(訳者注) 何だか、昔見た映画が次々と現実に。昨日の「米国エネルギー省直属の研究所が作り出した「微生物ロボット」」は「ミクロの決死圏」を思わせるものでしたが、今日は未来の食糧を描いた1973年のSF映画「ソイレント・グリーン」のような話です。この映画は、最後の台詞が「ソイレント・グリーンの原料は人間だ!」で有名。食糧難への対処として人間で食糧を作ることを思いついた米国政府の選択の話でした。
こちらを見ると、ソイレントグリーンの舞台設定は 2022年のようですが、それより早い2011年、人間の DNA から作られた食糧が登場いたしました。
ゼリーなどにに使われるゼラチンです。
イギリスのテレグラフが大きく報じています。
ちなみに、今回の記事の冒頭にある「世界初の人工の肉の生産が6ヶ月以内に始まる」というニュースは、日本語記事がなく、英語の記事ですが、
にあります。
その記事にある図によると、人工肉というのは、この図のようなもののようで、ブタの幹細胞から食肉を作るということのようです。
この生産が実際に開始される時が近いかもしれないというニュースですが、今回のものはさらに進んで上の図の豚と馬の部分が「ヒト」になるというもののようです。
ちなみに、私は今回のテレグラフの記事を読むまで全然考えてもいなかったですが、そもそも、お菓子に使われるゼラチンは基本的に動物由来なのです。
Wikipedia の「ゼラチン」は、こう始まります。
ゼラチンは、動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加え、抽出したもの。
コーヒーゼリーやマンゴープリンを食べるということは、実は「動物を食べている」ということだったんですね。本当に一度も考えたことがないことでした。それを知っただけでも、今回の報道に出会えてよかったです。
記事の中の「ヒトの遺伝子を組み換えして」という部分に何となく引っかかりましたが、しかし、そもそも今、私たちが食べているゼラチンでも、遺伝子組み替えのウシやブタ由来のものを使っているものもたくさんあるもののようです。
そんなわけで、ゼラチンがヒトの DNA で代用されることは倫理や感覚の問題を別にすれば、それほど猟奇的な感じはしないですが、このあたりは人それぞれ考えも違うとは思います(海外では否定的な感じの感情が出ている記事が多いです)。
では、テレグラフからの記事です。
Do you fancy a jelly baby made from human DNA?
テレグラフ(英国) 2011.09.06
ヒトの DNA で作ったお菓子を想像できますか?
▲ 近い将来、ヒト由来のスイーツが作られるようになる?
先週、何万もの幹細胞を使った世界初の「人工の肉」の生産が6ヶ月以内に開始されるというニュースが世界中に伝わり、複雑な感情が巻き起こった。
今、これに関連して、さらに猟奇的といえる見通しがある。
それは、「ヒトから食品を作る」というアイディアだ。
まるで、SF映画のような響きに聞こえるかもしれないが、しかし、これは現実の話で、北京化工大学の科学者たちの最近の研究によれば、ヒト DNA からゼラチンを作り出すという新しいこの技術は、研究者たちと産業界から熱い視線を送られている。
遺伝子工学によって遺伝子を組み替えたヒト・ゼラチンを大量に「成長」させるために、どのヒト遺伝子が「酵母の素」として使えるかの研究が進んでいたが、このたびその実験が成功したことが、アメリカ化学会が出版する専門誌「ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・ケミストリー」(農業と食糧の化学ジャーナル)の最新号で発表されることが明らかとなった。
食品業界では、ゼラチンを食品のゲル化剤として使ってきた長い歴史がある。
ゼラチンは動物から作られており、その生産量は毎年 30万トンに及ぶ。
出版元のアメリカ化学会によると、人間から作られるゼラチンは、これまで世界中で 30万トン生産されていた動物ベースのゼラチンの代用として使うことができるという。
食の安全の問題
食品の安全問題に関しての懸念はある。
今年、ロンドンのアイスクリームパーラーがヒトの母乳で作られたアイスを発売した時には、衛生上の問題からすぐに販売が停止された。
その際、英国の食品安全管理局はこのように述べている。
「これらの食品には安全に関しての評価が必要となり、この種(ヒトや動物由来の成分が利用されているようなもの)の製品の販売、あるいは輸入には規制が適用される」。
しかし、科学者たちは今回のヒト・ゼラチンに食としての危険性があるとは考えていない。
米国バイオベンチャーのフィブロゲン社 ( FibroGen ) の上級研究員のディビッド・オールセン博士は、「ウシやブタから採取しているゼラチンと、ヒトのものには高い類似性があり、基本的にそれほどの違いはない」と語る。
フィブロゲン社は、遺伝子組み替え型ゼラチンを専門に扱っている。
すでに製薬業界では、ヒト由来のゼラチンが特定の錠剤やワクチンの製造において使われている。
日本の札幌医科大学の研究では、動物から作られたゼラチンが使われたワクチンに対してのアレルギー反応の増加が報告されている。しかし、ヒトを材料としたものに関してのアレルギー反応の報告は今のところはない。
また、ゼラチンには、 BSE のような動物媒介型の病気が感染する危険性も考えられないという。
しかし、それらの問題よりも、ヒト由来のゼラチンが人々に受け入れられるかどとかということがあり、これに関してはまだ何ともいえない。
米国に拠点を置く、ヘイスティングセンター(生命倫理と公共政策を扱う)の研究員グレゴリー・ケブニック博士は、ヒト由来のゼラチンについて、「カニバリズム(ひとくい)の問題を引き起こすような感覚がある」と述べる。
「ゼラチンは、動物とヒトでは同じ方法では誘導されない」とも言う。
しかし、フィブロゲン社のオールセン博士は、「そのスイーツが何からできているかは、食べても誰もその違いに気づかない」と言う。
いずれにしても、今のところは、すぐにヒトから作られたゼリーが市場に流通するというわけではなさそうだ。