2014年08月21日



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高さ1メートルの津波を起こすかもしれない西之島。そして、かつて高さ「100メートル」の津波を起こしたエル・イエロ島。さらには高さ「500メートル」の津波を起こす可能性のあるキラウエア火山



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▲ 2014年8月20日の 3news より。






 



海底火山で「スーパー津波」が起きる理由

上のような報道を昨日見ました。小笠原諸島の西之島は昨年 11月に新島が噴火をはじめて以来、どんどん大きくなり、新しい島が元の西之島を覆い尽くす形で、今でもさらに拡大を続けています。

これについては、日本語の報道もありましたので、そちらの冒頭を抜粋させていただきます。

西之島噴火、斜面崩落し津波の恐れ 父島に最大1メートル
朝日新聞デジタル 2014.08.21

噴火が続く小笠原諸島の西之島が活発に溶岩を噴出し続けると、斜面の一部が海に崩落して津波が発生する可能性があることが、東京大地震研究所の前野深・助教(火山地質学)の研究で分かった。シミュレーションによると、約130キロ東の父島に高さ最大約1メートルの津波が到達するおそれがあるという。


というもので、つまり、

・西之島は今でも毎日大量の溶岩を噴出している
・このまま続くと、斜面が崩壊して、それによる津波が起きる
・その津波の高さは最大で約1メートル


ということのようです。

ま、1メートル。

もちろん1メートルの津波は侮れませんが、しかし、いずれにしても、西之島のほうはまだ起きてはいないことです。

ところが、同じような現象により「起きたことがある津波」については、下のようなものがあります。

el-hierro-tsunami.gif

▲ 2013年2月28日の Modern Survival Blog より。


もちろん、「すでに起きたこと」は、アメリカ東海岸の破壊のほうではなく、

高さ 90メートルの津波がかつて起きことがある

のほうです。

これは、カナリア諸島の南西端にあるエル・イエロ島という海中にある火山で起きたことで、ただし、それが起きたのは今から 13万年前とされています。

13万年前というと、現世人類がすでに地球上にいたと考えられている頃です(現世人類の地球への登場は、約16万年前とされています。誤差は前後約4万年)が、それにしても、「高さ 90メートルの津波」となると、どの程度の内陸までの影響があるのか想像もつかないですが、現代だと下みたいな感じで描かれるようなものとなるのでしょうか。

90-tsunami.jpg


現代でなくて幸いでしたが、そのような比較的遠い時代に、このエル・イエロ島の噴火により、そのような津波が起きていた可能性が高いことが地質学で示されています。

これは、地上の噴火でいう、いわゆる「山体崩壊」のような現象が、「海に向けてなだれ落ちる」事によって発生する津波のようです。

ところで、上の記事のタイトルで「(もし仮に同じようなことが今の社会で起きれば)アメリカ東海岸が破壊される」とある理由なんですが、このエル・イエロ島の位置は広範囲の地図で示しますと、下の位置となります。

el-hierro-map2.gif


この位置で、現代の社会に高さ 90メートルの津波などが起きてしまったら、アメリカの東海岸へは距離があるとはいえ、それでもかなり高さの津波が押し寄せる可能性があるという意味のようです。それ以上に、大西洋に面した非常に多くの国々が影響を受ける可能性があることもわかります。




津波と距離の関係

独立行政法人 産業技術総合研究所が 2003年にリリースした、

北米西海岸で西暦1700年に発生した巨大地震の規模を日本の古文書から推定

という資料を見ると、津波というのは、かなり遠方にまで被害を出すことがわかります。

この文書は、西暦 1700年(まだアメリカの文字の記録が残っていない時代)に、今のアメリカ西海岸を震源とするマグニチュード9クラスのきわめて巨大な地震が発生したことを、当時、日本に到達した「津波」から推計したものです。

西暦1700年の地震の震源と日本の位置関係

1700-tsinami-1.gif

震源と日本の距離関係は上のようなものでした。

これほど離れた場所の地震によって、日本の太平洋沿岸の各地にどの程度の津波の被害が出たか。それらは当時の古文書に記されています。

1700-tsunami-2.gif


東北から、関西に至るまで、1メートルから最大で6メートル程度の津波が到達していたことがわかります。

そして、これは、あくまで「古文書に記録が残されていた場所のみ」ですので、実際には日本のすべての太平洋側に、数メートル規模の津波がくまなく押し寄せていたと考えていいと思います。

6メートルの津波ともなると、かなりの災害レベルだと思うのですが、通常の津波とは違うのは、地震が起きたのが遠く離れた現在のアメリカ大陸であり、日本の人々は地震を感じることもなく、人々にとってみれば、

「地震もないのに突然津波がやってきた」

と感じたことだと思います。

そして、今回ご紹介していますような「海中の火山の地滑りなどで発生する津波」も同じように、

前兆を感じることが難しい


という特徴があります。

もっとも・・・ 13万年前のエル・イエロ島の噴火で起きたような「高さ 90メートルの津波」ともなると、前兆を知ったところで、場所によっては逃げ場もなさそうですが、まあ、そこまで極端ではない「前兆のない津波」は、わりといつでも起きる可能性はあると言われています。

ところで、2011年の出来事ですが、このエル・イエロ島の沿岸近くに「巨大な泡が噴き出ている」ことが報じられたことがありました。

elheirro-bubble.jpg

▲ 2011年10月17日の来たるべき地球の形「カナリア諸島に『新しい島』が誕生しようとしている?」より。

結局は何もなく終わりましたが、様々な活動が続いているエル・イエロ島ではあります。





自然現象の周期はどんなものにも存在し得るので

ところで、上のエル・イエロ島が過去の噴火を起こした 13万年前という、この「13万」という数字は非常に遠い昔のように感じますが、それはあまり関係のないことで、「過去に起きた事実がある以上、また起きる可能性はある」ということについては、巨大天体の地球への衝突や、あるいは、いわゆるカルデラ破局噴火と同じです。

破局噴火については、何度か記事にしたことがありますが、

世界の6つの異なる地域で7つの火山が同時に噴火を開始した2013年の11月に考える地球の未来
 2013年11月23日

という記事に書いていますように、

破局噴火は「破局災害」といわれるカテゴリーに属しているようで、人類が経験する自然災害の中で最も威力が大きく、そして、その影響が長く続く災害のひとつ

とされているものです。
小惑星などの天体衝突と匹敵するほどの災害とも言えるかもしれません。

そのような大災害である「破局噴火」ですが、静岡大学の小山真人教授の書かれた

現代社会は破局災害とどう向き合えばよいのか

によりますと、日本だけでも、

・7300年前の鹿児島県南方沖の海底火山の破局噴火
・2万8000年前に姶良カルデラ(鹿児島湾北部)の破局噴火
・5万2000年前に箱根カルデラの破局噴火


など、万年単位の中でもずいぶんと起きていることが地質学的な研究からわかってきています。

次の「破局噴火」がいつかというのはわかりようがないですが、同じように、

海中火山の崩壊による高さ 100メートルクラスの津波も起きる可能性はいつでもあるけれど、それはいつかはわからない

ということは言えるはずです。

さらに、2003年にはさらに「想像を絶する」研究発表がなされています。




500メートル級の津波を引き起こす可能性のあるハワイのキラウエア火山

今年5月の、

アメリカで沈みゆく大地と増え続ける地震。そして「500メートルの高さの津波」の可能性
 2014年05月15日

という記事で、米国スタンフォード大学の研究とシミュレーションにより、

「キラウエア火山の山腹にある塊が噴火などにより海に崩落することで 500メートル以上の高さの津波が発生する可能性」

についての研究結果が発表されていたことについて、概要だけ記したことがあります。

そして、キラウエア火山の噴火での崩壊や地滑りによる津波は実際に比較的頻繁におきているもののようです。

今回は、その超巨大洪水を起こす可能性のあるハワイ島の南にあるヒリナ・スランプ( Hilina Slump )について記されている英語版 Wikipedia とアメリカ地質調査所( USGS )の文書から抜粋して締めたいと思います。

文中の地図に出てくる火山などについては、ロイヒというのは、ハワイ島近くの海面下 975メートルにある海底火山で、活発な活動を続けています。火山自体の高さは 3000メートルあり、成長を続けているのだそうです。

マウナ・ロア火山は、ハワイの活火山のひとつですが、「地球で最も体積の大きい山」なのだそう。

また、キラウエア火山での津波の発生要因となる主要な名称である Hilina Slump というのは日本語にはなっていないようで、「スランプ」を地質的にどのように呼ぶのかわかりませんので、「ヒリナ・スランプ」と、そのままカタカナで表記させていただきます。


ヒリナ・スランプ( Hilina Slump ) - Wikipedia

hilina-slump.gif

ヒリナ・スランプは、ハワイ島のキラウエア火山の南側山腹にある 20,000立方キロメートルもの膨大な塊である。 GPS での測定によれば、1990年から 1993年の間に年間およそ 10センチメートルの南方変位を示した。

ヒリナ・スランプは、崩壊し、極めて早い速度で水中に突入する可能性を秘めており、仮に、ヒリナ・スランプのすべての量の塊が一気に海になだれ込んだ場合、それはマグニチュード9を超える地震を引き起こす可能性がある。

今から 11万年前に、同じ地質的現象によりハワイで起きた超巨大津波の高さは 500メートルに達した。もし仮に、このような地質的現象が現代の世の中に発生した場合は、環太平洋のすべての地域の大きな脅威となるだろう。




ヒリナ・スランプ( Hilina Slump ) - USGS

1868年と 1975年に、ヒリナ・スランプ領域において高さ数十メートルの壊滅的な津波を伴う大地震(それぞれ、マグニチュード 7.9と、マグニチュード 7.2)が発生した。

これらの 1868年と 1975年の両方の地震で発生した津波は、ハワイに大きな被害と死者をもたらした。1975年の津波は、カリフォルニア州にも軽い被害をもたらした。

そして、問題は、このタイプの広範囲で破壊的な塊の海中への崩壊が、将来的にまたいつか発生するであろうということだ。



というものです。

そして、これに関しては、まったく予測も前兆もとらえることはできません。「ある日、突然、太平洋のすべての沿岸が数十メートルから最大で 500メートルの津波に襲われる」という可能性はそれなりの未来の現実として存在するようです。