ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者が発表したダークマター(暗黒物質)と現代宇宙モデルへの懐疑
(訳者注) 私はとにかく物事を何も知らない人で、「暗黒物質(ダークマター)」というものの名前を知ったこと自体が、ほんの2年くらい前のことでした。それまでは聞いたこともありませんでした。
そして、知ると同時に少し調べる中で、「本当に暗黒物質なんてあるんかいな」という懐疑的な「雰囲気」が自分の中では強くなっていったのですが、しかし、まあ、この「暗黒物質」の存在こそが現在の宇宙論を支える根幹ともいえるもので、もし「暗黒物質なんてないじゃん」と誰かが証明したら、現在の宇宙論は根底から崩れてしまうはずです。
なので、「じゃあ、暗黒物質があることにすればいいじゃん」という感じで宇宙物理学は進んでいるようです(冗談ではなく、本当にこんな感じに見える部分もないではないです)。
この宇宙学の根幹に関わる問題に対しては、中途半端な人や組織が「その懐疑」を口に出せるようなものではなかったわけですが、最近、権威中の権威のひとつもいえる米国の「ハーバード・スミソニアン天体物理学センター」のトップクラスの研究員から、「暗黒物質理論への疑問」が出ていましたので、ご紹介します。
その前に、一応、「暗黒物質」というものの説明を東京大学の宇宙線研究所付属「神岡宇宙素粒子研究施設」の解説ページ「ダークマターとは?」より抜粋しておきます。
宇宙で目に見える物質はたった4%
宇宙が何でできているかを調べてみると、われわれが知っている、陽子や中性子など”目に見える”物質は全体の約4パーセントにすぎません。その5〜6倍は未知の物質(ダークマター)が占めていると考えられます。残りはダークエネルギーと呼ばれている正体不明のものです(図1)。
それともうひとつは Wikipedia より。
宇宙に占める暗黒物質の割合の推定
宇宙全体の物質エネルギーのうち、74%が暗黒エネルギー、22%が暗黒物質で、人類が見知ることが出来る物質の大半を占めていると思われる水素やヘリウムは4%ぐらいしかないことが分かってきている。
つまり、現在の宇宙論では、私たちの目に見えている宇宙(つまり目に見える存在)は「全体の4パーセントしかない」ということになっているのです。
そんなの「何か信じられなーい」という感じはしませんか?
私が最初に疑問を持ったのは単にこの「そんなの何か信じられなーい」という感覚でした。個人的にはもう本当にそれだけなんです。
それと同時に、「よくわからないもの」に対しての現在の科学の姿勢というものにどうもいろいろと思うものを感じ続けてはいました。
たとえば、今の科学では、「DNA の9割以上は無駄なゴミ(ジャンク DNA )だ」となっているのですが、このように、非常に大きな割合のものを「ないもの」とか「無駄なもの」と見なしてしまうような傾向。宇宙も「9割以上が暗黒物質とかそういう『ないようなもの(見えないということ)』だ」と、やはり大多数を「ないもの」としている。
いくら理論的に合っていると言われても、「自分の体の中の DNA のほとんどがゴミで、住んでいる宇宙のほとんどすべてが『ないも同然』です」とか言われると、何だか「オレらって何?」って気がするのですよ。
「それらには 100パーセント意味があって、100パーセント目に見えますよ」と言われたほうがいいな、という理想論の延長とも言えます。
なので、科学にお詳しい方が読まれている場合は、これはそういう理想や娯楽の延長だと思って読まれてくださると幸いです。
実は最近の科学の様々な分野で起きていることに対して、何となく思うことは、「左脳認識と右脳認識のきしみ」というような感じを持っているのですが、そのあたりは長くなりそうですので、いつか同じようなニュースが出た時にでも書いてみたいと思います。
では、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのニュースリリースより。
Dark Matter Mystery Deepens
ハーバード・スミソニアン天体物理学センター / プレスリリース 2011.10.17
暗黒物質の謎は深まるばかり
宇宙の他のすべての銀河同様に、私たちのいる天の川銀河もまた、その基本的な構成は「暗黒物質」と呼ばれる奇妙な物質によるものだ。
暗黒物質は目に見えない。
引力を通してだけその存在を露わにする。
暗黒物質という存在はまさに謎だった。
そして、最近始まった研究ではそこに多少の説明を付け加えることになり、下のような表現となった。
「暗黒物質の謎はさらに深まった」。
新しい研究がもたらしたものは、さらなるミステリーだったのだ。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの筆頭著述者であるマット・ウォーカー博士は次のように言う。
「今回の研究が完了したあと、私たちは、暗黒物質のことが『以前よりわからなくなった』」。
現在の標準的な宇宙論での宇宙モデルでは、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と暗黒物質によって支配される宇宙が述べられる。
多くの天文学者は、初期の宇宙で暗黒物質の密度に差が生じて、それがさらに暗黒物質を集め、そして、重力により、しだいに目に見える物質であるチリやガスも引き寄せて、星や銀河が形成されたと考えている。
宇宙論の研究者たちはこのプロセスをシミュレーションするために、パワフルなコンピュータを用いる。そして、そのシミュレーションでは、暗黒物質は銀河の中心に高密度に詰められなければならないことを示す。
ところが、最近観測された2つの小型の銀河(矮小銀河)では、暗黒物質が円滑に分布していることがわかった。宇宙論では、銀河の中心部で暗黒物質の密度が高くなっている必要がある。
つまり、この観測結果は、現在の標準的な宇宙論が間違っている可能性があることを示唆したのだ。
「私たちの観測結果は、小型の銀河における冷たい暗黒物質(コールド・ダークマター)の構造についての現在の基本的な予測を否定するものとなってしまった。現在の宇宙理論とその理論家の人たちがその予測を修正することができない場合、コールド・ダークマターの存在は私たちの観測結果と矛盾する」と、ウォーカー博士は述べる。
小型の銀河(矮小銀河)では、最高で 99パーセントの暗黒物質と 1パーセントの通常の物質から構成されているとされる。この数値の差が暗黒物質の理解を試みようとする天文学者たちの小型銀河の理想的な目標の数値となる。
矮小銀河の暗黒物質の分布の分析
ウォーカー博士と、研究の共同者である英国ケンブリッジ大学のジョージ・ペニャルビア博士は、隣り合う2つの銀河(炉座と彫刻室座)の暗黒物質の分布の分析をおこなった。
私たちの天の川銀河にはおよそ 2000億 から 4000億程度の数の星があるが、これらの2つの銀河は小型で、それぞれ100万から1000万程度の星から構成されている。
研究チームでは、この銀河の 1500〜 2500個の星の位置、速度、そして、その星の基本的な化学的組成を計測した。
「矮小銀河の中の星は、蜂の巣の中の蜂のごとく動く。それは、渦状銀河のように、軌道上をスムーズに星が動く光景とは違う。これらは、暗黒物質の分布の決定に関しての挑戦的な事実だ」とペニャルビア博士は言う。
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(訳者注) ペニャルビア博士が言う「渦状銀河」とは、文字通り、下の写真のように渦を巻くように見える銀河のことで、私たちのいる天の川銀河も渦状銀河だと思います。
▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河 NGC4414 。
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両方の銀河(炉座と彫刻室座)のケースで、暗黒物質が一様に比較的広大な領域(数百光年に渡る距離の領域)で分布していることを、データは示す。
この観測結果は、現在の標準の宇宙モデルの暗黒物質が銀河の中心に向かって鋭角的に増加しなければならないという予測を否定する。
より小さな銀河で、特に暗黒物質の占める割合の高い銀河をさらに調査することによって、どちらが真実かということが決定されることをチームは望んでいる。
この研究の概要は、天文学と天体物理学の学術誌『アストロフィジカル・ジャーナル』のオンラインで読むことができる。