2012年06月09日



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強烈な気候変動の衝撃:氷が溶けた北極海で藻と植物プランクトンが大発生している



(訳者注) 南極とか北極などの極地近辺の海域や海中には、あまり多様な生物体系は存在しないだろうというのが従来までの考え方でしたが、しかし、In Deep でも過去よく取り上げていた「極限環境微生物」といわれる、過酷な環境下でも生きられる多くの生物が地球上に存在していることは、最近になって、次々とわかってきています。

極限環境微生物とは、主に「極端な高温や低温、あるいは無酸素状態などに耐えられる生物」のことを言いますが、他にも、過去ご紹介したものでは、地球の生物には、


寿命が1億年以上あると考えられる微生物
 (過去記事:1億年の冬眠サイクルをもつとされるバクテリアがスヴァールバル島沖合の海底で発見されるなど)

核燃料の中で死なない生物
 (過去記事:使用済み核燃料の中で「成長するもの」が米国の核保留地で発見されるなど)

酸素がなくても生きられる生物
 (過去記事:無酸素状態の湖の中で発見された「スーパー」バクテリアなど)


というような生物たちが存在します。

しかし、今回の発見の衝撃は、北極海の氷の下で見つかったものが「普通にどこにでもいる微細な植物(藻や植物プランクトン)」であったことです。

つまり、今回のことは生物の強靱さのほうの問題以上に、「予想以上に北極が暖かくなっている」ことの証拠だと思われます。たとえば、日本の海でも、基本の低い真冬は池でも海でも普通の藻は少なくとも「大繁殖」はしないと思いますが、そのことが現在の北極海で起きているというのは、かなりのショックを感じます。


こういうニュースを読んでいますと、私は「北極の氷が全部溶ける」なんてのは大げさな話かとも思っていましたが、どうも、そのあたりも怪しい感じさえします。

なお、さきほど、「北極海の氷の下で見つかった」と書きましたが、今回、NASA がリリースしたビデオを見ますと、そもそも、北極海の氷の海もなんだか「ボコボコに穴が開いて」いて、かなり氷が溶けている様子がうかがえます。


art-01.jpg

▲ 北極海を進む観測船。


そういえば、一昨年ご紹介した「南極大陸の微生物から探る地球外生命の潜在的な可能性」という記事で、南極海の海面下600メートルを泳ぐエビのような生き物の姿が NASA の南極観測船のビデオに偶然撮影されたことがあります。

下の動画です。




南極の海底にこのような比較的大型の生物が普通に泳ぎ回っているという事実に、科学界は結構ショックを受けました。しかしこれは、「生物の強靱さ」としてのショックですが、今回の「北極の藻」は、地球の気候変動の実態をあらわすもののひとつとしてのショックだと思います。


ちょっと横道にそれますが、今回のニュースを読んで、やはり現在の地球環境の変化の大きさは想像以上なのかもしれないと思いまして、そのことについて少し書いておきたいと思います。



大規模な地球の環境変動を経験することを「幸運」と思うか「不運」と思うか

今回ご紹介する米国の msnbc の記事中には「温暖化」という言葉が出て来ますが、これは北極地域の温暖化のことであり、以前言われていたいわゆる「地球温暖化」という言葉は今は科学の世界ではほとんど使われません。

地球全体が「温暖化」したり、「寒冷化」するという考え方ではなく、文字通り、「気候の地域が変動している」というのが現実のようです。これは気温だけではなく、地域の光景そのものが変わる可能性があります。たとえば、サハラ砂漠は数千年前には全体的に緑地だった可能性が高いと言われていて、そして、今、また緑地化に向かっていると言われています。

下の記事と写真は 2009年8月のナショナルジオグラフィックのニュースからです。


サハラ砂漠、気候変動で緑化が進行か
National Geographic News 2009.08.03

green-sahara.jpg

北アフリカ、ニジェール付近の半乾燥地域、サヘル。砂丘のすぐ近くでヤギの放牧が行われている。

新しい衛星画像から、温暖化の影響によって北アフリカの広範囲で緑化が著しく進んでいることがわかった。今後、アフリカ大陸の最も乾燥した同地域で、人々の暮らしが豊かになるかもしれない。



私たち今の人類のほとんどは、生まれてから数年から数十年しか生きていないわけで、その経験からだけでは、有史以前の地球と人類がどのような気候変動を経験してきたかはあまりよくわからないわけで、もしかすると、今の私たちはそういうものを見られるチャンスに恵まれている時代の人々なのかもしれません。

そりゃまあ、気候変動とか地殻変動、どちらも物騒なこともあるでしょうけれど、でも、冷静に考えみていただきたいんですが、

「一生、気象変動も地殻変動も経験しなければ人間は永遠に死なないのだろうか?」

と考えてみると、そんなことはないわけで、地球が何百年も何千年も穏やかなままであっても、あるいは何の自然災害も天変地異もなくとも、人間は個人としては、どうあってもいつかは必ず死にます

つまり、人が死ぬということ自体は悲劇ではなく「宿命」であるはずです。
これは生物としての人間に決められていることです。

それなら、せっかく地球に生まれたのなら、「地球が変貌していく様子」を見て生きていくのも、その時代の人類の人生のひとつの「幸運」として考えてもいいのではないかと最近思ったりいたします。


ちなみに、地球で1年間にどれくらいの人々が亡くなっているのかというと、1995年の国連の統計ですが、世界人口 56億人のうち、5500万人が死亡しています(世界の人口と死亡者より)。

その比率が継続しているとすると、今の人口は約70億人ですから、今年2012年も、7000万人くらいの人が1年間で亡くなるのだと思います。これは一日に換算すると約 20万人。


つまり、今の世界では毎日 20万人ほどが亡くなっているということはある程度の事実と言えそうです。


私たちは今後、さらにこの「死」というものをこれまでの人類以上に真剣に考えてもいい時代に生きているのかもしれないです。死を理解した人類こそが、「進化した人類」なのではないかと私は思います。

私もいまだに死をまったく理解していません。
なので、理解したいと思っています。

話が大きくそれましたが、ここから北極海の記事です。




'Megabloom' of tiny plants under Arctic sea ice tied to climate change
msnbc (米国) 2012.06.07


気候変動と関係する北極海の氷の下の小さな植物たちの『大繁殖』


arctic-bloom.jpg

▲ 米国沿岸警備隊による 2011年7月の北極海の調査の様子。北極で氷が溶けて「池」となっている。この「池」が植物プランクトンの繁殖に絶好な場所となっている。


専門家たちは、北極海の海氷の下で発見した、60マイル(約 100キロメートル)に渡って「大繁殖」している植物プランクトンと藻類の光景に衝撃を受けている。

6月7日に発表された研究結果によると、地域の気温の温暖化が氷の層を薄くし、それが藻や単細胞生物などの植物プランクトンの繁殖への理想的な環境を作ったと考えられるという。

科学者たちは、北極海で植物プランクトンが発生するのは氷の溶けた夏場だけだと考えていたので、今回の発見は、米国スタンフォード大学のケヴィン・アリッゴ博士の言葉を借りると、

「アメリカのモハーヴェ砂漠の真ん中でアマゾンの熱帯雨林を見つけたような驚きだった」

ということになる。
アリッゴ博士は NASA の海洋生物学プログラムを管理している研究者だ。


博士は、研究発表の記者会見で、北極海の様子を下の以下のように述べた。

「エンドウ豆のスープのような色(緑色ということ)に見えた」



bloom-01.jpg

▲ 左が通常(以前)の北極海。右が今回発見された植物プランクトンが大繁殖している北極海。


そして、繁茂している植物の層の厚さは1メートル程度あったという。

研究チームが北アラスカからチェクチ海にかけての北極海上の氷が薄くなっていることを発見し、そこに植物プランクトンが繁茂しているのを発見したのは 2011年7月のことだった。

北極海は地域の温暖化により 1979年より氷量が縮小している。

氷が少なくなり、薄くなることは、植物の成長プロセスに大きな関係があると思われるという。氷が厚いと、光合成のための光をとり込むことができないが、薄い氷が植物に光合成を促す。


これまで、研究者たちは北極海の氷が完全に消えると考えるようなことはなかったが、今回の発見により、それに関して多少の不安材料が出たことに注意している。

アリッゴ博士は、大きな問題として、北極地域の温暖化が植物プランクトンの繁殖を引き起こしており、これは、これまでの食物連鎖に影響する可能性があり、それまで、適度な時期に合わせてやってきていた海洋生物たちを苦しめるかもしれないと語った。





(訳者注)訳していて気づいたんですが、最後のくだりの「気温の変化による食物連鎖の崩壊」という意味では、つい先日ご紹介した、

ハチドリはどこへ消えた?: 米国のハチドリの「消滅」の阻止を試みるアメリカ国立科学財団
 In Deep 2012年06月03日

の「食べ物にたどりつけないハチドリ」の例と似ているような感じもします。
気候の変動が直接、「餓死」に結びつく。


それでも、多くの生物は生き方を見つけるものだと思います。

ジュラシックパークという映画の中に「カオス理論」を語る博士が出て来ますが、彼の言葉に、


Life finds a way
(生命は道を見つける)

というものがあります。

生き物は環境が変化している中でも生きのびる方法を見つけるという意味ですが、今後の地球では、人間も含めてかもしれないですが、多くの生物たちにこの「道を求めること」が必要となってくるのかもしれません。

いや、もうそれは始まっているのですね。

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