2011年07月25日



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ノルウェー乱射事件の「致死命中率」に関しての追記



先日記しました、

ノルウェーの狙撃事件での異常な致死命中率 (2011年07月23日)

の追記です。

いくつかの訂正と、あとは補足の資料などです。



「ある異常体験者の偏見」から、致死命中率6パーセントについて

まず、私が「致死命中率」という言葉を知ったのが中学生の時に読んだ山本七平さんの「私の中の日本軍」という本でだと書いたのですが、確かめるために探し出してみましたところ、致死命中率の記述は「私の中の日本軍」ではなく、同じ山本七平さんの「ある異常体験者の偏見」という、やはり第二次大戦従軍の時の記憶などを書かれた著作でした。

その「致死命中率」が書かれている部分を抜粋します。

書かれたのは、1973年ですので、すでに 40年近く前です。

これは、南京大虐殺に関してのことにふれている後にある記述です。
当時の雑誌に「日本軍は、十挺の機関銃で十万人の中国人を射殺した」と書かれてあることがあったそうで、そのことに対しての一種の検証的な話です。

山本七平さんは、日本軍で使われていた銃器、日本刀などに関して、「私の中の日本軍」などでも夥しい記録を残しており、それらの知識の前提があった上で読んだほうがいい部分ではあるのですが、この抜粋部分だけでも「銃の性能」というものはわかりやすいかと思います。

「そもそも銃というのは、発射によって加熱されるために長時間の連続射撃には耐えられない」ということがあります。

この問題をクリアできる武器としては、いわゆる「フルオート(撃ちっ放しにできる)」の銃の存在があり、たとえば、米国では一般の人でも所有できる「ガトリングガン」というものなどがあります。今後、米国などで革命的な騒動が起きると(一般人が軍人に対抗する手段として)使われそうな感じがありますが、今回はガトリングガンのことにはふれません。


では、ここから山本七平さんの「ある異常体験者の偏見」からの抜粋です。

(ここから)



(注)著作では数字はすべて漢数字で書かれてあります。文中の輜重車(しちょうしゃ)とは「弾丸・食糧などの物資を運搬するために使用する馬でひく荷馬車」のこと。下の写真のものです。

Type38_Japanese_Traveling_Forge_1.jpg


「ある異常体験者の偏見」(1973年)より

銃弾には「致死命中率」というものがある。たとえば、「テルアビブの乱射事件」のような、戦場では考えられぬような至近距離で、まったく無抵抗、無防備、しかも、全然予期しない人びとに向かって一方的に発射しても、その致死命中率は、私の計算では6パーセントである。

確かにこれは異常に高い。しかし、この率で逆算しても、十万人を虐殺したというなら、その発射弾数は約170万発。輜重車約200台分、一挺あたり17万発ということになる。機関銃は銃身が熱してくるので、モリブデン鋼という特殊鋼を使うそうだが、日本製はこの材質も悪くすぐ加熱したらしい。

いずれにしても、銃身が加熱するから、長時間連続発射はできない。従って平均一秒一発などは到底不可能だが、それができたと仮定し、朝から晩まで約十時間撃ちつづけ得たとして ----- これも不可能だが、それでも3万6千発であり、17万発の五分の一である。 ----- だが、この3万6千発すら、実際は、たとえチェコのシュコダ製を用いても、不可能である。第一、日本の銃器では撃針で撃茎発条(ばね)ももつまい。




(抜粋ここまで)



張桃芳とシモ・ヘイヘ

なお、致死命中率というものとは違う話ですが、昨年、 In Deep に韓国の人の書いたブログを翻訳して、資料記事として紹介したことがあったのですが、それは、朝鮮戦争の時に北朝鮮を援軍するために派遣された中国の軍人の張桃芳(日本語読み:ちょう とうほう / 韓国語:チャン・タオファン)という中国人狙撃手の話でした。

その記事では、


彼が公式に打ち立てた記録では、32日間で214人の連合軍の軍人を射殺したということになっています。 より驚くべき点は、彼が使った銃は銃身にスコープがない一般的な小銃であったという点。



とあり、致死命中率という一般論では語れない「人間の素質や能力」といったものも、確かに射撃には関係します。

朝鮮戦争での最高の狙撃手 (2010年05月05日)



▲ 張桃芳。


また、近代戦争の歴史の中で、もっとも大量の敵を射殺したことが記録として残っている人物としては、史上最多の確認戦果505名射殺の記録を残しているフィンランド人のシモ・ヘイヘという人がいます。

シモ・ヘイヘ (Wikipedia)


上記 Wikipedia によれば、


・ヘイヘを含むフィンランド軍32人が4000人の赤軍を迎撃



そして、ヘイヘは、戦争開始から負傷するまでの約100日間のうちに 505人を殺害。上記には、



・2006年にアメリカで製作されたドキュメンタリー番組"Fire and Ice: The Winter War of Finland and Russia"では合計800人以上を狙撃で殺害していると推定されている。




という記述があります。

その相手(敵)の数は「 4000人」であり、その5分の1から6分の1の人数を一人で倒しているわけです。

これは確かに「殺人の記録」ではあるわけで、眉をひそめる方は多いかと思いますが、どの方向での能力でも「驚くべき人間の能力の存在」というのはあると、私はこれを知った時に思いました。

多分、張桃芳も、シモ・ヘイヘもすでに視覚などの能力での射撃ではないと思われます(共に、近代的なスコープ等の使用を拒否していたため)、仮に、シモ・ヘイヘの、


 > 150mの距離から1分間に16発の射的に成功した


というのが事実なら、これは人間にできることではないです。「異常な空間認識」という言葉が合うと思います。

皮肉なことに見えるかもしれなくとも、宇宙や(あるいは神のようなもの)は、いろいろな人たちに均等に奇跡を与えてきたことは否めません。


ちなみに、シモ・ヘイヘは戦場で敵軍兵士の銃撃によって「頭を半分吹き飛ばされた」重傷を負いましたが、死にませんでした。

戦後はフィンランドの森で狩人として平和な余生を送り、96歳という長寿で人生を終えています。



simo.jpg

▲ シモ・ヘイヘ。身長 152センチと、身長の低い男性でした。銃の長さは 120センチあります。表情はどの写真を見ても非常に穏やかです。



私は彼ら(だけではないですが)の人生などを見ていると、社会で言われる様々な善悪の観念や人生とは一体何なのだろうかと昔から思うことがあります。まあ、それはわからないまま死んでいくのでしょうが。


話が逸れましたが、これらの話を挙げたのも、「乱射」と一言にカテゴライズしても、実行者(犯)によって、その結果は違うということです。


なお、昨日、米国でプライベート絡みの乱射事件が発生しましたが、一般的な乱射事件はこのような感じのものが多いですので、参考までに要約しておきます。

「家庭的でフレンドリーな父親」と評判だった男性が、自分の子どもの誕生パーティで、妻と親族6名を射殺したニュースです。





6 killed in Texas roller rink rampage
msnbc 2011.07.24


テキサスのローラーリンクで6名が射殺される


7月23日、テキサス州グランドプレリーにあるローラー・スケート・リンクで行われていた子供の誕生パーティで乱射事件が発生した。

パーティが終わる15分前の午後7時15分頃、このパーティの主催者である子どもの父親のタン・ドゥ(35歳)が、同じくパーティの主催者でもあった別居中の妻トリン・ドゥさん(29歳)を射殺。

同時に、妻の妹2人( 16歳と 28歳)、そして、妻の弟(21歳)と妻の義理の妹(25歳)を撃殺し、本人もその銃で自分を撃ち、自殺した。

この乱射事件によって6名が死亡した。
他に負傷者がいる模様だ。

このパーティは、夫妻の2人の子供のうちの 11歳の男の子の誕生日を祝うもので、夫妻が計画したものであった。夫婦は以前から離婚問題でもめていた。

この父親は、家庭的でフレンドリーな性格な男性だったと評判だった。