2014年03月21日



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2012年 7月 23日に地球の文明は太陽によって「終末」を迎えていたかもしれなかった



アメリカの経済誌フォーブスに、先日、次のような報道が出ていました。

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▲ 2014年3月19日の Forbes Massive Solar Superstorm Narrowly Missed Blasting The Earth Back Into The Dark Ages より。






 


下のスペースウェザーの記事の写真がフォーブスの記事で記されている太陽フレアの様子で、2012年 7月 23日に発生したものです。

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▲ 2014年3月20日の Spaceweather より。



過去 200年で最も弱い太陽活動の中で発生した、過去 200年で最も強いレベルの太陽フレア

これは最近になって、 2012年7月23日の太陽フレアが「キャリントンの嵐」と言われる 1859年の太陽フレアと同規模だったことが分析でわかったという内容のニュースで、もしかすると、少しのタイミングの違いがあれば、この時に地球の文明は「壊滅状態」と化していたかもしれないのでした。

それがフォーブスの「地球を暗黒時代に戻す」という言葉に表れています。


しかし、スペースウェザーが取り上げるのはわかるにしても、どうして、経済誌のフォーブスが? と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、その理由は、


「もし、この時の太陽フレアが地球を直撃していれば、その損害額は数百兆円規模の算定不可能なものとなっていた可能性があり、あるいは何年も何十年も文明が再興できなかった可能性があったから」


なのです。

このあたりは、もう4年前に、

アメリカ国立科学財団が太陽CMEによるテクノロジー破壊を警告
 2010年03月20日

という記事を記したことがありましたが、当時、アメリカ国立科学財団という財団が発表した「太陽嵐の想定外の脅威」( Taking the "Surprise" out of Surprise Solar Storms )というタイトルの論文の概要を訳したことがあります。

この中に「キャリントンの嵐」という言葉も出てきます。
抜粋します。


アメリカ国立科学財団「太陽嵐の想定外の脅威」より

1859年9月1〜2日にかけて、太陽は記録破りの大規模なCME/コロナ質量放出を起こした。このCMEで非常に多くのガスと最大10億トンとも推定される巨大なプラズマを噴出した。

そのCMEは地球磁気圏に一時入り、地球に激しい地磁気嵐を引き起こした。

その結果、オーロラがキューバとエルサルバドルと同じくらい南でも観測され、当時で最もハイテクな技術の通信装置であった電報システムを世界中で破壊してしまった。

この「キャリントンの嵐 ( Carrington Storm ) 」と呼ばれる1859年の地磁気嵐は、今まで記録された中で最も大きい地磁気嵐であった。

「キャリントンの嵐」は比較的低いテクノロジーの下で起きたので、その大きな破壊や被害を免れたが、もし、現代にキャリントンの嵐のようなものが起きて、そして IT に依存する現代の私たちの社会を見舞ったなら何が起こるかわからないと言える。




これがキャリントンの嵐ですが、1859年当時は、電気に依存したテクノロジーはほとんど存在しなかったですので、被害はしては当時の最先端の通信技術として一部に存在していた「電報」のシステムが破壊されただけでした。

当時は電気などなくても生きられる世の中だったので、被害はなかった。

今はどうでしょうか?

自分の生活からすべての電気と通信が消えるという状況を想定してみると、どのようなことになると思われるでしょうか。



上のアメリカ国立科学財団の論文の後半では、次のように記されています。


米国科学アカデミーのレポートによると、キャリントンのような嵐は現代に怒濤の悲劇を起こす引き金となる可能性があるかもしれない。

変圧器を含む相互接続された送電網の機能を破壊し、停電が最大1億3000万人に影響し、それらによってサポートされている下水システム、そして、電子運輸機構を破壊し、また、システムの崩壊は、飲料水、食物、薬、および燃料の配信を止めてしまう。




巨大な規模の太陽フレアによるスーパーストームは、EMP 兵器と呼ばれる高高度核爆発による攻撃とほぼ同じ影響をもたらします。

ですので、「 EMP兵器で想定される被害」からスーパー太陽フレアの被害の様相も予測できるというようにも言えるかもしれません。

この EMP 兵器の脅威については、やはり 2010年の記事ですが、メリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く保守系シンクタンクのヘリテージ財団というものが、オバマ政権に提言した報告書をご紹介したことがあります。

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▲ 2010年11月30日の過去記事「米国の保守系シンクタンクが米国は電磁パルス攻撃で壊滅すると報告」より。





想定される被害

その被害がどの程度の範囲に及ぶのかということについては、1997年にアメリカ下院の「国家安全委員会」の公聴会に提出された資料が参考になると思います。

「 EMP 攻撃シミュレーション」だったとすると完全な成功を収めたように見える北朝鮮のミサイル実験
 2012年04月17日

という記事に、国家安全委員会の報告書の内容などに多少ふれています。
予想される被害は、


・電力送電網のクラッシュによる完全な停電
・通信システムの崩壊
・放送網(テレビ、ラジオ)の崩壊
・飛行機の墜落
・コンピュータシステムの停止
・移動手段(車、電車等)の停止
・コンピュータに依存する軍事システムの停止
・コンピュータに依存する政治システムの停止
・コンピュータに依存する医療システムの停止
・あらゆる物流の停止
・食料供給へのダメージ
・インターネットシステムのシャットダウン
・電気システムに頼るインフラの停止


となっていて、想定される被害額は「数百兆円」規模で、最大で数百万人から数千万人の被害者が出るとされています。


つまり、トップに貼りましたフォーブスの記事は、


「 2012年 7月 23日の太陽フレアが地球を直撃していれば、そのような事態になるかもしれなかったけれど、ギリギリのところで回避された」


という内容だったのでした。

それにしても、2012年のことがなぜ今になって発表されたのかというと、ずっと分析が続いていいて、結論が最近出たということのようです。

そのあたりのことを含め、スペースウェザーに掲載されていますので、ご紹介します。

なお、動画もあります。
太陽フレア自体は一瞬ですので、スローモーションにしていますが、それでも数秒の動画です。

2012年のキャリントンの嵐クラスの超巨大太陽フレア




以下、スペースウェザーの記事です。




SOLAR 'SUPERSTORM' NARROWLY MISSES EARTH
Spaceweather 2014.03.20


太陽からの「スーパーストーム」が地球をかすめた


太陽物理学の専門家たちは 3月19日、ネイチャー・コミュニケーションにおいて、ほぼ2年前、地球の方向には到達しなかった「強烈な太陽嵐」についての解説を発表した。

その太陽フレアは 2012年7月23日に発生し、典型的な太陽フレアの4倍の速度である秒速 2,000キロメートルで太陽から放たれた。

この太陽嵐は地球の軌道を引き裂くように通過していったが、幸いその時、軌道上に地球はなく、地球はこの強烈な太陽嵐の影響を受けることはなかった。

その代わりに、NASA の太陽観測衛星 STEREO A が 1976年の観測開始以来、最も強烈な太陽プロトンの嵐に襲われた。

その日以来、研究者たちはこの太陽嵐のデータの解析を続けてきた。

そして、彼らはこの時の太陽嵐が 1859年の「キャリントンの嵐」と似ていたものだと結論付けた。


solare-2012-03.jpg


研究発表の執筆者のひとりであるカリフォルニア大学バークレー校のジャネット・ルーマン( Janet Luhmann )博士は、以下のように述べた。

「あの太陽嵐が地球を直撃していた場合、おそらくは1 859年の時のように大きなものとなったと思われます。1859年のキャリントンの嵐は、はるか南方に位置するタヒチなどでもオーロラが観測された、強力な CME (コロナ質量放出)が連続して発生しました。もし現代の世界が同じ規模の太陽嵐の直撃を受けた場合、近代の電力網と通信網は壊滅的な被害を受けるでしょう」

仮に 1859年の時のような太陽嵐の直撃を受けた場合、経済的な影響は、ハリケーン・カトリーナの 20倍以上で、金額にして2兆ドル( 200兆円)を越える可能性がある。また、送電網や変圧器の修復だけでも何年もかかる可能性がある。

2012年の太陽嵐の雲は、その進行方向の軌道上に地球がなかったために影響がなかったが、しかし、今回の発表の全容は「宇宙天気の危険性」が強調されるものとなった。

何より、現在の太陽活動は過去 100年単位で、おそらくは「最も弱い」ものだ。それにも関わらず、過去最大レベルのような超強力な太陽フレアを噴出することができるという事実を知る。

地球はこれらの出来事に対して、いつでもリスクを持っていることを記憶にとどめていてほしい。





というものですが、「記録的な弱い太陽活動の中で、このことが起きた」ということには驚きを感じざるを得ません。

過去記事の、

太陽活動が「過去200年で最も弱い」ことが確定しつつある中で太陽活動は復活するか
 2013年10月21日

など、何度かふれてきましたが、現在の太陽活動は、

過去 200年で最も弱い

のに、現在の2014年よりさらに弱かった2012年に、

過去 200年で最大規模の太陽フレアが起きた

ということに、太陽のすごさみたいなものを感じます。
数式やデータで割り切れるほどそんな単純なものではないです。


私は最近の弱い太陽活動について、「ナメてかかっていた」面があります。

しかし、2012年 7月 23日の例でわかることは、太陽活動が全体的に弱いということが、「突発的に発生する超巨大な太陽フレアの発生の可能性を否定するものではない」ということで、そのことを改めて知りました。

つまり、それが起きる可能性は今日でも明日でもいつでもあるということです。

なお、かなり古い記事ですが、超巨大フレアを受けた際の時などの通信手段についての記事を記したことがあります。

太陽フレア等による電磁パルス(EMP)に見舞われた際の通信手段
 2010年12月13日

詳しくは上の記事をご参考いただきたいですが、電磁パルスは「鉄」で遮断されます。

なので、「ファラデーケージ」と呼ばれる遮断箱を用意しておくことで、とりあえず小さな通信機器等は保護できると思います。もちろん、全体の通信機能がシャットダウンしている中で、携帯やパソコンがあっても、どうにもなるものではないでしょうけれど。





ついに登場した黒点群番号 2014

実はちょっと「単なるジンクス的な意味」として気になっていることがあります。

太陽黒点が「年代と一致している」のです。

太陽黒点群というのは 1750年代の観測開始から、「1、2、3……」というようにナンバリングがされてきたという歴史があるらしいのですが、いずれにしても、順番に番号がつけられます。

最近、その「 2014 番目の黒点群」が登場しました。

多分ですが、太陽の黒点番号がつけられはじめてから、「年代と黒点番号が同じになったのはこれが初めて」だと思うのです。

ar2014.gif

▲ 2014年3月20日の Spaceweather より。


この今年 2014年と同じ数字を持つ太陽黒点群の動きを気にしていたりします。

「太陽黒点観測史上(多分)初めての数字の一致」を見せる黒点群 2014が穏やかに消えていってくれるのか、それとも、何か「モニュメント的な動き」を見せるのかどうか・・・。まあ、これは本当に単なる雰囲気的な話ですが、気になったりしたのでした。


そういえば、太陽のもうひとつの話題といえば、先日の記事、

2014年 3月 15日に環太平洋火山帯で「同時多発的な連鎖発生」を起こした中規模地震群
 2014年03月16日

で少しふれました、「巨大な磁気フィラメント」がさらに巨大になってきています。

2014年3月15日の磁気フィラメント

filament-2014-03-15.gif


2014年3月19日の磁気フィラメント(拡大中)

filaments-2014-03-19.gif

▲ 2014年3月19日の Spaceweather より。


しかし、それよりも何よりも、とりあえず私たちは「 2012年の地球文明の一時的滅亡」を回避できていたことをはじめて知ったのでした。