2014年09月15日



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太陽活動最大期の3年後に発生した観測史上最大の 2003年の X28 クラスの超巨大フレアのこと。そして、9月10日のXフレアの後になぜか「急減した地球の中性子」のこと



flare-x28-2003.gif

▲ 2003年 11月 4日の「 X28 」の太陽フレア。 NASA SOHO より。






 



先日の 9月 10日に、Xクラスの太陽フレアが発生したのですが、その時の正確な数値としては、

X 1.6

というクラスでした。

この程度の大きさの太陽フレアでも、地球に対して発せられた場合は、先日の、

太陽フレアが地球を連続して直撃し始める中、アメリカが誇る歴代の大統領たちの顔もうっすらと雪景色
 2014年09月12日

でご紹介しましたように、そのフレアについて大きく報道され、アメリカ海洋大気庁( NOAA )は、電力網や通信などに影響が出るかもしれないと警戒情報を出しました。

もう一度、数値を書きますと、「 X 1.6 」です。

では、過去に観測された中ではどのくらいの強さの規模のフレアが発生していたのか

名古屋大学の「太陽地球環境研究所 宇宙線研究室」の渡邉恭子さんという方が書かれた、

太陽中性子観測による太陽フレア現象における粒子加速機構の研究

という論文に以下の記述があります。


2003年 11月 4日 19 : 29UT に X28 という、とても大きな規模の太陽フレアが発生した。

これは観測史上最も大きなクラスをもった太陽フレアであった。


X 28 ・・・。

こんな規模の太陽フレアが発生していたことを初めて知りましたが、この論文の中には、この X 28 の太陽フレアの爆発エネルギーについて、

広島の原爆 10 兆発にも相当する

とあります。

単位は「兆」です。

この際のフレアは、当時の Space.com で報じられた ニュースのページが今でも残っています。

x28-2003.gif

▲ 2003年11月5日の Space.com より。


上の記事によりますと、この時の太陽フレアは、人工衛星による太陽観測が始められた 1970年代からの観測の中で最大規模だったとのこと。

この X28 という途方もないほどの規模の太陽フレアは、現在の前の太陽活動周期の「サイクル 23」の太陽活動の活動期におきたものですが、先に抜粋しました論文「太陽中性子観測による太陽フレア現象における粒子加速機構の研究」によりますと、サイクル 23の際には、

100 個以上のXクラスの大きな太陽フレアが発生した

とあります。

そして、そのすべてのXクラスの太陽フレアの中で、「中性子イベント」というものが発生したフレアは下の通りだそう。

cycle23-x-flare.gif


中性子イベントの概念はともかくとして、この時期には X 28 とか X 17.4 だとかのかなり大きな太陽フレアが発生していたことがわかります。

しかし、これらの太陽フレアは「地球の方向に面していない場所」で発生したようです。なぜなら、 X 28 なんてフレアが、地球方向にダイレクトに発生した場合は、確実に「大災害」となっていたはずだからです。

1989年に、カナダのケベック州で「ケベック大停電」という「 600万世帯」が停電に陥るという、カナダでは前代未聞の大停電が発生しましたが、この原因は、太陽フレアによるものでした。

この時に起きたことは、1989年3月の磁気嵐というページから抜粋しますと、

1989年3月13日に起きた磁気嵐は地球に非常に大きな影響を及ぼし、カナダではハイドロ・ケベック電力公社の電力網を破壊し深刻な被害をもたらしたり、米国の気象衛星の通信が止まるなど、各国の様々な社会インフラが影響を受けた。

ということがあったんです。

ちなみに、下の動画はその 1989年のフレアではなく、先に書きました 2003年の X28 の太陽フレア発生の瞬間を撮影した NASA の太陽観測衛星 SOHO の映像ですが、フレア発生の瞬間から画像にノイズが入り、機器が影響を受けているのがわかります。




現在の太陽活動は強いものではないですので、こんなパワフルな太陽フレアが発生する可能性はほとんどないでしょうけれど、それでも、さほど強くない太陽フレアでも地球を直撃すれば、今の社会はわりと大きな影響を受ける可能性もあります。

それは、この 20年間くらいの私たちの生活の変化に理由と原因があります。




たった25年で私たちの世界で変化した部分

カナダが太陽フレアによる大停電に陥った 1989年というのは、今から 25年ほど前のことで、さほど昔のことではないと思われるかもしれないですけれど、この頃と現在の「決定的な違い」は、

生活でのインターネットや携帯、スマートフォンへの依存度

です。

簡単にいえば、1989年と同じような太陽フレアの直撃があれば、これらは一部、あるいは規模によっては「すべて」が使い物にならなくなるという可能性があることが、25年前と現在とでの生活への影響の違いです。

25年前はどんな先進国でも、インターネットもパソコンも、まして携帯電話やスマートフォンなどとは少なくとも一般人は無縁の世界でした。

私が初めてパソコン( Mac でした)を購入したのは、多分、1993年頃で、今から 20年くらい前のことだと思います。しかし、この時でも、インターネット自体は存在していたとはいえ、日本ではまだ個人のインターネット接続はあまり普及していませんでした。

私が初めてインターネットに接続したのは 1995年くらいのことではなかったかと思います。ようやくインターネット生活が始まったわけですけれど、それでも、当時の電話回線を利用した「ダイヤルアップ」といわれる方式は今とは比較にならないほど遅い回線であって、とても「生活上で利用しまくる」というようなタイプのものではなかったです。写真1枚表示するのに数分かかったような時代でした。

しかし、その後、かなり早いペースでインターネットの環境が整い、それから 10年もしないうちに、多くの国では、生活上のありとあらゆるものが「インターネットやコンピュータプログラムに依存」していくことになります。

今では車もコンピュータの塊ですから、1989年レベルの太陽フレアの直撃があれば、車を動かすことはできなくなると思われます。つまり、物資の輸送や食糧供給も止まるということです。もちろん、パソコンを含めて、コンセントにつないでいる電化製品は、そのままの状態ですと、大きく損傷する可能性が高いです。

そんなこともあり、現在の文明社会に X 28 などという規模の太陽フレアが発生し、それが地球にダイレクトに向かった場合、前もって保護の準備をしていない場合、

通信手段から電気、物資の輸送まで、ほぼすべての生活上のインフラが崩壊する

という可能性があるところが、現代文明の脆さのひとつでもあります。

もし X28 などの巨大な太陽フレアによる磁気嵐が現代の地球を直撃した場合の具体的な被害はわからない部分も多いですが、 Wikipedia には、


仮に1859年と同レベルの太陽嵐が発生し地球に直撃すれば、広範囲で停電が発生し、現代社会における電力やGPSに依存する機能、水道などのライフラインが破壊され、全世界で2兆ドル規模の被害が発生するとの試算がある(全米研究評議会 、2008年)。


とあります。

2兆ドルは日本円で約「200兆円」ですが、そのような被害を全米研究評議会というアメリカの学術機関が推計しているようです。

このことは、過去記事の、

2012年 7月 23日に地球の文明は太陽によって「終末」を迎えていたかもしれなかった
 2014年03月21日

など、何度か記したことがあります。

気づけば、私たちの文明スタイルはあまりにも、

・電気
・無線通信(携帯やスマートフォン)
・インターネット


などに多くを依存するようになっていたということが問題なのかもしれません。

もちろん、世界には、インターネットはもちろん、電力にもほとんど依存せずに生活している人たちがたくさんいます。そういう人たちは、文明社会においては確実なカタストロフである「太陽からのスーパーフレア」の影響などまったく受けないわけです。

テクノロジーや電気的な生活に依存している国になればなるほど、太陽フレアの影響は深刻です。

そういう意味では、この 20年くらいの間に進んだ「過度にインターネットに依存した文明」というのは、冷静に考えれば、

「いつかはカタストロフ(破局)が訪れるべくして築かれた文明」

ではあるのかもしれません。

今は太陽活動最大期の頂点くらいの時期にいるとされているのですが、ここで、先ほどの論文「太陽中性子観測による太陽フレア現象における粒子加速機構の研究」の表をもう一度載せますので、見てみて下さい。

cycle23-x-flare.gif

大きな太陽フレアが発生したのが 2003年であることに気づきます。

先日の、

13年目の 9月 11日に地球を直撃するCME
 2014年09月10日

に書きましたが、この時の太陽活動の活動最大期は「 2000年」だったのです。

つまり、活動最大期から3年も後になって X28 などという途方もない規模の太陽フレアが発生したわけです。

現在の太陽活動も、いつが活動最大期なのかよくわからないような曖昧な状態が続いていますけれど、一応、 NASA などは現在が活動最大期だという認識を示しています。しかし、基本的には、現在の太陽活動は「過去数百年で最も弱い」ものです。

それを考えると X10 を越えるような巨大な太陽フレアが発生することはちょっと考えがたい面はあります。

ちなみに、下の表は 2012年 12月 29日から 2014年 9月 13日までに発生した、その日の最大の太陽フレアを示したものですが、この約1年9ヶ月ほどの間で最大の太陽フレアは、2014年 2月 25日に発生した X4.9 のフレアでした。

x-12-25.gif
太陽活動の現況


現在までに X5 を越える規模の太陽フレアは今のところ発生していないことがわかります。

上の表は「赤」の部分がXフレアが発生した日ですが、この「赤色」の数が 17個しかないということは、2年近くの間に「17回のXフレアしか発生していない」ということを示していて、今が太陽活動最大期だとすれば、このサイクル 24という弱い太陽活動周期の現実を改めて思います。

しかし、たとえば、昨年 10月の記事、

数百年来の弱い太陽活動の中で突然起きた「太陽の大爆発」の余韻と共に NASA のサイトも NOAA のサイトもシャットダウンした朝
 2013年10月02日

の中でご紹介したように、突然「予測していなかった」大規模なフレアが発生するということもありました。

要するに、

「全体的な太陽活動が弱い」

からといって、それが、

「大規模な太陽フレアが発生しない」

という理由となるわけではない、ということです。

それに、地球を直撃する巨大フレアは「たった一発」でOKなわけです。

「OK」というのは変な表現ですが、全体的な太陽活動が弱かろうが強かろうが、地球の文明を崩壊させるには、「一発」の地球方向への巨大フレアがあれば、それでいいわけで、その後何発続けて発生しようが、すでに(直撃したエリアの)文明は崩壊しているわけで、とにかくどんな理由による太陽フレアでも、一発だけでも発生すれば、それで終わりなんです。

さらに、この昨年 10月の太陽フレアは黒点の領域からではなく、プラズマの爆発による太陽フレアでした。つまり、黒点なんてなくても、巨大フレアは発生するのです

ちなみに、1975年からの観測史上での巨大な太陽フレアの上位5は NICT の資料によりますと以下の通りです。

1位 X28.0 2003年11月04日
2位 X20.0 1989年08月16日
3位 X20.0 2001年04月02日
4位 X17.2 2003年10月28日
5位 X17.0 2005年09月07日

これらはすべて、地球の方向ではない場所で発生したものでしたので、人工衛星への影響などを除けば、どれも地球での被害はなかったと思いますが、こんなものが「一発でも」地球方向に向いた面で発生すれば、直撃を受けた地域は原始時代に逆戻りしてしまう可能性もあります。

実際に、過去記事「2012年 7月 23日に地球の文明は太陽によって「終末」を迎えていたかもしれなかった」では、その 2012年 7月 23日に発生した巨大な太陽フレアが「地球をかすめていたことが判明した」ことが今年 2014年になって解析によってわかったことを書いています。

そのことを記した 2014年 3月 19日の米国フォーブスの記事のタイトルは、「地球の文明を暗黒時代に戻すことができるほどの巨大な太陽からのスーパーストームが地球のすぐ近くを通過していた」というものでした。

dark-age-flare.gif
Forbes




太陽の磁場と磁極は現在どうなっているのか

ところで、なぜ最近になって、太陽フレアが地球方向に向けて発生するようになったかということに関して、

太陽の磁極の反転との関係

について言及されたお話を伺ったことがあります。

これに関しては、昨年8月に NASA が「太陽の磁極の反転」が始まったことを確認したことを、記事に書いた後、昨年の 12月 31日の、

汚れた血も悪くはないと考えていた 2013年の終わりに「太陽の磁場のポールシフトはすでに完了していた」ことを知る
 2013年12月31日

という記事で、「太陽の磁場の反転が完了した」報道をご紹介しました。

しかし、それ以前の問題として、

今回の太陽の磁場の反転には異常があった

ことが 2011年から宇宙航空研究開発機構の太陽観測衛星「ひので」が捉えていました。下は、2011年9月2日の読売新聞の記事です。


地球環境に変動? 太陽北極域で異例の磁場反転
読売新聞 2011年09月02日

宇宙航空研究開発機構の太陽観測衛星「ひので」が、太陽の北極域で磁場が反転し始めた様子を観測することに成功した。

太陽の北極、南極の磁場は約11年周期で反転することが知られているが、今回は予想時期より2年も早いうえ、南極域では反転が見られないなど異例の様相を呈している。

地球の環境変動につながる恐れもあるという。

磁場の反転と、太陽の黒点数増減の周期は、通常約11年で一致していたが、2009年初頭まで続いた黒点の周期は12・6年に延びた。活動周期が延びる時期は、地球が寒冷化することが知られている。

研究チームの国立天文台 常田佐久教授は「観測されたことのない事態だ。地球環境との関係を調べるため、太陽活動を継続的に監視していく必要がある」と話す。


この3年前の読売新聞の記事の、

> 地球の環境変動につながる恐れもあるという。

という部分をあらためて読み直して、この2〜3年に地球で起き続けた「荒れた」自然災害や自然環境、そして荒れた天候の数多くの出来事を思い出します。

それはともかく、この「太陽の異変」はその後も続き、2012年には太陽が「4極の磁極」を持ったことが観測されるようになります。

2012-solar-polar.gif
・過去記事「国立天文台が発表した4極化する太陽磁場」より


この磁場の異変は 2013年になっても続き、

国立天文台が「太陽の磁場異変の進行」を確認し、その状態が過去の「小氷河期」と類似していることを発表
 2013年02月05日

という記事では、国立天文台などが、

太陽の北極域では磁場がマイナス極からプラス極へ反転する現象が急速に進んでいる一方、南極域の磁場は依然としてプラス極のまま変化が少ないことを確認した。

という太陽の磁場の異変を確認しています。

そんな異常の中で、2013年末までに太陽の磁場の反転は完了したのですけれど、私がふと思うのは、

「現在の太陽の磁場や磁極は正常な状態なのだろうか」

ということです。

何らかの磁場の異常、あるいはこれまでとは違った状態の磁場を持っている、というような可能性があるのではないかと思うこともあります。しかし、こればかりは「ひので」などの観測衛星のデータが発表されないとわからないことなのかもしれません。

ところで、地球の「中性子」が急激に減少していることを知らせて下さった方がいました。それは、先日の 9月 10日の太陽フレアの後に起きています。

下は、アメリカのデラウエア大学にある中性子モニターのリアルタイムデータのうちの南極のものですが、12日頃から急激に減少しているのがおわかりかと思います。

sp-0913.gif
BARTOL NEUTRON MONITOR


これが何を示しているのか・・・というと、私にはわからないのです

というのも、私が持っている曖昧な知識では「太陽フレアは大量の中性子を発生させる」というものだからです。

たとえば、名古屋大学の柴田祥一氏の論文「太陽フレアに伴う中性子の観測と地球大気中での伝播」の概要の冒頭は、

太陽フレアに伴って中性子が大量に発生する。中性子は電荷を持たないため、惑星間磁場によって曲げられることなく太陽から地球へ直進して来る。

です。

たとえば、下の表は、2006年 12月13 日に X3.4 の太陽フレアが発生した際の、上と同じデラウエア大学の中性子モニターのグラフです。

theplot-2003.gif
・200612月14日の NICT

太陽フレアの発生時に中性子が一気に上がっていることがわかります。

しかし、今回は太陽フレアが地球を直撃した後から「中性子が急激に減っている」ということになり、これはどうにも私にはわからない領域です。あるいは、このような現象は特に不思議なものではないのか、そのあたりさえもわかりません。

しかし、ふと思えば、何よりも、そもそも私は「中性子」というものをよく知らないわけで、このことはもう少し勉強してから考えた方がいいかもしれないです。

ダラダラと長くなってしまいましたが、やっばり全体として何となく「変」な感じのする最近の太陽であり、そして、地球を含む太陽系の惑星です。