2012年07月24日



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宇宙空間に「強烈な匂い」が漂っていることを知った日: 「それは焼けたステーキと金属の匂い」と語る NASA の宇宙飛行士たち



Astronaut-EVA.jpg

▲ 宇宙遊泳をして宇宙ステーションなどに戻った時、宇宙服、ヘルメット、機材のすべてに強烈な匂いが染みついていることはよく知られていることだそう。 NASA ではその「匂い」のための研究と訓練もあることを今回知りました。






 



宇宙はどんな匂い?

昨日、米国メディア「クリスチャン・サイエンスモニター」に極めて興味深い記事が載っていました。

それは、「宇宙の匂い」に関してのものです。

宇宙については光などの視覚のことしか気にしていなかったわけで、「宇宙の匂い」というものを考えたことはまったくありませんでした。何となく「宇宙に匂いなど存在しないような気がする」と勝手に思いこんでいたところがあります。

しかし、「宇宙には匂い」があるのだそうです。しかも、それは強烈な匂いで、地上にはない、例えようのない匂いなのだそうで、それがタイトルに書いた「焼けたステーキや、金属などの匂い」に例えられています。

なお、お気づきかと思いますが、この「匂い」の話はあまり深く入り込むと、「ほぼ真空であるはずの宇宙空間」という問題にまで発展するので、適度に止めておいたほうが無難な話なのかもしれません。真空に近い空間が広がる(とされている)宇宙に「服に付着するほどの量の匂いの粒子が広がっている」ということには「強い矛盾」が生じる可能性があります。

また、それは「宇宙は真空ではない」という概念にもつながってくことになりかねないですので、そのあたりは今回はふれないで、事実だけをご紹介します。


そのクリスチャン・サイエンスモニターの記事では、過去の宇宙飛行士のインタビューや、あるいは動画などのリンクも交えてそのことを紹介しています。

ところで、この「クリスチャン・サイエンスモニター」は米国の一般紙なんですが、「クリスチャン」という名前がついているせいで、宗教的な感じを受けることが多いようです。

どう読んでも一般紙なのに、どうしてこんな新聞のタイトルなのか調べてみましたら、この新聞はもともとが、「クリスチャン・サイエンス」というキリスト教系の新宗教の創始者が創刊(1908年)したためにこのタイトルとなっているようです。

Wikipedia にこうありました。


クリスチャン・サイエンス・モニターはアメリカ・ボストンを本拠とする国際的なオンライン新聞。日刊紙であり、月曜日から金曜日まで発行されている。(中略)

クリスチャン・サイエンス・モニターという紙名にもかかわらず、この新聞は宗教紙として創刊されたものではなく、またクリスチャン・サイエンスの教義を直接宣伝しようとしているわけでもないが、創始者の要請により、日常的な宗教関係の記事を毎号載せる。



とのこと。

クリスチャン・サイエンスモニターは、他のメディアにはないようないい記事が多いんですが、なんだか紙名で損している気がする。


さて、それはともかく、記事のご紹介をいたしますが、記事中などで紹介されているインタビュービデオは長いですので、その中のひとつの該当部分をピックアップして字幕をつけて先に置いておきます。オリジナルのリンクも併記しておきます。

これは ISS (国際宇宙ステーション)での6ヶ月のミッションから最近、地球に帰還した NASA のドン・ペティット( Don Pettit )宇宙飛行士のインタビューより。

pettit.jpg

▲ ドン・ペティット宇宙飛行士。NASA のプロフィールページより。


宇宙ステーションの匂い/ 宇宙飛行士ドン・ペティット



▲ オリジナルは What Does Space Station Smell Like? - Astronaut Explains(宇宙ステーションはどんな匂い? 宇宙飛行士が説明した) にあります。


上の動画では、インタビュアーの女性はこの答えに笑っていて、ジョークだと思ったようですが、ドン・ペティット宇宙飛行士は NASA のブログにも同じことを書いています。

しかし、最初、私はこれは宇宙ステーションの「内部」に限った話だと思っていました。宇宙ステーションの内部には空気もありますし、それがどんな匂いであれ、匂いの粒子が存在することは可能です。

しかし、その外の、つまり完全な宇宙空間には匂いはないはずです。

・・・ところが。

どうやら、「宇宙空間そのものにも匂いがある」ようなのです。

それは「NASA の記録」の中にも記載があります。



匂いが存在する宇宙空間


nasa-smell.jpg

上の「ディスカバリー・スペースの記事」に、NASA が「宇宙空間の匂いを再現した」際の記録が掲載されています。

いろいろ書かれてありますが、ここに出てくる言葉としては、

アジア料理の香辛料、
ガソリン、
汗をかいた足の匂い
(苦笑)、
体臭、
マニキュア取りの薬剤


などの名前が出ています。

どうも・・・宇宙はそんなにいい匂いじゃないみたいですね(笑)。

汗をかいた足の匂いとパクチーとステーキとシチューとガソリンの匂いが同時に。


また、今回紹介するクリスチャン・サイエンス・モニターの記事にもありますが、「宇宙空間に宇宙遊泳に行き戻ってきた場合、宇宙服と機材にはそれらの匂いが染みついている」のだそうです。

なので、宇宙空間の匂い(あるいは匂いの元となる粒子)はかなり強烈なものだと推測できます。地上でも歩いているだけで服に染み付くほどの匂いは強烈なものだけですので、そういう意味でも、宇宙の匂いは「強い匂い」だと感じます。

まあ、「匂いの源は何か」などの問題もあるんですが、それは別としてと、「なんとなく無味無臭のイメージだった宇宙空間に匂いの概念が導入された」という、私にとっては、印象的な日であります。

それでは、ここからクリスチャン・サイエンス・モニターの記事です。






 

Space smells like seared steak, hot metal, astronauts report
Christian Science Monitor 2012.07.23

宇宙は焼けたステーキと熱い鉄の匂いがするという宇宙飛行士たちの報告

space-smell_380.jpg

▲ 宇宙遊泳から戻った宇宙飛行士の宇宙服には匂いがつく。


宇宙遊泳から戻ってきた時に宇宙服と機材に強い匂いが染みつくことは、宇宙ステーションで任務についている飛行士たちからよく報告されていた。

そして、宇宙空間を宇宙遊泳した宇宙飛行士たちは、一貫してその「宇宙の独特な匂い」について語る。


宇宙服を着ている間は、宇宙服内のプラスティックの匂いにより外部の匂いを感じることはないが、宇宙ステーションに戻った後に宇宙服を脱ぎ、ヘルメットを取ると、彼らは強烈な匂いを嗅ぐことになる。

その宇宙の匂いは、宇宙服のスーツ、ヘルメット、手袋、そして機材すべてに染みつく。

これらの匂いは、真空の近い宇宙空間の中の原子酸素であると考えられる。原子酸素は粘着性の粒子で、それは、焼いたステーキや、あるいは熱せられた金属や、溶接の際に出る煙のような強烈な香りを持つ。

NASA での宇宙飛行士の訓練のために、地球上で「宇宙の匂いを再現する」という作業をおこなっているスティーブン・ピアース氏によると、宇宙の強烈な匂いのうちの金属的な匂いに関しては、イオンの高エネルギーの振動から出るものかもしれないと述べる。



地球では嗅いだことはなく、また、忘れることもできない宇宙の匂い

NASA の宇宙飛行士であるケビン・フォード氏は、2009年に宇宙ステーションから以下のように述べた。

「この匂いは今まで嗅いだことのない匂いです。しかし、この匂いを忘れることは決してないと思える匂いです」。


しかし、この宇宙の匂いはとても強烈なものだが、必ずしも宇宙飛行士たちは、それを嫌っているわけではない。

2003年に宇宙ステーションでの任務をおこなった宇宙飛行士のドン・ペティット氏は、 NASA のブログ上で以下ように書いている。(訳者注:上のインタビューの動画の人です)


「宇宙空間の匂いを説明することは難しい。これと同じ匂いを持つものの比喩ができないのです。強いていえば、『チキンの料理の味がする金属の匂い』というような感じでしょうか。甘い金属のような感覚の匂い。溶接とデザートの甘さが混じったような匂い。それが宇宙の匂いです」。


また、ペティット飛行士は、任務から帰還した後、メディアの取材に対して、宇宙ステーション内部の匂いを次のように説明している。


「宇宙ステーションの中は、宇宙空間よりも日常的な匂いがします。半分は、機械工場のエンジンの研究所のような匂いで、もう半分は料理の際のシチューやローストビーフのような匂いを感じることができます」。






(訳者注) 私は、むかし、「地球も宇宙も大量の微生物(宇宙塵)の死骸から成り立っているのでは?」というようなことを、以前のブログの記事に書いたことがあるんですが、上の宇宙の匂いの記事を読むと、金属の匂いのほうは NASA の人が言っているイオンの原理で理解できるものなのかもしれないですが、料理にたとえられる「動物性の匂い」は、結局、「カラカラに乾燥した生き物の死体の匂い」ではないですかね。

バクテリアなどは真空中では細胞内の水分はすべてなくなるはずですが、組織そのものが消えるわけではないので、死骸としては残る。

宇宙空間が真空に近いのならそこでは死骸の匂いは出ないでしょうが、空気のある宇宙ステーション内に戻ると、突然、「微生物の死体の匂い」が漂うということのように感じたりします。

カンカン照りの海岸の「なんとなく漂う海洋生物の死臭」とかスルメ(苦笑)とか、そういうものを想像していただくといいのではないかと思ったりいたします。

宇宙塵が微生物であって、そして、宇宙空間が大量の微生物の死骸で成り立っているとしたら、それはあり得るかも。


スルメの匂いで満ちた宇宙かあ・・・。ロマンないなあ(苦笑)。