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▲ 上海の小学校で、児童に H7N9 の予防などについて指導する保健委員。黒板には「 H7N9 鳥インフルエンザ」と明記されています。
1918年の鳥インフルエンザのパンデミックの拡大のペースを振り返ってみると
中国の H7N9 の患者数は60人に、死者は13人に拡大(4月14日時点)
米国のフォーブスを見ましたら、患者数が60人に増えていて、中国での鳥インフルエンザのヒト感染が収まる方向ではなく、拡大する方向に進んでいることがわかります。

▲ 2013年4月14日のフォーブスより。
上のような「数」に関しての報道は今後、日々変動していくと思いますので、95年前の下のような決定的な報道となる場合までは特に訳してご紹介しようとも思っていません。
下のは 1918年、つまり今から95年前の 10月25日の読売新聞です。
1918年のスペイン風邪の流行についての記事です。

▲ 1918年の「死のインフルエンザ」へのケロッグ博士の対処法より。
上の新聞の読めるところだけを文字にしますと、以下のようになります。
適度に文字は現代語に置き換えています。
世界的感冒
◇ 至るところ猖獗を極む
◇ 罹病者続々と死に倒れ蔓延再現なし
学校を襲い、寄宿舎を襲い工場を襲い、家庭を襲い、今や東京市中を始め各府県にわたりて大猖獗を極めつつある悪性感冒は単に日本のみならず、実に世界的に蔓延しつつある大々的流行病にして、その病勢の猛烈なること、実にいまだかつて見ざるところなり、試みに、外務省海軍省内務省等集まれる海外の状況を見るにその惨禍は想いはからずに過ぐるものあり。
毎日七百名以上の死亡者
ケープタウンのコロニー半島は五千人の死亡者を出し未だ病勢衰退の模様見えず、欧人の死亡率もまた増加しつつあり同地は二、三千人の小都市であるが死亡者百人を越え人々戦々恐々たり。
肺炎心臓麻痺を伴う - 馬来半島(マレー半島)
悪性感冒は目下、彼南(ペナン)より馬来半島にわたりて、猖獗を極め肺炎心臓麻痺を発症して死亡する者多く
日本も含めて世界中に拡大していくスペイン風邪の当時の状況が上の短い抜粋だけでも、雰囲気的によくわかります。
記事中に「猖獗」という私には読めない漢字が出ていますが「しょうけつ」と読むようで、意味は Yahoo! 辞書によりますと、「(好ましくないものが)はびこって勢いが盛んであること」のことだそうです。
ところで、この1918年のスペイン風邪(強毒性の鳥インフルエンザ)について、 1990年代になってから、入手できる限りの記録を調べたルイ・ヴァインスタイン博士という科学者がいるのですが、ヴァインスタイン博士は調査の途中で、下のようなコメントを残しています。
「インフルエンザがヒトからヒトへ感染する病気であるのなら、最初に発生した場所に近いところからじわじわと広がっていくはずである。けれども、実際には、世界の遠く隔たった土地に同時に出現したり、ごく近くの土地に数日から数週間もの間隔をおいて出現したりしている。
ボストンとボンベイ(現ムンバイ)で同じ日に見つかる一方、ニューヨークで見つかったのはボストンの3週間後という調子なのだ。あんなに多くの人びとが二つの都市を行き来していたというのに!
さらには、シカゴに出現した4週間後に、ようやくイリノイ州のジョリエットにも出現したという記録もあった。二つの都市の距離は、わずか38マイル(60キロ)である」。
スペイン風邪は資料に乏しく、うまり正確なデータは残っていないと思われますが、アメリカでは 1918年の 8月から 11月までの4ヶ月間で下のような感染拡大となりました。
1918年の米国のスペイン風邪の拡大
・ 1918年8月 ボストンで患者 60人
・ 1918年9月 ボストンで 63人死亡、ハーバード大学で 5000人が発症、マサチューセッツ州で非常事態宣言
・ 10月だけでアメリカでは 19万5000人がインフルエンザにかかったとされる。
・ 10月2日 ボストンで 202人死亡
・ 10月6日 フィラデルフィア市で 289人が死亡
・ 10月15日 ニューヨークで 851人死亡
・ 1918年11月21日までにサンフランシスコで 2,122人が死亡したと発表
・ 1918年9月 ボストンで 63人死亡、ハーバード大学で 5000人が発症、マサチューセッツ州で非常事態宣言
・ 10月だけでアメリカでは 19万5000人がインフルエンザにかかったとされる。
・ 10月2日 ボストンで 202人死亡
・ 10月6日 フィラデルフィア市で 289人が死亡
・ 10月15日 ニューヨークで 851人死亡
・ 1918年11月21日までにサンフランシスコで 2,122人が死亡したと発表
結局、アメリカでは 85万人がスペイン風邪で亡くなりました。
参考までにアメリカの主要な都市の位置と合わせて、1918年のアメリカでの鳥インフルエンザの拡大の様子を記したのが下のものです。

▲ オリジナルの地図は、Global Navi Timeより。
まあ、今回の記事では、水平感染がどうとかパンスペルミアとか、そういう話は取り上げません。
いずれにしても、 1918年のパンデミックは上のように拡大していったということは事実であり、中国の国土面積と合わせると、仮に今後、同じような感染力のパンデミックになっていった場合の参考になると思われます。日本の流行分布の地図もありますので、それも今度載せます。
ただし、現在の中国での鳥インフルエンザの毒性はスペイン風邪よりはるかに高いように見え、致死率がスペイン風邪の 10倍くらいあるように思います。今のところは、中国では感染した人の致死率が 20パーセント前後で、1918年の時は日本の資料ですと、最高時で致死率 5パーセント。平均すると、致死率は 2パーセント未満でした。
なので、今回のインフルエンザは拡大すると厳しいものとなると思います。
ちなみに、現在の中国は(世界中で報道されるニュースのため)国家の威信をかけて治療に当たっていると思いますので、「最高レベルの治療でこの致死率」だと思っていいと思われます。患者数が拡大していきますと、次第に最高レベルの治療は難しくなっていきますので、致死率も変化する可能性があります。
感染力の強さがわかるのはこれからですので、このインフルエンザが強い感染力でなければ、あるいは強い感染力を「変異によって獲得」しなければ、要するに中国に行かなければいいというだけの話で終わる可能性も僅かながらありますので、それだといいですけれど。
ただまあ、私は相変わらずインフルエンザは人との接触とはあまり関係なく拡大していくと考えていますが(もし日本に来るとしたら接触とは関係なくインフルエンザはやって来る)。
また、鳥インフルエンザも確かに脅威ではありますけれど、中国のニュースで「これはコワイ」と思わざるを得ない報道がありましたので、ご紹介しておきます。
狂犬病についての報道です。
中国の「もうひとつの恐怖のパンデミック」の実態
亜州IR という経済ニュース専門サイトに「中国の統計データ」があります。その産業ニュースを、タイの newsclip.be というメディアが引用していたもののひとつに下のニュースがありました。
抜粋します。
中国:狂犬病の年間死者数は 2400人超、インドに次ぐ世界2位
newsclip 2013.04.14
中国の狂犬病による死者数が年間で 2400人を超える実態が分かった。
衛生部の報告によると、中国の狂犬病死者数はインドに次ぐ世界 2位。都市部で飼われるペット犬の総数は、年率 8.2%のハイペースで増加しているものの、これは登録された件数ベースに過ぎないと指摘した。
未登録の犬は、野良犬を含めて登録分の約 810倍に上ると試算。向こう5年内に、犬の飼育数は都市部だけで数億匹に膨らむと予測した。犬の飼育は食料資源などの浪費にもつながると警戒。多くの部門が連携して疾病拡大の抑制、衛生環境の保持を図る必要があると総括した。
登録犬に対する狂犬病予防接種の接種率は80%前後にとどまっているという。国内で狂犬病が蔓延する背景には、こうした市民の狂犬病に対する問題意識の低さも背景にあるようだ。
狂犬病の潜伏期間は 1〜 3カ月。発病後の死亡率はほぼ 100%に達している。
このニュースのスゴさがどこにあるかおわかりでしょうか?
現時点で、年間 2400人の狂犬病の死者が出ているということもアレなんですが、実はその下のくだりが恐ろしいのです。
> 向こう5年内に、犬の飼育数は都市部だけで数億匹に膨らむと予測した。
というところです。
そして、ワクチンの摂取率は低い。
どこのどんな国でもそうですが、
「経済状態がいい時にはペットを飼う人が増え、経済状態が悪くなるとそれを捨てる」
という傾向があります。
最近の欧州の馬肉混入騒動の背景も、経済危機と関連しています。馬を手放す人が増えすぎた。他のあらゆるペットも同じ傾向にあります。
すなわち、仮に今後、中国の経済状態が悪くなったり、あるいは「中国経済の崩壊」というようなことになると、中国全土に「数億匹」単位での犬が野放しになるということもあり得ます。それと共に狂犬病が爆発的な拡大を見せる可能性があります。
中国は本当にいろいろなものを「周辺国や地域にばらまく」という傾向にある国ですが、病気も例外ではないかもしれません。連休なんかもありますけれど、いろいろな意味で、中国の都市圏(今は朝鮮半島も)へ旅行などを計画されている方は一考されるのもいいかとも思います。
今回の本題は、中国政府が現在、「鳥インフルエンザに関してのネット上での書き込みを検閲していて、罰則付きで取り締まっている」のですが、こういうことをやっているという現実だけでも、「見えてない地方の鳥インフルエンザの実情」を、むしろ想像してしまう部分があります。
そんなわけで、そのことに少しふれていた米国エポックタイムズの記事をご紹介しておきます。
中国版のツイッターには続々と各地から「患者発生」の書き込みがあるらしいのですが、現在、鳥インフルエンザ関連の書き込みに対しては、中国当局はこれを「悪質なウワサ」として記事を削除し、投稿者を取り締まっているようです。
では、ここからです。
Bird Flu Officially Arrives in Beijing, Days Behind ‘Rumors’
The Epoch Times 2013.04.13
ネット上で広がっていた「噂」の後で、鳥インフルエンザが北京に到達したことを当局が認める

中国国営の新華社通信によると、新たに7歳の少女が鳥インフルエンザウイルス H7N9 に感染していることが当局から公式に発表された。
少女は北京地壇医院で「安定した容態」とされている。少女の両親は家禽のトレーダーで、両親も隔離されたが、双方共に症状を示していないと地域の保健当局は述べている。
新華社によれば、この新しいケースを入れて、現在までに中国東部で 10名が死亡し、43人の感染者が出ている。
少し前までは、中国政府は、ウイルスが、安徽省、浙江省、および江蘇省だけでウイルスが検出されたと報告していた。
現在までのところ、ウイルスがヒトの間で感染することは証明されていないが、様々な鳥類で発見されており、家禽市場の閉鎖も含めた対策が取られている。
また、中国政府当局は、オンラインでの「ウイルスの拡散のウワサ」をインターネットのチャットや中国版ツイッターで流したとして、少なくとも 10名を拘留した。
中国の国民の多くは、政府の発表した鳥インフルエンザ患者の公式の数字に懐疑的であり、あまり信用していない。 2003年に流行した SARS の際の公式発表の前例もある。
インターネット上では、さまざまなブロガーやあるいは中国版ツイッターへの投稿で「4月7日頃から北京でインフルエンザ患者が発生している」と書き込んでいて、北京の人たちへ注意するようにとしていた。
これらの書き込みは検閲によりすぐ削除されたが、別のネットユーザーが記事をスクリーンショットで撮影し、共有サイトに投稿した。
ここまでです。
最後のほうにある「別のネットユーザーが記事をスクリーンショットで撮影し投稿した」という記事もすでに削除されていて、今はありませんでした。