2012年04月14日



In Deep のトップページは http://indeep.jp に移転しました。よろしくお願いいたします。




NASA のバイキング2号の写真再分析で「火星の生命存在が証明された」という米国報道



(訳者注) アメリカ MSNBC ニュースで、「36年前の火星の写真の再分析によって生命の存在が確認される」という内容の報道がなされていました。

米国とはいえ、このクラスのメジャー報道で正式に流れたのなら、日本のニュースでも火星の生命について報道されることもあるかもしれません。

MSNBC はアメリカのニュース専門放送局ですが、CNN との視聴率を争っている二大ネットワークのひとつで、現在は米国での視聴率ナンバー1のはずです。


ところで、その NASA のバイキングについて、簡単にふれておきます。
何しろ 36年前に最初に火星に着陸して、地球に火星の写真を送信してきた「初代無人火星探査機」であり、ご存じのない方もいらっしゃるかと思うからです。


バイキング計画

米国の NASA は1970年代に最初の火星探査計画(無人探査機による火星への上陸計画)を立て、その名称を「バイキング計画」としました。そして、バイキング1号とバイキング2号を火星に飛ばします。そのうちの今回の話題となるバイキング2号は、1976年に火星に到着し、着陸に成功します。

下の写真はその時にバイキングが撮影して、送信してきた写真の中の1枚です。
白いものは霜などの氷か雪です。

Mars_Viking_2.jpg

▲ 後のローバー計画と違い、NASA は当初の写真に彩色しないまま発表したせいなのか、わりと実際の火星の表面の感じがわかるものが多いです。空も青いです。当初は「空が青いほうが間違い」とされてきましたが、後の分析ではこの空の色が正しいようです。


ちなみに、上のキャプションに書いた「火星の写真の彩色」に対して、「火星は赤い星」というイメージの中で私たちは違和感を感じずにずっと生きてきました。今回の MSNBC の記事に使われている写真も「赤い」です。

しかし、この「赤はウソくさい」ということが、後になって少しずつわかってきたという歴史があります。それは私たち一般の人もパソコンで写真を修正できるようになってから(1990年代に入ってから)、わかったことでした。

このあたりは、過去記事の、

ありがとう、スピリット: 火星の真実を自らのボディで示してくれた無人探査機の引退
 2011年05月26日

に書いたことがあります。

上の過去記事はローバーのものですが、バイキングの際に発表されたこちらの下の写真

viking-01.jpg


を、国旗や装置などの色を基準にして、実際の色に近づけて修正していくと、

viking-02.jpg

このようになっていきました。


しかし、いずれにしましても、地球からの火星探査もそろそろ終わりに近づいています。

今年2月の記事で、

米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ
 2012年02月29日

というニュースをご紹介したことがあります。
次の米国の政権にもよるでしょうが、現状では火星探査は今年 2012年の無人探査機キュリオシティの火星への派遣で打ち切りになる可能性が高そうです。

しかし、最近、私は「それでいい」と考えるようになりました。地球の人間はこれ以上、他の惑星に物理的に干渉しないほうがいいのではないかと思っています。

よく考えれば、仮にそこが微生物だけの惑星だったとしても、無断で上陸することが彼らにとって気持ちのいいことなのがとうかはわからないです。

あるいは、地球の人間が踏み込んでいくことで、(その惑星の相手が人間ではなくとも)、マヤ文明やアステカ文明の人々のように「結果として相手(とその文明)が滅びる」可能性が決してないわけではないのでしょうから。

映画『宇宙戦争』では地球のバクテリアで敵のエイリアンは全滅します。
そういう事態を他の惑星に持ち込む可能性はゼロでもないかもしれませんし。

では、ここから記事です。




Viking robots found life on Mars in 1976, scientists say
MSNBC 2012.04.14

NASA のバイキング2号探査機は火星で生命を発見していたことを科学者が発表

Viking-Photo.jpg

▲ バイキング2号の上陸写真。1976年11月2日。


数学者たちと科学者たちによる国際研究チームは、国際科学機関への論文の発表の最終段階に入っている。

その論文の内容は、「火星の生命」についてのものだ。

具体的には、最新の写真分析データにより、36年前に火星に着陸して火星表面の写真を撮影した NASA のバイキング2号の写真に生命を発見したという分析結果に関するもので、この新しい分析法は、プリントされた写真からデータを復元する方法であり、それには複雑な計算が必要となる。


「火星の生命を証明するためには、NASA は火星に人類を送り込む必要はない」と言うのは、南カリフォルニア大学の医学部教授であり、神経薬理学者である研究チームのジョセフ・ミラー博士だ。

博士はこのように言う。

「火星の生命の最終的な証明には、火星のバクテリアのビデオを撮影することです。つまり、火星に送る必要があるのは人間ではなく、高度なマイクロスコープ(顕微鏡)です。そして、バクテリアが動いている姿をマイクロスコープで撮影するのです」。

「我々の最近までの研究で、火星には 99パーセント以上の確率で生命が存在することが確信できます」。


ミラー博士のこの確信は、1976年に火星に着陸したバイキング2号の探査ロボットが行った生命発見実験の結果を再分析した新しい研究の中で見いだされている。

今回、研究者たちは、バイキングのおこなった標識遊離(Labeled Release)と呼ばれる実験のオリジナルデータを詳しく分析し直した。そして、バイキングによって処理された土のサンプルの中に、微生物の代謝の徴候となるものを探した。


これまでの科学者たちの一般認識は、この標識遊離実験でバイキングが火星で見つけたものは、生物学的な活動ではなく、地質学的な活動だけだったという結論だった。


しかし、今回の新しい研究では、それまでの分析とは異なるアプローチを試みた。バイキングのおこなった標識遊離実験のデータを大量に抽出して、非常に複雑な結果を分析により計算したのである。


生物学的なシステムは、「非」生物的なプロセスより複雑なプロセスとなるので、データを膨大な視点から分析する必要がある。


その中で、研究チームは、火星でのプロセスに、地球での生物学的システムのデータとの密接な類似関係を発見した。これは、生物学的なプロセスに特有なものであるという順序付けができると研究者たちは述べる。

(訳者注) 上の部分は何だか複雑な書き方ですが、要するに、火星の表面に、地球と同じような「生物学的システム」による活動が見いだされたという意味のようです。


とはいえ、地球での生物学的ブロセスと「非」生物学的プロセスを区別する方法はまだ証明されていないという反論は予測されるわけで、研究チームはまだ結論を出すには至っていない。

研究の結果は今年(2012年)の 8月に示されることになっている。

その結果は、『国際航空宇宙科学学会誌』(International Journal of Aeronautical and Space Sciences. )で発表される。





(訳者注) なお、過去記事にも書きました以下のことがあるので、火星で微生物やバクテリアが発見されたことが証明されても、それが「火星独自のものである」ことを証明することはもはやできないと私は思っています。


・過去記事「米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ」より抜粋。

NASA はバクテリアなどの微生物を火星で探そうとしていますが、そもそも、火星へ送る探査機を(少なくとも過去は)「徹底消毒」しませんでした。つまり、地球からのバクテリアがそのまま火星に行っている

これでは、火星でバクテリアが見つかっても、それは探査機のボディに付着したまま地球から運んだ地球のバクテリアの可能性が高いです。バクテリアのいくつかは宇宙空間でも死にません。



つまり、「すでに火星には地球の微生物が定住している可能性が大きい」のです。極限環境微生物の環境への適応力を見れば、れは容易なことは想像できると思います。

もちろん、ミラー教授たちのチームもそのことは念頭にあるはずですが、仮に、火星独自の生命を証明できるとすれば、「絶対に地球にはいないタイプ」の生命の発見しかないわけですが、そういうものは「この世に存在しするのかなあ」とは何となく思います。

パンスペルミア説からみれば、宇宙全域に同じタイプの「生命の種子」がバラまかれ(それが単なるアミノ酸や DNA の部品であったとしても)、あとは、環境に応じて生きていくだけのようにも思いますので、地球と火星の生命に構造的にそれほど差があるようには思えません。


まあしかし、それでも、最近、相次いで公的な機関から他の惑星の写真からの生命に関しての記事を目にすることは、以前より多少の変化はあるのかなあ、とは思います。

--
[他の惑星の生命に関しての発表]に関係する過去記事:

ロシア科学アカデミーの科学者が「金星の写真の分析で生命を発見した」とする研究発表
2012年01月23日

地球外生物の存在する可能性のある惑星ランキング
2011年11月28日

--
[1年前の In Deep ]

2011年04月14日の記事

どんなに愛される資格があるのかを私たちは知らない



(注)上の絵は 1876年と1899年の二度日本に来日して、日本が大好きだったフランスの画家のレガメという人が書いた「日本素描紀行」という本の中のレガメ本人によるもの。浅草の射的屋さんのよう。上の「どんなに愛される資格があるのかを私たちは知らない」というタイトルもそのレガメの日記の中から拝借したものです。彼は日本滞在中の日記の中で、

「彼らは、私がどんなに彼らが好きであるのか、おそらく知るまい。また、自分たちに、どんなに愛される資格があるのかも知らない」

と書いていました。