2012年06月11日
今回は、ヨーロッパからアジアにわたり広がる黒海で、イルカの大量死が続いているニュースをご紹介します。
黒海での正確なイルカの死亡数は地元の当局が数をカウントしていないのでわからないようですが、これまでに様々な動物300匹以上が死亡した状態で海岸に打ち上げられているようです。
報道記事を読むと、論調としては、黒海のイルカの大量死の原因は「海洋汚染ではないか」ということになっています。それが本当はどうかはともかくとして、私個人がこの報道を取り上げた理由は明確で、
・あまりにもイルカの大量死が世界中で続いている
ということからです。
それぞれの大量死の原因は多分同じ理由ではないでしょうし、しかも、今のところほとんど原因は不明ですけれど、原因はともかくとしても、この In Deep で今まで取り上げた記事などだけでも、この半年くらいだけで、世界中でイルカが 2,000頭に迫るような数で死亡して海岸に打ち上げられているように思います。
▲ ペルー北部では4月に、ほんの短い間に 1,000頭近くのイルカが打ち上げられました。記事「800頭以上の死亡したイルカが漂着したペルー北部で、今度は推計1,500羽以上のペリカンの大量死」より。
イルカに関しての過去記事は、記事下にリンクしておきます。
ちなみに、この「黒海」という内海に面している国は、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、グルジアなどと大変多いのですが、今回の報道は、ロシア領土のソチという地域の海岸からのものです。
下の地図の星の部分です。
観光地としても有名な場所なようで、今回の記事にも観光客たちがイルカの死体を目にしてショックを受けている様子なども書かれてあります。
ところで、観光地とはいっても、ロシア領土内のビーチということで何となく閑散とした浜辺を想像していたのですが、写真をいろいろ見てみると大賑わいのビーチのようで、下の写真がソチの観光シーズンのものだそう。
そして、このソチは「 2014年の冬季オリンピック」の会場に選ばれた土地なのだそうで、現在、関係施設の建設が進んでいるとのこと。その汚染は結構ひどいようですが、しかし、それがイルカの大量死と関係あるのかどうかは決定づけられていないようです。
それにしても、イルカ・・・。
世界にどのくらいの数のイルカが生息しているのかわからないですが、死亡して海岸に打ち上げられているイルカがこれだけいるのら、「打ち上げられていないイルカの死体」も世界中の海の中に漂っていると考えるのが妥当で、いったい、どれくらいの数のイルカが毎日、世界で死んでいるのか、すでに見当がつかない状態になっているのかもしれません。
それでは、ここから記事です。
ロシアから中央アジアのニュースを主に扱うラジオ・フリー・ヨーロッパからです。
Black Sea Ecologists Alarmed By Dolphin Deaths
Radio Free Europe 2012.05.24
黒海でのイルカの大量死に警鐘を鳴らす環境保護活動家たち
ロシアでも有数の観光地である黒海に面するソチに観光シーズンが訪れている。
しかし、そのソチで異変が起きている。
イルカの死体が連続して海岸に打ち上げられているのだ。
現在のところ、原因はわかっていないが、環境保護家たちはこの事態に対して警鐘を鳴らしている。
また、リゾートに訪れた観光客たちも、結果としてこの光景の目撃者となってしまっており、観光地としての問題も拡大している。
ロシアからやってきたアイダ・コブツさんは、先週、ソチの海岸でイルカの死骸の集団を見て、非常にショックを受けた。彼女は以下のように述べる。
「そこにいた人々は、みんなその小さなイルカの死体を見つめていました。そして、それはひとつではなく数体ありました。海岸に打ち上げられているイルカたち。そして、水の上にも死体が浮いていました。なんて悲惨な光景だったでしょう」。
関心を示さない地元の当局
イルカがソチの海岸に打ち上げられ始めたのは、数週間前のことだ。イルカは、ウクライナ側の黒海沿岸にも打ち上げられた。
環境保護団体によれば、現在までに、イルカなどの大型生物を含めて約3百匹の海洋生物の死体が見つかっているという。
地方当局は、これらの大量死に関しての詳細な調査をおこなわなかった。当局によると、水中から海岸に打ち上げられるまでに動物たちの死体の腐敗が進んでいて、原因を調べようがないということだった。
当局は、原因として、密猟者たちによる網が原因ではないかと考えているという。
今年の異常に寒かった冬の気温のために、イルカたちは冷たいアゾフ海から暖かい黒海まで移動してきたのだろうという。
また、一部の海洋生物の専門家は、ウイルス感染によって大量死が起きた可能性を指摘している。
地元の動物学者コンスタンチン・アンドラモノフ博士は以下のように言う。
「残念ながら、イルカの死亡数は日々増え続けています。現在、ウクライナでも同じことが起きています。私たちは原因として 20年ごとに発生するといわれている伝染病である可能性を考えています」。
生態系の危機
しかし、アンドラモノフ博士のような意見は少数で、多くの専門家たちは、原因が黒海の汚染にあると考えている。
また、当局の言う密猟者や、その漁の網であるという原因についても環境保護活動家たちは否定的だ。環境保護団体エコロジック・ウォッチのヴァレリー・ブリンク氏は以下のように語る。
「密漁や漁師の網などに引っかかることによってのイルカの死は毎年発生しますが、スケールが違います。今年のイルカの死の数はそのようにレベルでない。あまりにも大量なのです。これは、海洋汚染、あるいは、イルカの方向感覚などに何かが起きたということも考えられます」。
ソチは 2014年の冬季オリンピックの会場に選ばれているが、環境保護活動家たちによると、それ以来、ソチ周辺の汚染物質の濃度が高くなったという。ソチでは建設ラッシュに制限が設けられておらず、このままではソチ独自の生態系が回復できない状態にまで破壊されてしまうのではないかと懸念しているという。
地元の生態学者のオルガ・ノスコヴェッツ博士は、「当局は、大量死が汚染によるものだと気づいているはずです」と言う。ノスコヴィッツ博士によれば、最も多くイルカが死亡しているのがソチのラザレヴスキー地区という場所で、そこはサナトリウム濃度が高い川の水が大量に流れ込んでいる場所だという。
「悪名高いオリンピック建設用の廃棄場が近くにあるのです。そこには、廃棄物の処理システムが存在しません。現在、その近くの川は茶色く濁っており、水面は泡立っています。かつては地元で最も美しい地域だった、ソチのラザレヴスキー地区の浜辺に今その水が流れ込んでいるのです」と博士は言う。
そして、このように続けた。
「今回のイルカの大量死で当局は目を覚ましてほしいと思います。そして、この土地は観光地です。観光に訪れた多くの人々が海に入ります。これだけ大量の海洋生物が死亡している海が人間には何の影響も与えないと考えられますか? 黒海は汚染されています。当局はその真実を語るべきです」。
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疾病と大量死