今回のテーマは「中国でフェイク(偽物)の化石が博物館などで数多く展示されているというレベルにまで広がっている」というニュースをご紹介しようと思いますが、その前に最近書いていて、なかなかアップできない「火山のこと」が報道ベースでも少し出てきていますので、少し書かせていただきたいと思います。
富士山、クラカタウ火山、そして地球の人類史を牛耳る火山噴火
最近、プライベートでも「富士山」にかかわるいろいろなことが多いなあと思っていました。
1週間ほど前に書いた、
・大出血のような太陽フレアと真っ赤な富士山上空を眺めながら「物質は永遠」という法則を子ども科学本で知った日
In Deep 2012年09月03日
という長いタイトルの記事(本文も長いです)では、その前日に夜の富士山の上空が真っ赤だった光景を見たというようなことを書いたのですが、その翌日くらいに、買い物に行く途中にその方向の空を見ると、「フェニックスのような鳥と十字架が並んだような形」みたいな雲が出ていて、「ほお」と眺めていました。
最近は携帯を持たないことが多く、写真も撮れませんでしたが、ネットで見てみると、「フェニックスの形の雲」というのはよく見られるもののようで、下のは、Deluxe moonというブログにあったもので、彩雲と一緒できれいでしたのでお借りしたものです。
私の見たのは、この鳥の顔のほうに、別の雲が十字架の形をして見えていた感じでした。
それは富士山の上あたりに位置していました。
富士山に関しては、昨年、
・「鎖国」と「富士山大噴火」を生み出した前回マウンダー極小期
In Deep 2011年11月09日
という記事を書いたことがありましたが、数日前、茨城県つくば市にある防災科学技術研究所が「富士山に、現在きわめて大きな圧力がかかっていることを確認した」という報道が日経新聞に載っていました。
報道は下のリンクにあります。
・震災で富士山マグマに圧力 研究チーム「警戒を」
日本経済新聞 2012.09.06
直近の富士山噴火である 1707年の宝永噴火の時よりも大きな圧力がかかっているのだそうです。
これは極めて大ざっぱにいえば、「いつ噴火しても基本的にはおかしくない」ということでもあります。もちろんそれは長いスパンでの「いつ」の話ですけれど。
そして、ちょうど、最近、「火山噴火と地球の人類史」というようなことを In Deep の記事として、書いては止まり書いては止まり、という感じで進めていた時でした。
最近、インドネシアのクラカタウ火山という巨大火山の活動レベルが上がっています。このクラカタウというのは、最近 2000年間くらいの「人間の文明史」に影響を与えたと考えられています。
インドネシア当局は数日前に、クラカタウに対しての警戒レベルを上位に上げました。
そして、クラカタウを含めて、いろいろ調べているうちに「巨大な火山噴火は、地球全体を変化させていく可能性」ということがあると知るにいたります。
たとえば、7万年前に人類は滅亡寸前までになったということが、最近のミトコンドリア DNA の解析でわかってきたということが数年前の報道でありました。下のリンクに当時の USA トゥディ などで報道された内容が要約されています。
・人類は7万年前に絶滅寸前、全世界でわずか2000人
GIGAZIN 2008年04月25日
この原因は気候変動ではないかとする考えが一般的ですが、しかし、その「気候変動の原因の源」は、インドネシアのトバ火山によるものではないかという見方が多く、下のような形で人類は7万年に「ほぼ全滅した」と見られています。
8万年〜12万年前にいったん東アフリカを出て世界に拡散し、数百万人まで増えた人類は、7万3千年前のインドネシアのトバ火山の大噴火による地球全体の寒冷化のもとでほぼ絶滅。かろうじて東アフリカにもどった1万人あるいは1000人程度の現世人類が、6万年前に再び世界に拡散し始め、現在の70億人になった。
石 弘之 著『歴史を変えた火山噴火―自然災害の環境史』のレビューより。
そして、今、活動をはじめたインドネシアのクラカタウ火山の噴火は、たとえば、Wikipedia には以下のような記述があります。
535年の大噴火
インドネシアの文明に歴史的な断絶を引き起こし、世界各地に異常気象をもたらした。(中略)日本においても天候不順による飢饉の発生についての言及が見られ、同時期に朝鮮半島からの渡来人の流入、馬具の発達、中国から流入した仏教の興隆などが起きており、古代日本の国家形成に与えた影響は小さくはないとする見方もある
1883年の大噴火
成層圏にまで達した噴煙の影響で、北半球全体の平均気温が0.5〜0.8℃降下し、その後数年にわたって異様な色の夕焼けが観測された。
このように、巨大な火山噴火はとにかく、「世界全部に影響する」。
地震がどちらかというと局所的な災害として終始するのに対して、火山は「空と気温を支配する」ので、世界中のあらゆる文明に影響するようです。
ところで、上の Wikipedia には「テキサス州立大学の天文学の教授が画家エドヴァルド・ムンクの代表作“叫び”は、この夕焼けがヒントになっていると主張した」という記述があります。
▲ 『叫び』。
ムンクは、この絵を描くキッカケとなった「光景」のことを日記に残しています。一般的には「ムンクの幻覚」という言い方がされています。しかし、日記を読むと、実際にこの光景を見ていたことがわかります。
「私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた」
叫び (エドヴァルド・ムンク)の、ムンクの日記より。
叫び (エドヴァルド・ムンク)の、ムンクの日記より。
ちなみに、幻聴や幻覚の経験のない場合はわからないことだと思いますが、自分や他人の経験も含めていえば、実際には幻聴や幻覚は、ムンクの叫びのように「曖昧な風景」として現れることはあまりないと思います。それらは LSD などの幻覚剤の作用などと混同しているのだと思いますが、薬剤と関係のない精神的な幻聴、幻覚は「ほぼリアルなもの」が現れるのが普通です(だからこそ恐ろしい)。
上の日記を読む限り、ムンクはいわゆる現在でいうパニック障害を伴う強度の神経症だったと思います(多分、間違いないです)。効果的な薬剤のなかった当時は、発作が起きた時には上の日記の「友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま」というような状態となりやすかったと思います。
いずれにしても、このようなキッカケとなったかもしれない、インドネシアのクラカタウ火山を含め、世界中の火山が「 Ready 」の状態になっているようです。
そういうことを踏まえて、「火山と人類の関係」について書いていますので、今日とりあげた部分と重複してしまう部分があるかもしれないですが、そのうちアップいたします。
さて、ちょっと余談のつもりで書いたのですが、長くなってしまいました。
ここから今日の本題です。
あまりにも増えてしまった中国の「ねつ造化石」
これは、中国の科学界のトップにあたる中国科学院の科学者たちが、「中国にはあまりにも偽物の化石が多い」ということを語ったという報道です。
「科学の世界」には様々な贋作やねつ造、模倣といった出来事は数多くあるのですが、それらの中には怒りを込めたような報道スタイルや、当事者たちの憤慨の言葉などが含まれていることが多いのですが、今回の中国科学院の李淳さんという科学者の言葉からは、そういう「怒り」とかではなく、なんなく「切なさ」を感じまして、それで、ご紹介しようと思いました。
そして、李博士は、
「中国の博物館に展示されている海洋古生物の標本の 80パーセント以上が、何らかの手を加えられたものか、あるいは、人為的に加工されたもの」
と見積もっているそうで、そこまでの数となると、「博物館なのに本物のほうが少ない」という、極めて深刻な事態のはずです。だからこそ、かなり問題になりそうな李博士のこの発言も、中国の古生物学者である彼にとっても危機感がある話なのだと思います。
この李博士という人は、 2009年に米国の権威ある科学専門誌『米国科学アカデミー紀要』に掲載された「新種のチータの化石の発見」という論文で使われたチータの化石を「偽物」と見破り、科学アカデミー紀要は、今年、この論文の内容を撤回しました。
上の「新種のチータの化石の発見」が2009年に発表された際の報道は今でも残っていますので、下に抜粋しておきます。
チーターの起源は中国か、世界最古の化石発見―甘粛省
レコードチャイナ 2009.01.02
2008年12月31日、有史以前に生存していた新種のチーターの化石が、中国北西部の甘粛省で発見されたことが分かった。
これまで世界最古のチーターの化石は、北米で発見されたものとされてきた。しかし、今回の発見によって、チーターの起源は北米ではなく、中国とする説が有力になった。
上海科学技術博物館の研究員が発見したのは、ほぼ完全な頭蓋骨の化石。大きさも形状も現存するチーターの頭蓋骨に似ているが、歯に極めて原始的な特徴がみられることから、新種と判断され「Acinonyx kurteni」と命名された。この研究報告は、先月下旬に発行された「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に掲載されている。
ここにある「ほぼ完全な頭蓋骨の化石」が偽物だと見破ったのが李博士と同僚でした。
それがどのようなものだったのかは後で判明してして、それは こちらにありますが、
・採掘場所も地層年代も違うところから掘り出したもの
・頬骨は肋骨で作られていた
・門歯と主張されていたものは、チーター以外の食肉類の小臼歯を組み合わせて作られたもの
・頭蓋の後頭部はプラスチック製
・頬骨は肋骨で作られていた
・門歯と主張されていたものは、チーター以外の食肉類の小臼歯を組み合わせて作られたもの
・頭蓋の後頭部はプラスチック製
というものだったようです。
私自身は昔から「フェイクが何もかも悪い」とは思わない人ですが、たとえば、日本にも昔から河童のミイラとか、いろいろな不思議な怪物の化石などがあって(仮に本物があるとしても)ほとんどはフェイクでしたでしょうけれど、でも、それらが子どもの頃の私たちをどれだけ楽しませてくれたことか。
「ああ、こんなのもいる!」
と、そのたぐいの本(40年くらい前は子ども用の怪獣本、オカルト本が数多くありました)を読んでワクワクしたものでした。「この世にはなんかいる」と。
▲ 人魚のミイラとして日本に伝わるもののひとつ。人魚のミイラより。
まあ、実際には「この世にはなんかいる」としても、その頃思っていたものとは違う「なんか」ではあるのかもしれないですが、でも・・・「この世にはなんかいる」という感覚はとても大切だと思います。
話は逸れましたが、しかし、今回のねつ造の話は違う話で、むしろ「夢のない方向」の話です。
そして今の中国のように、あまりにもビジネス(中国は化石ビジネスが一大産業)のためだけに、業者たちがムチャクチャやっているという状況は、これ以上進むと、「博物館の化石は全部フェイク」みたいなことになりかねないもので、そうなると何より困るのが中国の科学者そのもので、それだけに、李博士も今回の発言に踏み切ったのだと思います。
では、ここから本文です。
中国のチャイナデイリーの英語版からです。
Counterfeit fossils undermine research projects
China Daly (中国) 2012.09.06
偽物の化石が考古学の研究プロジェクトを蝕んでいる
贋作された「ニセの化石」が、科学者と、そして博物館までをも欺き続けていると、古生物学者の専門家たちは警鐘を鳴らしている。
これは、中国起源とされるチータに関しての論文の発表後に論争となり、それを発表した学者がその論文を撤回したことに始まる。
中国科学院の傘下の「古脊髄動物・古人類研究所( Institute of Vertebrate Paleontology and Paleoanthropology )」にの科学者、李淳( Li Chun )博士によると、現在、中国にはニセの化石が広範囲に蔓延しており、本当の古生物研究への深刻な脅威となっているという。
李博士は以下のように述べる。
「私は、多くの古生物学者たちが模造化石の犠牲になっていると確信しています。現在の中国の博物館に展示されている海洋古生物の標本の 80パーセント以上が、何らかの手を加えられたものか、あるいは、人為的に加工されたものであると推定されるのです」。
そして、博士は、「これらの偽物は、専門的な知識と訓練を受けた古生物学者でなくては、その真偽を見破ることは不可能です」と言う。
李博士は、今年8月、中国の科学者ホアン・ジー(Huang Ji)氏と、デンマークの研究者パー・クリスチャンセン(Per Christiansen)氏の二名による共同研究によって 2009年に発表された「チータの新しい種」に関する論文が「偽りである」と見破った人物だ。
その懸念に関しての証拠として重要だったのは、中国甘粛省で発掘された 250万年前の化石化した頭部だった。
ジー氏とクリスチャンセン氏が 2009年に国際的な科学専門誌『米国科学アカデミー紀要』に発表した論文「後期鮮新世の原始チータ、およびチータ系統の進化」には、中国で発掘されたこの「新しい種」のチータが、それまでに発見された種の中で最も古いものであると述べ、それまでの定説だった北米がこの種の動物の最初の起源だったという学説をひっくり返した。
その論文の根拠となった 250万年前のその頭部の化石の真偽についての論争が、長い間、複数の科学者たちの間で続いていた。
そして、今年 8月21日に米国科学アカデミー紀要はこの内容を撤回した。
その論文を手がけた上海科学技術館のホアン・ジー氏は以下のように述べる。
「この数年、私はこの論争問題に関しての研究を続けていました。その結果、論文には欠陥が存在することがわかったのです。問題を直視する必要があると感じ、私は論文を撤回しました」。
ホワン氏は、大型のネコ科の起源について強い関心があったという。
しかし、李博士は、「私は彼らが故意にねつ造された化石を使ったとは考えていません。彼の専門分野は現代の生物で、それは古生物の学問とはまったく違います」と言う。
李博士と同じ「古脊髄動物 古人類研究所」所属のデン・タオ博士は「その化石を見た瞬間に『偽物だ』と気づきました」と言う。
「頭の側面図は、ほお骨が明らかに異様に高く、また異常に頑健であることを示しており、それに加えて偽物の骨が人為的につなぎ合わせられた境界線が存在しました。背中の部分はオリジナルのものではありません。その表面も通常のものではありませんでした」と続けた。
青海チベット高原北東辺縁部リンキシャ( Linxia )盆地で、新生代後期の哺乳類を専門として発掘していた時に、デン博士は異なる偽物の化石を発掘している。
「おそらく、化石の商業的価値を上げることにより、中国の化石の販売店とディーラーたちの利益を高めるために偽物の化石を作っているのだと思います。実際、私は、何百もの『完全な化石』が、実は多くの骨が継ぎ合わされていたものであることを見てきています」と、デン博士は言う。
李博士は、最初に模造化石を見た時のことを思い出すという。
それは李博士がまだ学生の時だった。
「古生物学のことを何も知らなかった私は、現代の生物にとても興味を持っていた頃でした。その頃、北京で、不器用に圧縮された偽物の化石を見ました。しかし、その頃の私はそれが偽物であるとわからず、とても重要な化石を見つけたと興奮したものでした」。