikipedia から抜粋しますと、
ヴァン・アレン帯とは地球の磁場にとらえられた、陽子、電子からなる放射線帯。
です。
・オリジナル図版はWikipedia
さらに Wikipedia には「ヴァン・アレン帯と宇宙飛行」という項目があり、
過去には、宇宙船でヴァン・アレン帯を通過すると人体に悪影響があり、危険だとされていたが、今では通過時間がわずかであり、宇宙船、宇宙服による遮蔽や防護が可能なことから、ほとんど問題はないと言われている。
とあります。
ここにあるように、すでに現在の宇宙科学技術では、
> ほとんど問題はないと言われている。
というにも関わらず、上の NASA のビデオでは、
ヴァン・アレン帯を通過させて地球に戻ってくることは非常に重大なミッションである。
というように見てとれるのです。
要するに感じたことというのは、すでに過去に確立して、今ではなんともないテクノロジーならこんなに力説しないのでは? という単純な疑問なのです。
そして、もうひとつの気になる理由としては、アポロ計画陰謀論でも、この「ヴァン・アレン帯」について論争のネタとなっていたことがあるということもあります。
ヴァン・アレン帯「通過不可能」論は本当に過去の仮説なのか
「アポロ計画陰謀論」については今ではそのことを知らない人の方が少ないと思いますが、アポロ計画陰謀論 - Wikipedia の中に数多く羅列されている「捏造派の主張」と「それに対する反論」のリストの一覧の中に以下があります。
捏造派の主張
月へ往復する際、ヴァン・アレン帯(1958年発見)と呼ばれる放射線帯を通過する必要があるが、1960年代の技術でそれを防げたのか。
それに対する反論
ヴァン・アレン帯の成分は陽子と電子である。かつては確かに放射線が宇宙飛行士へ障害を及ぼすのではないかと思われた時期があったが、その通過時間が短いことや、宇宙船および宇宙服でほとんどが遮断できるため、大きな問題とはならない。
ということで、現在では、この「ヴァン・アレン帯通過不可能論」は 1960年代に立てられた仮説であり、実際には人体にも機器にも影響はないというのが現在の説の主流となっています。
そんな 50年も前に確立していた技術に関して、2014年の現在、 「何と、オリオンはヴァン・アレン帯を2度も通過して地球に帰還するのです」と、さきほどのように力説している。
今回のオリオンは「無人テスト飛行」ですので、NASA のビデオでそのテクノロジーを喧伝しているのは、人間への影響ではなく、「機材への影響」だと思われます。
ヴァン・アレン帯の成分は陽子と電子だそうですが、これらはいわゆる「放射線」のわけですが、それらは生物への影響はともかく、機器にどんな影響を与えるのかというと、放射線 - Wikipedia によりますと、
放射線は生物だけでなくコンピューターにとっても有害であり、コンピューターは放射線を浴びることによってソフトウェアがエラーを起こしたり、半導体としての機能が失われたりする。人工衛星は宇宙空間で被爆することを前提として高い放射線耐性のあるシステムで作られている。
ということですが、ヴァン・アレン帯は二重構造(時に三重構造)となっていて、その構造をもう少し詳しく書きますと、下のようになるようです。
二重構造のうちの内側の帯(上で赤く示された部分)は赤道上高度 2,000〜 5,000キロメートルに位置して、外側の帯は 10,000〜 20,000キロメートルに位置する帯(上でグレーで示された部分)となります。
長期滞在クルーが搭乗している ISS (国際宇宙ステーション)は、地球から 350〜 400 キロメートルの高度を軌道周回しているので、ヴァン・アレン帯よりはるかに低い場所を飛行しているため、ヴァン・アレン帯の影響は受けないようです(それでも搭乗員たちは相当量の放射線を浴びています)。
NASA のオリオンは、「放射線の海」ともいえそうなヴァン・アレン帯の中を突っ切っていくわけですが、しかし、今から 46年前にはアポロ8号が3人の宇宙飛行士を乗せて、つまり有人飛行で、「人類初めての月周回飛行」をおこなって地球に帰還しています。
アポロ8号が撮影した「月面から見た地球」
月へ行くには、ヴァン・アレン帯を突き抜けていくしかないわけですが、アポロ8号 - Wikipedia によりますと、
アポロ8号の乗組員たちは、ヴァン・アレン帯を通過した初めての人類となった。
科学者たちはヴァン・アレン帯を宇宙船が最高速で急速に通過すると、胸部撮影のレントゲン写真で浴びるのと同程度の 1ミリグレイ程度のX線を被曝するのではないかと予想していた (人間が1年間で浴びる放射線は、平均で2から3ミリグレイ)。計画終了までに彼らが浴びた放射線量は、平均して1.6ミリグレイであった。
と、放射線を浴びつつも、機体にも人体にも致命的なダメージはなかったようです。
そのように、50年近くも前に「大した問題はなかった」ことが確認されているヴァン・アレン帯通過のミッションを、それから随分と科学技術も進んだ今となって、その重要性を力説している。
それが不思議だな、と思ったのです。
人類が月に行ったかどうかということに関しては、アポロ 15号の撮影した月面の光景と、日本の月周回衛星「かぐや」が撮影した月面の写真の同じ場所での地形の一致が確認されていることなどから、すべてのアポロかどうかはともかくとして、「月に行った」ということは間違いない……と私は思っているのですが……。
アポロ15号が月面着陸した場所から撮影した写真(1971年7月)
月周回衛星「かぐや」が撮影した月面(2008年7月)
・Univers Today
このように、確認が取れてはいるのですが……しかし。
宇宙探検は夢やロマン以上にはならない?
先日の記事の、
・人類は宇宙へは行けないし、異星人たちも地球には来られないことを悟る中、人々から「神の存在が消えていっている」ことも知る
2014年10月29日
で書きましたが、ヴァン・アレン帯よりはるかに低い高度で宇宙活動をしている国際宇宙ステーションの搭乗員たちでさえ、JAXA によりますと、
> 乗務員の1日の被ばく線量は地球上での約6ヶ月分に相当する。
わけで、ヴァン・アレン帯を無事に通過したとしても、その先に拡がるのは、国際宇宙ステーションが受けているよりはるかに強力な宇宙放射線が飛び交う宇宙空間です。
宇宙船の中にいるだけでも、相当な放射線を浴びることは避けようがないと思われます。
まして、「月面に降り立ち、調査をおこなう」というのは、そんな中を、つまり、ほとんどストレートにも近い宇宙放射線の中を宇宙服だけで船外活動を行う……ということが、どれだけ人体にダメージを与えることなのか。
今回のことを調べていた時に、そこに書かれてあることが正しいのかどうかはわからないですが、ゼンマイ仕掛けの祈祷師という記事に下のような記述がありました。
太陽風は秒速350km〜700km、で、密度は1立方センチあたり数個から数十個の電子陽子でできています。
つまり、ベータ線感知のガイガーカウンターを、月面や地球の磁気圏外に置くと、CPM(1分間のカウント数)は、数億から数百億になります。
そして、単なる放射性物質由来の電子よりも、高エネルギーを持つ太陽から排出された電子なわけで(中略)
毎時、毎分かどうかさえ、もう関係ない数値です。
そんな環境下をクリアできる装備など、昔はもちろん、今でさえありません。
そんな太陽風(フレア)が頻繁に吹き荒れる太陽活動の極大期に、アポロはぺらぺらのアルミの舟でヴァンアレン帯を抜け、磁気圏外であるために太陽風はもちろん、その放射線にさらされつづけた月面の地面の上で、ゴルフボールをスライスさせて喜んでいたわけです。
よくはわからないですけれど、月の表面は「人間が即死するレベルの放射線が飛び交う場所」という意見もあるようです。
しかし、確かに冷静に考えれば、月面の放射線量を想像してみますと、
「月面で船外活動しなさい」
というのは、普通に考えれば、
「宇宙放射線で死になさい」
と言っているのと等しいものなのかもしれないなあ……と思いつつも、それでも、アポロはちゃんと月に行って戻ってきている。
うーん……。このあたりが考えの限界ですね。
あるいはこう考えて自分を落ち着かせる。
「これはきっと夢やロマンの世界なんだ」
そして、
「現実的に考えていけない世界なんだ」
と。
いずれにしましても、先日の記事「人類は宇宙へは行けないし…」では、火星までの放射線量によって人間は火星まで到達することも難しいという最近の研究結果について書いたりしました。
けれども、アポロ計画から 50年ほど経った 2014年の現在もなお、「月よりも近い場所での無人飛行テスト」がおこなわれているという事実は、宇宙に対しての夢やロマンは想像以上に小さなものなのかもしれないです。
ところで、上に記したアポロ8号についての Wikipeida には以下のような不思議な記述があります。
作家のアーサー・C・クラークは著書「2001年宇宙の旅」の2000年版の序文の中で、アポロ8号の飛行士たちが彼に対し「自分たちはずっと巨大なモノリスの発見を無線で伝えようとしていたのだが、理性のほうがまさったのだ」と語ったと述べている。
何が真実で何が真実でないのやら、いろいろとわからないですが、次元やら空間やらが違った世界で起きていることなのかもしれないと観念してみたり。