2012年06月10日



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地球文明を破壊する威力を持つウイルス「フレーム」が歩き始めた



私たちは、人類が産業革命から進んできた「文明の最期」を看取る歴史の証人となり得るのか。あるいはそれを回避できるのか。






 


いきなり余談ですが、先々月くらいに携帯電話の表示がおかしくなったんですね。3年以上使っていて、前から表示がおかしくなることはあったんですが、今回は復旧せずに画面に何も映らない。

状態としては液晶のバックライト切れと似ていますが、携帯電話の液晶の仕組みをよく知らないので、とにかく「何か微かに画面に映っているけど基本的に何も表示されない」と。

でも、電話としては使えるので、そのまま使っていたんです。
変更も修理も面倒ですし。

で、画面が見えないのでメールは打てないわけで、メールをやめたんですね。

私の加入している携帯はなんとメールは標準オプションじゃないんですよ。
プラス300円でメールサービスが使える。

で、あとは音声通話なんですけど、携帯の音声通話なんて子どもの関係の用事などで奥さんからかかってくるくらいですので、携帯は部屋に置いておけばいい。つまり、今の私の携帯の状況は「画面がうつらない着信専用の音声端末」ということになっています。

しかし、携帯メールから解放されたのは本当に楽で、私はもともと携帯のボタンを押してメールを打つのが苦手でしたので、もう携帯メールを受け取らなくてもいいし書かなくてもいいんだ、と思うと非常に解放された気分になりました。


こんな感じで次第に情報伝達の手段が少なくなっている私ですが、今の私にとっても「最大であり、そして最後の情報伝達手段」であるのがインターネットです。ツイッターもフェイスブックも何もアカウントを持たない私ですが、携帯メールがなくなった今、メール伝達はインターネットだけですので、それなりに大事。

しかし、その「インターネット・インフラ」はもはや未来永劫に続く盤石な基盤とは言えない可能性が強くなっています。今回は、そのインターネットの自滅、あるいは、インターネットが「文明を滅ぼす導管となり得るかも知れない」ということと関係する話です。

ご存じの方も多いと思いますが、フレームというコンピュータウイルスの登場によって、今、世界が騒然としています。



拡大を続ける「インフラ自爆装置」

これまで In Deep でも、コンピュータウイルスのことを取り上げたことはありました。リンクは記事下に貼っておきますが、スタクスネット(正式名: W32/Stuxnet)などの名前がつけられている強力な「インフラ破壊ウイルス」などが次々と登場している中で、最近、「フレーム」と名付けられたウイルスが登場しました。

これに関しては、最初に報道の方をご紹介しておきます。
「ロシアの声」の記事からです。

ロシアにはコンピュータ・セキュリティ専門のカペルスキー社があり、創業者カペルスキー氏の言葉が書かれてあります。カペルスキー氏は、イスラエルで行われた講演の場で、「世界が終末を迎える前にサイバー感染の連鎖を阻止しなければならない」とまで言っています。


しかし、今回、フレームのことを取り上げたのは、その脅威というより、「どうして私たち人類の生活が、コンピュータウイルスごときに脅かされるようになってしまったのか」ということをもう一度考えてみたいと思ったからです。

縄文時代にも、あるいは、アウストラロピテクスの時代にもなかった脅威が、どうして「進化した果ての人類の世界」に登場したのか。

私たちの文明の方向性は、果てして正しかったのだろうか・・・というようなことを、スタクスネットや、フレームの実態を知ると、考えざるを得ません。
では、今回は最初に記事を載せておきます。

ここからです。






 


カスペルスキー氏:サイバー感染の拡大が世界を脅かしている
ロシアの声 2012.06.07

kapelski.jpg

▲ イスラエルで「フレーム」についての講演をおこなった情報セキュリティー会社「カスペルスキー」の創設者エヴゲーニー・カスペルスキー氏


ロシアの情報セキュリティー会社「カスペルスキー」の創設者エヴゲーニー・カスペルスキー氏は、人類を脅かしている大規模なサイバー感染に対して脅威を感じていることを認め、世界が終末を迎える前にサイバー感染の拡大を阻止するよう各国に呼びかけた。

イランやイスラエル、レバノンなど中東の政府機関や研究機関などの約600台のコンピュータで新種の強力なコンピューターウイルス「フレーム」が発見された。

「フレーム」は、情報だけでなく、感染したパソコンの操作画面や音声通話の録音内容、キーボードの入力履歴などを盗み出し、外部に送信することができる。

カスペルスキー氏は 6月6日にイスラエルのテルアビブ大学で演説し、

「これはゲームの始まりにすぎない。そして、これが私たちが知っている世界の終焉となることが恐ろしい」

と語った。

カスペルスキー氏は、多くの国が、さらに危険な作用を持つフレームと同様のウイルスを作成できる状態にあると述べ、ウイルスの作成費は1億ドルと試算した。そして、サイバー兵器の感染が拡大し、世界中のコンピュータに入り込む恐れがあると述べた。

カスペルスキー氏は、可能性のあるサイバー感染の影響として、全面的なインターネットのブラックアウト(インターネットの停止)と重要なインフラ施設への攻撃の2つのシナリオを描いた。

カスペルスキー氏は、「残念ながら世界にはまだこのような攻撃から完全に身を守る手段がない」と述べ、サイバー脅威に対して防御するには、 Windows や Linux などの有名な OS (コンピューター用オペレーティングシステム)の使用を止めることだと語った。

カスペルスキー氏は、唯一の解決策は国際協力であり、各国の政府はこれについて互いに話し合いを開始しなければならないと呼びかけた。





ここまでですが、ここから蛇足的な文章を少し書かせていただきます。


文明の進展の中の「減少する脅威」と「増える脅威」

人間がはじめて生活の中に「灯り」を用い始めたのがいつ頃なのか正確なところはわかっていないと思いますが、火を利用することによって、「夜でも周囲を明るくする方法」を獲得した人類たちは、それは嬉しかったと思います。

まあ、「人類の歴史」というもの自体の実相が最近はわからなくなっている感もあるとはいえ、現在語られている人類の歴史では、たとえば、数百万年前などは人類の存在というのは、自然界の中で弱い存在だったと言われています。

今は人間が他の動物を食べたりしていますが、その頃は食べられるのは人間のほうであって、他の動物が来ることができない洞窟でジッと夜を過ごしていた・・・というように言われています。

それが真実かどうかはともかく、今の人類も何の道具もないままに野生動物が数多く棲む山やジャングルの中に放り出されれば、夜は洞窟などの中でジッと隠れて過ごすしかないと思います。

道具がない人間は(今のところは)確かにあまり強い存在とはいえません。

しかし、たとえば、「火」を得た人類。
火は灯りだけではなく、威嚇にも使えたし、調理にも使えた。

そして、次に人類は「単独の道具としての灯り」、つまり照明を作り出すようになっていきます。


2001_space_odyssey.jpg

▲ 映画『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督)では、人類の歴史が「武器を獲得したところ」から始まっていますが、それ以上に「火」を獲得した時から始まったかもしれません。他のすべての動物に扱うことのできない「火」を扱うことができた瞬間から人間は多分「傲慢になった」と私は思っています。


灯りを日常的に使うようになり、人間の住む世の中は夜でもそんなに真っ暗ではなくなってきた。

その流れは今に至るまで続いていて、日本など多くの国では、むしろ「明るすぎる夜」となっていたりするわけですけれど、いずれにしても、「電気」とか「インフラ」とかは現時点までほぼ一直線に進み続けてきました。そして、次第に何もかも「電気」に依存する「人類の一大電気文明」が始まることになります。


しかし、たとえば、100万年と現在と違う点。
あるいは、江戸時代と現在とは違う点があります。

江戸の夜の街にも灯りはあったでしょうが、それは「コンピュータ制御ではなかった」という点です。100万年前も同じだったと思います。

記録の上では、江戸時代にも、あるいはアウストラロピテクスの時代にもウインドウズ7も Mac OS X も存在せず、ノートパソコンも、社内LAN も Wi-Fi も存在していなかったはずです(あったらごめんなさい)。

インフラがコンピュータ制御でなかった時代は、確かに今より不便なこともあったでしょうけれど、しかし、怖れなくてよかったこともたくさんあります。

それは、たとえば、

・コンピュータウイルス
・超巨大な太陽フレア
・EMP (電磁パルス)攻撃


などです。

そういうものを怖れないで生活して大丈夫でした。




▲ 人類は「文明を蝕むほどの巨大な太陽フレア」そのものは何度も経験していますけれど、「電気の時代」になってからは、まだ「1859年のキャリントンの嵐」と、1989年のカナダのケベックの変電所を全滅させたフレアくらいしか経験していません。



超強力な宇宙線にも何の影響も受けずに生活していた 775年の時代


少し違う話ですが、最近のニュースで面白いものがあります。

日本語でも報道されていましたので、ご存じの方も多いと思われますが、

775年、地球に大量の宇宙線 屋久杉から解明
 日本経済新聞 2012年06月04日

というニュースです。

下のような内容のニュースでした。


名古屋大学の増田公明准教授らは、775年に宇宙から大量の宇宙線が地球に降り注いだことを、屋久杉の年輪の分析から突き止めた。宇宙線の量は太陽の活動や超新星爆発などの影響を受けるが、これまで知られている現象では説明がつかないほど急増していた。当時、地球を取り巻く環境が大きく変わった可能性がある。

宇宙線が地球に降り注ぐと、その影響で大気中の放射性炭素が増えて木の中にたまる。研究チームは樹齢1900年の屋久杉の年輪を調べた。奈良時代の775年の放射性炭素の量が1年で12%と増え、通常の太陽活動の影響と考えられる増加量の20倍だった。



要するに、西暦775年には、地球に、あるいは少なくとも調査した屋久杉のある、この日本には「通常の20倍以上の尋常ではない量の宇宙線」が降り注いでいた、というものです。


このニュースの何が面白いのかというと、それは、大量の宇宙線が注いだという現象のほうではなく、「その時、人類も人類の文明も多分ほとんど影響を受けなかったと思われるから」です


このニュースは海外でもかなり大きく報道されました。
何となくショッキングなニュースに見えるからです。

通常の20倍もの宇宙線が注いだら、人間もどうにかなっちゃうんじゃないの?

と、私も思いました。

その頃、「地球や日本の人類は滅亡していた」でしょうか。
年表で主な出来事を見てみましょう。





775年

・佐伯今毛人らを遣唐使に任ずる(日本)。

776年

・陸奥国、胆沢の蝦夷と戦う(日本)。
・唐の張参が『五経文字』を著す(中国)。
・ヤシュ・パサフが祭壇Qに16代にわたる王の肖像を刻む(マヤ)。

777年

・高麗殿継らを遣渤海使に任ずる(日本)。
・佐伯今毛人らを遣唐使に派遣(日本)。






要するに・・・激しい宇宙線が地球に降り注いだ後も、淡々と歴史は進んでいて、特に「大量死が起きた」という記録もなければ、とんでもない天変地異が起きたという記録も残っていません。

まあ、もちろん細かいところまではわかるはずもないですが、しかし、「宇宙で何が起きても地球の人類は滅亡するような影響を受けなかった時代」だということは言えるのかも知れません。


ここが今と大きく違います。


今は、仮に何らかの・・・たとえば、超巨大な太陽フレアによる電磁パルスでも、775年と同じ強烈な宇宙線(この場合は二次宇宙線というもので、中性子やガンマ線などのことをいうようです)でも、それを受けた場合に社会が大きなダメージを受ける可能性がある時代となってしまった、ということになるのかもしれません。


正直言って、最近、私は、産業革命以降の今までの数百年の文明の進んだ方向というのは「間違っていたわけではないけれども、大きく修正しなければならない面は大きい」ように思います。

太陽からの電磁パルスは、それが何百年後かはわからなくても、いつかは来ます。
その時に今と同じ発電システム、コンピュータシステムなら社会は止まります。

あるいは、地震も津波も必ず来ます。
地震が来ない日が来るとすれば、それは地球が宇宙から消えた時だけです。


昨年から続く日本の発電のゴタゴタの例を見てもわかりますが、今のすべてのインフラシステムは「未来永劫に続けることができるものではないかもしれない」という気はします。

時間をかけて変えていけばいいのかもしれないですが、しかし、その前に「巨大な経済崩壊の懸念」というものが立ちはだかります。

現在のすべてのインフラは、たとえば基本の制御システムを変更するだけでも巨額の資金がかかるもので、「仮に」、あくまで「仮に」ですが、経済が崩壊した場合は、「インフラの自滅を待つだけの状態」ということにはならないのだろうか、という考えもあります。


とはいっても、私たちはもはや数百万年前の生活に戻るというわけにもいかないわけで、しかも・・・まあ、これはオカルトですが、人類というのは「滅びることを許されない」宿命を負っていると思います。

いったんスタートした人類の歴史はとにかく進むしかないというのが、どうも聖書などを含めたこの世にある多くの「指南書」みたいなものの意味の根幹のようです。


そんなわけで、最終的に話が大きく逸れましたが、今回の問題は「フレーム」というウイルスのみが問題なのではなく、最大の問題は、カペルスキーさんの言っているように、「今ではどこの国でも同じようなものを作ることができる技術と能力を持っている」ということです。

カペルスキーさんは、ウイルス作成費用を1億ドル(80億円)と試算しましたが、これは、国防予算から考えると、まるで「屁のような小さな予算」です。

戦争はお金がかかるのです。

たとえば、日本の持つイージス艦などは1隻で 1200億円もかかっているようで、戦闘機だって、一機100億円とかになっているのです。


arm-01.png

兵器価格総覧より。


しかし、イージス艦を使っても、戦闘機を使ってもできないことがあります。

それは「地球の文明を終わらせること」。

しかし、フレームのようなタイプのウイルスにはそれができる可能性があるのです。

たった 80億円程度の予算で「他の国を全滅させられる」と知れば、研究しない軍部がこの世にあるでしょうか?

「全滅」というのは、つまり、「ターゲットの国を電気もコンピュータもインターネットもない世界にする」というだけの話です。

それで電気も水もガスも食糧配給も情報伝達もすべて止まる。
そうなると、今の時代の多くの人々は生きていけない。

いわゆる大量破壊兵器とは違いますが、最終的には同じような、あるいはそれ以上の「効果」をあげる。

今の世の中、特に先進国はインフラが人の命を牛耳っているのです。
そして、私たち日本はそういうシステムを持つ国です。

そういう意味では、私たちは縄文時代よりも、少しだけ後退した文明の部分も同時に持ち合わせている時代に生きている可能性もあるのかもしれません。

もちろん、縄文時代にはツイッターもスマホやミニノートもなかったはずですので(あったらごめんなさい)、情報伝達では昔の方が不便でしたでしょうが、今と昔、どちらが人間の生活として危ういか、というのを比べることは難しそうです。


長くなってしまって申し訳ないです。
今回はここまでにしておきます。