▲4月15日にピョンヤン(平壌)で行われた「金日成元北朝鮮国家主席生誕100周年記念軍事パレード」に登場した「無人飛行機」。
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先日まで、北朝鮮のミサイルの訓練とかに全然興味なかったんですよ。軍事国家にとって、ミサイル訓練や核実験を定期的におこなうのは当たり前のことですので、報道も見なかったし、一昨日までどういう結果だったのかもよく知らなかったです。
ところが、ふとに目にした韓国のニュースにこういう短い記事があったのです。
・北朝鮮ミサイル 発射から1〜2分後に空中爆発
Yonhap News 2012年 04月 13日
この記事の冒頭はこうでした。
> 北朝鮮の東倉里発射基地で午前7時39分に発射された長距離ミサイルは1〜2分程度飛行して空中で爆発した。
これを読んで、私は「ああこれは・・・」と思いました。
In Deep の過去記事で、次の2つのものがあります。
タイトルの EMP 攻撃 (電磁パルス攻撃)とは、高高度電磁波兵器とも呼ばれ、Wikipedia の説明では、
「高高度核爆発は、高層大気圏における核爆発。強力な電磁パルス(EMP)を攻撃手段として利用するものである。核兵器の種類や爆発規模などは問わない。」
というものです。
これは、いわゆる爆破などで人や建物を殺傷する兵器ではありません。
それどころか、EMP 攻撃での爆発自体は一人も殺さないですし、何も破壊しません。
しかし、攻撃された地域の「あらゆる近代文明が消滅していく」というタイプの、現代社会で最強(というより、最悪)の兵器のひとつです。
この攻撃の特徴としては、大まかには、今回の北朝鮮の実験の「失敗」と同じような感じで攻撃をします。つまり、高度の空中で爆発させます。
今回の北朝鮮のミサイル実験が「 もし、EMP 攻撃を念頭に置いたもの」だった場合、非常に残念ながら、これは完全な成功だったと感じます。もちろん、EMP 攻撃を念頭に置いている場合に限りますけれど。
何となく、私たちは「核攻撃」とか「ミサイル攻撃」というと、下のような感じを想定します。
それぞれ速効で作った図で、適当ですみません。
しかし、EMP 攻撃は下のようなイメージで、方向も目標もアバウトで大丈夫です。
爆発した時は、いわゆるよく見る核爆発のようには見えず、「太陽が爆発した」ように見えると思います。
いずれにしても、「とにかく目的地あたりの上空のほうへ飛んでいけばそれでいい」といってもいいものです。あるいは、無人飛行機などで、アバウトに近づければいいという感じ。
どのくらいアバウトでいいかというと、たとえば、日本を攻撃するなら「仙台か東京か大阪か名古屋か福岡あたりの上で爆発すればいいや」というくらいテキトーでOKなんですよ。
どうしてかというと、その影響範囲がものすごいため、正確に狙う必要がないのです。
上の過去記事で翻訳してご紹介した 2011年6月27日の韓国統一ニュースの中の記述を抜粋します。
北朝鮮から「日本」と「アメリカ」を狙ったそれぞれのシミュレーションです。
米国を青銅器時代に戻す巨大な電子雲
より抜粋。
国土面積が狭い日本には大陸間弾道ミサイルは必要なく、中距離ミサイルを高高度電磁波兵器を乗せて日本列島中央部にある名古屋上空 45kmの高さで爆発させることで、九州西端の長崎から青森まで、日本列島が電子雲に完全に覆われる。
発射された高高度電磁波兵器が北米大陸中央部上空に達するまでの時間は 30分、名古屋上空に達する時間は、発射からたった 4分だ。 そして、日本と米国にとって困ったことには、高高度電磁波兵器を開発する技術は難しいものではないという点だ。
高高度電磁波兵器は、韓国軍が開発中の非核低高度電磁波兵器とは比較などできないほど破壊力が強く、軍事戦略の拠点に設置された電磁波防護施設まで破壊してしまう恐るべき威力を発揮する。
さらに、下の地図は、1997年にアメリカ下院「国家安全委員会」の公聴会に提出された資料からのものですが、比較的小さな核爆弾をアメリカの中央(下の地図ではオマハという町を想定)の上空 50kmの高さで爆発させた場合の「影響の範囲」のシミュレーションです。
ほぼアメリカ全域が攻撃の影響下にあることがわかると思います。
アメリカが最も恐れる兵器 EMP 爆弾
その時の公聴会の内容の具体的な数値を挙げると、下のようになります。
電磁波兵器が、北米大陸の中央部上空 50kmの高さで爆発した場合、半径 770kmに及ぶ地域が破壊され、上空 200kmの高さで爆発すれば半径 1,600 kmに至る地域が破壊され、上空 480kmの高さで爆発すれば半径 2,360 kmに及ぶ地域が破壊されることが示された。
国土面積の広いアメリカでこれなのですから、つまり、狭い国土の日本を狙いたいなら「日本の上空ならどこでもいい」わけです。
逆に自国の北朝鮮と近すぎる韓国は狙えない(自分の国のインフラも破壊されてしまう)ので、北朝鮮が韓国を狙う場合は地上型の兵器で攻撃するでしょうけれど、海をまたいだ場合は「地上攻撃なんていう効率の悪い攻撃」は面倒くさいので、 EMP 攻撃を何発か撃っておけば、どれだけ精度が悪くても、「どこかでは爆発」します。今回の北朝鮮のミサイル実験の「失敗」のように。
EMP 攻撃の後にどんなことが起きるかというと、まず基本的に「最初は、攻撃による直接の死傷者がまったく出ない」ということがあります。従来の武器と違うのは、「兵器自体は誰も殺傷しない」のです。
そして、「直後」から次のようなことが始まると、国家安全委員会の報告にはあります。
・電力送電網のクラッシュによる完全な停電
・通信システムの崩壊
・放送網(テレビ、ラジオ)の崩壊
・飛行機の墜落
・コンピュータシステムの停止
・移動手段(車、電車等)の停止
・コンピュータに依存する軍事システムの停止
・コンピュータに依存する政治システムの停止
・コンピュータに依存する医療システムの停止
・あらゆる物流の停止
・食料供給へのダメージ
・インターネットシステムのシャットダウン
・電気システムに頼るインフラの停止
アメリカの当時の推定では、数百兆円規模の被害と、最大数百万人から数千万人の被害者が出るような感じでしたが、実際には「よくわからない」という感じが正しいように思います。太平洋戦争の際の原爆の威力も、日本に落とされるまで、「よくわからなかった」ということと同じような感じでしょうか。
上の報告がアメリカの公聴会に出されたのが 15年近く前ですから、アメリカは着々と「EMP対策」を立てているとは思いますが、しかし、兵器の性質上、完全に防御することは不可能で、せめて、メイン電力施設と基本軍事システムを守りきれるかどうかという感じなのではないでしょうか。
そして、世界の軍部や軍事専門家は、昨年の時点で、北朝鮮は、 EMP 兵器の開発に成功していると見ています。2011年3月のアメリカの ABC ニュースの記事のタイトルの見出しは、「電磁パルス爆弾の完成に近づきつつある北朝鮮」でした。
さらに、 兵器の実験の際には、
「失敗したように見せかけるかもしれない」
と言及していた人もいました(水素爆弾の話として故黄長ヨプが話したこと)。
理由は、「成功した」と言うと、食料支援等を含む国際社会の報復があると困るためだとのことですが、まあ、そのあたりはわからないですが、いずれにしても、今回、その言葉とほぼ同じようなミサイル実験の「失敗の光景」を間近に見て、多分、アメリカも困っているだろうなと思います。
どうしてかというと、北朝鮮の最大のターゲットはアメリカだということをアメリカの国家安全委員会自身が認めているからです。
今の世界では「アメリカを倒した国が世界最強」と見られます。なので、今のトップの父親の金正日元軍事委員長の時代から、「目標はアメリカ」だったようです。
世界がもし今回の「ミサイル実験失敗」に過剰に反応した場合は、それは、「多くの国の軍部は、今回の北朝鮮の EMP シミュレーションが成功した」と考えているのではないかと思います。
黙殺したり無視しているのなら問題ないでしょうけれど、現時点ではどうなんですかね。私は「戦法と兵器そのもの」には興味がありますが(兵器も紛れもない人類の文明史なので)、政治には興味がないので、そのあたりの現状はよくわかりません。
金正日元国防委員長の時代から「効率的な兵器」を模索し続けた北朝鮮
日本では、北朝鮮の軍事力を軽く言うような傾向がありますが、それは多分違います。いわゆる総合的な意味での軍事力ではなく「戦争の工夫」に関しては、世界でもトップレベルのはずです。
1997年に北朝鮮から韓国に亡命して一昨年亡くなった、ファン・ジャンヨプ(黄長ヨプ)さんは 2010年5月18日の、韓国ニューデイリーの取材にこのように答えています( In Deep 過去記事「黄長ヨプ氏、「北朝鮮の核融合に成功しただろう」」より)。
「北朝鮮の大量破壊兵器技術は、すでにかなりの水準に上がっている。北朝鮮の実態を知らない人々はそれが不可能だと指摘しているが、彼らは北朝鮮の技術力をどれほど知っているというのか?」
彼が亡命したのが、まだ EMP 爆弾の概念のない1997年で、その後の、兵器の発展は想像できないほどです。
しかし、上にも書きましたが、「対処できない兵器」ですし、これはヒステリックに考えるようなことでもなく、北朝鮮軍の、あるいは金正日の息子さんの心の問題かとも思います。人類の文明史にピリオドを打つようなことをやっていいものかどうかと。
推定ですが、二十代の若者に今までのような国際関係の駆け引きで対応しても無意味に感じます。「戦争するぞ、するぞ」と脅しつつ巧みに戦争をかわし続けてきた父親の金正日元国防委員長と同じように振る舞えればいいのですけれど・・・。
ちなみに、上記記事の関係として、過去記事で「もし EMP 攻撃が行われた際に」というアメリカの記事を翻訳してご紹介したことがありますので、リンクしておきます。これは軍事攻撃だけではなく、太陽からの巨大な CME (コロナの放出)の際などに共通です。
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[電磁パルス (EMP) 兵器]の関連記事:
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2011年06月27日
・ 太陽フレア等による電磁パルス(EMP)に見舞われた際の通信手段
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