2013年10月14日



In Deep のトップページは http://indeep.jp に移転しました。よろしくお願いいたします。




アメリカ全土で発生したフードスタンプのシステム停止によりインターネット上で巻き起こる「食糧暴動」の空気



food-stamp-03.jpg

THE BLAZE より。写真の張り紙の「 EBT down 」というのは、「フードスタンプカードは故障中で使用できません」というような意味です。






 



ほんの数時間のフードスタンプのシステム停止でも人々の怒りは爆発した


今から3年以上前の記事になりますが、

世界的な飢餓暴動を予測する専門家たち
 2010年08月15日

というタイトルで、ロシアのプラウダの記事をご紹介したことがあります。

上の記事の中には専門家の予測として、下のような言葉がありました。


西側の専門家は、このような状況が、主に第三世界での飢餓による人々の暴動を誘発すると予測した。



つまり、食糧不足が原因の暴動が、第三世界といわれる、いわゆる東アジアからアフリカなどにかけてのいくつかの国や地域で起きるだろうと「西側の専門家」は予測していました。


しかし、上の報道のタイトルにある「食糧暴動に向かう人々」は、第三世界の人たちではなく、西側諸国の「親分」といえるアメリカの人々なのです。

これは日本時間の 10月 13日に起きたことで、アメリカの 17州で、突然、フードスタンプカードのシステムが使えなくなったのでした。現在は解消しています。

ebt-sd-03.jpg

wlox より。



フードスタンプの正式名は「補助的栄養支援プログラム」というものだそうで、スタンプとありますが、実際には磁気カードで、州によってデザインなどは違うのでしょうけれど、大体下のようなもののようで、EBT という名称だそうです。

fs-tv-01.jpg

Wood TV より。



現状(日本時間 10月 14日)では多くのシステムが復帰したそうですが、たった数時間から最大でも1日程度のフードスタンプシステムの停止でしたが、最初に載せた記事によれば、そのことによりツイッターには下のような書き込みが夥しく書き込まれてたとのこと。

EBT-shutdown-twitter.jpg



そして、今でもインターネット上ではこのことに関しての書き込みが続いているようです。復旧したとはいえ、原因がはっきりしていない上に、政府の閉鎖も続いていて、疑心暗鬼や、あるいは暴力的な心理状態というものは尾を引いたままの可能性もあります。



政府機関閉鎖の中でのフードスタンプの懸念については、先日の、

アメリカの空で悪魔が笑っている
 2013年10月07日

という記事の中でも少しふれたのですが、今回のフードスタンプ・システムのシャットダウンについては、現地メディア(WLOX)によれば、管轄省庁のアメリカ農務省は、「今回のこのトラブルは政府機関の閉鎖とは関係ない」と述べたとのこと。

しかし、現在のアメリカという国は 2013年で1億人前後の人々がフードスタンプ、つまり政府から食糧を与えられて生きている国であるということも事実でもあります。


CSN ニュースより。

アメリカ農務省の報告によると、連邦政府からの補助食糧援助(フードスタンプ)を受けたアメリカ人の数は米国の人口の約三分の一にあたる 1億 100万人に上昇している。農務省は昨年1年間で食糧援助に 1140億ドル(約 11兆円)の財政支出をおこなっている。

連邦政府からの補助食糧援助で生活している米国人の数は、民間企業で働いている労働者人口を上回っている。労働統計局の発表によると、2012年の時点でのフルタイム労働者人口は 9,718万人だった。



上からわかる問題は、「フードスタンプシステムの停止によって全米の人口の3分の1から4分の1の数千万人が飢えてしまう可能性がある」という事実で、そして、歴史の中では、「飢え」は必ず人々の心を蝕み、そしてそれは高い確率で「暴力」につながっていくと思うのです。

サバイバル好きな人々で溢れ、無数の銃に溢れているアメリカという国。
そのアメリカという国が他の国へ及ぼす影響は今でも多分世界一でもあります。





飢えが人にもたらすもの


作家の山本七平さんは、第二次世界大戦についての自らの戦地での経験等を記した『ある異常体験者の偏見』という 1974年の著作の中で、次のように書いています。


山本七平 『ある異常体験者の偏見』(1974年) 「アパリの地獄船」の章より


飢えは人を狂わす。前に『文藝春秋』三月号の随筆欄で川島四郎氏が赤軍派のリンチを栄養学の面、すなわち一種の飢えから解説しておられた。学問的なことは私にはわからないが、「空腹(アングリー)は怒り(ハングリー)」の言葉通り、単なる一時的空腹さえ、人間の冷静な判断をさまたげる。

これが「飢え」となり、さらにそのとき、このままでは「飢餓必至」という状態に陥るか、陥ったと誤認すると、人間は完全に狂う。飢えは確かに戦争の大きな要素で、これは戦争を勃発させもすれば、やめさせもする。自分の意志を無視して穀倉地帯に「手が動く」、それが破滅とわかっていても手が動く。

しかしひとたび飽食すると、あの時なぜ手が動いたか理解できなくなる。これは戦場の小衝突や虐殺、収容所の突発事件やリンチ、また捕虜虐殺等における、非常に解明しにくい事件の、真の原因のひとつとなっている場合が多い。以下に述べる私の体験は、「飢えの力」が、危機一髪、まさに恐ろしい虐殺事件を起こすかに見えたときの実情である。



この後、山本七平さんたち敗残兵たちが戦地から米軍に輸送された船の中で「飢餓のため」に起きそうになった事件のことを書いていますが、それはともかく、今の文明国の多くの人たちは本当の飢餓をほとんど経験していません。

私も経験がありません。

それだけに、もし飢餓状態がこの世の中に現れた時にどのようなことになるのかは予測もできないのですが、「飢餓は人を変えてしまう」ということは多くの人々の証言による事実ではあるようです。


そういえぱ、「アメリカの食糧配給制度」というのは、 1929年から始まった大恐慌の中でも行われていたことを数年前に知ったことがあります。




1934年の大恐慌下の連邦緊急救済局による「フードスタンプ」システム

数年前に古本屋の 100円コーナーで買った『史料が語るアメリカ』という本がありまして、その中に、アン・リヴィングストンさんという米国人女性が 1934年に記した「救済を受ける身」というタイトルの文章が載せられています。

アンさんは、 1931年まではピアノ教師として旦那共々、裕福な生活をしていたのですが、 1933年頃から生活が厳しくなり、食糧配給制で生きのびることになりました。

その時の日記のようなものが「資料」として残されているのでした。当時のアメリカには「緊急救済局」という部局があったようで、そこがおこなっていたプログラムの中には現在のフードスタンプと似た「食料小切手」の配布のシステムがあったようです。

これはずいぶんと昔のクレアなひとときの「大恐慌下の生活」という記事に載せことがあるのですが、一部抜粋しておきます。


『史料が語るアメリカ』 179ページ「救済を受ける身」より


1933年初夏、私は8ヶ月の身重であったが、アパートの月額家賃 12ドルを支払うと、もう一銭も残らなかった。そのアパートたるや、こんなものが本当にあるのかと思うほどひどかった。最低の条件ともいえる暖房、バスタブ、採光、給湯さえも欠いていた。鼠や南京虫も横行した。

だが、有り金の最後を家賃に払い、食費はどうなるのであろう。貸してくれない金を求め奔走した。夫は、職が得られないのに職を求めては歩き、仕事が得られないといっては、自分を責めた。

連邦緊急救済局への願い出は、絶望の中で最後の方法であった。

(中略)

私は空腹を抱え、小さな店のなかを見廻した。妊娠中の女性の食欲は、毎日の半飢餓状態で、繊細さがいやましてもいた。私は新鮮な果物がどうしても欲しかった。「ぶどうはいくら」と私は聞いた。「ぶどうはだめだ。売れないよ」とピートは答えた。「どうして」「ぶどうは贅沢だ。豆か、じゃが芋か、玉葱だ。貧乏人はぶどうなんか食べないんだ」

私は当惑した。しかしピートは本気だった。彼は救済局から渡された掲示文で、失業者が食料小切手で買える品目表を見せてくれた。そこには、塩漬豚肉とスライスしていないハム、豚肉のレバーや内臓、それ以外の肉はなかった。米、豆、芋、パン、玉葱が主な品物であった。新鮮な野菜など、どこにもなかった。私は無性に腹が立ってきた。




話がやや逸れてきましたけれど、アメリカといえば、今日の朝日新聞に下のような記事がありました。



「州分離運動」じわり拡大、米政治対立が地方でも激化
朝日新聞 2013.10.14

米メリーランド州のスコット・ストゼルジック氏(49)は同州の政治状況に嫌気がさし、自らそう呼ぶ「政治的奴隷制度」から抜け出そうと、ある計画を目論んでいる。それは、南北戦争以降の米国では例がない、新たな州の創設だ。(中略)

コロラド州の10数郡では11月に行われる投票に、州分離の是非を問う拘束力のない住民投票が盛り込まれた。また、フロリダ州でも分離についての提案が出されている。

さらに、カリフォルニア州北部では、一部住民がオレゴン州南部の郡と共に新州を創設しようとしている。アリゾナ州トゥーソンでも、保守派の知事と議員に我慢できなくなったリベラル派の住民が、同様の計画を練っている。

こうした試みは米国史上何度も繰り返されているが、南北戦争時の1863年にウェストバージニア州が誕生してからは、州の分離は実現していない。

しかし、分離を求める動きが増加している要因として、今回の政府機関閉鎖を引き起こした議会の行き詰まりなど、行政運営への不満が大きくなっていることを指摘する専門家もいる。



現在起きているアメリカでのゴタゴタが解決してもしなくても、アメリカと、そしてそのアメリカに引きずられる多くの国(もちろん日本も)は、やはり、昨日の記事で引用した「前人未踏の領域」に立ち入ろうとしているのかもしれません。