2012年03月06日



In Deep のトップページは http://indeep.jp に移転しました。よろしくお願いいたします。




セシウムは14歳以下の子どもの甲状腺ガンと「関係ない」ことが示される WHO の2006年調査論文



(訳者注) 今まで放射能のことはあまり書かなかったんです。どちらの考え方にしても、本人たちの思いこみが強い場合が多くて、場合によっては人を傷つけてしまう。そういうことも昨年経験しました。

私自身は震災後、いくつかのデータを眺めていて、放射能の害というのがどうしてもわからず、それ以来、個人的にはまったく恐怖に思ったことも脅威に思ったこともなく、最初、半信半疑だった奥さんにも説明して、うちは昨年4月頃からは飲み物も食べ物も行く場所もまったく気にしたことはないです。何でも食べますしどこでも行きます。

科学データというのは(ちゃんと読めば)わりと正直なんですが、周囲の状況はそうでもなく、ニュースや口コミなどの不安情報を信じる傾向も強く、私は次第にそのことについて話さなくなりました。私は気にしなくても、他の人が気にすることに介入することもないかなと。あるいは、時間と共に落ち着くだろうとも考えていました。

しかし、もはやそうも言っていられないのかもしれないと思いました。

というのも、「福島から避難の子供、保育園入園拒否される」という新聞記事を昨日知ったのです。

これを見てさすがに暗澹とした気分になりました。

もう「それぞれの考えでいい」とも言っていられないと。
子どもが無知の犠牲になるのはやはりよくない。

それと同時に、上のニュースを読んで何かこう急に、日本人という存在に対して冷めてしまいました。「なんで、オレは日本人がどうだこうだ言ってたんだろう?」と急に過去に熱く日本人を語っていた自分が馬鹿馬鹿しくなりました。

上のような日本人がいるということは、日本人に意味があると考えていた私はどうやら間違っていたようです。

しかし、私のことはともかく、実際に上のように、東北の子どもたちとか、あるいはそこから移転していく子どもたちはこれからもいるわけで、その子たちがまた何か言われるのはたまったものではないですので、それに関してのひとつのデータなどを載せておきます。


これはチェルノブイリ原発事故20年後に WHO (世界保健機構)が、ベラルーシでガンに関して疫学調査をした際のデータです。この関係と期間のデータは少なく、かなり貴重なものといえるかもしれません。

全文英語ですが、調査書そのものは PDF 書類で、

Cancer consequences of the Chernobyl accident: 20 years on
 チェルノブイリ事故から20年:ガンの経緯

にあります

データでは因果関係がわからないものが多いですが、「はっきりしているデータ」もあり、その中のひとつが、

セシウム 137と子ども甲状腺ガンの発生には関係が「ない」

というものです。

先にグラフをおいておきますが、これです。

s137.png


日本語は私が入れたものです。

ベラルーシでの小児の甲状腺ガンは事故4年後の 1989年頃から増加していますが、1995年くらいにピークとなった後は下がり続けて、事故の 16年後に事故以前の水準か、あるいはそれ以下の水準に戻っています。

Wikipedia によれば、セシウム 137の半減期(物質の影響がなくなる期間)は 30年となっています。

半減期から考えて、上のグラフでの小児ガン発生のグラフと、セシウムに相関関係はないことがわかります。

なので、上のデータから言えることは、


・事故の頃に生まれた赤ちゃんは甲状腺ガンについて安心して下さい。

・14歳までの子どもは甲状腺ガンについて安心して下さい。



という2点です。
データからはまったくセシウムとの関連の問題点は見当たりません。

このデータでは、14歳以上では増加の様子が見てとれるので、14歳以上の大人のことは知りませんし、他の病気のことも知りません。

とにかく、これは、赤ちゃんとか幼稚園児とかの14歳以下の子どもは甲状腺ガンについて、何の問題もないというデータです。

なお、 WHO の論文を読む限り、チェルノブイリ事故後の短期間の間に甲状腺ガンが増えた理由は、事故直後のヨウ素によるものではないかと思われます。ヨウ素の半減期は 8日です。


あと、これを取り上げた理由として、私は読んでいないですが、雑誌で福島の子どもの甲状腺ガンの話が取り上げられていたそうで、もし、その記事がセシウム等の放射能との関連で書かれているのなら、それは間違いかもしれないからです。

そしてそのことで、上の移転した福島の子どもの例のように「幼稚園に来るな」とか、「公園で遊ぶな」とかの、人々の単なる無知から来る害を子どもたちが受けるのはかわいそうだからです。

なお、繰り返しになりますが、上のデータは「セシウムと子どもの甲状腺ガン」だけに関してのもので、「35歳以上の人」とか、あるいは「他の病気」等との因果は表していません。


というか、本当は仮に「放射能というものに害があっても」、上みたいなこと(幼稚園に来るな、とか、公園に来るな、とか)を言うことは頭がおかしいと思います。


あーあ、日本人かあ・・・。

超ガッカリした昨日今日でしたが、逆にいえば、今後、日本人としてではなく単なる人類としてモノを考えるキッカケになったということで、いい経験だったと思います。

それでは、下はその調査資料の序文の翻訳です。

(ここから)



Cancer consequences of the Chernobyl accident: 20 years on
2006年

チェルノブイリ事故後 20年のガンの経緯

概要

2006年4月26日はチェルノブイリ原発事故から 20年目にあたる。

世界保健機構 WHO では、この20年の節目として、国連のチェルノブイリ・フォーラムと共に、チェルノブイリでの健康への影響を評価するために、専門家グループを招集した。この論文ではその調査の中から、ガンについての調査結果を要約している。

幼児期と青春期の対象者が、事故後の最も汚染された状態での土地の放射性ヨウ素に曝露している間に、甲状腺ガンの発病率の劇的な増加が見られた。

他のガンに関しても増加が報告されたが、これらの増加の多くが他の要因によるものか、あるいは、登録や診断に関して改善の余地を残しているようにもみえる。

しかし、いずれにせよ、これらに関しての研究は少なく、方法論的な限界がある。

さらに大部分の放射線関係のガンの発症は、曝露後数十年という時間の経過を必要とするので、今回のようにわずか二十年の時間しか経過していない事故に対して、放射線の影響への評価を結論づけるには、まだ時期的に早すぎるということがある。

若年世代の甲状腺ガンの発生率の大きな増加を別とすれば、放射線との関係でガンの発生が増加したことを示すものは今のところはない。

しかし、このことによって、ガンの増加が実際になかったことと解釈されては困る。

これまでの他の被爆の経験から予測すると、低い量の放射線でも、わずかなガンの相対的な増加が見られると考えられる。





(ここまでです)

いずれにしても、大人同士でやり合うのはどうでもよくても、子どもに「とばっちり」を向けないようにしたいものです。

どうであっても先に死ぬのは私たち大人ですから。
よくも悪くも未来を作るのは子どもですから。

実は先日の記事で「宇宙の有限論の害悪」は、こういうことも関係してきます。
未来にはよくなっていると信じたいですが。