近代史で世の中の人々を管理していくシステムが発達していく中で、様々な個人識別の方法が開発されていったわけですが、指紋はその中でも最大の個人識別で、今でも指紋に勝るものはないと思われます。主に犯罪人の特定や入国管理など、わりとネガティブな用途で利用されることが多いわけですが、それでも、現代の生活セキュリティシステムの中で指紋は大変に貴重なものです。
では、仮に「人類に指紋がなかったら」・・・。
そんなことを想像させてくれる「疾病」の話です。
生まれつき指紋がない「先天性指紋欠如症」(adermatoglyphia)という病気で、なんと、確認されているのは「世界で4つの家系だけ」という極めて珍しいものです。
指紋研究と日本との関係
ちょっと横道に逸れますが、今回のことを調べている時に「指紋の実用化」が日本と関係があることを知りました。
指紋の研究に関する論文が初めて科学雑誌ネイチャーに載せられたのは 1880年のことなのだそうですが、この論文を書いたのがイギリス人のヘンリー・フォールズという人で、1874年に宣教師として日本に来た人だそう。
以下は、指紋よりの抜粋です。
フォールズは、日本人が拇印を利用して個人の同一性確認を行っていることに興味を持った。また1877年に発見された大森貝塚から出土した数千年前の土器に付着した古代人の指紋が現代人のものと変わらない事に感銘を受け、指紋の研究を始めたといわれている。フォールズの研究は日本滞在中に行われ、発表も日本からイギリスへ論文を発送して行われている。
とのことです。
▲ 東京の築地に今も残るヘンリー・フォールズ記念碑。「指紋研究の発祥地」と書かれてあります。フォールズさんは日本が気に入ったのか、長く住んでいたようで(多分、12年間くらい)、英語版の Wikipedia の記述の大半は「日本での生活」( Life in Japan )と題された項目です。
それにしても、指紋認証の発祥は日本の拇印だったか・・・。
「拇印」といえば、「母音」と同じ発音と同じ母音。
戊寅(ぼいん)なんていう陰陽五行に肉薄する概念もあります。
さらには、「ボイン」とも同じ発音と同じ母音。
このぼいんやボインという母音を持つ拇印や戊寅(あー読みにくい)が個人認識の発祥だったというのは「発音認知学」からは非常に興味のあるテーマですが、そこまで横道に逸れるわけにもいきませんので、本題にうつります。
記事はロシアのブラウだからです。
ちなみに、いまだに「どのように指紋のタンパク質が形成されるのか」はわかっていないのだそう。つまり、ひとりひとりに違う指紋ができるメカニズムはいまだに謎だということのようです。
Mutant Gene is the cause of disease that leaves persons without fingerprints
Pravda(ロシア) 2011.08.22
指紋のない病気の原因は遺伝子の突然変異だった
指紋は個人認識の目印として様々な用途で使われている。指紋はその人だけの固有のものなので世界中に同じものが2つとないのだ。
しかし、「先天性指紋欠如症」(adermatoglyphia)と呼ばれる、生まれつき指紋のない状態で生まれるきわめて希な病気がある。非常に珍しい疾患で、世界でもわずか4つの家系からしか症例が見つかっていない。
イスラエル・テルアビブのスーラスカイ医療センターのエリ ・シュプレッヒャー ( Eli Sprecher )博士が中心となり、遺伝学者と皮膚科担当医師たちのチームが、このたび、この病気が起きる原因が遺伝子の突然変異にあることを確認した。
この結果は、米国の科学専門誌アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
研究チームは、指紋を持たない症状が見られるスイスのある家系を調査した。この家系では、その半分が指紋を持たないで生まれている。
そして、通常の指紋を持つ7名の人と、指紋のない9名の人のそれぞれの DNA を採取して、その遺伝子配列を解析する中で、チームはついに原因と見られる遺伝子を特定したのだ。
それは「 SMARCAD1 」と呼ばれる遺伝子だ。
「彼らは、指やつま先や足の裏などもなめらかで、普通の人々にある溝(紋)がほとんどありません。指紋をとると、一般的な指紋に見られる同心円の形状をした規則正しいパターンではなく、発疹のような模様が見られます」と、スプリッヒャー博士は言う。
また、汗腺も少ないという。
それらの影響を受けた家系と家族では、遺伝子 SMARCAD1 の突然変異があることがわかったという。
遺伝子 SMARCAD1 には長い型と短い型が存在する。皮膚に影響を与えるのは短いほうの型だ。
指紋のない9名には、全員に短い型の変異が確認された。
スプリッヒャー博士はこのように言う。
「私たち人類は自然の営みの刻みともいえる指紋を持っていて、この指紋という存在には大きな魅力があります。しかし、この指紋を形成するタンパク質が何なのかということはまったくわかっていないのです。今回の研究は、指紋形成に何が必要であるかを知るための最初の認識だと思います」。
そして、
「(指紋のない原因が) SMARCAD1 遺伝子だとたどり着けたことは、生物学全般にとって重要な知見だと思います」
と述べた。