2010年11月25日



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アルジャジーラの記者がメキシコのヒットマンにインタビューを敢行



(訳者注) メキシコの麻薬戦争はまさにカオスそのものの状況に陥ってきていて、時間単位で死者数を割った数なら、下手な戦争よりも犠牲者の数は多いくらいなのではないでしょうか。これは、アルジャジーラの南米支局の女性記者マリアーナ・サンチェス氏が、普段は決して表に出て来ないメキシコのヒットマン(殺し屋)に単独インタビューした記録です。




Interview with a Mexican hitman
アルジャジーラ 2010.11.23

メキシコの殺し屋へのインタビュー

hitman.jpg

彼は私の前に足を組んで座った。
膝の上にはイスラエル製の 50口径ほどの拳銃が置かれており、そして、その照準は私に向いている。

「この銃がイヤかい?」と、彼は皮肉っぽく笑った。

私自身、銃で狙われたのはこれが初めてのことではないが、しかし、膝の上に銃を置いたメキシコ人のヒットマンにインタビューするのはこれが初めての経験だ。今、彼が膝の上に置いているその同じ拳銃で、数時間後に誰かが殺されるのだろうか、という考えがふと脳裏をよぎる。

カメラと照明の準備ができた。
ここは地階で非常に暑く、殺し屋も盛んに汗をかいている。

彼はこれまでインタビューなど受けたことがないので、ナーバスになっているとも言った。

「ボスが来て、あんたのインタビューに応じろと言うからここに来たんだ。まあ、インタビューは問題ない。OKだ」。

彼はそう言ったが、そのために私たち取材する側はいくつかの条件を提示され、それを守ることを誓約した。すなわち、彼本人のことと、彼が所属している組織とそのボスについての詳細を調べないこと。情報をさらすことは、組織の人間にとっては危険に直結することを意味する。

今回インタビューする相手の本名も訊かない。
しかし、彼は話の節々に自分の身元に関しての情報に属する話をする。

たとえば、彼はクリアカン(メキシコにある町)では、ディアブロ(悪魔)とか、リトルデビル(小さな悪魔)と呼ばれていることを自慢した。それは、メキシコ全土で11年間にわたって、人を殺し続けてきた彼に相応しいあだ名かもしれない。

彼はここでは、ジョージと呼ばれることを希望した。


本当にわからないんだ

「あなたはこれまでに何人の人を殺しましたか?」と私はジョージに質問した。

「それはわかんないんだよ。うーん、100人よりは多いのは確かだけど、本当にわかんないんだよなあ」。

彼は数年前に数えるのをやめたと言う。

ジョージは 26歳の殺し屋だ。
殺し屋のことを、メキシコではシカリオ( sicario / スペイン語)と呼ぶ。

彼がお金のために人殺しを始めたのは 15歳の時だ。
その頃から、彼にはずっと、彼の所属している強大な麻薬密売組織のボスを守り、恩義を貫くという大儀があったという。
私たちの仲介者によると、ジョージは伝説的な麻薬王のファミリーに所属しているのだという。

ジョージは、メキシコの多くの麻薬カルテルがあることで知られるバディラグアトという小さな町の牧場で生まれ育った。

「俺の育った牧場はケシでもマリファナでも何でもある。それが俺たちのファミリーに莫大な富をもたらすんだ」と彼は言う。

そして、人を殺すことはファミリーの伝統だという。
ジョージにもその血が流れている。

ジョージは、ボスに対しての忠義を示すためなら何でもやると言う。

「ファミリーで仲の良かったダチを殺したこともある。これはビジネスだからね。そいつはビジネスについていけなかったんだよ。ボスが殺せと言うんなら殺すまでさ。まあ・・・つまり、俺たちにゃ、もう心ってもんがないんだよ」。

「殺し屋」と聞くと、多くの人は雑誌などに出てくる、あるいは当局者が描くような典型的な犯罪者タイプの外見を想像するかもしれない。

しかし、彼は違う。

小柄でやや小太りで、しかも、温和な表情でよく笑う。まるで、彼はオモチャの拳銃で遊んでいる子どものようにしか見えない。

ふと、ドアを見ると、そこには三十代前半くらいの年齢の男性が立っていた。用心深く室内の様子を覗っている。その男の目は非常に冷たかった。彼は、ジョージのボディガードなのだという。ジョージに何かあれば、ボディガードの命もない。


第三階級の中心人物

メキシコのマフィアの世界では、お金が忠誠に大きく影響する。そして、お金はジョージのような第三階級に位置するメンバーの中での中心人物に与えられる。

お金は、商品の売買に使われるだけではなく、ジョージのように死ぬ気のある人物を買うためにも必要だ。

ジョージのような殺し屋には最近はビジネス的にはとてもいい日が続いている。
メキシコでの縄張り争いが、日々、血まみれ度を増しているからだ。

麻薬王たちは、彼らのビジネスの邪魔になる物は誰でもターゲットにすると決めているため、ヒットマンたちにも多額の金を払っている。

「一般人ならひとり殺して 100ドル( 8千円)。上院議員なら 70,000ドル(560万円)だ」とジョージは言う。

これが本当なのがどうか私に知る術はないが、しかし、たとえば私ならどうなるのだろうと思った。
つまり、ジャーナリストの私の殺しにはいくらの価値があるのだろうかという興味があったので訊いてみることにした。

「もし、あなたが私の殺しを依頼されたら、どのくらいの請求額が妥当ですか?」

彼はしばらく何も言わずに私を見つめ、そしてこう言った。

「1,000ドル( 8万円)くらい」。


今やメキシコでは命の価値が失われつつある。
ジョージは、「警官殺しには今では金が出ないんだよ。タダで殺すしかない」と言った。

ジョージのボスの下には現在、18人のヒットマンがいて、ボスの身辺警護と組織のための殺しを行っている。その中でもっとも若いヒットマンは 12歳だという。

「奴は若いけど、すでに4人殺してる」と彼は言う。

これらの若者や子どもの多くは、生き方を選択することができなかった貧しいメキシコ人だ。

この国の失業率は高く、貧困は何百万人の人々に影響している。多くのメキシコ人が、1日に1ドル( 80円)以下の仕事をしている中で、これらの殺し屋の若者たちは、生きていくための十分なポケットマネーを麻薬カルテルから受け取って、日々刹那的に生きる。

しかし、ジョージは少し違った。
彼は、150万ドル( 1億2000万円)をアメリカ合衆国と、その他の秘密の隠し場所に預金として預けてあるという。

しかし彼はさらに欲しいと言う。

「金じゃないんだ。金はもう要らねえ。力が欲しい。俺がこれから先も長く生き続けていくために必要なすべての力がほしい」。


走り続けて

ジョージは「平和に暮らしたい」と言う。
しかし、この言葉はほとんど夢物語だ。

ジョージは彼が望むような静かな人生を送ってはいない。
彼はもう何ヶ月も1日に3時間から5時間程度の睡眠しか取っていない。
しかも、それはいつも違うベッドでだ。

私は彼に「あとどのくらい生きると思いますか?」と訊いてみた。

「そりゃ長く生きたいよ。でも、今は日々生きるだけだ。出かけていって、そこで人を殺す。今は毎日それだけで終わる」と彼は言う。

「俺もいろいろと問題があるからね。先はわからないよ」。

彼には多くの敵がいる。

ジョージはさかんに汗を拭った。

「このクリアカンって町は暑いんだ。ストリートはもっと暑い」。


今、メキシコの暴力は前例のないほどの激しさのピークを迎えている。戦いは日に日に凶暴になっている。ジョージはその何千ものメキシコでの暴力をとりしきる中のひとりだ。

「ああそうだよ。それが俺の仕事だもん。殺すのがさ」。

私は「あなたは拷問もするのですか?」と訊いた。

ジョージは「そりゃ、もちろんだよ」と涼しい顔で答えた。

私は彼に、拷問する時に、犠牲者への同情から精神的に苦しむことはないのかを尋ねた。

「あんたは信じられんかもしれないけど、答えはノーだ。同情なんて感じない。俺はエネルギッシュだからね。アドレナリンが絶頂に達したら怒りが止まらないんだよ。怒りと共に叫んでしまうほどだ」と彼は言う。

「相手が苦しめば苦しむほど、アドレナリンがたくさん出て、俺は強くなる。それに、実は人を拷問をすると、ストレスが晴れちゃうんだよな。ストレス解消ってやつだな」。

これは冗談ではなく彼は言っているのだ。

しかし、本当にジョージは何の後悔も感じたことはないのだろうか?

「だから、もう遅すぎるんだって。俺はこの仕事に閉じこもるしかないんだよ。俺はさ、毎日、殺すのを待っているだけで生きてて・・・もう何つーか、自分への憐れみとかもないんだよ。もうこれ以上、傷つくこともできないくらいに、いろんなことがあったわけよ」。

メキシコにひとつの格言がある。

「犬でさえ金のために踊る。しかし、金がなくても犬のように踊るやつもいる」。

私たちは1時間以上話した。

最後に彼は言った。

「あんたは質問で俺を拷問している。しかし、拷問するのは俺だ」。

私はここでその場を去ることにした。





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