ストロンチウム同位元素分析が示した古代の猿人たちの「大陸横断」の真実
200万年以上前の人類の「移動パターン」が、元素分析の新しい分析方法で調査され、その結果、「大陸間を大きく移動していたのは、男性ではなく女性だった」ということが強く示唆されたという研究発表をご紹介します。
発表したのは、マックス・プランク進化人類学研究所という世界的な研究所で、ここは、ミトコンドリア DNA の解読から古代人類の分岐ポイントを次々と発見し続けている古代人類研究の世界のトップ機関だそうです。今回はさらに新しい計測方法を取り入れて、古代猿人たちの生活状況の分析と調査を開始したのでした。
初期の人類の女性の役割は人類を世界中に徒歩で拡散させることだったのかもしれません。
用語について
ところで、今回はわからない単語、知らない単語が続々と出て来ましたので、 Wikipedia などからですが、簡単に用語解説を最初に書いておきます。
今回はじめて知った用語
・デニソワ人 → 骨のミトコンドリアDNAの解析結果から、 100万年ほど前に現生人類から分岐した未知の新系統の人類と判明した古代人。
・アウストラロピテクス・アフリカヌス → 200万から300万年前の猿人。腰椎が現代人と同様に性的二形(男女の違い)を持っていたことで知られる。
・パラントロプス・ロブストス → 200万から250万年前の猿人。頭蓋の形はゴリラに近い。しかしゴリラより頑丈な顎と人間に近い咬面の歯を持つ。
・性的二形 → 生物における多型現象の一つで、性別によって個体の形質が異なる現象を指す。
・レーザーアブレーション・マルチコレクタ誘導結合プラズマ質量分析 → 高い精度の測定法のことだそうです。
それにしても、数百万年前の人類の「行動パターン」までがかなり具体的にわかるようになってきたのですね・・・。ストロンチウム同位元素とかが何のことだかわからないにしても、すごいなあと思います。どんどんと「どのように人類が世界に拡散したか」というのがわかってきています。しかも、このほんの2年くらいの間に。
(余談) なぜアフリカが最初だったのか
私は最近、19世紀の終わりからのポピュラー音楽の発展を考えているうちに「なぜ人類はアフリカから拡散したのか」ということが、かなり明確に理解できるようになりました。
このことに関しては、いろいろと現状では文字にすることに問題のある表現や概念が出てくることにもなり、文字で書くことは今後もないと思いますが、「どうしてアフリカだったのか」ということはいろいろな面でずっと考えていたことでしたので、それが(個人的に)解けたことは嬉しいです。
ちなみに、人類に「男女の見かけ上の違い」が発生したのは 200万年前くらいにいたアウストラロピテクス・アフリカヌスというヒトたちからだそう。当時から、すでに女性は男性をルックスで悩ませていたようです。
では、ここから翻訳記事です。
後半の内容は難解で、翻訳そのものは大きく間違ってはいないと思いますが、内容に関しては自分自身ではほとんど理解していません。
ナノ・パテント&イノベーション(米国) 2011.06.02
古代原人は男性より女性のほうが広範囲に移動していたことが、土地使用パターン調査で明らかとなる
およそ 300万年前、ヒトは男性よりも、むしろ女性のほうが、自分の生まれたグループから離れた新しい社会生活グループへと移動していたことがわかった。
これまでの研究で、初期のデニソワ人たちの住居や生活場所の移動パターンについては、デニソワ人(古代原人)の形態、石器の起源、また、現存する霊長類との比較などから、間接的な推論は存在していた。
今回の調査は、ドイツのマックス・ プランク進化人類学研究所などが含まれる国際研究チームによって行われたもので、南アフリカにあるスタークフォンテイン洞窟とスワートクランズ洞窟のふたつの洞窟から発見されたアウストラロピテクス・アフリカヌスと、パラントロプス・ロブストスのそれぞれの骨にストロンチウム同位元素分析によって調査が行われた。
アウストラロピテクス・アフリカヌスは 280万年前〜 200万年前の地層から化石が見つかっている原人で、パラントロプス・ロブストスは 190万年前〜 140万年前の地層から化石が見つかっている。
ストロンチウム同位元素分析では、動物が生きていた間の歯の鉱化作用を調べることにより、地質学的な生化学基質を特定することができる。
南アフリカのスワートクランズ洞窟で発見されたパラントロプス・ロブストス。
そのストロンチウム同位元素分析の結果、決して大規模ではない数だが、古代原人の歯に、非局所ストロンチウム同位元素組成物を持っていたことを、研究者たちは発見した
(訳者注) 難しい言い回しですが、多分、「非局所ストロンチウム〜」のこのくだりは、同じ場所の物質ではないものが同じヒトから見つかったということで、そのヒトたちは生きている間に大きく移動したことを示すという意味だと思います。
初期の古代原人では、比較的高い性的二形が見られ、歯の小さなものは女性を示していると思われる。そして、女性は、男性よりも、自らが生まれたグループから、より離れた場所に移動していっていたということが、その分析から認められた。
(訳者注) 「比較的高い性的二形が見られ」というのは、男の人と女の人の体で違う部分がたくさんあるという意味のようです。要するに、その200万年前頃から「ヒトの男と女は体の作りが違った」ということだと思います。
チンパンジー、コビトチンパンジーなど多くの霊長類は、この移動の分散パターンと似た動きを示している。ただし、大部分のゴリラ種など一部の霊長類には違ったパターンを見せる霊長類グループもある。
これまでの古生物学の技術や考古学的な技術では、初期の古代人類たちがどのように大陸を移動していたかを解明することはほとんどできなかった。
それらの技術では、たとえば、古代人の生活圏や移動圏内を推定するために、化石から見積もられた体重や体格などの非常に大雑把な相関関係から推論を導くしかなかった。
マックス・ プランク進化人類学研究所のサンディ・コープランド氏は、
「そのような、かつての記述や方法論から得られる古代人類の生態学、生物学、そして社会構造の調査結果というものは非常に不確かなもので、古代の生活と文明の進化の本当の理解にはなかなか結びつかないものだった」
と言う。
国際チームによる今回の研究では、古代人類の歯のエナメルのストロンチウム同位元素分析によって、それを突き止める試みを行った。ストロンチウムは、哺乳類の歯に痕跡として認められる。
最初に、その地域全体に利用できるストロンチウムを特定するために、南アフリカのスタークフォンテイン洞窟とスワートクランズ洞窟のふたつの洞窟の周囲 50キロメートル圏内で集められたサンプルのストロンチウム同位元素を特定した。
そして、レーザーアブレーション・マルチコレクタ誘導結合プラズマ質量分析と呼ばれる比較的新しい分析方法を用いて、古代人の歯冠のプラズマ質量分析を行った。この方法では、対象を壊さずにエナメル面の小さい痕跡を採取できる。
その結果、その差は、アウストラロピテクス・アフリカヌス(25%)とパラントロプス・ロブストス(36%)ではそれほど大きな差はなかったが、歯のサイズによって、定義される違いの間では大きな差があることが認められた。