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WHO とネイチャーの「今後の感染拡大のルート」の見方
科学誌ネイチャーのウェブサイトの今日の記事に「H7N9 鳥インフルエンザの感染地図。そして、今後はどのようになっていくか」というようなタイトルの記事がありました。
それをご紹介しようと思いますが、その記事には、
・現在の感染者状況
・今後、患者数が拡大していくとした場合の拡がり方の予測
・航空機などでの拡がり方の予測
などの「図」が出ていました。
それらは「インフルエンザがヒトからヒトへと感染していく」という立場からのリスク予想マップなんですが、記事の図を先に載せておきます。
共にネイチャーの記事(英語)からです。
H7N9 患者の現在(2013年4月23日)の発生状況
▲ 赤いところが H7N9 患者の発生地域。
H7N9 は次にどのように移動する?
▲ 濃い茶色がリスクの高いとされた地域。黄色がリスクのある地域。それ以外はリスクが少ないとされた地域。
上図は「ヒトからヒトへと感染していく」としての予測図であるわけですけれど、先日、
・「インフルエンザウイルスはヒトからヒトへ感染していくものではなく、宇宙から個人に直接感染するものである」という説を今一度思い出し
2013年04月19日
という記事に書きましたように、私はインフルエンザ・ウイルスがヒトからヒトにうつるということを信じません。
少なくとも、「空気感染」でのヒトからヒトへの感染はないと思います。
なぜなら風邪でさえヒトからヒトへの空気感染の確率は「0%」に近い可能性が高いからです。
この「風邪のヒトからヒトへの空気感染率が0%の可能性が高い」ことは、
・「私たちはひとりではない」と語り続けるチャンドラ博士が隕石から見つけたエイリアンの化石
2013年01月25日
という記事の中で、ちょっとだけふれていますが、 NHK の「ためしてガッテン」という番組の中で、「できるだけここは視聴者には忘れてほしい」というような感じで手短でしたが、アメリカでの実験結果を説明していました。
ただ、風邪はヒトからヒトへ「体液(接触)感染」はするということも同時に実験で確かめられていますので、インフルエンザもあるいは、ヒトからヒトへの接触感染というものはあり得るのかもしれません。
それでも、「「インフルエンザウイルスはヒトからヒトへ感染していくものではなく、宇宙から個人に直接感染するもの」という説を一義的に考えると、仮に今後インフルエンザが感染拡大していくにしても、上のネイチャーとは違うルートになっていくと思われます(最終的には世界全体に感染拡大した場合でも「最初のルート」という意味で)。
その予測を書いておきます。
ただ、私自身はこの H7N9 というものがパンデミックの「本番」とはあまり思っていません。「変異」も含めて、まだ親分級が控えているような気もいたします。
パンスペルミア説からのインフルエンザの拡大予測
感染ルートの予測のヒントは、こちらの記事で抜粋したフレッド・ホイル博士の記述の、
成層圏には弱い垂直方向の気流があり、これがウイルスの降下を助けている。
この気流を作り出しているのは、赤道と極地方との温度差であり、これが大きいほど気流は強くなる。したがって、緯度にして 40度から 60度の範囲では、冬に(北半球の中緯度地方では2月から3月にかけて、南半球では7月から9月にかけて)大規模な下降気流が発生することになる。
冬の下降気流にのったウイルス粒子は、雨や雪とともに地上に落ちてきて、動植物に出会うだろう。特に、ちょうど成層圏程度の高さのヒマラヤ山脈は、北緯 30度付近のウイルス流入の窓口となり、人口の多い中国や東南アジアで大きな被害を出す要因になっているはずだ。その後、ウイルスがどの地方に落ちるかは、大気の循環の季節的な要素によって変わってくると思われる。
という部分です。
今年は、この北半球の多くの地域で気温が低い状態が続いているので、例年の2月から3月の状態は今でも継続しているか、あるいは今後も続くと考えると、
> 緯度にして 40度から 60度
には、しばらくの間、「大規模な下降気流」が発生し、つまり、「高層にあるウイルスが地上へ降りやすくなる状態が続く」と考えられます。
地図で説明しますと、下で赤丸で囲んだ地域に大規模な下降気流が現在もなお発生し続けているのではないかと思われます。
ウイルスはこの下降気流で下がってくると共に、ジェット気流や偏西風で東に運ばれます。
現在のジェット気流と偏西風の状況をジェット解析図・偏西風蛇行図というサイトで確かめてみますと、下のような状況になっています。
この位置は日々変わります。
ジェット気流
偏西風
▲ オリジナルの図は、ジェット解析図・偏西風蛇行図より拝借させていただいています。
中国での感染拡大地域が、もう少し中国の北部(上)、あるいは北朝鮮などに拡大した場合、それはそこにすでにウイルスが存在するということを証明していると考えますと、ジェット気流はそのまま日本列島を通っていっていますので、ウイルスは「日本へも当日のうちに到達する」と思われます。
ただ、ホイル博士が記していますように、
> その後、ウイルスがどの地方に落ちるかは、大気の循環の季節的な要素によって変わってくると思われる。
ということで、いつ日本にウイルスが地表に落下してくるかはわかりませんし、そして、問題の「それがヒトに感染するかどうか」ということもまったくわかりません。
まあしかし、中国の現状を見ている限り、感染力が強いとは思いませんので、現時点ではそれほど心配するものではないと思います。ただし、「ウイルスが強い感染力を持つもの」である場合は、中国の状況は、そのまま日本の状況となると考えてもいいのかもしれません。
そもそも、仮にパンスペルミア的な感染ではなくても、中国と日本も含めて、アジアは「空間を共有している」ようなものですので、拡大し始めたら早いとは思います。
また、いわゆるよく言われている「ウイルスが強力な感染力を獲得していく」というような進化をするのならば、ウイルスそのものも今後変わっていく可能性もあるのかもしれません。
それではここから、ネイチャーの記事より。今後の感染の予測ルートは、私には馴染めないものですが、現状のことはとてもわかりやすく書かれているので、読む価値はあります。
Mapping the H7N9 avian flu outbreaks
ネイチャー 2013.04.24
H7N9 鳥インフルエンザのマッピング
これまで報告された 104人の鳥インフルエンザの患者の報告された位置と、次にウイルスが行くかもしれないとしたらどこへ向かう?
中国で H7N9 鳥インフルエンザウイルスのヒトの感染例が拡大している。しかし、科学者たちは現在のところ、その感染ルートを解明していない。あるいは、なぜ散発的な地域でヒトの症例が出現しているのかをまだ理解していない。
しかし、リスクマッピングという鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染の地理的な広がりの可能性を示した地図が、何か手がかりを提供するかもしれない。
H7N9 患者のほとんどが上海周辺の中国東部沿岸地域に集中しているのは相変わらずだか、その後、北京でも検出され、さらに中国中央部の河南省でも鳥インフルエンザに感染した患者が見つかった。
H7N9 鳥インフルエンザウイルスのヒト感染が最初に報告されたのは 3月31日のことで、中国東部の安徽省とその隣の省から報告されたものだった。
そして 4月22日の時点で、世界保健機関( WHO )は 21人の死者を含む 104人の鳥インフルエンザの患者を確認した。ウイルスは中央だけでなく北京、河南省、近隣の江蘇省、浙江省へと地理的範囲を拡大させている。
4月23日の中国の国営新華社通信は、上海と北京の間の中間の都市で、山東省でも鳥インフルエンザが確認されたことを報告した。
鳥インフルエンザのヒト感染の連鎖を食い止めるためには、何より科学者たちは、ウイルスの感染源、および、それが人間に感染したルートを識別する必要がある。
世間では、鳥などの家禽類からの感染ルートが喧伝されているが、これまでのところ、家禽類においての動物テストでは、ウイルスの優位なレベルを検出することはできていないのが現状だ。
もちろん、中国には60億以上の数の家禽類がおり、それらのすべての数から見れば、現在までにおこなっているサンプルの試験数は効果的な方法とは程遠い。それに加えて、渡り鳥など野生の動物が数多くいる。
現在、 H7N9 の拡散の危険因子まだわかっていないが、2003年以来、622人の患者が確認されており、 371人が死亡した H5N1 ウイルスの分析が、H7N9の分析の手助けとなるかもしれない。これは、科学者や保健当局が監視と感染のコントロールをするために役立つと思われる。
H5N1の感染からマッピングした、家禽貿易ルート、輸送される鳥の数、鳥市場の分布とその供給ルート、水鳥の数字、土地の人口密度など多くの潜在的に重要な要因を組み合わせて作ったのが、リスクマップだ。
(訳者注) 上に載せたものですがこれだけ再掲します。
濃い茶色の部分がリスクの高い地域で、黄色はそれに続く。
青い部分のリスクは少ない地域とされる。
他のウイルスの感染ルートも?
新種のウイルス H7N9 は変異により H5N1 より鳥から人間に感染拡大しやすい。鳥と哺乳類の集団と人間との距離の近さもあり、ヒトを含む哺乳動物へのさらなるウイルスの適応進化の可能性もある。
国際研究者チームは、中国やアジアの多くの地域で鶏、豚と人間の密度を示す地図をコンパイルした。そこには 1億 3,100万人の人間と、2億4,000万羽の鶏、そして、 4,700万羽のアヒルと 2,200万頭の豚が 4月16日までに発生していた H7N9 のヒトの感染者の 各50キロの半径内に住んでいる計算となった(下図)。
また、ヒト感染が発生した地域からは、飛行ルートにより、すぐにヨーロッパ、北米、アジアの巨大な人口密集地へヒト感染可能なウイルスを運ぶだろう。
▲ 2時間以内での人の地域間の移動量を示した図。
現在までのところ H7N9 のヒトからヒトへの直接感染は確認されていない。しかし、何が起きた場合、ヒトからヒトへと感染するようになるのだろうか。
ベトナムのハノイにあるオックスフォード大学の臨床研究所( Oxford University Clinical Research Unit )の監督官であるジェレミー・ファーラー( Jeremy Farrar )博士は、「これは特別な努力によるものだが」として、 WHO を含む国際的な研究者たちが、過去数週間、中国の航空会社の乗客データを分析したことを述べた。
これにより、世界でリスクの高い地域が存在する可能性を示すかもしれないという考えによっての調査だ。
そして、オックスフォード大学臨床研究所のピーター・ホービー( Peter Horby )博士は以下のように記述している。
「中国以外の地域で H7N9 の感染例が出現するのは、おそらく時間の問題だと思われる。その場合に、その感染が動物からヒトに感染したものか、あるいは、ヒトからヒトに感染したものかを慎重に、なおかつ迅速に評価する必要がある」。
ここまでです。
このようなわけで、感染の考え方は私とは違うものではありますけれど、専門家たちも、「中国以外に広がるのは時間の問題」だとしています。
ジェット気流と下降気流の兼ね合いによるので何ともいえないですが、普通に考えれば、中国の次に最初に出現するとしたら、朝鮮半島と日本だと思います。
あるいは、上に載せた偏西風の流れに沿った形で考えるのもわかりやすい気もします。
感染について注意のしようはないですが、そのような拡大の仕方はあり得ると考えてもいいのかもしれません。