雲を作るエアロゾルが生成される要因は大気中の蒸気ではなく、大半が宇宙線によるものだったという衝撃的な CERN の実験結果が本日のネイチャー誌に発表される
(訳者注) 最近、大きなニュースが続きます。先日のDNA に関してのNASA の発表も、新しい虫歯治療の記事も、どちらも大きなニュースですが、今回のはさらに個人的には大きなニュースです。
内容は、「雲(の要因となるエアロゾル)は大気中の蒸気からできているのではなく、ほとんどが宇宙線により作られていると考えられる」というある意味ではショッキングな報告です。「雲の素は蒸気じゃない」ということです。
ここ2年くらいずっと「仕組が解明されるといいなあ」と思っていたことのひとつに「宇宙線と天候との関係」があります。まあ思えば、この「宇宙線」という言葉自体がどうにも曖昧ですので、いちおう、定義のようなものを再確認します。
東京大学宇宙線研究所のサイトからです。
宇宙線とは?
宇宙線というのは、宇宙から地球に絶えず高速で降り注いでいる原子核や素粒子です。私たちの体も、いつも膨大な数の宇宙線が突き抜けています。遠い銀河からもまた近傍からも、たくさんの宇宙線がやってきます。
宇宙線は地球に到達して大気中に飛び込み、空気中の酸素や窒素の原子核と核反応を起こします。
なお、このページには続けて、こういう言葉が続きます。
前文部大臣の有馬朗人先生は、当研究所の神岡グループに次の言葉を贈ってくださいました。
「宇宙線は天啓である」
この言葉が宇宙線の本質を示しています。宇宙線とはまさに天からの啓示であり、そこには物質の根源のミクロの問題から宇宙のマクロの問題までの情報が詰まっているのです。
それにしても、東大の学術系サイトのトップページに宇宙線に対して「まさに天からの啓示であり」と表現があるとは知りませんでした。
いずれにしても、少なくとも、これまで「雲、雨、雷」のそれぞれの形成が、宇宙線と密接な関係があるのではないかということは考えられ続けていたのですが、それを実証するとなると、とんでもない規模の実験が必要なわけで、そういう時には、金にモノを言わせて何でもできる NASA とか 今回の CERN(大型ハドロン衝突型加速器で有名)などが登場することになります。
個人的には金にブイブイとモノを言わせるタイプの研究は好きではないですが、まあ、仕方のない面もあります。
もし、宇宙線が天候や地殻での現象を含めた地球での様々な出来事にどのように影響を与えるかがわかりはじめれば、それこそ、「過去の知識から学ぶべき本質的なこととは何か?」という記事に書きましたヘルメスのエメラルド板にある、
・万物は一者の適合により一者より来る。
というあたりに見られる昔の人の言葉を、また思い出すところであります。
実はこの「宇宙線」は実際には「地球の内部からも大量に放出されている」のです。
宇宙線というか、ニュートリノの話ですが、この研究の最先端は日本ですが、今回は関係のリンクをご紹介するにとどめます。
いずれにしても、その宇宙線に関わる謎のいくつかが解明され初めているのは事実のようです。
ちなみに、私が以前、記事で、ちょっとだけふれた「地震と宇宙線」の関係も、宇宙線が、
・原子核と核反応を起こす
・地球を完全に貫く貫通力を持っている
ということから、「可能性もあるのかも」と思ったというようなこともあります
まあ、しかし、地震のことはいいです。
3月11日以降、地震に対しての無意味な不安はむしろ私の中から消えています。
というわけで、本題にうつります。
CERN のプレスリリースは、
CERN’s CLOUD experiment provides unprecedented insight into cloud formation
CERN 2011.08.25
にあります。
今回はそれに解説を加えて書いているナノ・パテント・アンド・イノベーションズより。
専門的な部分に関しては、今後、日本語の科学報道もあると思いますので、そちらをご参照下さい。
なお、記事に「CLOUD 実験」という言葉が出てきますが、これは私はあまり知らないですが、今年5月にデンマーク国立宇宙研究所が「雲は宇宙線によって作られているということを証明しようとする実験」に関しての記事にも出てきましたので、その記事のリンクを載せておきます。
・宇宙線が雲を生成に関係していることを証明しようとするデンマークでの実験
(2011年05月14日)
それでは、ここからです。
How Cosmic Rays Make Rain
NANO PATENTS AND INNOVATIONS 2011.08.25
どのように宇宙線が雨を作り出すのか
本日(8月25日)、「ネイチャー」誌で発表される記事に、 欧州原子核研究機構(以下、 CERN )の CLOUD 実験の結果に関しての最初の報告が記載される。
CLOUD 実験は、宇宙線が大気のエアロゾルの形成に与える影響についてを、コントロールされた実験室の条件で研究しているものだ。エアロゾルとは、気体の中に液体や固体の微粒子が多数浮かんだ物質のことをさす。
このエアロゾルが雲の雫となる大きな要因となると考えられている。
したがって、エアロゾルの構造と形成プロセスを理解することが、「気候」というものを理解することにとって重要だというのが最近の認識となっている。
CERN の実験結果により、これまで、下層大気の中でのエアゾール構造の要因となっていると考えられてきた微量の蒸気は、大気中のエアロゾル生成のごくわずかな部分しか説明できないことがわかった。
そして、宇宙線からのイオン化がエアゾールの構造を大きく強化させる結果も示された。
今回のようなエアロゾルの生成に関しての正確な計測は、雲の構造を理解するために重要なものであり、気候モデルにおいて雲の影響を考える見識とも関係する。
今回の実験のスポークスマンであるジャスパー・カークビー氏はこう言う。
「宇宙線が対流圏と上層大気において、エアロゾル粒子の形成を強化していることがわかりました。結局は、これらのエアロゾルが雲となるわけです。以前は、エアロゾルの構造の多くは蒸気だろうと考えられていたのですが、それは構造の中のごく一部だとわかったのです」
--
(訳者注) 「対流圏と上層大気」という記述がありますが、大気の構造は大体次のようになっています。
「対流圏と上層大気」というのは、つまり、「ほとんどの大気中では」という言い方でもそれほど違わないように思います。
--
大気中のエアロゾルは、気候で重要な役割を演じる。日光を反射し、雲を輝かせる。さらに、雲の雫を作るのだ。
しかし、今回の実験で宇宙線がエアロゾルの形成を担っていることはわかったとしても、大気についての完全な説明にはまだ遠い。
さらにエアロゾルの生成要因となる霧や微粒子が含まれる必要があり、このようなエアロゾルの「アイデンティティ」を見つけることが CERN のCLOUD 実験の次のステップだ。
「下層大気のエアロゾルの構造が、硫酸と水とアンモニアだけによる構造ではないことがわかったことは、大変に大きな発見ですが、他にどのようなエアロゾルの生成要因となる霧や微粒子が含まれているのか。それは自然から得られているものなのか、あるいは人間や都市などの中から発生していくようなものなのか、ということを見つけることが非常に重要なことで、これが私たちの次の仕事です」
と、カークビー氏は述べた。
(訳者注)
スベンスマルク効果という仮説があって、これが今回の CLOUD 実験とも関係した概念ですので、少し長くなってしまいますが、一部引用しておきます。
スベンスマルク効果
スベンスマルク効果とは、宇宙空間から飛来する銀河宇宙線が地球の雲の形成を誘起しているという仮説である。
太陽磁場は宇宙線が直接地球に降り注がれる量を減らす役割を果たしている。そのため、太陽活動が活発になると太陽磁場も増加し、地球に降り注がれる宇宙線の量が減少する。この説はその結果、地球の雲の量が減少し、反射率が減少した分だけ気候が暖かくなった可能性を指摘した。
1998年に CERN 素粒子物理学研究所のジャスパー・カービーにより大気化学における宇宙線の役割を調査するためにCLOUDと呼ばれる実験が提案された。
一方、さらに小規模なSKYと呼ばれる実験がスベンスマルクにより行われた。2005年の実験では、空気中において宇宙線によって放出された電子が雲の核形成の触媒として作用することが明らかとなった。このような実験により、スベンスマルクらは宇宙線が雲の形成に影響を与えるかもしれないとの仮説を提案した。