2013年12月16日



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日本人科学者が「宇宙はホログラムである」ことを理論的に証明したその地球の中では、例えば洪水伝説のご当地での「黙示録的な洪水」が起きていたり



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▲ 科学誌ネイチャーの記事を引用した THP より。

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ロシアの声より。






 


長い歴史を持つ「宇宙は投影されているホログラフだ」という科学的理論の証明への挑戦の歴史

上の記事にある「宇宙はホログラフにすぎない」という学説は、文字だけを見ると単なる奇妙な学説のように響くと思うのですが、この理論そのものはかなり以前からあるものです。

しかし、特筆することは、「今回、それを理論的に証明しようとした論文を発表したのが日本人の研究チームだった」ということです。

この「宇宙はホログラフにすぎない」ということに関しては、ちょうど1年前ほど前の過去記事、

「私たち人類はコンピュータ・シミュレーションの中に創られた宇宙に住んでいる?」という仮説理論を検証する実験が開始される
 2012年12月12日

という記事で、米国のデイリーギャラクシーに掲載された記事をご紹介したことがあります。

それによりますと、古代まで辿れば、プラトンやデカルトなどの古代の哲学者たちの考えにまで遡り、彼らの「この世に見えている光景は邪悪な悪魔が作りだしたものだ」という思想と通じる部分があるようなのです。

そして、現代の学術的な意味での「宇宙ホログラム理論」は、英国オックスフォード大学の哲学教授のニック・ボストロム( Nick Bostrom )という人が 2003年に発表した論文の中で、「現在の人類が、コンピュータ・シミュレーションの中において生きている可能性」について言及したことが初期の頃のもののようです。

その後、2010年に、米国イリノイ州にある米フェルミ国立加速器研究所で研究が開始されることが報道されたりしていました。

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▲ 過去記事より。元の報道は 2010年11月4日の WIRED のものです。



ここで注目していただきたいのは、2003年に「宇宙はホログラフである」という論文を発表したオックスフォード大学の教授が「哲学」の教授だということです。物理学や宇宙学の専門家ではないというところに、この宇宙ホログラフ説の出発点の特異性があります。

そういうこともあり、そのオックスフォード大学の教授の論文の要旨は下のようなものでした。

「この3つの中のどれかが真実であるだろう」というものです。


1. 人類種は、未来の人類(ポストヒューマン)」のステージに達する前に絶滅しそうに見える。

2. しかし、どんなポストヒューマンの文明でも、非常に進化した文明のシミュレーションを数多く作り出せることはないように思える。つまり、私たちは、ほぼ間違いなくコンピュータシミュレーションの中に生きている。

3. 私たちが、現在シミュレーションの中で生きている場合に限り、ある日、「祖先の文明は間違っていた」と思えるポストヒューマンになる可能性がある。



まあ・・・実際、何がなんだかよくわからないんですが、しかし私は意味がわからなければわからないほど、その物事に惹かれるという性質があります。


しかし、それはともかくとしても、かつての科学者たちは、哲学者の思想からの着想で科学を発展させることを常としていた感じはあります。

過去記事の、

「宇宙は膨張していない」
 2013年08月16日

の中で、化学の世界で最も偉大な人物とされているアレニウスが、著作『宇宙の始まり - 史的に見たる科学的宇宙観の変遷』の中で、17世紀の哲学者であり神学者であったスピノザという人や、19世紀の哲学者だったハーバード・スペンサーなどの言葉を数多く引用して、宇宙物理を語っている光景はとても印象的なものでした。

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今では、「科学と哲学は別のもの」となってしまった感じがありますが、これらは再び融合しないと、理想的な未来の科学にはつながらないようにも思います。


話が逸れましたけれど、いずれにしても、「宇宙はホログラムである可能性」についての初期の提唱は科学サイドからではなかったのですが、その後、この検証にあたったのは、科学者たちでした。

そして、2012年に、ドイツのボン大学の物理学者シラス・ベアネ( Silas Beane )博士の研究チームが、このシミュレーション仮説をテストする方法を開発したというところにまで辿り着いたのでした。「格子ゲージ理論」だとかいう私には何だかわからない理論が基盤となっているようなんですが、しかし、科学者たちが導き出した理論には科学的矛盾が含まれていたそうで、過去の記事で翻訳してご紹介した文章の中では、

「(宇宙ホログラム論には)たとえば、アインシュタインの特殊相対性理論の法則に違反するなどのいくつかの法則レベルがある」

のだそうです。


アメリカの天文学者であり NASAにおける惑星探査の指導者的存在だったカール・セーガン博士は、新しい科学の主張について、「それまでにない驚くべき主張に対しては、やはりそれまでにない驚くべき証拠が必要なのだ」と言っていたことがありますが、逆にいえば、この宇宙ホログラム説という、よく考えてみれぱ「気の違った」かのような理論にも、「それまでにない驚くべき証拠」があれば、科学の真実としては認められる可能性があるということにもなりそうです。


そして、今回、海外で大きく報道されたことは、その「それまでにない驚くべき証拠」を見つけたのが日本人の科学者チームだったということなのかもしれません。

研究者チームは、京都大学の基礎物理学研究所の花田政範さんという方や、茨城大学理学部の准教授である百武慶文さんという方々を含む4名の日本人科学者のようです。「のようです」というのは変な書き方なのですが、発表論文が下のように表記が英語の上に、いくら探しても、日本語の報道は一番上に貼った「ロシアの声」日本語版だけで(多分、ロシア語報道からの直訳)、そこでは名前はカタカナ表記でした。

どうやら、日本の一般メディアはどこも報道していないようです。


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▲ アメリカのコーネル大学が運営する、物理学などの論文が保存・公開されているウェブサイト arXiv(アーカイヴ)にアップされたその論文。


上には4人の研究者の名前が英語で記されていますが、その最初のお二方の Masanori Hanada (マサノリ・ハナダ)さんと Yoshifumi Hyakutake (ヨシフミ・ヒャクタケ)さんという表記から検索して、そのおふたりの漢字での名前を記したのですが、もしそのおふたりでなかったらすみません。

間違いでなければ、下のリンクのウェブサイトを拝見する限り、准教授という地位ですが、比較的お若い科学者の方々のようです。

百武慶文 准教授の出ている茨城大学理学部のウェブサイト
花田政範 准教授の自己紹介ページのある京都大学白眉センターのウェブサイト

ちょっと笑ったのは、上の花田政範さんの自己紹介の冒頭でした。


サッカーや野球に向いていないのは物心ついた時から分かっていたので、はじめは歴史学者になろうと思っていましたが、やっぱり宇宙飛行士になって火星に行こうと思い、それもどうやら向いていないので数学へ、それも違うと分かって最終的に理論物理に落ち着きました。




「何でもできるのだなあ」と苦笑しましたが、いずれにしても、

サッカー > 歴史学者 > 宇宙飛行士 > 数学者

と進もうとしている中で行き着いた理論物理という学問の中で、「宇宙はホログラフ」という説の理論を証明するという偉業を成し遂げたようです。


大変に難解なことではありそうなんですが、最初に載せたロシアの声の記事は(正しいのかどうか不明ですが)下のようなものでした。適度に注釈を入れています。

こちらは比較的わかりやすく書かれていると思います。





日本発の学説:宇宙はホログラムに過ぎない
ロシアの声 2013.12.15

日本の宇宙学者らが、宇宙は巨大なホログラムに過ぎないという学説を発表した。理論物理学者フアン・マルダセナ(米国にあるプリンストン高等研究所の教授)の仮説を研究した末の結論であるという。

マルダセナの仮説によれば、重力は無限に細い、振動する弦から発生する。これら弦は別の宇宙から来るプロジェクション、ただのホログラムであるかも知れない。源・宇宙は次元がより少なく、そこには全く重力が働いていないのでなければならない。

茨城大学のヒャクタケ・ヨシフミ(百武慶文)氏率いる日本の研究チームがこの仮説の検証に乗り出した。すでに2本の論文が発表されている(量子ブラックホールモデルに関するもの、パラレル宇宙に関するもの)。

そのうちのひとつで百武氏は、ブラックホール内部のエネルギーを計算し、その「事象の地平面」の状態、そのエントロピーその他、弦理論が予定する多くの物象の特性を分析している。

またもう一方の論文では、ホログラムの源泉である低次元無重力宇宙の内部エネルギーが考えられている。どちらの研究もマルダセナ・モデルと理想的に合致し、かつ相互に照応する。






ああ・・・これは・・・。上で「こちらは比較的わかりやすく書かれていると思います」などと書いてすみません。少しもわかりません(笑)。


まあ・・・しかし、ですね。


わからないのですけれど、このように淡々と「宇宙はホログラムである」とか、あるいは、「この宇宙はパラレルユニバースである」とかを解いていったとしますね。そして、仮に、いつか実際に、この世は宇宙に投影されているホログラムだったと科学的に確定したということになったとします。


その時には、私たちはこの世をどのように考えればいいのだろうかと。


そして、どのように生きようとすればいいのだろうと。


それは思いますね。


この宇宙が、あるいは毎日の生活がホログラムであっても、スーパーで買い物をしたり、あるいは毎朝、会社に行く日々がなくなるというわけではないでしょうし、この世から病気が消えるわけでも、飢餓や戦争が消えるわけでもない。国家の債務も個人の借金も消えないたろうし、そして春が来て夏が来て秋が来て冬が来る。

この宇宙がホログラムでも恋もすれば失恋もする。


この宇宙がホログラムでも、トシをとれば、男性はあっちのほうも立たなくなったりする。


つまり多分、この宇宙がホログラムでも何も変わらない。


宇宙がホログラムだなんていうこんな劇的な思想でも、この世は同じ?



「いったいワシらはどうすりゃええんじゃろ」


と、テキヤだったお祖父ちゃんの故郷の高知(北緯 33度線上)の言葉などで呟きながら、考え込む 2015年の冬でした(タイムトラベラーかよ)。いや、 2013年の冬でした。



ところで、もうひとつ気になっている「中東情勢」について少し書かせていただきます。

中東情勢といっても、天候です。







洪水伝説のご当地で始まる黙示録的な洪水

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▲ 12月14日から15日にかけて、ガザ地区は壊滅的な洪水に見舞われました。 alriyadh より。


イスラエルをはじめとして、シリアやトルコ、エジプトなど中東の各国で大変な寒波と大雪が続いていることは、先日までの記事など、最近、いくつかの記事でふれていますが、寒波と大雪が起きているのが中東ですので、アラビア語のニュースを検索する際のために、せめてアラビア語で「雪」という単語だけでも覚えておこうと思ったのですが、アラビア語で「雪」は下の文字で、これひとつ覚えるのも相当時間がかかりそうです。

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それはともかく、中東では、大雪と共に「大洪水」も起きています。

ガザ地区というところで、かつて経験のないような洪水が起きていまして、上に貼りました報道に多くの写真が出ています。

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alriyadh より。


それらのアラビア語のニュースで気になったのは、上に貼った報道の見出しもそうですが、多くの報道で「洪水」の文字に“”や 《 》 のような強調マークがついているのです。

洪水という単語には特に珍しさはないもので、しかも、文脈の前後から考えても、強調が入るのはどうも不自然な感じです。

「なんでだろうなあ」

と考えていましたところ、ふいに「ああ、そうか」と一休さん的に閃きました。


このあたりの地域は「洪水」という事象については特別な場所かもしれないのです。ノアの方舟 - Wikipedia の「大洪水について」というセクションによりますと、創世記などにある大洪水は、一般論としては、


古代の大洪水が、『創世記』やメソポタミア神話にあるように、世界規模で起こったとする者は少なく、「メソポタミア近辺での、周期的な自然災害」、あるいは「氷河が溶けた当初の記憶」などと見解の方が多く(中略)メソポタミア地方周辺の地質調査の結果、実際に洪水跡と推測される地層の存在が確認されている。


とのことで、洪水が世界規模だったかどうかは別としても、メソポタミア周辺で大きな洪水が起きていたことは事実のようです。

メソポタミアの位置は、私にとっては最もわかりやすく書かれていたサントリーの「キッズわくわく大百科」によりますと、下の位置です。

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▲ サントリー水育・わくわく大百科「古代四大文明を育んだ大河」より。


上の青いところがメソポタミア文明ですが、現在洪水が起きているガザ地区というのは、まさにその中心的な場所でもあります。

過去記事の、

ガザ地区に打ち上げられた無数のマンタとエジプトに現れたイナゴの大群に思う第6の太陽の時代
 2013年03月02日

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という記事に、ガザ地区を示した地図があります。

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今年3月には、上の地図もありますように、いろいろなことが起きていたガザ地区ですが、今度は洪水です。

そして、多分、当地とその周辺の多くの人々、それはユダヤ教でもキリスト教でも、イスラム教でもどんな宗教の影響下にある人にも「洪水」という響きは、私たちの考える洪水とは違うものなのだと思います。

アラビア語のニュースのほとんどに洪水という単語に “ 洪水 “ とか 《洪水》のように強調を入れるのはそういう意味なのかもしれないと思った次第です。






この世がホログラムなら私たちはどう生きればいい?

それにしても、この世がホログラムであっても、そうでなくとも、上のような災害や悲劇や苦しみは存在しているわけで、それは言い方を置き換えれば、「この世が存在していても、存在していなくても」上のような災害や悲劇や苦しみは存在しているということなのでしょうか?


難しいです。


このあたりは、 大島弓子さんの 1980年代の漫画「ロングロングケーキ」でも読み返してみようかなと思ったりいたしました。この漫画は、「無数に存在する多次元宇宙と自分自身の存在との関係」を描いたものです。

このことはずいぶん前に、クレアの、

火星からこちらを覗く宇宙人の宇さんを見て思い出す「光る佛」
 2013年04月12日

というものに書いたことがあります。

今、その記事を読み返してみましたら、その記事の最後の1文は、

> 世界に馴染もうとしなければ、この世の中もいい世界だと思います。

でした。

この宇宙が実際に存在していようと、あるいは存在していまいと、自分という本質とそれを取り囲む存在は変わらないものなのかもしれませんけれど、そう簡単に「ああ、この世はホログラムでしたか」と納得していいものかどうか悩む 2015年の春でした(タイムトラベラーかよ)。 2013年の冬でした。