宇宙の始まりと終わりについての「結論戦争」はまだ始まってもいない
科学誌『ネイチャー』のサイトで、下の記事を見たのは1ヶ月ほど前のことでした。
▲ ネイチャーより。
この宇宙学者は、ドイツのハイデルベルグ大学の物理学者のことなのですが、記事の内容は「赤方偏移と宇宙の膨張の関係を否定した」というもので、とても私には理解できるものではなく、この時はスルーしていたんですが、しかし、その後、
・太陽の北極を覆い尽くす「超巨大な穴」を横目で見ながら、アレニウスの「宇宙は無限」の言葉を噛みしめる
2013年07月22日
という記事のタイトルに出ていますように、スヴァンテ・アレニウスという、いわゆる物理化学の創始者の1人といえる大科学者が今から100年以上前に書いた『宇宙の始まり』という本を読んだりしていたのですね。
アレニウスは 1927年に亡くなっていますけれど、それまでの科学の世界には、当然ながら、ビッグバン宇宙論というような科学の基本から考えて「珍妙」な学説は存在しませんでした。
なぜ、ビッグバン理論が科学の点から見て「珍妙」かということは、それこそ、『宇宙の始まり』から引用させてもらってもいいかと思います。
このアレニウスの『宇宙の始まり』を断片的に読んでいて、当時の科学者たちの視野の広さを感じるのは、引用が科学者の言葉や実験からだけではないところにも現れています。
特に、哲学者の言葉や著作からの引用がとても多い。
今回抜粋する部分に出てくる人名も、スピノザという人と、ハーバード・スペンサーの言葉であり、ふたりとも哲学者といっていいと思います。下の説明は、それぞれ Wikipedia からです。
バールーフ・デ・スピノザ( 1632年 - 1677年)
オランダの哲学者、神学者。デカルト、ライプニッツと並ぶ合理主義哲学者として知られ、その哲学体系は代表的な汎神論と考えられてきた。また、ドイツ観念論やフランス現代思想へ強大な影響を与えた。
ハーバート・スペンサー( 1820年 - 1903年)
イギリスの哲学者、社会学者、倫理学者。
1843年には当時も今と変わらず重要な経済誌である『エコノミスト』誌の副編集長となった。しかし、1853年以後、死ぬまでの50年間公職に就くことはなく在野の研究者として、秘書を相手に著述に専念した。著作が広く読まれるにつれ、名声を博した。
1880〜90年代の明治期日本では、スペンサーの著作が数多く翻訳され、「スペンサーの時代」と呼ばれるほどであった。
ちょっと人物紹介が長くなってしまいましたが、アレニウスは他にも、このような哲学者たちの言葉を多く引用し、そこに科学の真実との融合を考えていた様子がうかがえます。科学が今ほど近視的ではなかった時代では、他の科学者たちにもこういう視点はあったのかもしれません。
さて、そして、アレニウスの死後に登場する「ビッグバン理論」ですが、アレニウスは「そのような考えが出現してしまうのではないか」ということについて、懸念を持っていたようです。
その部分を抜粋してみます。
なお、このセクションのタイトルが『開闢論における無限の観念』というものでこの中に「開闢」という非常に難しい言葉が出てきます。「闢」は「門」の中に「辟」がある漢字で、私は読めませんでした。
それで調べてみましたら、この開闢というのは「かいびゃく」と読むようで、意味は、辞書によれば、「天と地が初めてできた時。世界の始まりの時」ということです。
つまり、開闢論というのは、「天地創造論」と同じような意味だと考えていいかと思います。
なお、カッコの赤い字は、私のほうで入れた注釈です。前後を省略していてわかりにくいこともあり、いくつかそれを入れさせていただいています。
『開闢論における無限の観念』より抜粋
物質はその全量を不変に保存しながら徐々に進化を経たものであるという主導的観念はあらゆる開闢論的叙説(天地創造論的な話)に共通である。
それ(宇宙とそこにある物質のこと)が突然に存在を開始したという過程には奇妙な矛盾が含まれている。一体宇宙に関する諸問題をすべてただ一人の力で解決しようというのは無理な話である。(中略)
明白な縄張り(科学の基礎中の基礎のこと)を守ることを忘れて、超自然的な解説を敢えてした人も少なくない。そういう人々は自然法則の不変という明白なスピノザの規準を見捨ててしまっているのである。ハーバード・スペンサーもこの点についてははっきりしていて『この可視世界に始まりと終わりがあるとはどうしても考えることはできない』と言っている。
このハーバード・スペンサーの言葉、
『この可視世界に始まりと終わりがあるとはどうしても考えることはできない』
という言葉は哲学者の感覚的な言葉のように響きますが、この言葉は、スペンサーの著書『生物学原理』というものに書かれてあることを、アレニウスが引用しているものです。その部分も抜粋します。
スペンサー『生物学原理』より抜粋
恐らく多くの人々は虚無からある新しい有機物が創造されると信じているであろう。
もしそういうことがあるとすれば、それは物質の創造を仮定することで、これは全く考え難いことである。この仮定は結局、虚無とある実在物との間にある関係が考えられるということを前提するもので、関係を考えようというその二つの部分の一方が欠如しているのである。
エネルギーの創造ということも物質の創造と同様にまた全く考え難いことである。生物が創造されたという信仰は最も暗黒な時代の人類の間に成り立った考えである
難しい書き方ですが、スペンサーはどういうことを言いたいのかということを考えてみますと、
・「無」と「実在」の間には何の関係もない
ということが大前提ということになっています。
その両者に関係性はないということです。
つまり、「何もない」ところから「何かが生まれる」ということはない、と。
ビッグバンというのは「何もない」ところから、宇宙という「存在が生まれた」という理論ですが、これはアレニウスが「そういう人々は自然法則の不変という明白な規準を見捨ててしまっているのである」と書いているように、科学の基本である質量保存の法則などにも通じる「この世の不変性」というものを完全に無視しているところに問題があると思っています。
何しろ、「何もないところから存在が生まれた」と言っているわけです。
ビッグバンというのは。
いくら観測上でそれを裏付けができている(とされている)現代であっても、「どうしてこの世の最初がこの世の法則を無視して作られたのか」というあまりにも大きな疑問が私にはあります。
まあ、私自身が科学については詳しくないですので、これ以上どうにも理論的なことは書けなく、このあたりで余談的な解説はやめておきますが、私個人としてはここまであげた抜粋の中で、最も自分の考えに近い言葉としては哲学者であるスペンサーの、
『この可視世界に始まりと終わりがあるとはどうしても考えることはできない』
というものです。
もっと短く表現しますと、
宇宙に始まりはない。
そして、宇宙には終わりはない。
これがすべてだと思います。
これ以上のどのような考えも私には馴染まないのです。
なお、ブログに出て来る書籍の入手について訊かれたことがあるのですが、ほとんどは私は Amazon の古本で買っているものが多く、中古が枯渇していなければ、 Amazon にすべてあるはずです。アレニウスの『宇宙の始まり』もこちらにあります。
というわけで、「宇宙は膨張していない」という最近の学説について、その後、少しわかりやすい報道記事なども出てきましたので、その中からひとつご紹介したいと思います。
英語圏の記事より、西側の文化にわりと批判的なスタンスのものが多いロシアのメディアでこのことを紹介しているものがありましたので、その記事をご紹介します。
なお、補足として、現代宇宙論で、この「宇宙の膨張」などについてどのように説明されているか、 Wikipedia などから抜粋しておきます。
宇宙の膨張
現在、宇宙は膨張をしている、と見なされている。だが、20世紀初頭、人々は宇宙は静的で定常であると見なしていた。
(中略)1929年にエドウィン・ハッブルが遠方の銀河の後退速度を観測し、距離が遠い銀河ほど大きな速度で地球から遠ざかっていることを発見した。つまり、ハッブルによって実際に宇宙の膨張が観測され、それにより《膨張する宇宙》という概念が定着したのである。
そして、もうひとつは今回の記事の重要な概念である「赤方偏移」というものについても抜粋しておきます。
赤方偏移
赤方偏移(せきほうへんい)とは、主に天文学において、観測対象からの光のスペクトルが長波長側(可視光で言うと赤に近い方)にずれる現象を指す。
天文学者エドウィン・ハッブルは様々な銀河までの距離とその銀河のスペクトルを調べ、ほとんど全ての銀河のスペクトルに赤方偏移が見られること、赤方偏移の量は遠方の銀河ほど大きいことを経験を生かして発見した。
この事象は、銀河を出た光が地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされるためであると解釈でき、宇宙が膨張していることを示すと考えられている。
上の中の、
> この事象は、銀河を出た光が地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされるためであると解釈でき、宇宙が膨張していることを示す
ことについて、今回、「それは違う」という学説が出たという話です。
とはいえ、私にはこの記事に書かれている意味自体はよくわかりませんので、翻訳記事が本記事ではありますけれど、参考程度にお読み下さい。
ここからです。
19rus.inf 2013.07.16
宇宙は膨張していない可能性
ほとんどの現代の学者によって支持されている「宇宙の膨張」に関しての有名な理論について、最近それに対して反駁することができる意見が出た。
ドイツのハイデルベルク大学の物理学者クリストフ・ヴェッテリヒ博士(Christof Wetterich)が、宇宙が膨張している証のひとつとして知られる「赤方偏移」と呼ばれる現象についての理論を発表したのだ。
赤方偏移とは、観測対象からのすべての波長の電磁波を含む光のスペクトルが、可視光で言うと赤に近い方の長波長側にずれる現象を指す。遠方の銀河ほど大きいため、銀河を出た光が地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされるためであると天文学者たちに解釈されてきた。
この現象はアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが1920年に発見した「天体が我々から遠ざかる速さとその距離が正比例すること」を表すハッブルの法則として後に定式化され、これにより宇宙が膨張しているとことが事実とされた。
しかし、今となって、ヴェッテリヒ博士は、原子から放出される光は、それらの成分、電子の質量に依存していると述べた。そして原子が重量を失う場合に赤方偏移があるという。
つまり、赤方偏移は単に原子が量のなかで減少した結果だという。
仮にこの仮定が正しければ、宇宙は膨張していないということになる。
ヴェッテリヒ博士の研究結果は、科学誌ネイチャーの7月号に発表された。
しかし、ヴェッテリヒ博士の理論は、明確な答えを与えるものではない。むしろ、新しい疑問を作り出したと言えるかもいれない。宇宙が膨張しているという伝統的な考え方によれば銀河間の距離は成長している。
いずれにしても、今回のヴェッテリヒ博士の研究結果は研究者たちにとっては考えるべき重要な難題となったといえるかもしれない。