2013年09月23日



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パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりにおこなわれ、成層圏で宇宙から地球への「侵入者」が捕獲される



「このような大きさの粒子が地球から成層圏まで運ばれることが可能なメカニズムは存在しないため、この生物学的存在は宇宙由来であると結論付けることができます。私たちの結論は、生命が絶えず宇宙から地球に到達しているということです」 --- 分子生物学者ミルトン・ウェインライト教授(英国シェフィールド大学) Earthfiles - "Unusual Biological Entities” from Outer Space" より。


keisou.jpg

▲ 英国シェフィールド大学の研究チームにより上空 25キロの成層圏で回収された珪藻(ケイソウ)という単細胞性の藻類に属する生命。






 

成層圏の生命


先日、英国シェフィールド大学というところから「地球の大気から彗星由来と考えられる生物学的存在を回収」という主旨の論文が発表されていることを知りました。

上の写真が論文に掲載されているその珪藻といわれる生命の写真です。

概要は下にあります。

ISOLATION OF A DIATOM FRUSTULE FRAGMENT FROM THE LOWER STRATOSPHERE (22-27Km)-EVIDENCE FOR A COSMIC ORIGIN
下部成層圏(22〜27キロ)から珪藻の被殻の断片を分離 - 彗星由来である証拠


これに関しての科学記事がいくつかのメディアで取り上げていました。
下は先週末の米国デイリーギャラクシーの記事です。

dg-2013-09.jpg

Daily Galaxy より。


今日は上の記事をご紹介したいと思いますが、これは、パンスペルミア説という、つまり、「宇宙全体に生命種が存在している」というこのブログ最大のテーマのひとつとも関係することですので、翻訳の前に補足説明をしておきたいと思います。





西欧で 50年ぶりの実験再開の中で


タイトルに「パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりに再開」というように書きましたが、かつて、この実験は米国NASAとソ連の国立研究所によっておこなわれていた事実があります。そして、共に「理由が明らかにされないまま実験は打ち切られた」ものでもあるのです。

これに関しては、フレッド・ホイル博士の『生命・DNAは宇宙からやってきた』という著書の中に記述があります。


(ここから抜粋)




『生命・DNAは宇宙からやってきた』第2章「地球大気へ侵入する彗星の物質たち」より
フレッド・ホイル / チャンドラ・ウィクラマシンゲ共著


1960年代には、アメリカの科学者たちが高度 40キロメートルまで気球を飛ばして、成層圏にバクテリアがいるかどうか調査した。その結果、ごく普通のテクニックで培養できる生きたバクテリアが回収され、実験者を当惑させた。

さらに問題だったのは、バクテリアの密度分布だった。成層圏の中でも高めのところでは、1立方メートルあたり平均 0.1個のバクテリアがいて、低めのところでは 0.01しかいないという結果になったのだ。

高度が高いほど多くのバクテリアがいるという結果は、バクテリアが地上から吹き上げられたと考える人々が期待していたのとは正反対の傾向だった。不思議な結果に、研究資金を出していたNASAはこれを打ち切ってしまった。

1970年代後半には、旧ソ連で同じような実験が行われた。彼らは、成層圏より上の中間層にロケットを打ち上げて、高度 50キロメートル以上の高さでパラシュートにくくりつけた検出装置を放出した。パラシュートが落下するにつれて、いろいろな高さで次々にフィルムが露出され、粒子を付着させては密封された。

回収されたフィルムを研究室に持ち帰って微生物を探したところ、 50から 75キロメートルの高度について、バクテリアのコロニーが 30個ほどできた。中間層は空気が薄く、バクテリアはすみやかに落下する。したがって、中間層のバクテリアの密度は成層圏では数ケタ低いはずだ。それにも関わらず、これだけの結果が出たのである。

なお、この実験もたったの3回で打ち切られてしまった。

アメリカと旧ソ連で行われた実験は、はからずしてバクテリアが宇宙からやってきたというわれわれの仮説に見方してしまった。





(抜粋はここまで)


この時の実験では今回の英国の実験よりもさらに高い上空 40キロ、あるいは 75キロというところでも生命を回収しているのですが、地球の地表からそのような上空にまで生命が運ばれるメカニズムというのは地球には存在しないことを少しご説明できる範囲でしてみたいと思います。





地球の大気構造は「下から上へは上がりにくい」


atomosphere.png

▲ 正確なところではないですが、上空の大気の様子を記してみました。


高層の大気圏で微生物が発見されると、「地球の地表から上へ飛ばされていったのではないか」と思う方も多いと思うのですが、その概念が適用できる高さにもある程度の上限があります。

今回の英国の大学での実験では、高層 27キロメートルにまで気球を上げていますが、このような高さにまで微生物などの小さな物質を押し上げる上昇気流は地球には存在しないのです。

気流以外に上空に大気を押し上げる自然現象として代表的なのは火山の噴火ですが、ちょうど今年の夏の記事の、

世界の火山活動がマックスへと向かう気配を見せている中で知る「火山のマグマは噴火後たった数日で再充填される」という事実
 2013年08月19日

の中で、いくつかの最近の火山の大噴火の噴煙について記しています。

日本では8月に桜島が激しい噴火を続けていましたが、それでも高さ5キロ。

sakurajima-2013-08.jpg


他に最近の大きな噴火では、

・カリムスキー火山(カムチャッカ)の噴煙が 7.5キロメートルの高さ
・パブロフ火山(アラスカ)の噴煙が 8.5キロメートルの高さ


などとなっていて、かなり大きな火山噴火でもこのあたりが上限のようです。

もっとも、20世紀で最大の噴火を起こしたフィリピンのピナツボ火山の 1991年の噴火などは、噴煙が最大で 34キロメートルにまで上り、このレベルの噴火が日常的に世界でいつも起きているのなら、成層圏くらいまでなら微生物が噴き上げられることもあり得るかもしれません。

そのためには、たとえば、毎年何度かピナツボ火山レベルの噴火が世界のどの国でも発生し続ける必要がありますけれど、そんなことはありえないです。

何より、 1960年代の NASA の実験や、 1970年代のソ連の実験ではピナツボ火山の 1991年の大噴火のような事象でも届かない上空での生命の回収をおこなっています。

もともと高層の大気圏は、上にも下にもどちらも「垂直方向の動き」が少ないそうなのですが、成層圏を越えて高層にいけばいくほど大気が薄くなり、真空に近い状態だと「ものは落下していく」ということになります。

なので高層大気圏では、下に現象はあっても、上に行く現象は存在しません


そういう意味でも、そこで見つかる生物が宇宙由来であるということには特に不思議なものではないと思うのですが、それでも、たとえば、今回の下の記事にも懐疑派の人が出てきますが、いかようにも反論のできる余地はある話でもあるようです。


ちなみに私自身は、パンスペルミア説が生命由来の学説として確立するとかしないとか、そういうことには興味がありません。「学説」は学者の人たちの問題で、たとえば、私などは学説がどうあろうと「宇宙全体に生命が普遍的に存在している」という考えが変わることはもうないです

ただ、私はパンスペルミア説を足がかりとして、そこから生命の永遠性(あるいは DNA を規準とした「永遠の連続性」)についてを知りたいとは思っています。


そのあたり、少し前の記事の、パンスペルミア関係の記事、

「生命発祥の要因は宇宙からの彗星によるもの」という学説が確定しつつある中でも「幻想の自由」の苦悩からは逃げられない
 2013年09月18日

でも少し書きましたけれど、しかし、このことを書き出すと、また無意味に長くなりますので、今回はそろそろ翻訳記事に入ろうと思います。

ここからです。





Evidence of Extraterrestrial Life found in Earth's Atmosphere
Daily Galaxy 2013.09.21


地球の大気で地球外生命体の証拠が発見される


carbon-01.jpg

▲ 米国ローレンス・バークレー国立研究所の放射光実験 ALS でのX線顕微鏡で撮影されたコンドライト隕石の中の有機炭素。この画像では、炭素は赤で示され、鉄は青、そして、カルシウムはグリーンで示される。


英国シェフィールド大学の科学者たちは、彼らが地球外生命体の証拠を発見したと主張している。研究チームは 25キロメートル上空の成層圏に気球を打ち上げた。そして、それらの気球は、地球に戻ってきた時に小さな生物を運んできたのだ。

研究チームを率いたミルトン・ウェインライト( Milton Wainwright )教授は「これらの生物的存在が地球外の起源のものであることは 95%の確率で確かだといえます」と言う。

さらに教授は以下のように続ける。

「もし、私たちの確証が正しければ、宇宙空間に生命が存在することを意味し、そして、それが地球に来ている。これは、地球の生命の起源が宇宙にあることを示しているものです」。

「多くの人々は成層圏に漂流している生物学的な粒子が、地球上から上空まで上がったという仮定を示しますが、成層圏で一般的に見られるサイズの粒子が地上から 25キロメートルもの高さにまで噴き上げられる可能性はないのです」。

しかし、天文学者のフィル・プレイト( Phil Plait )氏は、この「生物的な物質」のように見えると科学者たちが述べる物質は、宇宙外から来たものではないだろうと述べる。

プレイト氏は、「彼らの主張には根拠がないと考えられる多くの理由が存在します。たとえば、見つかった珪藻(ケイソウ)が非常に綺麗で無傷であるという点などもそうです。もし、その珪藻が彼らの言うように彗星や流星から来たというのなら、この珪藻のように断片が綺麗なままである可能性はほとんどないはずです」と言う。

プレイト氏は、また、シェフィールド大学の科学者たちの理論で、地球からの微生物が風と乱気流により長い期間の中で空中に展開することはないとした意見にも懐疑的だ。

プレイト氏は、この研究結果が英国バッキンガム大学宇宙生物学センターの所長であるチャンドラ・ウィクラマシンゲ( Chandra Wickramasinghe )氏の研究に影響を与える可能性があるという。

ウィクラマシンゲ氏は、英国の偉大な天文学者だった故フレッド・ホイル卿と共に、生命は宇宙全体を満たしており、彗星や流星がその生命を運んでいるということを示唆し続け、その理論を「パンスペルミア説」として知られる理論として、ホイル卿と共同で研究した。

宇宙科学専門誌ジャーナル・オブ・コスモトロジー( Journal of Cosmology )に掲載された『新炭素質隕石の中の化石珪藻』と題された論文の中で、ウィクラマシンゲ氏は、彼が 2012年 12月 29日にスリランカのボロンナルワ村近くに落下した隕石の研究を進める中で、生命は宇宙を通して存在しているという強力な証拠を発見したと主張した。

プレイト氏は、これに関しても「ウィクラマシンゲ氏はすべてにおいて飛躍し過ぎです。それらが宇宙からやって来たという証拠はまったくないのです」と述べる。

しかし、シェフィールド大学の科学者たちはさらに複数のテストを今後おこなう。たとえば、特定の同位体比が地球の生物のそれと一致しているかどうかを決定する「同位体分別」などだ。

ウェインライト教授たちは、彼らの起源が地球外であることを確信している。彼らの研究の続報を待ちたいところだ。





ここまでです。

上の記事の中でやや残念だったのは、シェフィールド大学の調査方法です。最初に「微生物が宇宙から来た」ということを立証したいためにこの実験をおこなったのなら、旧ソ連の実験のように高度を変えて数多く採取をすべきだったと思います。

その理由は、翻訳記事の上に抜粋しましたフレッド・ホイル博士の著作にあるこの部分を確かめるためです。


成層圏の中でも高めのところでは、1立方メートルあたり平均 0.1個のバクテリアがいて、低めのところでは 0.01しかいないという結果になったのだ。



要するに、「高い場所になるほど生命(微生物)の数が増えていく」ということが確認されれば、上(宇宙)からやって来たという大きな証明のひとつになるはずです。

また、「特定の同位体比の地球の生物との一致」というようなことが書かれてありますけれど、これらの宇宙からきた微生物は結果的には、地球の単なる微生物として生活するのですから、「地球の生命と違う部分がない」はずで、そこをいくら研究しても、意味がないように思います。

こういうような科学者たちの方々でも、いまだに「宇宙の生物と地球の生物は違う」と決めつけているような感じがありますけれど、宇宙全体を同じ生命体系が貫いているのだとすれば、環境により生きられる生命種が違うだけで、どれだけ地球から離れた宇宙でも、基本的には大差のない DNA 構造の生物が生きているはずだと私は思っています。