痛みがなく方法も異常に簡単な虫歯の革命的な治療法は「歯の自発的な再生を促す」治療法
ジョン・コルトレーンという米国のサックス吹きがいて、私が生まれた頃に亡くなってしまった故人ですが、高校の頃からコルトレーンが大好きで、パンクや変な音楽ばかり聴いて疲れた時には、コルトレーンのアルバムをよく聴いていたものでした。今でもそうです。
コルトレーンは虫歯が多かったことで有名ですが、「虫歯が多い」ということは、すなわち「虫歯ができてもあまり治療に行かなかった」ということでもあり、とにかく彼は歯医者が大嫌いだったようです。
コルトレーンは後年、フリージャズというジャンルに転向し、「アセンション」という輪廻転生をテーマにしているかのようなタイトルの極めて前衛的なアルバムを発表しますが、この前衛性も虫歯の痛みから発生したと言われています(本当かよ)。
まあ、それはともかく、なんでこんな関係のない話から書き始めたかといいますと・・・私も子どもの頃から歯医者が自分の世の中で最も大嫌いなもののひとつだったからです。
小学生の頃、歯医者に行くたびに、
わたし 「先生! こんな苦しい思いをするくらいなら歯を全部抜いて下さい」
歯医者 「小学生にそんなことできねえよ」
わたし 「先生! ぼくは一生入れ歯でいいです」
歯医者 「だから、できねえっていってるだろ! ほら、すぐ終わるから。はい」
わたし 「いてててててててててててててててててて!」
というのが歯医者というところでした。
昨年もしばらく歯医者に行っていました。最近の歯医者はジェントルな態度で、あまり痛くないし、設備もきれいなものです・・・・が、それでも、イヤなものはイヤだ、ということに変わりありません。
▲ 19世紀頃の歯科治療。「もうこんなのイヤだ」と嘆くこの患者の姿は、この後も 200年くらい続きます。
さて、そんな中(どんな中だ)、英国の名門、リーズ大学で「歯に穴を開けずに治療する方法」が発見されたという報道が。
しかも、その方法が「冗談のように」簡単なのです。
その方法は、
> 小さな虫歯ができたら歯の表面にペプチドの液体を塗るだけ
「やだ、ウソ」というギャルたちの声が聞こえてきそうですが、本当なんです。臨床で実証された上での発表です。そして、さらに「革命的」なことには、これは「治療」ではなく、「歯が自分で再生する手助けをする」ことで、歯の内部からの再生治療ということなのだそうです。
さて・・・。
いずれにしても、今回の記事を読んで、「ああ・・・これから生きる人たちはいいなあ・・・」と素直に思いました。
やっと、物理的に歯を削ったり、穴を開けての治療と人類はおさらばできるようです。
私たちのような地獄の歯科治療を経験しないで生きていける可能性が高いのです。
(発見が48年遅いっつーの!)
歯の治療の資料としては、歯の歴史博物館というページにわかりやすくまとめられています。「B.C.5000年頃パピロニアの王家の図書館でみつかった粘土板にむし歯の原因が“歯の虫”であるとの記述があります。」から始まる人類と歯科治療の「地獄の歴史」があります。
虫歯の本当の原因も実はわかっているのに、対策はまだ進んでいない
ちなみに、上の紀元前 5000年前の「歯の虫」という概念はほぼ当たっており、今では、虫歯の根本的な原因が、ミュータンス菌だとわかっています。なので、実はこれまでずっと言われてきたような「丁寧な歯磨き」は、虫歯の根本的な予防とは関係ないこともわかっています。もちろん歯垢が虫歯の大きな原因であることに変わりはなく、エチケットの面を含めても歯磨き自体はいいことでしょうが、それだけで虫歯をなくすことはできないということです。
こちらのページにありますように、「ミュータンス菌の感染を予防することが、これからの虫歯予防になる」というのが真実で、今後少しずつその方向になっていくと思います。
以前、 In Deep でご紹介したことがありますが、現在、ドイツで「抗生物質に代わる物質」が開発されています。すでに物質自体は特定されていて、それが「ミュータンス菌にもある程度の効果がある」ことが確認されています。
記事は、
・抗生物質に代わる物質がドイツの機関で特定される(ペプチド)
2011年06月09日
です。
今回リーズ大学で開発された治療法にも「ペプチド」が登場しますが、今後の医療でこの「ペプチド」というものはかなり重要となるもののようです。
ちなみに、このような「根本的に虫歯が消滅する」という治療法は、世の歯科医の方々には存続の脅威に感じるかもしれませんが、「それは逆」で、むしろ歯医者さんの役割は大きくなると思います。なぜなら、自然再生するためには、初期の虫歯の最初期である必要があるほうが好ましいはずで、そのような小さな虫歯の発見と、そこへの治療液体の塗布は素人にできるものではないはずです。なので、これらの治療法が流通しようと歯医者さんは絶対に必要です。
あるいは、ペプチドを使った「虫歯の完全な予防」というものが仮に登場したとしても、定期的な歯科医による医療ケアは必要です。
単に「今までのようにドリルで穴を開けたり詰め物をする」という治療法が変化するだけで、歯科医による虫歯の予防と治療が存在することに変わりありません。
私たち患者サイドからみると「痛くもないし、すぐ終わる」というメリットがありますので、むしろ、ますます世のお医者さんと歯医者さんにはがんばっていただきたいです。むしろ新しい技術で人を痛みから助けるヒーローですよ、今後の歯医者さんは。
(ほめるだけほめますので、今後の治療は痛くしないでください)
何しろ、人類や地球の大変換が起きるというようなことが言われている昨今ですが、「感染症への抜本的対策」と「虫歯の予防と歯の治療の根本的革命」は、人類史の相当大きな進歩の一部分といえるのではないかと思います。前者は「抗生物質からの脱却」、後者は「虫歯の根本的予防と治療」と関係あるはずです。
まあ・・・サバイバルをするにしても、みずがめ座の時代を生きるにしても、次の世界がどうなるにしても、人間は人間なわけで、つまり「虫歯」ひとつで生活は台無しになるはず。どれだけ時代が進んでも、虫歯の痛みには誰も耐えられないと思います。
それでは、記事はここからです。
Filling Without Drilling Teeth, New Method Re-Build Teeths Like New
Science Daily 2011.08.23
歯に穴を開けることなく、歯を埋めていく新しい方法が発見される
英国リーズ大学の研究者たちが新しい虫歯治療の方法を発見した。この治療法は、歯の酸からのダメージを元に戻し、まるで新しい歯のような状態に戻す方法だ。
痛みはまったく伴わない。
この改革的な治療法は、歯に永久的に詰め物をするという現在の歯の治療法のアプローチを変える可能性がある。
虫歯の原因は、プラーク(歯垢)の中でミュータンス菌が酸を作り、その酸が歯のエナメル質を溶かすことによって起きる。そして、微細な孔(穴)ができることが虫歯の始まりだ。
虫歯が進むにつれて、この穴の数とサイズが増加し、虫歯はひどくなる。
虫歯になって穴が開いた歯は、現在の歯科医療では削る以外の方法はなく、そして、削ったところに埋めモノをする。あるいは、虫歯がひどい状態の場合は、歯そのものを抜くこともある。
虫歯が進むと、歯頸部の腐敗によって歯が破壊が進行する。
これは「根腐れ」として知られている。
たいていの人は自分の歯に問題が出ていることがわかっても、すぐに歯医者に行く人は少なく、多くの場合は、悪化してから歯医者に行くことになる。そして、問題はさらに悪化する。
そして、その歯の痛みにより、他の歯に問題が起きている徴候を見逃してしまうという悪循環に陥る場合もある。
今回のリーズ大学の開発した方法は、虫歯の最初の徴候を治療する革命的な新しい方法だ。
それは、「歯がどのように形成されて、そして、歯がどのように自らの欠損部分を刺激しているのか」という知識のもとに発見されたもので、ペプチド技術を用いるものだ。
方法は、歯の表面にペプチドの液体を文字通りに塗るだけだ。
「なんだか、うますぎる話に聞こえるかもしれないですが、しかし、これは、酸による損傷を受けた歯の再生を根底から支えることになる技術なんです」。
と、今回の新しい技術を開発に導いたリーズ大学歯科研究所のジェニファー・カーカム博士は語る。
治療で使われる「魔法の」液体は、リーズ大学の化学学部の研究者によって設計され、アマリア・アゲイル博士によって開発された。ここには、 特定の状況下で繊維と一緒に集まる P11-4 として知られるペプチドが含まれる。
これは「歯の治療」というより、「歯の自発的な再生の手助け」を意味し、この液体が歯に塗られると、酸の浸食で作られた虫歯の小さな穴に染み込み、歯が自発的にジェルを形成する。
このジェルは(歯を形成する基礎となる)カルシウムを引き寄せ、内部から歯のエナメル質を再生する「足場」を提供するものだ。
そして、これにより、自然で、かつ痛みのない歯の再生治療が行われる。
リーズ大学歯科研究所のポール・ブラントン博士はこのように述べる。
「今後2〜3年のうちに、この技術が歯科医の日常となっていくという可能性があると思います。基本的に人々は、" 歯医者が怖いから " という理由で歯科医に行かないことが多いのですが、その " 恐怖 " が虫歯治療から消えました。患者は、自然の歯を保ち続けることができるのです」。