2012年05月07日



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日本・中国・韓国・北朝鮮の共通の最大の懸念のひとつである「白頭山の噴火」



(訳者注) 先日、韓国の英字紙に、「白頭山」の特集が組まれていました。今回、その記事をご紹介しますが、そもそも、韓国や中国で、たびたびメディアで白頭山の報道がなされるのはなぜなのかということを簡単に書いておきまたいと思います。


日中韓での自然災害の最大の懸念

日本と韓国とで、とか、日本と中国とで、のような研究や、あるいは経済的な様々なというものはいろいろとありそうな気がするのですが、「日本と中国と韓国」、あるいは、そこに北朝鮮とロシアをも含めて、長い時間をかけて共同で調査研究しているということがらは決して多くはないと思います。

その中のひとつに「白頭山の調査」というものがあります。

東アジアで起きうる自然災害の中で、最も広範囲に影響を与えると考えられている現象のひとつが「白頭山の噴火」であるからです。


pektu-map.jpg

▲ 白頭山の場所。日本語読みは「はくとうざん」。韓国語では「ペクトゥサン」、中国では長白山と表記して「チャンパイシャン」と読みます。


たとえば、少なくとも記録では、日本の富士山が「日本の国家を滅ぼしたことはない」と思いますが、しかし、白頭山は「朝鮮半島の古代国家を滅ぼした可能性」があると考えられています。それは朝鮮半島の高句麗という国家の後の「渤海」という7世紀にできた国家で、この渤海が滅亡した理由のひとつが、白頭山の噴火である可能性が言われています。

何しろ、白頭山の10世紀の噴火は「この2000年間で地球上で起きた火山噴火で最大規模のもの」だったと推定されているのです。

このことを最初に提唱したのは、東京都立大学の町田洋名誉教授で、1992年に「渤海の滅亡には、10世紀に起きた白頭山の大噴火が大きく影響している可能性がある」とする説を発表しました。


ローマのポンペイという西暦 79年に火山で埋もれてしまったイタリアの古代都市のことをご存じの方もあるかと思います。私も名前は知ってはいますが、曖昧でしたので、 Wikipedia を改めて読んでみました。


ポンペイ

ポンペイは、イタリア・ナポリ近郊にあった古代都市。(中略)

79年8月24日にヴェスヴィオ火山が大噴火し、一昼夜に渡って火山灰が降り続けた。翌25日の噴火末期に火砕流が発生し、ポンペイ市は一瞬にして完全に地中に埋まった。降下火山灰はその後も続いた。



このポンペイのヴェスヴィオ火山の噴火の描写は確かにすごいのですが、しかし、「火山爆発指数」という噴火の規模を示す「レベル1〜レベル8」までの国際的基準での区分では、このポンペイのヴェスヴィオ火山の噴火は「5」となっていますが、白頭山は「6」なのです。ちなみに、富士山は「4」。

下が火山爆発指数です。




この火山爆発指数は、レベルが「1」違うと、10倍の規模ということになっていますが、白頭山が大規模な噴火をおこした場合、ポンペイのヴェスヴィオ火山の数十倍の規模だと見られています。


白頭山の現状

その白頭山の現状なんですが、Wikipedia に「近い将来の噴火の兆候」というセクションがあるほど、その噴火はかなり近づいているというのことが、これは単なる憶測を越えた地質学的な共通認識になっています。

Wikipedia のその部分を抜粋してみます。


近い将来の噴火の兆候

2006年10月20日現在、ロシア非常事態省は、白頭山に噴火の兆候があると発表している。そして2010年6月19日には、釜山大学のユン・ソンヒョ教授が、中国の火山学者の話として、2014-2015年に噴火する予測を立てていることを韓国各紙で明らかにしている。

2002年以降、地震の回数が以前よりも約10倍に増加。頂上の隆起・カルデラ湖や周辺林からの火山ガスの噴出が確認されている。

もし大規模な噴火が起これば、その規模は2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火の約 1000倍となり、極東地域では甚大な被害が予想され、大韓民国気象庁が対策に乗り出し始めている。



上に、

 > 2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火の約1000倍

とありますが、2010年のアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火の際にも、空の便をはじめとして、様々な混乱が生じましたが、「その1000倍」。

ちなみに、エイヤフィヤトラヨークトル火山の火山爆発指数は「4」で、日本の富士山の火山爆発指数も「4」と予測されていますので、富士山の噴火は、2004年のエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火から学ぶところは大きいように思います。

ちなみに、日本にある主な火山の過去の噴火の「火山爆発指数」で、Wikipedia に掲載されている分では下のようになっています。



鬼界カルデラ(鹿児島) 火山爆発指数「7」 最後の噴火は紀元前 5300年頃
姶良カルデラ(鹿児島) 火山爆発指数「7」 最後の噴火は紀元前2万2千年頃
阿蘇山(熊本)  火山爆発指数「7」 最後の噴火は9万年前
樽前山(北海道) 火山爆発指数「4」 最後の噴火は 1739年
有珠山(北海道) 火山爆発指数「2」 最後の噴火は 2001年





姶良(あいら)カルデラとは桜島のあるあたりのカルデラをさし、鬼界カルデラというのは鹿児島の薩摩硫黄島の周辺のカルデラをさします。ちなみに、上にある九州の3つの火山は「世界の超巨大火山」と並べて語られる古代の「超」巨大火山で、そのどれが噴火しても、イエローストーンの噴火と同じような「ひとつの時代の文明の終焉」を意味すると思います。


いずれにしても、この日本の九州の「三大超巨大火山」を別にすれば、東アジアで近年に実際噴火している火山の中では北朝鮮の白頭山はずば抜けて巨大な火山だということは言えます。

この噴火は、韓国、北朝鮮と中国だけではなく、白頭山の偏西風の下にある日本列島の、特に関東より東は大変な影響を受けると思います。

その影響は、推定ですが、火山灰や火山ガスなどの直接的な影響ではなく、「長期にわたる日照不足」という影響で、それに伴う寒冷化だと考えます。

最近の In Deep は、

地球の気温の今後 (1): 寒冷化の予測と反して異常に上昇し続ける世界各国の気温

のような世界の高温化の記事も書いているのですが、ただ、巨大な火山が噴火した場合はこの状況は「一変する」可能性が高いように思います。つまり、寒冷化に向かうと思われます。



地球内部と太陽の作用の相反関係

ところで、話はちょっと逸れますけれど、最近の・・・たとえば、先日の竜巻などもそうですが、かつてなかったような天候や自然現象がなぜ続々と起きているのか、ということについて、私はかなりオカルトに属する話ですが、曖昧な推定を確信し始めています。

今回はそれは書きませんが、ただ、その「かつてなかったような天候や自然現象がなぜ続々と起きているのかという確信」については、「太陽活動の低下」ということと同時に起きている下の過去記事の「地球内部の熱の変化」のことと関連したことのような曖昧とした感覚を持っています。

地球からのニュートリノと地球内部からの膨大な熱の源は何か
 2011年08月27日


それと、白頭山だけではないですが、火山活動の活発化に興味がある理由としては、「太陽活動が弱まると、宇宙線の量が増えて、それが噴火のトリガーになるという説」を私は割と信じているということがあります。

過去記事の、

太陽活動と地震・噴火の活動に関しての2つの考え方
 2011年02月17日

などでもご紹介したことがありますが、東京工業大学大学院の丸山茂徳教授が何かの番組で言っていたものが YouTube にありまして、それを貼っておきます。2008年のはじめのものですので、すでに4年ほど前のものだと思います。

宇宙線と火山、地震の関係



上では、丸山さんは、

・地震を起こすトリガーとなるのは今まで語られていた「力学的」なものではなく、化学的(ケミカル)な反応現象だと思われる。そして、それは宇宙線。

・2008年の初頭から宇宙線がかつてないほどの量、降っており、今後しばらくは火山活動が活発化しそう。

・太陽の黒点活動と宇宙線には活動の相関関係がある。太陽活動が弱いほうが宇宙線の放射が多くなるので影響を受ける。

と言っています。

まあ、そんなわけで、話がいろいろと混乱してきましたが、つまり、「今年あたりからは火山の噴火活動はさらに大きくなるのではないか」というような推測が存在しているというのはある程度の事実です。

前置きが長くなってしまいましたが、ここからコリアン・タイムスの記事です。




Mt. Baekdu eruption's impact on NE Asia
Korean Times (韓国) 2012.05.03

北東アジアにおける白頭山噴火の影響

pek.jpg

▲ 白頭山。火山観測所が中国により建設された 1999年以来、慎重に観測が続けられている


白頭山の噴火の可能性への懸念

韓国と北朝鮮はどちらも白頭山の噴火からの影響という意味での立場は同じだ。

北と韓国が同じように考えているわけではないが、どちらの国でも、休火山である白頭山の活動の増加は、終末論的な予測に結びつく場合もある。韓国の地質学者は、白頭山の 2014年から 2015年頃の噴火の可能性を警告している。

北朝鮮の元総書記の金正日(キム・ジョンイル)は、生前、両江道と咸鏡北の州の一部の地域の人々が白頭山の火山噴火に対しての不安を感じていることを述べた。

そして、当時の金総書記は、北朝鮮当局による迅速な白頭山の調査対応を求めた。

北朝鮮と中国の国境に位置する白頭山が噴火した場合、そのダメージはアイスランドで 2010年4月に噴火したエイヤフィヤトラヨークトル火山の10倍から100倍の噴火規模になる可能性がある。専門家は、噴火した場合、隣接した領域が火山灰などにより農業を中心に大きなダメージを受けると予測する。また、産業活動と航空便にも深刻な混乱を引き起こすことが予測される。

影響を受けるのは、朝鮮半島、中国、そして、日本、ロシアにも及び、それらの国は深刻な損傷を受けると思われる。

噴火の規模が比較的小さかった 2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火でさえヨーロッパの航空便に大きな混乱を引き起こした。ヨーロッパの約 20の国が空域を閉鎖し、数十万人に影響を与えた。これは、第二次世界大戦以降では、空の便の中断としては最大のレベルの事態となった。


地質調査

地質学者の一連の研究では、韓国の古代王国「渤海」の崩壊を招いたのは、白頭山の噴火である可能性が示されている。

日本の東京首都大学の名誉教授である町田洋氏は、白頭山が渤海の滅亡に結びついたという説を発表した。町田教授のこの説は 1981年に北海道南部の苫小牧市で白頭山の火山灰が発見されたことに基づくものだった。このことにより、当時の白頭山の大噴火の規模が判明した。

町田教授の説では、白頭山の 10世紀の噴火は、過去2000年間で地球で起きた噴火の中で世界最大の噴火であり、富士山の噴火の約50倍以上大きなものだったと推察されている。また、ローマのポンペイの滅亡につながった西暦 79 年のベスビオ火山の噴火よりも巨大だったとされる。

白頭山の地形の変化を監視している地質学者と、朝鮮半島の古代王朝の研究者によって提案された様々な指標は白頭山の噴火の再発のシナリオを支持している。

そして、一部の地質専門家は、白頭山の噴火が差し迫っているという。韓国の釜山国立大学の地質学者ユン・ヒョジン教授は「白頭山はいつでもすぐに噴火する可能性がある」と語っている。


火山灰

過去の白頭山の噴火の際の火山灰は、北海道、そして、日本の南部という、白頭山から遠く離れた地域でも発見されている。

白頭山の巨大噴火は大体 1000年に一度程度の噴火サイクルと考えられているが、小さな噴火の最後のものは 1903年に記録されている。その前にも、 1413年、 1597年、 1668年と 1702年に小規模な噴火を記録した。

中国は、白頭山観測所を 1999年に建設したが、 2002年以降、噴火のいくつかの徴候があった。山の周辺での地震活動が劇的に増加しており、火山ガスも観測されている。どちらも水素とヘリウムの排出量濃度が 10倍に上昇している。

これらから見て、白頭山が近い将来、噴火する可能性は高いと言わざるを得ない。

もし白頭山が噴火した場合、その噴火は韓国と北朝鮮だけではなく、中国、日本、そして、ロシアも含めた周辺国に重大な影響をもたらすことが予測される。

また、白頭山の噴火で最大の差し迫った脅威は、白頭山のクレーターの上にある湖の約 20億トンの水だ。噴火した際には、その大量の水が噴火後のたった 3時間20分ほどで白頭山から半径 30キロ以内の道路や家を飲み込み、深刻な洪水被害を引き起こすことが最近の地質学調査で判明した。


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[白頭山]に関係する過去記事:

白頭山の噴火は本当に迫っているのか?: 北朝鮮が噴火準備態勢に入ったとの韓国報道
2011年02月12日

北朝鮮の核実験は白頭山の噴火のトリガーになりうるか
2010年10月31日

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[1年前の In Deep ]

2011年05月07日の記事

宇宙塵自身が生命であることに言及した 100年前のノーベル賞学者の実験