▲ 2015年06月17日の米国マサチューセッツ工科大学 MIT News より。
ノーベル賞受賞者が導いた「肯定的記憶」の働き
最近になって、以前よりもさらに「肯定的な思考」と「肯定的な言葉」の重要性を感じている次第ですが、少し前に読んだ記事で、
肯定的な記憶や言葉が、人間の精神状態を現実的に良い方向に支配する
という可能性を示唆するものがありましたので、ご紹介したいと思います。
米国マサチューセッツ工科大学( MIT )の教授であると同時に、さまざまな研究所の所長でもあり、また、1987年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞している日本の科学者、利根川進さんが、
「幸せな記憶が、うつ症状を改善させる」
ことを研究により明らかにしたというものです。
これは、曖昧な話ではなく、記事中に、
繰り返し(楽しい)記憶を活性化すると、海馬の中にある歯状回( Dentate Gyrus )と呼ばれる部位の一部に新しい脳細胞の形成を引き起こす
とありますように、幸せな記憶は、「新しい脳細胞の形成」を引き起こすのです。
この実験はマウスでのものなのですが、脳の海馬の中にある「歯状回」という部位に、物理的に、つまり強制的に「過去の楽しい記憶」をインプットすることで、そのマウスたちは、うつ症状が改善したというものです。
アメリカの医学系報道ではかなりの扱いですので、相当大きな発見のようです。
歯状回
・actioforma.net
さて、このような「脳に物理的な介入をする」という、この方法そのものについては、今の私は、人工的な医療行為は基本的には好ましくはないと思っているのでアレですが、今回の記事から知ったことは、この方法のことではなく、その根底にあるものです。
つまり、
「幸せな記憶を呼び戻すことで、曖昧にではなく、うつ症状が完全に改善するこことがほぼ明らかになった」という事実
は、病院での治療や投薬といったものではなく、「うつ病患者の方々ご本人と、周囲の人たちが自ら治療者となることができる」という明るい兆しが見えることについてです。
今回の研究者のひとりによりますと、うつ病の人は「肯定的な記憶を呼び戻すことを阻害されている」のだそうです。
つまり、うつ病になってしまうと、楽しい記憶はあっても、その記憶自体を引き出しにくい。
だったら、本人もですが、周囲などが「強制的に楽しい記憶を呼び起こそうと努力するだけで、うつ病はかなり改善させられる可能性がある」ということのようにも思います。
そして何よりも大事なことは、今回の論文の主筆の科学者も、
「ポジティブな記憶を与えた場合、彼らをうつ病から防ぐことにもなる」
ということも言っているように、うつ病になっていない人でも、
日頃から幸せな記憶、楽しい記憶、肯定的な記憶を呼び起こすことと、肯定的な想いを抱くことは、うつ病の予防にもなる可能性がある
ということだと思います。
つまり、昨日の、
・日本式ファイト・クラブ:この世こそ極楽であることに感謝し、激動でも素晴らしい時代を死ぬまで生きる
2015年06月29日
に書きましたように、
実際の現実の状況に左右されてネガティブになることには意味がない
というように、どんなにネガティブな状況下でも、肯定的な記憶と思考と言葉で向きあうようにすれば、「マインドまでやられることはない」ということがわかります。
この宇宙は、あるいは神は、人間の身体に強力な自己免疫力を持たせたと同時に、その精神にも強力なバリアを持たせていたことに気づきます。
誰にでも多かれ少なかれある
「幸せな記憶」
「楽しい記憶」
「ポジティブな記憶」
それらは、風邪ウイルスが私たちの身体を守ってくれるように、私たちの精神を守ってくれているのですから、それらの肯定的な記憶を大事に、いつでも肯定的な記憶を引き出せるようにすることも重要だと思います。
記憶の種類は何でも構わないと思います。
そして、ここから思うことは、
「肯定的な言葉を発することも、おそらくは異常に重要」
だということです。
肯定的な記憶が人をうつ病から遠ざけるのだとすれば、肯定的な言葉を周囲に出すことで、少なくとも自分の周囲のメンタルも多少は健全でいられるかもしれない。
周囲がメンタル的に健全で肯定的ならば、そこから自分に戻ってくる言葉も、それほどネガティブなものにはならないのではないかと思います。
つまり、自分が周囲に放つ「言葉」は、結局、自分のいる環境と、そして自分自身に戻ってくるものであり、それだけに、できるだけ肯定的な「言葉」を出すようにするのは、一種の究極のサバイバルのような気もします。
最新の脳科学は「記憶は作り替えることができる」
ところで、今回の MIT のニュースリリース記事の中には、気になる部分もあります。
下のような記述があるのです。
最近、彼ら研究者たちは、そのエングラム(定の記憶を保存する脳細胞のクラスター)に「偽の記憶」を植えつけることができることを示した。
そして彼らは、特定の記憶の感情的な関連付けを「ポジティブからネガティブ」へと切り替えること、あるいは「ネガティブからポジティブ」へと切り替えることができることも示した。
何と、今の脳科学では、
・ニセの記憶を植えつけることができる
・記憶を「ポジティブなものからネガティブなもの」へと変えることができる
のです!
これ・・・脳に直接介入しない方法でおこなうことができれば(たとえば、光とか周波数とか)、自分では記憶だと思っているその記憶そのものが「実際とは違うもの」である可能性などもあるのかもしれません。
目に見えるものはホログラフ(ニセモノ)で、記憶もニセモノだとしたら、何を信じればいいのやら・・・。
と、ここで大事なのは、それが事実だろうと、ニセモノだろうと、「肯定的にのぞむ」ということかもしれません。風景も記憶もニセモノでも、考えること、あるいは自我はニセモノではないです。
考えている「今」だけは真実なのだから、たとえ、周囲のすべてがニセモノであっても、自分で「幸せな記憶」を呼び起こすことはできるはずです。もし、幸せな記憶がないのであれば、「作ってしまえばいい」かもしれません。ニセモノ 対 ニセモノですよ。
こちらには考えることのできる自我があります。
肯定的な記憶なんて、簡単にひょいっと創造してしまえばいいです。
今回のマサチューセッツ工科大学のプレスリリース記事は、かなり長いですので、あまりいろいろと余計なことを書かないで、本文に入ろうかと思います。
ただ、その前に、中村天風さんの下の肯定的態度についての言葉を掲げておきます。
中村天風『運命を拓く』より
習慣として、何でもいいから、感謝と喜びで人生を考えるよう習慣づけよう。この心がけが、宿命統制にすこぶる効果があるということがわかるなら、宿命統制ということがさほど困難でないと悟れることと思う。
まことに、真理こそ絶対である。
そこで、感謝と歓喜の心で人生を活きるのには、宇宙霊の心を、自己の心となさねばならない。宇宙霊の心は、絶対積極であり、真と善と美のみである。
感謝と歓喜に満ちた善き言葉と行為は、人生の花園に善き幸福という実を結ぶ種子である。
だから、常に最高の運命を招くべく、いかなるときにも、すべてを感謝と歓喜に振りかえるよう、積極的な態度を、心を命じて活きるようにしよう。これが宇宙法則に従順に従うことになり、またそうするなら、宇宙法則も当然、我々によき運命を与えてくれるに決まっている。
それでは、ここから本文記事です。
そして、実験で苦労されたマウスたちにも感謝したいと思います。
Recalling happier memories can reverse depression
MIT News 2015.06.17
より幸せな記憶を呼び戻すことで、うつ病を改善させられる
マサチューセッツ工科大学( MIT )の科学者たちは、うつ病の患者に対して、発症前に形成された幸せな記憶を再活性化させることにより、マウスのうつ病の症状を治すことができることを示した。
これは、人工的に「肯定的な思い出」を再活性化することにより、従来の抗うつ剤に代わるものを提供することができる可能性がある。
6月18日に発行された科学誌ネイチャーに記載された知見は、この、うつ病患者が楽しい体験を思い出すことが推奨される心理療法を成功させることが可能であることについての説明を提供している。
研究者たちは、記憶が保存されている脳細胞の操作による、うつ病治療の新しい方法を提案する。
また、既存のほとんどの抗うつ剤は、脳全体へ影響するための副作用があるが、研究者たちは、この新しい方法の治療は副作用がほとんどないと確信している。
マサチューセッツ工科大学の教授であり、理化学研究所脳科学総合研究センターの代表を務める利根川進教授は、以下のように述べる。
「脳の中のうまく機能していない記憶回路の部位を特定、あるいは、その部位を活性化させることは有益な結果をもたらすでしょう。この方法は、脳内のどこにでも薬物機能してしまう薬物療法ではない、脳回路の特定の部位をターゲットにした新しい医療技術が開発される可能性があるのです」
これと同じ干渉をヒトに対しておこなうことは現段階では不可能だが、「この種の分析は、特定の疾患を対象として、その場所に関する情報を提供します」と、利根川教授は述べる。
今回の論文の主筆は、大学院生スティーブ・ラミレス氏だ。
記憶のコントロール
2012年に、利根川教授、ラミレス氏と同僚たちは、特定の記憶を保存する脳細胞のクラスターを特定し、それを再活性化できることを報告した。脳細胞のクラスターは、エングラム( engram / 記憶痕跡)と呼ばれる。
最近、彼ら研究者たちは、そのエングラムに「偽の記憶」を植えつけることができることを示した。
そして彼らは、特定の記憶の感情的な関連付けを「ポジティブからネガティブ」へと切り替えること、あるいは「ネガティブからポジティブ」へと切り替えることができることも示した。
彼らの最新の研究では、既存の記憶を再活性化する能力を、うつ病を治療するために利用できる可能性を発見しようとしていた。
これを行うために、研究者たちは、マウスに初めて「楽しい体験」を浴びせた。
すべてのマウスはオスで、このオスをメスと遊ばせて楽しい記憶をつくった。
この間、記憶痕跡をエンコードした海馬中の細胞を、青色の光に応答して神経細胞を活性化する光感受性タンパク質で標識した。
ポジティブな記憶を形成した後、研究者たちは、マウスを慢性的なストレスにさらすことによって、マウスにおいて、うつ様症状を誘導した。
これらのマウスは、困難な状況に直面したときに簡単にあきらめてしまい、楽しむことができないというような、人間のうつ病とよく似た症状を示した。
しかし、そのマウスたちに、過去の楽しい記憶を持つニューロンを最活性化することで、うつの症状を改善させることを見出した。
これらのマウスは、それまで、長い間うつ状態であったことなどはなかったように振る舞ったが、それは楽しい記憶が活性化されている間の時間と比例した。
別の組の実験では、研究者たちは、マウスが抑うつ行動のためのテストを受ける前に、5日間、一日2回、15分間、ポジティブな記憶を再活性化することによって、より長時間の症状が改善することが見出された。
繰り返し記憶を活性化すると、海馬の中にある歯状回( Dentate Gyrus )と呼ばれる部位の一部に新しい脳細胞の形成を引き起こすことを研究者たちは発見した。
「脳の力を活用する」
主筆のラミレス氏は言う。
「うつ病に苦しむ人々は、脳内に肯定的な経験の記憶を持ってはいるのですが、それらを呼び戻すために必要な脳の部分が壊れているのです。私たちがマウスの実験で行ったことは、その回路を迂回して、強制的に楽しい記憶へとジャンプさせるということでした」
「私たちは脳の力を利用し、脳自身の中から、そのポジティブな記憶の活性化を強制的におこなったわけですが、あなた方は、人に対して、強制的ではなく自然にポジティブな記憶を与えた場合、彼らをうつ病から防ぐことにもなると考えられます」
利根川教授は、今回の研究は、一部のうつ病患者の心理療法の方法について、科学的な説明を与えることができることを示唆していると述べる。
「うつ状態は、肯定的な経験を呼び起こすことを抑制しています。精神科医は、心理療法で、肯定的な記憶を上書きしようとしているのです」
同時に、この調査結果は、うつ病治療の新しい方法を開発する可能性のアプローチを提供すると研究者たちは語る。
科学者たちが特定の脳の回路を刺激するための、脳内への器具等の挿入を必要としない方法を開発することができれば、光遺伝学を使用して、今回の研究と同様の効果を得ることができるかもしれない。
これが達成する一つとしては、脳の特定の部分に電気刺激を送り、脳ペースメーカーの注入を必要とする深部脳刺激の、より標的化した形態となり得る。
深部脳刺激は、パーキンソン病、うつ病、強迫性障害などを治療するために、ときどき用いられる。
今回の研究は、理研脳科学総合研究センター、ハワード・ヒューズ医学研究所、および JPB財団 によって資金を供給されている。