2011年06月09日



In Deep のトップページは http://indeep.jp に移転しました。よろしくお願いいたします。




抗生物質に代わる物質がドイツの機関で特定される(短鎖ペプチド)



ドイツ最大の科学医学研究機関のひとつ「フラウンホーファー協会」から、「抗生物質の代替となるもの」が発見されたという発表がありました。

抗生物質に関しては、昨年、 NDM-1 という超強力な抗生物質への耐性を持つ細菌が発見されていたりと、実は「抗生物質は存続の崖っぷち」にあったと言えそうな感じでしたが、ついに新しいものが出たのかもしれません。「新しい」といっても、今回の物質は要するにアミノ酸のようなので、「その働きが発見された」という感じなのかもしれません。

NDM-1 については「抗生物質に耐性をもつ新しい「超」細菌がインドから拡大していることを科学者が発見(地球の記録 2010.08.11)という記事に、昨年のロイターの記事の翻訳があります。

また、今回この記事をご紹介したのは、記事の中の、

2010年には抗生物質の多くに耐性を持つ結核に 50万人が感染し、その3分の1が死亡した

というくだりにショックを受けたこともあります。
抗生物質に代わる薬剤の登場は、世界中が待ち望んでいたもののように思います。


医学に詳しくないので、内容的には今回の発表に関しては理解が難しいのですが、アミノ酸に含まれる「短鎖ペプチド」というもののいくつかが、細菌やカビなど様々な病原体に対抗することがわかったということらしいいです。この発表がただちに新しい治療に結びつくものなのかどうかは私にはわからないですが、お詳しい方などのお役に立てばと思います。


ところで、今回発表のあったフラウンホーファー協会というのは、私は知らなかったのですが、ドイツで非常に有名な研究機関のようです。Wikipedia によると、

フラウンホーファー協会は、ドイツ全土に56の研究所を持つ研究機関。各研究所は科学の様々な応用を研究テーマとしている(マックス・プランク研究所は基礎研究中心である点が異なる)。12,500人以上の科学者と技術者を抱え、年間研究予算は約12億ユーロである。


とのこと。

先日の「数百万年前に地球上で人類を拡散させたのは女性」に出てきたマックス・プランク研究所もそうですが、ドイツすごいですね(適当な賞賛)。

翻訳は、そのフラウンホーファー協会のプレスリリースからです。

ちなみに、文中の雰囲気からだと、この研究が進むと、「虫歯も消える」かも。
人類の宿敵の筆頭のひとつでもある虫歯が。







An alternative to antibiotics
フラウンホーファー協会 研究ニュース 2011.06.08

抗生物質に代わるもの

抗生物質は、医学での最も偉大な業績のひとつといえる。

しかし、近年、以前のこの多目的の「医学の武器」が次第に伝染病との戦いにおいて負ける局面が多くなってきた。バクテリアはますます抗生物質に対しての耐性を獲得し続けている。

そんな中、フラウンホーファー研究所の研究者たちは、ペニシリンと関連した薬剤の治療と同等の価値を持つと思われる物質を発見した。



md06_fo1g_alternative-antbiotika_tcm63-91604.jpg

▲ 抗菌性ペプチドが、虫歯の原因となるミュータンス連鎖球菌の成長を確実に止めた様子を見ることができる。


現在、ますます多くの病原菌が、抗生物質に耐性を持つようになり、その中のいくつかの細菌には、すでに抗生物質がまったく効かないという状態になっている。

世界保健機構 WHO の事務局長マーガレット・チャン氏は、かつて強力に治療効果のあったそれら抗生物質について警告を発しており、これに対して何らかの手立てを打たなければ、現在多く発生している感染症を治療することができなくなることも想定されると発表している。


2010年には抗生物質の多くに耐性を持つ結核に約 50万人が感染し、その約3分の1が死亡した。

病原体が次々と耐性を獲得していることに関しては、ペニシリンや他の抗生物質の濫用にあると WHO は指摘している。


ライプチヒにあるフラウンホーファー研究所の細胞理論と免疫研究部門の科学者たちは、抗生物質に代わるものを発見した。

それは抗菌性ペプチドで、近い将来、これが病原体との戦いを始めると思われる。

研究者のひとり、アンドレアス・シューベルト博士はこう言う。

「我々はすでに、腸球菌、酵母、カビなどの様々な微生物だけでなく、人間の口腔内に発見されている虫歯の原因となるミュータンス連鎖球菌などのヒト病原性細菌を殺すアミノ酸と、これらの短鎖の 20の特定に成功した。耐性黄色ブドウ球菌には、完全に対抗できるというわけではないが、その成長はかなり抑制されたことが確認された」。

研究者たちは、ありふれた殺真菌性の殺菌ペプチドを、試験管内で人工的に構成された条件下のさざまなバリエーションで、微生物に対しての試験を繰り返した。

たとえば、人工に生産された抗菌性ペプチドの元で1時間培養された腐敗菌の場合、その新しいペプチドには、カチオン性アミノ酸残基が含まれており、それは負に荷電した細菌の細胞膜と結合した。それらの試験で、研究者たちは、病原体の生存率を未処理のものと比較し、その中で、20程度のアミノ酸の短鎖ペプチドに焦点を当てた。


「試験されたペプチドの有効性の範囲には、細菌やカビだけでなく、脂質エンベロープウイルスも含まれている。そして、もう一つ重要な点は、これらが健康な体細胞には影響しないということだ」と、研究者は言う。


細菌による食品の汚染は、毎年、食品業界に非常に大きな被害を与えており、食品産業では、このは抗菌性ペプチドで利益を上げることもできる。新鮮なレタスや、他のサラダ用の野菜は、毎年のように細菌による汚染の問題が発生する。

これらの製造工程の間に抗菌性ペプチドを加えることによって、食品の貯蔵寿命を改善されることができるのだ。

「短鎖ペプチドが食品に加えられてもアレルギーなどの原因にはならないので、可能性は大きい」と、シューベルト博士は言う。