「これは前例のない出来事です。私たちはこれまで、このような大規模で壊滅的な消耗性疾患の拡大を見たことがありません。」
− ブルース・メンゲ教授(オレゴン州立大学総合生物学科)
▲ 2014年6月4日の米国オレゴン州立大学ニュースリリースより。
アメリカ西海岸のヒトデの大量死は重大局面に
数日前に、
・海で何が起きているのか : 5月から始まった全世界での数百万匹規模の海洋生物の大量死の理由は誰にも説明できない
2014年06月02日
という記事を書いて以来、その翌日、またその翌日というように、連続して、大学の研究機関から「海の崩壊」に関しての研究発表が続いています。
上の記事の翌日には、米国コロンビア大学の地球研究所から「海が急速に酸性化している」という研究発表のリリースがありました。
そのことは、
・「地球の海が急速に酸性化している」という論文を6度目の大量絶滅の中にいるかもしれない今の時代に読む
2014年06月03日
という記事に書きましたが、その中のコロンビア大学の論文には下のような記述がありました。
ワシントン州とオレゴン州、そして、カリフォルニア沖で、小さな浮遊性の巻き貝やプテロポッド(クリオネのような生き物)の半分以上が、極度に殻が溶解する症状を示していることを突き止めた。
また、海洋の酸性化は、ワシントン州とオレゴン州で 2005年から起きている広範囲でのカキの大量死と関係していると考えられている。
そして、昨日は、そのオレゴン州にあるオレゴン州立大学から、冒頭に貼りましたように、「オレゴン州では地域に一部の種類のヒトデが全滅されると予測される」というショッキングなニュース・リリースがありました。この2週間ほどで急速に事態が悪化したのだそうです。
このアメリカ西海岸のヒトデの「消滅」は、消耗性疾患というようにつけられていますけれど、要するに、
・自切して溶けて消えていく
という、見た目もその状況も悲劇的なものです。
アメリカの海岸でのヒトデのことを最初に記事にしたのは、昨年 11月でした。
・米国の海に広がる衝撃的な光景 : まるで絶滅に向かおうとしているような「ヒトデたちの自殺」
2013年11月07日
というもので、この時には「溶ける」という概念は報道にはまだ登場していませんでした。
「自切」(じせつ)という生物用語がありますが、これは簡単に書くと、
節足動物やトカゲなどに見られる、足や尾を自ら切り捨てる行動
ということになりまして、自らの体の器官を切り捨てる理由については、一般論としては、たとえば、「トカゲのしっぽ切り」で知られるように、本来は、生き物が自分自身を守るために、重要ではない自分の器官を自ら切り落とす機能を言います。
・トカゲのしっぽより。
しかし、アメリカのヒトデの場合は、そのような一般的な意味での自切ではなく、「自殺のための自切」という駄洒落にもできないような悲惨な行為をおこなっていたのです。
▲ 上の記事に載せたカリフォルニア州のロングマリン海洋研究所員のブログより。
この写真が添えられていたブログの文章は次のようなものでした。
研究室にいるすべてのマヒトデが死ぬまで、すなわち、最後のマヒトデが自分自身の体をバラバラにしていくまで、私は丸3日間、そこにいた。そしてこの写真が、今朝、私の飼育する生き物に起きた光景だった。
ヒトデの本体はまだ残っているのだが、彼らは気まぐれに自切していくので、私は切断された触手を検査しながら、さらに時間を過ごした。彼らは、自分が死んでいることを知らない。
私は、この、もともと美しく複雑な「海の星」の切断された腕を解剖スコープの下のボウルに入れて写真を撮った。この数週間で海で起きている様々なことは、もしかすると、何か本当に悪いことの始まりなのかもしれないとも思う。
この研究員の人が、上の時期、つまり、 2013年 9月 13日に書いた、
もしかすると、何か本当に悪いことの始まりなのかもしれない。
という予感は不幸にして的中したのでした。
それが冒頭にある「オレゴン州での全滅」であり、原因がわからずに、爆発的な拡大を続けているということは、これは次第に「アメリカ西海岸全域での(ある種の)ヒトデの全滅」という方向性に進む可能性はかなりあると思われます。
そして、今回のオレゴン州のヒトデの全滅は、この時のカリフォルニアの海洋研究所の研究員が見続けていた「自切」ではなく、もっと悲惨な状態、つまり、「溶けていく」というものでした。
この「ヒトデが溶けて消えていく」ということに関しては、昨年12月の記事、
・「星が消えて海が壊れる」:アメリカ周辺のヒトデの大量死の状態は「分解して溶けて消えていく」という未知の奇妙なものだった
2013年12月05日
の頃から明らかになってきたことでした。
そして、直接的に報道されるきっかけとなったのは 20年間のダイバー歴をもつローラ・ジェームス( Laura James )さんというシアトル在住の女性ダイバーが、「1年間のシアトルの海底の変化」を追っていた際に、
「ヒトデたちがドロドロに溶けていく光景」
を目撃し、長期間にわたり、シアトル沿岸の様子を米国の動画サイト Vimeo にアップし、それが各メディアで一斉に報じられたのでした。
▲ 2013年11月26日の米国 KUOW より。動画はこちらにあります。
この状態に陥ったヒトデが最終的にどのようになっていくかということに関しては、下の写真をご覧になれば、おわかりになるかもしれません。
溶けて海底に落ちたヒトデは上の写真のように粘質の「物質」となり、海の底や岩に付着します。
その白い粘体がシアトルの海底中に広がっているのです。
上の記事では、オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルドの「奇妙な病気がヒトデを粘体の物質にしてしまっている」というタイトルの記事を翻訳してご紹介したのですが、記事の中で、米国コーネル大学の生態学者のドリュー・ハーヴェル( Drew Harvell )教授は、以下のように語っていました。
「現在起きていることが極めて極端な出来事だということは科学者全員が考えていると思いますが、さらに重要なことは、これらの出来事が『変化の前哨であるにすぎないかもしれない』ということなのです」
そして、ハーヴェル教授は、
「最も恐ろしいことは、原因が何なのかまったく見当がつかないことです」
とも言っています。
今もなお原因がわからないままに、オレゴン州のヒトデたちは「溶けて消えて」いこうとしています。
ヒトデがこの世に存在する意味
ちょっと話がずれますけれど、ヒトデというのは、少なくとも積極的に食用にするものでも、何か人間の生活に盛んに使われるというものではないですけれど、海の生き物として、とてもメジャーな印象があると思います。
生態系の観点からいえば、ヒトデは食物連鎖上で重要な意味を持っているだろうことはあるのでしょうけれど、それ以上に、「印象が強い」というのは、やはり「形」だと思います。
星の形。
英語で「海の星( sea star )」と呼ばれ、種類によっては死ぬほど美しい。
▲ drugata-v-men より。
唐突な展開に思われるかもしれないですが、シュタイナーは、神秘学の訓練のひとつとして、美しい花や植物を「はっきり認識できるまで」魂を込めて観察し、あるいは、その植物の「種」を目の前に置き、その種が、成長していき、美しい話を咲かせるまでの具体的なイメージを抱くというようなことを記しています。
これはつまり、「自分の想像力の中で美しい花の咲く植物を作り上げる」という「自然(あるいは、生命)と人工物」の違いを自分の内面に刻んでいくことによって、生物に含まれている「目にみえない何か」を感じていく・・・というような修行(?)をおこなうそうです。
そのような「目に見えない何か」の中から自然の外界世界に出現する色や形に対しての想像力を養っていく。
自己の内面と外面の結びつきを強化し、「自分はすべての生命の一部である」と認識していく・・・というあたりが重要なことらしいのですが、それにしても・・・・・いったい私が何を言いたいのだかよくわからないかもしれないですが、つまり、自然学や生態学から離れて見てみれば、美しい花や、美しい色や形のヒトデなども、(事実関係は別として)「私たち人間を楽しませてくれるためにある」という側面があって存在しているのではないかと思うことは昔からあるということなのです。
これらは自然科学的には当然のように否定される概念ですけれど、あくまで、信仰や神秘学の観点からの話として見れば、「神は人間に必要なものはすべて造った(そして必要のないものは一切造らなかった)」という概念と似たような話です。
このように「神」というような言葉も入ってきますと、16世紀のデンマークの天文学者であるティコ・ブラーエという人などは、「星」について、下のように言っています。スヴァンテ・アレニウスの『宇宙の始まり』という著作に掲載されているものです。
星の影響を否定する者は、神の全知と摂理と、そして最も明白な経験を否認する者である。神がこの燦然たる星々に飾られた驚嘆すべき天界の精巧な仕掛けを全く何の役にも立てる目的もなしに造ったと考えるのは実に不条理なことである。
▲ ティコ・ブラーエ( 1546年 - 1601年)。
このティコ・ブラーエという人は、Wikipedia によりますと、
膨大な天体観測記録を残し、ケプラーの法則を生む基礎を作った。
という科学者なんですが、その彼さえも、「神がこの美しい星たちの精巧なシステムを何の目的もなしに造ったと考えるのは不条理だ」と言っていたようです。
さらには、もっと極端なことを言っていた人もいます。
18世紀のスウェーデンの科学者であり神秘主義思想家のエマヌエル・スヴェーデンボリなどは、著作『宇宙間の諸地球』の中で、
「すべての地球にとっては、人間が目的物であって、それぞれの地球はそのために存在する」
というようなことを記していたり。
要するに、月も太陽も火星も、そして地球自体も、
> 人間のために存在する(あるいは人間のために創造された)
と言っているのです。
ということは、そこに存在する自然、生物、鉱物など、つまり、花もヒトデも、
> 人間のために存在する(あるいは人間のために創造された)
ものかもしれません。くどいようですが、これは自然科学の面から考える話ではなく、宗教的、神秘学的な視点から見た話です。
いずれにしても、
・きれいなヒトデが全滅していく
という出来事は、単なる自然科学的な側面以上に個人的には考えるところの多い出来事でした。
話が脱線しましたが、オレゴン州立大学のニュースリリースの概要を記しておきます。
Sea star disease epidemic surges in Oregon, local extinctions expected
米国オレゴン州立大学 ニュースリリース 2014.06.04
オレゴン州のヒトデの疾病の爆発的拡大に関して地域的には全滅が予想される
このほんの2週間ほどの間に、オレゴン州沿岸のヒトデの消耗性疾患は、歴史的な範囲に拡大しており、ヒトデの種類の中には、全滅するものもあると予測されるという事態となっている。
消耗性疾患の発生を監視してきたオレゴン州立大学の研究者によると、オレゴン州沿岸では、局所的に一部の種類のヒトデが絶滅するかもしれないという。
この消耗性疾患は、アメリカ西海岸で広く知られていたが、今回のオレゴン州のように、急速に広範囲に拡大するのは異常としか言えないと研究者たちは語る。
推定では、現在、地域的に最高で 60パーセントのヒトデが消耗性疾患で死んだと考えられるが、じきに 100パーセントが死に絶える海域が出るだろうと予測されている。
オレゴン州立大学総合生物学科のブルース・メンゲ( Bruce Menge )教授は以下のように言う。
「これは前例のない出来事です。私たちはこれまで、このような大規模で壊滅的な消耗性疾患の拡大を見たことがありません。原因もまったくわからないのです。そして、これにより、どのような深刻なダメージがあるのか、あるいは、今後もこんな状態が持続していくのか、それもわからないのです」。
決定的な原因はまだ同定されていない。
細菌やウイルスなどの病原体などの可能性も含め、研究者たちはこの問題に取り組み続けている。