2014年06月24日



2015年10月7日に In Deep は http://indeep.jp に移転しました。よろしくお願いいたします。




軍事政権下のタイで起きている「静かなる反抗」から思う『1984』や現代のビッグ・ブラザーのこと



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▲ 2014年6月23日のタイ字メディア matichon より。




軍政下のタイで起きている行動

今年5月の軍部によるクーデターで、タイが軍政下となり、1ヶ月が過ぎました。

上の記事は、昨日 6月 23日のタイのメディアのもので、タイ語の翻訳が多分正しくない部分もあるとはいえ、単語の意味は大体合っているとすると、この「国民戦線の中でサンドウィッチを食べ『1984年』をお読み下さい」という奇妙なタイトルが、どうも印象に残ります。

なお、「国民戦線」と訳していますがは、反ファシズムなどを意味する「人民戦線」というもののことかもしれません。それはともかくとして、タイトルの下には「タイトルに書かれてある通りのことをしている人物」の写真が写っています。

この男性が手にしているのは、タイ語版の小説『1984年』です。

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▲ 小説『1984年』のタイ語版の表紙。


周囲の人々がカメラを撮ったり、遠巻きに見ているということは、何か「とても人目につくことをやっている」ということになりそうです。

それでも、サンドウィッチを食べて小説を読んでいるだけのようなのですが・・・これは何なのか?
なぜ、大きく報道されているのか?

下は、6月22日に、タイの首都バンコクの滞在者か、あるいは旅行者か、そのあたりはわからないですが、ジョナサン・ヘッドさんという男性のバンコクからのツイッターの投稿です。

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news.sanook

内容は、


『1984年』を読みながらサンドウィッチを食べていたひとりの抗議活動家がサイアム・パラゴンで逮捕された。どこもかしこ警官だらけだ。他にも6人がサンドウィッチを持っていて逮捕された。狂気の沙汰だよ。



というもの。

サイアム・パラゴンとはタイの首都バンコクの大型商業施設で、現在のバンコクで絶大な人気を誇るショッピングモールそうです。

そして、冒頭の写真の男性の背後にある建物こそがそのサイアム・パラゴンなのでした。

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▲ サイアム・パラゴン。



これらのことに関しては、下の報道で少し理解できたのでした。


「1984」読書の男性、「リスペクト・マイ・ボート」Tシャツの女性 タイ軍政が批判者を逮捕
newsclip 2014.06.23

タイ字紙カオソッドなどによると、22日、バンコクの高架電車BTSサイアム駅とチッロム駅の周辺で、軍事政権に批判的な行動をしたとされる市民10人以上が検挙された。

検挙されたのは、全体主義国家が支配する未来を描いたジョージ・オーウェルの小説「1984」を読んでいた男性、「リスペクト・マイ・ボート」と印刷されたTシャツを着ていた女性ら。

タイのテレビ、ラジオは軍政の統制下にあり、こうした検挙を報じていない。




つまり、冒頭の男性は、「軍事政権に批判的な行動をしていた」ということになるようです。

多分、この後、逮捕されたのだと思われますが、詳しいことはわかりません。
単独行動ですので、「集会の禁止令」にも違反していないと思われ、逮捕理由はわかりません。

ところで、上に「リスペクト・マイ・ボート」と印刷されたTシャツ、という表記があり、カタカナではわかりにくいですけれど、その女性が警察に連行される写真で、Respect My Vote (私の投票を尊重せよ)だとわかりました。

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▲ Tシャツの文字によって、タイ警察に逮捕された女性。


上の記事で、現在のタイは、

タイのテレビ、ラジオは軍政の統制下にあり、こうした検挙を報じていない。


というような状態であることを初めて知ったのですが、思ったよりも現在のタイは典型的な「軍事政権」であることを伺わせます。それにしても、この中のうちの「サンドウィッチを持っていることによって逮捕される」という意味だけはどうしてもわかりません。





架空の1984年と現実の1984年、そして現実の2014年

冒頭の人や、逮捕された人々が「反抗の意を示すため」に持っていた小説『1984年』は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルにより書かれ、1949年に発刊されたものです。とはいえ、私は映画のほうはともかく、小説のほうは読んだことがないですので、 Wikipedia から、あらすじを抜粋しますと、


1950年代に発生した核戦争を経て、1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国によって分割統治されている。さらに、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返されている。

作品の舞台となるオセアニアでは、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、物資は欠乏し、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョンによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている。




というもの。

ちなみに、この小説では、世界は、「3つの大国だけ」になっています。

・第三次世界大戦後の超大国「オセアニア」
・旧ソ連をもとに欧州大陸からロシア極東にかけて広がる「ユーラシア」
・旧中国や旧日本を中心に東アジアを領有する「イースタシア」


です。

下の地図がその分布となります。

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市民を監視するテレスクリーンというのは、映画『1984年』では、下のように表現されていました。

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▲ 映画『1984年』より。


画面に映っているのは、オセアニア国家に君臨する独裁者のビッグ・ブラザー( Big Brother )という登場人物です。テレスクリーンの画面上にのみ登場し、実際の姿は見せません。

本名さえ分からず、実在の人物か党が作り上げた架空の人物かどうかも明らかではないのですが、ビッグ・ブラザーの位置は下のようにピラミッドの頂点にあります。「プロレ」というのは、人口の大半を占める被支配階級の労働者たち。

1984_Social_Class.png



ちなみに、この「ビッグ・ブラザー」という言葉は、今でも英語圏ではよく使われます。ビッグ・ブラザー - Wikipedia によりますと、


『1984年』の出版以来、「ビッグ・ブラザー」は、過度に国民を詮索し、管理を強める政府首脳や、監視を強めようとする政府の政策を揶揄する際に使われるようになった。



とあり、『最も影響力のある実在しない101人』( The 101 Most Influential People Who Never Lived )という書籍の中では「ビッグ・ブラザー」は2位となっています。

ちなみに、この『最も影響力のある実在しない101人』の1位は、タバコのマルボロの宣伝に出てきた「マルボロ・マン」となっていました(笑)。いろいろな人が演じているようですが、下のような人のことです。

marlboro_man.jpg


それはともかく、今でもアメリカでは、政治的な揶揄としてインターネット上でよく使われます。
特に、

 Big Brother is Watching You
(ビッグ・ブラザーはあなたたちを監視している)

というフレーズでよく使われます。

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▲ オバマ大統領は任期も長いせいか、大変に数多くの「Big Brother is Watching You」のバージョンがネット上にあります。


しかしまあ・・・「1984年」は、小説ではありますけれど、今の現実はその作者の想像を越えているところに位置しているという可能性もあります。

なぜなら、小説、あるいは映画の「1984年」は、その世界の人々は「自分たちが監視されていることを自覚して」生きていたのですけれど、たとえば、過去記事の、

イギリス政府の機密作戦の結果が教えてくれる「私たちのいる現実の世界」
 2014年02月28日

でご紹介したように、現代では「自分たちでは自覚できない方法」で「見られている」ということが、すでに事実としてあるからです。

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▲ 上の記事より。元は 2014年2月27日の英国ガーディアンの報道より。

内容的には、下のようなものでした。


英米、ヤフー利用者のウェブカメラ映像を傍受 英紙報道
AFP 2014.02.28

英紙ガーディアンは、英政府通信本部(GCHQ)と米国家安全保障局(NSA)が、米IT大手ヤフーの180万人以上のユーザーが利用したウェブカメラの映像を傍受し保存していたと報じた。

この情報は、NSAの情報収集活動を暴露して米当局に訴追された中央情報局(CIA)の元職員エドワード・スノーデン容疑者から提供されたもの。




これは、「オプティック・ナーブ(視神経)作戦」という暗号名でおこなわれていました。他のさまざまな「似たようなプロジェクト」の存在も想像しなくともわかるのですが、いずれにしても、

「見られている自分たちは、見られていることを感知できない」

という点では、「事実は小説より何とか」ということを実感したりもします。



Mac が生まれた年

そういえば、今では多くの人々の端末として使われている iPhone や iPad の会社であるアップル社は、本来はコンピュータ会社であり、今でも Mac を出していますが、 Mac が最初にこの世に出たのが、この「1984年」でした。

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▲ 1984年当時の、初代 Mac(マッキントッシュ)と、アップル社の創設者だったスティープ・ジョブズ氏。


そして、そのテレビ広告は、小説『1984年』を意識して作られたものでした。

mac-1984.jpg

▲ 初代 Mac のテレビ・コマーシャル。映像は YouTube にあります。


この広告は、その時点で、すでに『エイリアン』(1979年)や『ブレードランナー』(1982年)といった映画史に残る作品の監督であったリドリー・スコット監督に撮影を依頼したもので、既存の大手メーカー(IBMを想定)を「ビッグブラザー的な存在」として、それを破壊する光景を描いたコマーシャル作品でした。

そのコマーシャルでは、ラストに、


1月24日、アップル・コンピュータはマッキントッシュをご紹介することになるでしょう。
そして、皆様は「なぜ 1984年なのか」を知ることになるでしょう。
それは(小説の)1984年のような未来を望んでいないからです。




というような意味の字幕が流れます。

mac-1984-02.jpg

しかし、30年前には「既存体制への挑戦者」だったアップル社は、現在では自身が業界のトップに君臨する、つまり自らが「ビッグ・ブラザー」となっているというところに時代の流れの様々な部分を感じます。


ちょっと見かけただけのタイの記事と写真から、何の話を書いているのだかよくわからない展開となってしまいました。

しかも、タイでの「反抗」と、「 1984年」の問題は全然結びつきませんでしたけれど、それぞれがユートピアの逆であるディストピアと多少は関連しているとは言えそうです。

そして実は今の世界はかつて予測されていた以上のディストピアなのかもしれません。

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