2014年09月02日



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ウラジーミルの異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか



お釈迦様『大集経』法滅尽品より

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東西南北の国王が互いに戦争をし、侵略を行う。
虚空中に大音声が響き渡り、大地が震える。
悪疾が次から次へと流行する。
太陽と月は光を失い、星の位置が変わる。
白い虹が太陽を貫く凶兆があると、大地は振動し、水は涸れ、不時の暴風が起こる。







 



ロシアに実在する「自動核報復攻撃装置」で思い出すこと

最近、ロシアとウクライナとか、あるいはそれと関係した報道に、やたら「」という言葉が出てくるようになった気がします。

下の記事は 8月 31日の読売新聞の記事の後半部分の抜粋です。


「露は最強の核大国」プーチン氏、若者に語る
読売新聞 2014.08.31

ロシアのプーチン大統領は29日、モスクワ近郊で開いた若者との対話で、ウクライナ政府を支持する欧米諸国に対抗する姿勢を改めて示し、「自国の安全を守るため」として軍事力を強化する方針を強調した。(中略)「ロシアは最強の核大国の一つであり、核の抑止力と戦力を強化する」と述べ、欧米をけん制した。



海外の記事ともなると、下のような直情的な写真を使ったものなども散見します。

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▲ 2014年8月31日の Daily Beast より。


最近のこれらのような報道にある、関係者の人々の発言などを見ていて、今年春頃、ロシアの国営テレビのキャスターが自分のニュース番組で、「ロシアは米国を放射能の灰にできる」と述べた、という報道があったことを思い出しました。

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▲ 2014年3月17日の AFP 「ロシアは米国を放射能の灰にできる」国営TVキャスターが発言より。


抜粋しますと、下のような記事でした。


国が運営するロシア第1チャンネルのニュースキャスター、ドミトリー・キセリョフ氏は、毎週日曜に放映される自分のニュース番組で、「ロシアは現実的に米国を放射能の灰にする能力を備えた世界でただ1つの国だ」と語った。

キセリョフ氏はまた、「敵の核攻撃を受けた後、われわれの司令部の人員全てとの連絡が途絶えたとしても、システムは自動的に、地下施設や潜水艦からミサイルを正確な方角に発射する」と述べ、ソ連時代に使用されていた自動反撃システムが現在も運用されていることを示唆した。


ということを言っていたそうなのですが、この、

「ソ連時代に使用されていた自動反撃システムが現在も運用されていることを示唆した」

というフレーズを読み返した後、久しぶりに、スタンリー・キューブリック監督の1964年の映画『博士の異常な愛情』の DVD などを深夜見ていました。若い頃からこの映画は数限りないほど見ているのですが、何度見ても新しい面白さを発見します。

ところで、『博士の異常な愛情』と書きましたけれど、実際のタイトルは、 Wikipedia の下にありますように非常に長いタイトルの映画です。

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これは監督が各国版の公開に関して、原題の英語表記の「直訳」以外は認めないところからきたものですが、そのことはともかく、スタンリー・キューブリック監督の作品で、私個人が最も好きな作品でもあります。

そして、この映画は、ただ面白いだけではなく、

相互確証破壊

という概念を軸にして書かれたストーリーを映画化したものなのです。




デッドハンドとドゥームズデイ・デバイス

「相互確証破壊」などというのは、異常に難しい漢字の連なりですが、 Wikipedia の説明では、以下のようになります。


相互確証破壊は、核戦略に関する概念・理論・戦略。

核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し核兵器を使用した場合、もう一方の国が先制核攻撃を受けても核戦力を生残させ核攻撃による報復を行う。

これにより、一方が核兵器を先制的に使えば、最終的に双方が必ず核兵器により完全に破壊し合うことを互いに確証するものである。



これでも、まだわかりにくいですが、簡単に書きますと、

「やられたら、必ず、やり返す」

という規定がある場合、

「どちらからの先制攻撃であろうと、どちらの国も完全に滅びる


という意味のものです。

上で、ロシアのニュースキャスターが言っていた、

「ソ連時代に使用されていた自動反撃システム」

という概念もこれと関係したものだと思われます。

しかし、これがいわゆる「デッドハンド( Dead Hand / 死者の手)」と呼ばれる、ソ連時代から実在する自動報復システムのことなのかどうかわからないですが、一応、この「デッドハンド」についての説明を抜粋いたしますと、


旧ソビエト連邦およびロシアでは、米国の先制核攻撃により司令部が壊滅した場合に備え、自動的に報復攻撃を行えるよう「Dead Hand(死者の手)」と呼ばれるシステムが稼動している。

これはロシア西部山中の基地に1984年から設置されているもので、ロシアの司令部が壊滅した場合、特殊な通信用ロケットが打ち上げられ、残存している核ミサイルに対し発射信号を送ることで米国に報復するものである。



このデッドハンドは、現在のロシア連邦のひとつ、バシコルトスタン共和国にあるメジゴーリエ市( Mezhgorye )という「閉鎖都市」(外部の者は出入りできない秘密都市)の近郊にあるヤマンタウ山の地中深くに現存するという主張もあります。

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▲ ヤマンタウ山。Secret Bases Russia より。


ロシアの国営テレビのキャスターが言っていたのが、このデッドハンドかどうかわからないと上に書きましたが、その理由は、英語版の Wikipedia によりますと、「現在も稼働しているかどうかは不明」らしいからです。

ただし、2009年の米国ワイアードの「ソビエトの黙示録的な皆殺し装置の内幕」という記事では、その時点で、デッドハンドは存在し、また、自動報復の機能も生きており、さらに「アップグレード」も続けられていると記されていました。

doomsday-machine.gif
・ Wired Inside the Apocalyptic Soviet Doomsday Machine


上のワイアードの記事のタイトルの中に Doomsday Machine とあり、これを私は「皆殺し装置」と書いていますが、この Doomsday という単語の意味は、辞書的には、

最後の審判の日

とか

この世の終わり

を意味する言葉であり、決して「皆殺し」という意味ではないですが、どうしてそうしたのかといいますと、それが、先ほどのスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情(以下略)』に出てくる、ソ連の自動報復装置である Doomsday Device (ドゥームズデイ・デバイス)の日本語字幕を

「皆殺し装置」

という字幕にした日本語字幕陣のセンスに敬意を表してのものです。

doomsday-device.jpg
・『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』のシーンより。


そして、この『博士の異常な愛情(以下略)』のストーリーは、「相互確証破壊(やられたら相手も滅ぼす自動機能)」が、

機能してしまった

というものなのですね。

相互確証破壊(お互いの国同士)というより「無差別に全世界に死の灰を降らせる装置」が自動で作動してしまうというものでした。

その重いテーマを、キューブリック監督は最上の「喜劇」としての作品に仕上げたのでした(実際に、映画芸術の遺産の保護を目的とする機関「アメリカン・フィルム・インスティチュート」が2000年に選出した「アメリカ喜劇映画ベスト100」において、『博士の異常な愛情』は第3位となっています)。

しかし、このテーマ、映画では喜劇にできても、現実で喜劇にできるかどうかは何とも言えないところです。




「起きなかった」1983年の核戦争の報復攻撃

『博士の異常な愛情(以下略)』に描かれるような相互確証破壊、というか、つまり「偶発的核戦争」に関しては、実は今から 30年ほど前の 1983年に、

起きる寸前までいった

という出来事がありました。

これについては、 スタニスラフ・ペトロフ - Wikipedia に詳しいですので、そちらを読んでいただきたいと思いますが、最初の部分を抜粋いたしますと、


スタニスラフ・ペトロフは、ロシア戦略ロケット軍の元中佐。

1983年9月26日、ソ連軍の標準的な服務規程を逸脱し、監視衛星が発したミサイル攻撃警報を自ら誤警報と断定した。

複数の情報源によると、この決断はアメリカ合衆国に対する偶発的な報復核攻撃を未然に防ぐ上で決定的な役割を果たした。

監視衛星の警報システムに対する調査により、システムは確かに誤動作していたことがその後判明した。以上より彼は核戦争を未然に防ぎ「世界を救った男」と呼ばれることがある。


という出来事でした。

しかし、同じページには、

この事件は冷戦時代に戦略核兵器を扱う軍によって為された幾つかの際どい判断の1つである。

ともあり、その誰かの判断が「少し違っていたら」、自動装置による報復攻撃や、あるいは第三次世界大戦となっていったような「小さな事件」は本当にたくさんあったようです。

ちなみに、「世界を救った男」スタニスラフ・ペトロフがその後、ソ連から受けた仕打ちは、以下のようなものだったようです。


あわや核惨事に至るところをコンピュータシステムの警告を無視して防いだにも関わらず、ペトロフ中佐は彼が核の脅威に対処したやり方を巡って抗命と軍規違反の咎で告発された。

彼は重要度の低い部署に左遷され、やがて早期退役して神経衰弱に陥った。



現在は、日本円で月2万円程度の年金で暮らしているそうです。

もちろん、この話には懐疑論もありますけれど、これが事実か事実ではないかということは別にしても、「起き得る」ことであることもまた明白です。

特に多くの軍事システムがコンピュータ制御により自動化している現在では、(サイバー攻撃や単純なプログラムミスも含めて)以前より危険性は大きくなっているようにも思います。

以前、

アメリカ国防総省の機関がサイバー戦争での自動対応プロジェクト「プランX」構想を発表
 2012年08月23日

という記事で、アメリカで「サイバー戦争の自動報復システム」が着々と構築されているというようなことをご紹介したことがありますけれど、なんとなく、全体的に、このような「自動応答」だとか「自動報復」だとか、そういうようなものは、むしろ増えていっているのかもしれません。

すべてを意図的に進めたいというような陰謀論的な存在があったとしても、その意図を無視するかのように、いつでも確実に存在するのが「ミス」だったり「勘違い」だったりするものでもあります。

今は、いろいろな国がいろいろな緊張を高めたり、非難し合ったり、実際に殺戮がおこなわれていたりしますけれど、それぞれの指導者は「何らかの自信」を持っているかもしれないですが、それが結果として『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』のような「結末」を迎える可能性というのもないではないのだろうなあ、と思います。

今年の秋は何となく戦争や自然災害に対して不安な気分が強いです。


参考までに、映画『博士の異常な愛情(以下略)』で、ソ連大使から「皆殺し装置」の話が出る場面の台詞を記しておきます。場所は、政府と軍部高官が軍事に関しての国家最高機密ランクの会議をするウォールームです。




スタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964年)より

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ソ連大使  「皆殺し」装置
米国大統領 「皆殺し」装置?
ソ連大使  地球上の生き物を残らず死滅させる兵器です
米国大統領 生き物を残らず?
ソ連大使  それが爆発すると大量の死の灰が生まれ、10ヵ月で地球の表面は月のように死んでしまう
陸軍将軍  そんなバカな事が。どんな死の灰も2週間で安全になる
ソ連大使  コバルト・ソリウムGを知らないな?
陸軍将軍  何だそれは
ソ連大使  その放射能半減期は93年だ。100メガトン級の水爆50個をこれで包めば、その爆発で地球は皆殺しの衣に包まれる。死の雲が地球を取り巻くのだ。放射能が93年も
陸軍将軍  共産国一流のはったりだろうが
米国大統領 どうも分からんね。攻撃されたら爆発させると首相が言ったのか
ソ連大使  違います。正気の人間にはできません。皆殺し装置は自動装置で爆発します
米国大統領 解体すればいい
ソ連大使  それはできません。解体しようとするだけで爆発してしまいます
米国大統領 正気じゃない。なぜそんなものを作ったのだね
ソ連大使  反対もありましたが、結局これが一番経済的だと分かったのです。「皆殺し」計画は軍事費1年分より安上がりなのです。それにアメリカも同じ物を作っているそうではないですか。「皆殺し」格差は困る
米国大統領 そんな計画は承認していない
ソ連大使  ニューヨーク・タイムズで読んだ
米国大統領 ストレンジラブ博士! 本当にそんなものを作っているのか
ラブ博士  大統領。兵器開発局の長官として、私に与えられた権限に基づき、昨年、ブランド社へ同種の兵器研究を依頼しました。その報告による私の結論では、これは戦争抑止に役立ちません。理由は今や皆さんにも明白でしょう。
米国大統領 では、ソ連には実在すると思うかね
ラブ博士  その製作に必要な技術は極めて簡単で、弱小な核保有国にさえ可能です。作ろうという意志さえあれば
米国大統領 しかし、起動が完全自動で、しかも解体不能なんて可能なのかね
ラブ博士  それは可能だし、また絶対に必要な機能です。それがこの装置の第一条件ですから。抑止力とは敵に我々を襲う事を恐れさせる技術です。ですから、その爆発を完全に機械に任せれば、人間的な失敗は排除できる。「皆殺し」装置の恐るべき点は、その簡単さと、完全に非情な正確さにあります
米国大統領 しかし、どのように自動的に爆発させる
ラブ博士  それは驚くほど簡単です。地下に置く限り、どんな大きな爆弾でもできる。それが完成したら、巨大コンピュータ群に接続する。次に爆発させるべき状況を分析し、明確かつ詳細に定義の上で、プログラムに組み、保存させる。・・・しかし、 「皆殺し」装置の威力を発揮させるためには、その存在を公表しなければならない。なぜ黙っていた!
ソ連大使  月曜の党大会で発表の予定だった。首相は人を驚かすのが趣味だ