2012年05月18日



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スーパーフレア(超巨大太陽面爆発)とは何なのか





▲ 9年前の 2003年に発生したここ近年で最大の太陽フレア。中央左下の光っている部分。


(訳者注) 最近、なんとなく、大手メディアの記事や見出しの雰囲気が様々な方面に対して「危機煽り系」となっていることは感じているのですが、昨日、各社メディアでいっせいに下のような記事が出ました。下の毎日新聞のものです。

太陽:大規模爆発が発生の可能性 京大教授ら突き止める
 毎日新聞 2012年05月17日

これは日本人研究者が発見したということで大きく報道された面もあるのでしょうが、その後、海外でも大変に大きく扱われていました。

その京都大学の研究チームが科学誌ネイチャーに掲載した内容の概要が、ネイチャーのニュースリリースに掲載されていますので、ご紹介します。

その前に、そもそも「巨大な太陽フレア」を私たちが気にする理由というのは何なのか、ということを書いておきたいと思います。メディア等では「スーパーフレア」つまり、「超巨大な太陽面の爆発」という威圧的な言葉が独り立ちしている感があるのですが、このあたりを冷静に歴史を振り返ってみることにします。




キャリントンの嵐に見る巨大な太陽フレアの地球への影響

過去記事で、記録にある上での最も巨大な太陽フレアについて記事にしたことがあります。


1859年の規模の「超」太陽嵐がもし現代の世の中に発生したら
 In Deep 2010年10月20日


上の記事に出てくる「キャリントンの嵐」という言葉はネイチャーの記事にも出てきますが、そのような巨大な太陽フレアの脅威というものがどういうものかということを歴史から見てみます。

その年、つまり1859年を、たとえば、Wilkipedia で「1859年の年表」を見てみますと、下のようになっています。赤い字は私が入れたものです。

1859-01.png


153年前の 1859年の 8月28日に観測史上で最大の太陽フレアが発生し、これによって、


・キューバなどの赤道付近でもオーロラが観測された
・西欧で当時整備されだしたすべての電信システムが止まった


ということが起きました。




▲ 上の年表にある、9月1日に初めて太陽フレアを観測したリチャード・キャリントン氏と 1859年に彼が書いた黒点のスケッチ。


しかし、上の年表を提示した理由は、むしろ、その下に注目していただきたいからです。
それだけの「この世の終わり級」の太陽フレアが発生した後も、


9月6日(安政6年8月10日) - 仏国初代駐日総領事ベルクールが江戸に着任
9月7日 - 英国でビッグ・ベン運用開始



と、世の中は普通に進んでいっています。

つまり、「やられた」のは電気電信システムだけだったので、世の中への影響はとても限定的でした。当時の生活は世界の多くは電気や電信にそれほど頼っていなかったので、「電気システムが消えても関係ない」ということだったのです。


しかし、逆にご想像いただければわかると思いますが、現在の世の中が、どれだけ電気システムや通信システムに依存しているかを考えると、確かに今の世の中に同じような太陽フレアが来た場合、それは大変な影響だとは思います。

その影響は実は、最近、しばしば北朝鮮の関係で取り上げていた「EMP 兵器(電磁パルス兵器)」と同じような現象となるはずです(インフラへの影響が似ているため)。

参考までに、過去記事、

「 EMP 攻撃シミュレーション」だったとすると完全な成功を収めたように見える北朝鮮のミサイル実験
 In Deep 2012年04月17日

から、「現代社会に EMP 兵器が使用された場合に起こりうること」を記していますので、抜粋しておきます。超巨大な太陽フレアが発生した場合も EMP 攻撃の際と同じように下のようなことになると想定されます。


・電力送電網のクラッシュによる完全な停電
・通信システムの崩壊
・放送網(テレビ、ラジオ)の崩壊
・インターネットシステムのシャットダウン
・電気システムに頼るインフラの停止
・コンピュータシステムの停止
・移動手段(車、電車等)の停止
・コンピュータに依存する軍事システムの停止
・コンピュータに依存する政治システムの停止
・コンピュータに依存する医療システムの停止
・移動手段とコンピュータに依存する物流の停止


つまり、「電気や通信に頼っている文明」が危うくなるということになります。

これに関しては、1859年と同様かそれ以上の規模の太陽フレアなどの磁場の放出現象が起きて、その磁場の嵐が地球にダイレクトに向かった場合は、「ほぼ必ず」そうなると思います。なぜなら、送電システムというのは、各所に分散された電圧変圧器を持ちますが、全国すべての電圧変換器を「磁気嵐に耐えうる装置にする」ことは多分、不可能だからです。

また、米国国家安全委員会等の試算ですと、復旧に最大で数十年かかるとされています。


それを除けば、太陽フレアというのは「爆発」という名前から印象されるような「人間が太陽光線に焼き尽くされる」というようなものではなく、人間や生命そのものに危機を与えるというものとは違うはずです。規模にもよるでしょうけれど、スーパーフレアとはそういうものです。

ただ、太陽フレアだけではないですが、巨大な磁場の来襲は、「一瞬にして世の中が原始の世界へ戻ってしまう可能性」は常に含んでいると私は思います。


なお、このネイチャーにあるほどのスーパーフレアが仮に発生するとしたなら、数日前より「それまでに見たこともないような巨大な黒点群が連結した状態で太陽表面に現れる」はずですので、予測は可能だと思います。

しかし、地球で太陽観測がはじまって以来、そのような黒点が観測されたことはないですので、私本人としては「私たちの太陽にそのようなスーパーフレアが発生する可能性は、少なくとも直近ではあまりないのでは」と考えています。

もっとも、先日の記事、

活動を始めない太陽とそこから思い出すウェブボットの「太陽の病気」の記述
 In Deep 2012年05月16日


に書きましたように「太陽の病気」というフレーズは確かにあり、何が起きてもそれは現象として、起きたのならそれはそれで仕方ないと思います。


ここからネイチャーの概要の翻訳です。

ちなみに、今回の観測結果はケプラーが観測した「8万3000個の恒星」が調査対象で、「そのうちの148個の恒星でスーパーフレアを確認」ということですので、「全体の 0.2パーセント」となり、比率、あるいは確率としては非常に低いです。しかも、その時間的間隔は「数十億年」に及びます。

なので、現実の今の生活と結びつけて考えるには多少厳しい面も感じないではなく、そのあたり、今後、論争が起きる余地もあるように思います。

ただ、実際面の脅威ではなく、学術的な発見としては大変に意味の大きなものです。




'Superflares' erupt on some Sun-like stars
ネイチャー 2012.05.16

いくつかの恒星(太陽と似た星)でのスーパーフレア

衛星ケプラーの観測が示唆する、私たちの太陽でのフレアの数千倍の威力があるフレア


最近の大規模な調査により、私たちの太陽と比べると数千倍の規模の太陽フレアを発生させている年老いた恒星があることについての観測結果がまとめられた。

太陽フレアは、太陽での磁気のループが複雑に絡まった状態から発生する太陽面での爆発現象で、これまで観測された中で最大の太陽フレアは 1859年9月1日に、英国の天文家リチャード・キャリントンが観測したものだった。

太陽フレアにより地球に衝突した磁場の粒子は、地球の磁気フィールドに影響を与えるため、1859年には熱帯地方でもオーロラが観測され、その太陽フレアは世界中の電線をショートさせた。


ルイジアナ州立大学のブラッドリー・シェファー教授はこのように言う。

「今の時代に1859年と同じような太陽フレアが発生した場合、送電網と、そのトランスは丸焦げになるだろう」。

すなわち、大規模な停電に導かれる可能性がある。


そして、今回の観測結果により、その1859年の太陽フレアよりもさらに規模の大きな太陽フレアは他の多くの恒星で発生していることが観測された。 これまではできなかった正確な観測と調査が NASA のケプラー探査衛星の観測により明らかとなったのだ。


スーパーフレアの恒星

京都大学の前原裕之氏と研究チームは 2009年にケプラーが観測した 120日分のデータに基づいて、最初の大規模調査を行った。太陽と同じタイプの恒星 8万3000個の明るさの変化に関するデータを解析し、そのうちの148個(0.2パーセント)の恒星で、太陽より10倍から10,000倍の大きさのエネルギーを持つスーパーフレアが 365回、発生していたことがわかった。

観測された 365のスーパーフレアの大部分は、10日未満で一回転する速い回転の星に発生していた。回転の速い恒星は、イオン化されたガスの対流により磁場が発生することにより磁場エネルギーが発生するので、これは予測と一致していたが、しかし、奇妙なことに、スーパーフレアの発生した恒星のうちの約4分の1は、私たちの太陽のように遅い回転速度を持つ恒星だった。

それらは一回転するのに約1ヶ月かかる。

そのような恒星で、どうしてスーパーフレアが生み出されるのか。

ルイジアナ州立大学のブラッドリー・シェファー教授は、スーパーフレアは、太陽に似た天体が、近くを回る巨大惑星の磁場の影響を受けて起きるとするが、しかし、スーパーフレアが観測された 148個の恒星はどれも、そのような近くを回る巨大惑星を持たなかった。

シェファー教授は「これらの発生の理由は謎だ」と言う。

私たちの太陽にもこのようなスーパーフレアが発生する可能性があるのだろうか?

今回の研究者である前原裕之氏は、そうは考えていない。
その理由は、それらのスーパーフレアを発生させた恒星の多くが、私たちの太陽より巨大な黒点群を持っているからだ。

それらの恒星がそのような巨大黒点を持つ理由はわかっていないが、数十億年前(の宇宙)は、状況が違っていたのではないかという。





(訳者注) 日本の報道とネイチャーでは研究チームの代表としてあげられている名前が違いますが、ここではネイチャーの原文に従いました。

なお、参考までに、日本の送電線の分布図を貼っておきます。大規模な太陽嵐がその地域を直撃した場合、全域での電気インフラが止まると思われます。特、この図の「変換所」と書かれている場所にある変換器が太陽フレアで破壊されると思われます。

Power_Grid_of_Japan.png


上にあるうちの、「50万V送電線」とある太い線は、超高電圧変圧器(EHV)と呼ばれ、現在の電気システムに必要不可欠で、またそれだけ高度なシステムですが、厄介なのは、この EHV は、それが破壊されると復旧までに大変な時間がかかるということです。

1989年に太陽フレアで米国とカナダの西海岸が被害を受けましたが、変圧器の完全復旧までには数ヶ月かかりました。