2010年10月11日
・ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、エイブラハム・リンカーンの4人の米国元大統領の顔が岩に刻まれている観光名所。記事に出ている木の切り倒しが始まっているのは顔の下のほうにある森林。米国とカナダでは現在、数百万エーカー(数億平方キロメートル)が松食い虫の被害に遭っている。
Forest Near Mount Rushmore Suffers Beetle Attack
NPR (米国) 2010.10.06
ラシュモア山の近辺に虫が大襲来
サウスダコタ州のブラックヒルズの山々が茶色く染まっている。
ブラックヒルズの中心部にある数千エーカーの森林の松は、松食い虫(キクイムシの一種)の襲来によって枯れてしまった。そして、ラシュモア山国立森林公園はこの大発生の地域と近い場所にある。国立公園当局は、松食い虫の猛攻撃から森林を守るために抜本的な対策を立てた。
それは木を切り倒すという対策だ。
大統領記念碑のある近辺はふだんは静かで穏やかな森だが、現在は木を切り倒す作業員たちのチェーンソーの音で包まれている。
「これ(松を切り倒すこと)によって、この松食い虫の爆発的な増加と成長をコントロールできる」と言うのは、この「昆虫戦争」での戦闘を指揮する国立森林公園パトロール隊員のブルース・ワイスマン氏だ。
「我々はこれまで虫の爆発的な発生を目の当たりにしてきているのだ。そして、今度は尾根に沿って直接こちらに来るはずだ」。
倒木の作業員たちは、彫刻の4つの顔の下で木を切り倒しており、現在、元大統領たちの顔は木クズまみれになっている。虫の襲撃での崩壊から森林を守るために、公園内の 500エーカー(約 200万平方キロメートル)にある伸びすぎた松の木を切らなければならないと、ワイスマン氏は言う。
さらに、松食い虫の被害の中で懸念されることはもうひとつある。それは山火事だ。虫に襲撃された木は燃えやすくなるために、ひとつの小さな火災が大規模な山火事に発展していくおそれがあるのだという。
「破滅的な巨大森林火災が発生した場合、記念碑の表面に猛威をふるう可能性がある。そんなことになった場合、この公園の大変な損失になるということもあり、我々の責務は大きい」と彼は言う。
倒木して被害を減らすという方法は、木を減らすことによって、森を健全に保つという考えだ。
しかし、環境団体フレンズ・オブ・ザ・ノーベックのブライアン・ブレードメイヤー氏のように、このやり方は大げさでヒステリックだという批判する人も多い。
▲ 松食い虫 ( mountain pine beetle ) 。大きさは 3ミリ〜 8ミリ。
このように、一部の環境保護主義者は国立公園当局の行き過ぎた行動に批判的であり、また、政府当局が何もしていないのが問題だと言う人もいる。
この松食い虫の大発生は、気候変動との関連があるという人もある。キクイムシ類の個体数は通常では寒い冬には抑制される。それが、最近の暖かい気候の冬によって個体数が拡大したという可能性だ。
現在、松食い虫の被害の範囲は、アメリカ合衆国の西部からカナダのロッキー山脈方面までの何百万エーカー(数億平方キロメートル)という広大な範囲に広がっている。国立公園所属の生物学者であるダン・リヒト氏は、ラシュモア山のような場所での被害拡大防止措置では、非常に不確実な点が多く、次に何が起きるかはわからない部分があると言う。
「気候変動によって温暖化しているというのが事実かどうかはともかく、仮にもし、今年、暖かい冬になった場合には松食い虫の襲撃はさらに悪化すると思われる。そもそも、これまでにも我々は最大限の努力と最善と思われる処置を講じてきた。それにも関わらず、松食い虫の被害は収まることがないのだ」とリヒト氏は述べた。
大きなマシンが唸りを上げて森林の地面を掘り起こし続けている、この木の切り出し光景は見ていてあまり気持ちのいいものではない。しかし、サウスダコタの公園当局は緊急事態を強調する。当局は、何もしないでいることがさらに大きな失敗に繋がると言う。
今のところは、ラシュモアの周囲の森林がどうなるかの運命は、松食い虫たちの次の出方にかかっていると言えそうだ。
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アメリカの憂鬱