NASA の新しい火星探査機が火星に到着したようです。
それに関して短い記事ですが、少し書いておきたいと思います。
私が NASA の火星探査に絶望し続けた歴史というのはこのブログでも過去によく書いていましたが、とりあえず、そのあたりがふれられている過去記事などをリンクしておきます。
・ありがとう、スピリット: 火星の真実を自らのボディで示してくれた無人探査機の引退
In Deep 2011年05月26日
・米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ
In Deep 2012年02月29日
In Deep 2011年05月26日
・米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ
In Deep 2012年02月29日
ところで、今回の火星探査機が送信してきた写真の「最初の1枚」を見て「なんだこれ?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
モノクロで露出も悪いなんだかよくわからない写真。
こちらの写真です。
火星探査機キュリオシティの送信してきた最初の写真
私は苦笑してしまいましたが(苦笑の理由は今回の記事の後半で明らかになると思います)、「火星からの写真なのだから、この程度のものなのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれないですが、今から36年前に火星に着陸した NASA のバイキング2号の写真を比べると、その「質がどんどん落ちている」ことがおわかりと思います。
火星探査機バイキング2号が送信してきた写真(1976年)
▲ Wikipedia - バイキング2号より。
40年近く前にこれだけ鮮明に撮影して地球に送信することができた火星の写真が、どうして、NASA は最新テクノロジーを搭載したキュリオシティの「1発目の写真」で公開しなかったのか・・・というあたりに今回のタイトルの「キュリオシティの悲劇」というような概念が結びつきます。
ちなみに、冒頭で私は「NASA の火星探査に絶望し続けた歴史」と書きましたが、何に絶望していたのかというと、そのあまりにも慎重な「科学的姿勢」に対してでした。
実際には1976年、つまり40年近くも前に火星に着陸した NASA のバイキング2号の上の写真を見れば、そこに有機物(生命)が存在しないこと自体がおかしいことに気づきます。ちなみに、「霜」というのも有機物が存在しないと、ほぼ存在するのが無理なことは現在の科学でなら説明できるはずです。
下のような過去記事も書いたことがあります。
NASA のバイキング2号の写真再分析で「火星の生命存在が証明された」という米国報道
2012年04月14日
まあ、いずれにしても、米国政府は NASA の火星探査をやめる決定をしています。
米国政府の火星探査の今後の予算計上に関しては、上のリンクの下の記事中のAP 通信の内容にありますように、
・ホワイトハウスは 2016年と2018年に予定されていた NASA の火星計画への予算計上を中止
・今年(2012年)の無人探査機キュリオシティの打ち上げは行われる。
・火星への有人飛行計画は、白紙(多分消滅)。
となっていて、つまり、今回のキュリオシティが最後の火星探査ということになり、そして、次の予算編成時には、火星探査そのものが中止される可能性が高く、キュリオシティは、先代の火星探査機と同様に「火星に捨てられる」ということになると思います。
それにしても、今回の火星着陸の際の NASA のスタッフたちの喜びの顔はあまり見たことのないほどのものでした。火星の写真なんて、これまで何度も何度も探査機から送られてきていて、それを見ている人たちのはずなのに、それはどうしてだろうと考えてみました。
火星探査が終了したことを察知している NASA のスタッフたち
キュリオシティは着陸に成功しましたが、仮に、もし今回のキュリオシティの着陸が「失敗」していた場合、米国政府が再打ち上げの予算を出したかどうかはとても微妙だったと思われます。
というより、失敗した場合は「追加の予算は出なかった」と思います。
さらに最近は米国政府による NASA の人員削減も進んでいて、この着陸が失敗した場合、NASA にいられなくなる人たちも必ずいたはずです。
そういう意味では、NASA の今回のスタッフたちの中には、「自分たちの明日の生活のために絶対に失敗できない」という人たちもいたかもしれません。キュリオシティの着陸が成功すれば、少なくとも 2016年度の米国政府の予算成立(この際には火星探査の予算は計上されない可能性が高い)まで火星探査を続けられる可能性があるのですから。
それが、下の写真の「着陸成功の時の喜びの顔」に現れているような気もいたします。
▲ NASA ニュースリリースより。
皮肉ではなく、「ああ・・・よかった・・・これで今年のクリスマスも何とか・・・」という感じがみんなに溢れていて、とてもいい写真だと思いました。
アメリカは、今、特に科学関係者たちは仕事につくのがなかなか大変なのです。もちろん、アメリカだけの問題ではないですが、不況は真面目な科学者たちの生活にも影響を与えています。
なので、何はともあれ私はこれでよかったと思います。
これでこの人たちは少なくとも数年間はキュリオシティと共に仕事をできる可能性があるわけで、とてもよかったと本当に思います。
私もそうですが、もはや「もともと火星に興味のあった人たち」は、今では誰も NASA の火星探査なんかに興味は持っていませんが、しかし、誰であろうと、喜ぶ姿を見ているのはいいものです。
今後、火星の写真をどのように管理していくかだけが焦点
私は数日前、ニュースを見て以来、「不安」を感じていました。
NASA は「火星着陸を中継する」と発表(リンクは AFP通信)したのです。もっともこの報道でも
着陸をリアルタイムに捉えた映像はニューヨークの視聴者を含め誰も見る事はできないが、米カリフォルニア州にあるNASAのジェット推進研究所で着地成功の信号を待つ職員らの姿がタイムズスクエアの大型スクリーンに生中継される。
と、つまり中継は中継でも「スタッフたちの姿の中継」だったわけで(笑)、その中継が上の喜ぶスタッフたちの姿であります。
それでも、「火星の映像もリアルタイムで映す気なのかなあ?」ということに私は不安を抱いていました。
何しろ、上にリンクした In Deep の過去記事「ありがとう、スピリット」にもあるとおり、丁寧に写真の本当の色を再現していくと、火星の実際の風景の色は下のような色となってしまいます。
「赤い惑星」どころではなく、普通の青い空の砂漠みたないもんなんですが、これは陰謀論としての話ではなく、 NASA のローバーの写真をどう解析しても、火星というのは上のような色以外では考えられないのです。
なので、まあ・・・今も火星は同じような色だと思うんですけれど、「そんな光景を中継していいのだろうか」と不安に思った次第でした。理由はともかくとして NASA が懸命にフォトショップで作り続けてきた「火星の光景」がバレてしまうのではないのかなあ・・・と。
そこで、私がふと思ったのは、
「最初に送ってくる映像をモノクロにすれば何とかなるのかなあ」
ということでした。
しかし、いくら何でも、キュリオシティ搭載の映像システムも以前よりはるかに高性能になっているわけで、モノクロの写真を最初に公開したのでは、人々に理解されないのでは・・・とそれはないだろうと思っていました。
しかし、キュリオシティが送ってきた写真の1枚目は冒頭のようにモノクロでした(笑)。
ちなみに、キュリオシティからは2枚目の写真も送られてきました。
今度はカラーでした。
火星探査機キュリオシティの送信してきた2枚目の写真(2012年)
(苦笑)。
ほとんど前衛写真の世界ですが、「砂嵐のため」と NASA は説明しています。
突然、砂嵐になったようです。
いずれにしても、これで決定的に火星探査は人々の興味から「消えた」ように思います。
キュリオシティは先代の火星探査機と比較しても優れた性能が多いような気もするのですが、それでも先代ほど注目を浴びるということはあまりなさそうです。
もちろん、火星で何か起きるのかもしれないですし、先はわかりませんけれど、ただ、今となっては「微生物発見」くらいでは人々の注目も、そして、「米国政府の新たな予算」も獲得することは難しいのかもしれません。
それでも、私は先代の火星探査機同様にキュリオシティに敬意を払います。
少なくとも探査機キュリオシティは、火星にいることは間違いないのですから。
私たちが決して行くことはできない火星に。