2012年07月10日



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NASA が 2010年に大々的に発表した「新しい生命」は「普通の地球の生物」であることが判明



nasa-press-conference-today.jpg

▲ NASA が2010年12月に「新しい生命」として事前アナウンスした際のプレスリリース。写真下部が NASA が新しい生命とした GFAJ-1 というカリフォルニア州モノ湖で採取されたバクテリアの写真。このたび、これが新しい生物ではなく「普通の地球の生物」だったことが実験により判明。






 



2010年12月に NASA が「異例の大規模発表」をおこなったということがありました。その時には In Deep でも何度か取り上げました。

その記事は、

地球上で見つかった「炭素ベースではない」まったく新しい生命: NASA による発表が行われる予定
 In Deep 2010年12月03日

というもので、NASA が「発表に関する事前のアナウンス」までおこなって話題となったものでした。これは、つまり、

「×月×日×時に、重大な発表を行います」

というタイプの事前アナウンスで、しかし、それがどういう内容かを事前アナウンスで言わない。
そのせいもあり、ネット上などでも様々な噂が流れました。

海外の BBS などでは、主に次の二点のどちらかの発表が NASA から行われるのではないかとする意見が主流でした。

すなわち、

・エイリアンとの会見の発表ではないか
・他の惑星での生命に関しての発見のアナウンスではないか


というものでした。

何しろ NASA で過去にこのような事前アナウンスの例がなかったということもありますし、また、発表内容に関してのアナウンスが一切なかったもので、世界中のSFファンたちが心をときめかしました。
私も「何の発表だろうなあ」と考えていました。


結果としては、その発表は、「地球で見つかったリンを使わないタイプの新しい生命」に関しての発表で、生物学者たちは興奮しても、SFファンが喜ぶようなものではありませんでした。

それはモノ湖という米国の湖で見つかったバクテリアで、「生命に必要なリンを使わず、ヒ素を使う」というまったく新しい生命として GFAJ-1 と名付けられ、今では Wikipedia にも GFAJ-1 のページがあります。

GFAJ-1.jpg

▲ GFAJ-1 。


しかし、科学誌サイエンスの最新号に「新しい生命だということが否定された」という複数の論文が掲載されました。

つまり、新しい生命でも何でもなかったようなのです。


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成果が求められ続ける「現代科学界」の迷走


今回の報道のいくつかを読んでいて、ふと、先日の、ヒッグス粒子が「見つかったかもしれない」と大騒ぎになった時に書いた記事を思い出しました。

科学者たちの「神」の意味
 In Deep 2012年07月05日

上の記事に書いた下のくだりを思い出します。


普通の他のいろいろな科学の発見で、「〜と見られる」とか「発見か?」というような暫定段階での研究成果がこんなに大きく報道されることがあるでしょうか。普通だと、科学的発見というのは、「確定」ということになって、大発表になるはずだと思うのです。

それがどうして、こんなに大きく報道されるのか。
どうして暫定結果を世界的報道としなければならないのか。

(中略)

ここからは否定的な意味で書くのではなく、こういうことはすべての科学の研究には必要なことなんですが、「予算の確保」なんです。



から始まる部分です。

つまり、科学研究の予算確保のためには、とにもかくにも「話題」となり、「注目」を浴びる発表が必要だということが確かにあるようです。


ヒッグス粒子に関係する CERN は欧州が中心となって世界中から予算が拠出されていますが、 NASA は米国内の一種の政府機関です。なので、その予算は米国政府での予算編成の中で決められます。

その NASA に数年前から起きていることが、「米国政府による NASA の予算の削減」です。

過去記事の、

米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ
 In Deep 2012年02月29日

には、「米国政府が NASA の予算の削減を発表し、事実上、米国の火星計画は中止される」ことについて書かれていて、また、翻訳したのは米国のブログ記事なのですが、その作者は、下のように書いています。


The Oldest Human Skull より。
--

火星探査に対しての予算削減の理由は経済的な理由だけによるものではない。簡単にいうと、NASA は火星での生命の発見に事実上失敗しており、それが最大の原因だ。

科学者たちは長い間、火星で実際の生命を発見することのないまま、議論上だけで「生命が存在する可能性」を延々と語ってきた。そして、多大な資金が火星探査に費やされてきた。

それなのに、今でもなお、NASA は「火星探査のミッションは火星の生命を探すためではない」とアナウンスし続けている。

(中略)

しかし、それはとんでもない「浪費」であり、予算の無駄遣いだったのだ。



とあります。

実は、端的に言いますと、

米国政府は NASA に「高度な宇宙生物を発見してもらいたかった」

ということがあったことは書類上ハッキリしているようです。

ところが、NASA は多くの「推定証拠」があるにも関わらず、その発表に極度に神経質になり続けた結果、米国政府は、

「もう月や火星探査はやめよう。予算もないし」

という形で火星探査は今年8月に火星に到着する無人探査機キュリオシティを最後に打ち切りとなりました。そして、宇宙関係の予算そのものが大幅に削減されてしまっています。

宇宙開発は今後は民間に」などという言葉も出てくる始末。


NASA が「微生物ごときの発表」にそんなに慎重だったということを不思議に思われる方もいるかと思います。知的生命ならともかく、バクテリアくらいならどこで発見されたっていいだろうと。

この「どうしてそのことに科学者たちが慎重になるのか」に関しては、過去記事の、

現代のジョルダーノ・ブルーノを作り出さないために
 In Deep 2012年03月01日

をご参照していただきたいと思いますが、簡単に書くと、微生物やバクテリアであっても、うかつに宇宙生命の存在を認めてしまうと「現在の物理学と生命科学の根幹」に違反してしまうおそれがあるということからです。

その現在の物理学と生命科学の根幹は、


・ビッグバン理論(物理学)
・進化論(生命科学)



ですが、ここに違反すると科学者としての立場が「焼かれてしまう」可能性があります。そこで、たかがバクテリアの発表にもそんなに慎重になっていたのですが、しかし慎重すぎた

なぜなら、米国でもどこでも政府の人間は科学者ではありません。

政府や政権の人気、あるいは利権などが絡まない科学研究にいつまでもお金を出し続ける政府はどこにもないと思います。


でも、お金(予算)が提出されないと科学の研究はできないという事実もあります。

2010年の NASA の「新しい生命」の大々的な発表も、先日のヒッグス粒子の「暫定結果」の世界的な発表も、根底には以上のような理由が内在しているような気がいたします。



「新しい生命の存在」は夢物語なのか


確かに、発表を受ける私たちとしてはやや困惑しますが、科学の研究に予算がなければ続けられないのも事実ですので、まあ、批判的ではなく見ていきたいとは思いますけれど、研究者サイドも、もっと素直になってもいいのかなあとも思います。


そんな中、科学誌サイエンスに掲載された、その2010年の「 NASA の大々的な発表」が間違いだとする論文のが昨日、世界中で報道されました。

この報道の内容はわかりやすくはないですが、ポイントとしては、いちばん上の In Deep の過去記事で訳した「 NASA が新たに発見されたDNA ベースではない生命形態の発表を予定」から抜粋しますと、この部分です。



地球上で見つかった「炭素ベースではない」まったく新しい生命: NASA による発表が行われる予定より。
--

NASA の科学者が、現在、我々が知っているものとはまったく違う形態のバクテリアを発見したことを発表する。このバクテリアは、リンではなく、ヒ素を使う。

地球上のすべての生命は、6つの構成要素からなっている。
それは、炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄だ。

小さなアメーバから、大きなクジラまで、地球上で生命といわれるものはすべてこの構成要素を共有している。

しかし、今回発見されたバクテリアはそれが完全に違うと考えられるという。



です。

そして、この部分が実験により否定され、「これは新しい生命ではない」ということになったようです。今まで発見されていなかった極限環境生物の一種という分類に収まる「通常の地球上の生物」だったようです。


もちろん、今後、「炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄の生命に必須の6種の要素を使わない生命」、あるいは、「 DNA を持たない生命」などが地球で発見されれば、それはいつでも大きなニュースとなると思いますが・・・ふと「そういう生命は存在しないのでは・・・」と思ったりもする夏の日でした。

それでは、前振りが長くなってしまいましたが、ここから記事です。






 


ученые NASA ошиблись, найдя на Земле иную форму жизни
Biznes Portal 2012.07.09


NASA の科学者たちの地球上での生命についての発見は完全に間違っていた


mono-lake-01.jpg

▲ 米国カリフォルニア州にあるモノ湖(モノ・レイク)。


欧米のふたりの科学者が、米航空宇宙局(NASA)の研究チームが発表した仮説を否定する論文を米国の科学誌に発表した。

NASA の研究チームは、ヒ素を生存に利用する細菌を米国のモノ湖で発見し、これが地球外生命の探索に影響すると 2012年12月に発表したが、今回これを全面的に否定する複数の論文が発表され、NASA の発見した生命は新しい形態の生命ではなかったことがわかった。

発表は、スイス連邦工科大学チューリヒ校と、米国のプリンストン大学のそれぞれの研究チームにより発表された。

現代の生命科学では、地球上のすべての生物は、生きて増殖するために「炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄」の6つの要素がすべて必要で、これのない生物はいっさい存在しないとされていた。

しかし 2010年の NASA の研究チームの発表では、カリフォルニア州にあるモノ湖で見つかった細菌が、「リンを使用せずに、ヒ素を利用して生きている」と発表して、現代の生命科学理論に衝撃を与えた。

リンは生命の遺伝情報を担う DNA の成分となっているが、このモノ湖のバクテリアからはリンが見つからなかったのだ。

この細菌は、 NASA の宇宙生物学研究所のフェリッサ・ウルフ・サイモン博士によって発見され、 GFAJ-1 という名称がつけられた。

しかし、スイス連邦工科大学とプリンストン大学のそれぞれの研究者による実験では、モノ湖で見つかったこのバクテリアは、「リンのかわりにヒ素を使っている」のではなく、ヒ素濃度が高い環境でも生存できるというだけのことで、低濃度のリンを利用していることを実験で確認した。

2010年の NASA の発表の際には、論文発表前に、「地球外生命の証拠探索に影響を与える宇宙生物学上の発見について」という会見予告をおこなうなど、大げさな喧伝がなされたが、結果的にこの生物は、ヒ素を使っている生命ではなかった。

しかし、今後、仮に「炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄」の6つの要素を使わないような生命が見つかれば、それはやはり新しい生命の発見ということになり、その場合には、改めて、過酷な環境下での地球外生命についての生命形態についての論議がなされるはずだ。


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