▲ 2014年8月23日のギリシャ defence net より。
大量死の代名詞となりつつある地中海
今朝、下のような報道がされていました。
地中海で難民700人超死亡か=人身売買業者、船沈める
時事通信 2014.09.15
国際移住機関(IOM)は15日、地中海で難民船2隻が相次いで沈没し、計700人以上が犠牲になった可能性があると明らかにした。船にはパレスチナなどから逃れた難民が乗っており、うち1隻は人身売買業者に意図的に沈められたという。
救出された難民はIOMに、船にはパレスチナやシリア、エジプト、スーダン出身者ら少なくとも500人が乗っていたと証言。救出されたのは9人にとどまり、大半が死亡したもようだ。
また14日にもパレスチナ難民らが乗った船がリビア沖で沈没。約30人が救出されたが、約200人が犠牲になったとみられる。
実は、最近の地中海では、上みたいなことが頻繁に起きていて、8月 28日の朝鮮日報の記事では、「今年だけでボートピープル 1800人死亡。死の海と化した地中海」というタイトルの記事が掲載されていましたが、その後も相次いでいる上に、先に載せましたニュースのように、700人が犠牲になるような事故も起きたりもしていて、また、把握されていない事件事故も多いと思われ、一体今年の地中海でどのくらいの人命が失われているのか想像もつかないほどです。
その記事には、「密航ビジネス」の実態なども含めて、今後も地中海の大量死が収まる気配を見せないかもしれないことを示す内容が多く載せられていますので、ご紹介したいと思います。
そして、冒頭に載せましたように、地中海を渡りヨーロッパに次々とやってくるボートピープルや難民に対して、一般のギリシャ人やイタリア人など、地中海周辺の人びとは、明らかに危機感、あるいは、敵対感を持つ人が多くなっているようです。
それに加えて、今のアフリカには、「エボラ」があり、最近ではこれが「空気感染するウイルスに突然変異する可能性」が囁かれていたりします。
これに関しては、
・エボラウイルスが突然変異により空気感染する能力を獲得した場合「 120万人の死者が出る」と予測する計量経済学者
2014年09月16日
という記事で簡単にふれています。
・Guardian Liberty Voice
さすがに今のところ、そのような突然変異を見せている気配はないようですが、かつて、エボラ・ウイルスの別の株である「エボラ・レストン」というウイルスが、突然変異により空気感染する能力を獲得したことが実証されたことがあるのだそうです。
そういう意味では「ゼロ」ではないと。
仮にエボラウイルスが空気感染可能なものと化した場合、アフリカ内での感染拡大も著しいものとなるでしょうけれど、そのアフリカからヨーロッパへと何十万人もの難民が毎年移動してきているわけで、単なる人種的な問題を越えた「パンデミック的な問題」も発生し得るわけです。
今回は、朝鮮日報の「今年だけでボートピープル 1800人死亡。死の海と化した地中海」という記事を翻訳してご紹介したいと思いますが、最近、こういうような「大量死の報道」を見ていますと、
無意識の精神的な逃避
とでもいうのか、「死後」という概念を考えます。
そういえば、最近の、
・火山性ガスを噴き出すアイスランドの火山……美しさ……転生……感覚的世界……人生を体験していること
2014年09月13日
という記事で、「転生」のことを書いたりしましたが、最近のニュースで、ふと、漫画家の大島弓子さんの 1987年の作品『秋日子かく語りき』を思い出すことがありました。この漫画は「転生」をテーマにしたものです。
異常な横道の逸れ方になるかもしれないですが、少し書きますね。
李香蘭から『秋日子かく語りき』。そして川端康成の「死後の生存」の概念にまで行き着いた一日
先日、下のニュースがありました。
山口淑子さん死去 「李香蘭」の名前で活躍
NHK 2014.09.14
戦時中、日本人であることを伏せて李香蘭の名前で女優として歌や映画で活躍し、戦後はテレビ番組の司会者や参議院議員も務めた山口淑子さんが、今月7日、心不全のため東京都内の自宅で亡くなりました。94歳でした。
このニュースを読んで「李香蘭といえば……」と、彼女の歌で唯一知っていて、お気に入りでもある 1944年の「夜来香 (イエライシャン)」 を、久しぶりに iTunes で聴いたりしていました。
しかし、何でそんな戦時中の曲(後で、テレサ・テンも歌っていましたけれど)を知ったかというと、『秋日子かく語りき』の一コマに、イエライシャンのフレーズを主人公の女の子(の肉体だけを借りている中年女性の霊体)が歌っているシーンがあるのです。
・『秋日子かく語りき』より
イエライシャンが日本語ではなさそうなことはわかりますが、
「彼女は何語の歌を口ずさんでいる?」
と気になったのがキッカケで、ずいぶん後になり、それが李香蘭の「夜来香」だったことを知ったのでした。
下が「夜來香」です。
この「夜来香」はともかくとして、転生をテーマにした大島弓子さんの『秋日子かく語りき』、ストーリーについては、「秋日子かく語りき」(大島弓子 作)〜輪廻転生について考えました〜という記事から引用させていただきますと、
普通の主婦、というよりおばさん・竜子と、のほほんな女子高生・秋日子。二人はあの世とこの世の境目で出会います。
そこに天使様が会われて、二人は事故に遭い、竜子は死んでしまったこと、秋日子の体は元気で、ここにいるのは間違いだから、帰りなさいと話します。
納得できないのは竜子です。このままじゃ死ねないと、天使様と秋日子に頼みこんで期間限定で秋日子の体に蘇ることになります。
というところから始まる1週間の波瀾万丈を描いた、わりと他愛ないと言えば他愛ない話ですけれど、登場人物たちの現実的な感情の描き方や、何より大島弓子さんの絵が最も素敵な頃で、二十代の頃、好きな作品でした。
アネモネ転生と川端康成の考えていた「死後の人生」
ところで、この『秋日子かく語りき』の中に「アネモネ転生」という言葉が台詞に出てくるのですけれど、今まで気にしたことがなかったですが、
「アネモネ転生って何だ?」
と急に思って、 Google で「アネモネ 転生」と検索してみましたら、1番最初に出てきたのが下の小説でした。
こんな小説知らないですし、読み方も危うい。
どんな作家の小説かと、この抒情歌 - Wikipedia のページを見ますと、
『抒情歌』(じょじょうか)は、川端康成の短編小説。川端が新境地をみせた初期の代表作の一つで、川端の死生観がよく示されている作品である。また、川端自身が最も「愛してゐる」作品の一つでもある
あれれ・・・川端康成さんの作品のようです。
1932年に出版されたものだとか。
そのあらすじは、
ある霊感の強い女人が、恋人に捨てられ、その人の死を知り、その苦悩や失意の中で「輪廻転生の抒情詩」に救いを求める愛と死の物語。
嫉妬や呪詛、悲しみの末、禽獣草木、天地万物のうちに愛する人や自身を見出し、霊の国や冥土、来世で愛する人の恋人になるよりも、一つの花になりたいという汎神論的心境に思い至るまでの詩的な心の軌跡が、霊的モチーフで神秘的に描かれている。
とあり、なかなか難しそうですが、ここのどこに「アネモネ転生」という言葉が出て来るのかというと、下の部分です。
「私」は、「魂」という言葉を、「天地万物を流れる力の一つの形容詞」と感じ、動物を蔑んでいる因果応報の教えを、「ありがたい抒情詩のけがれ」と呼び、エジプトの死者の書や、ギリシャ神話はもっと明るい光に満ち、アネモネの転生はもっと朗らかな喜びであると思った。
「うわ、意味がわかんない」と、さらに、意地になって調べてみますと、どうやら、ギリシャ神話に出てくるアドニスという人の「血の転生」のことを示しているようです。
血の転生というか、
「アドニスが死んだ後、その血がアネモネに転生した」
というような話です。
『ギリシア神話小事典』という本を参照しているこちらのサイトから抜粋しますと、このアドニスは、軍神であるアレスという神様に殺されてしまうのです。その後、
アドニスは、猪に突き殺された。
アフロディテはアドニスの死を悲しんだ。死と嘆きを忘れないように、毎年思い出すように、アドニスの身体から流れる血に、深紅のアネモネを咲かせた。
アプロディテはゼウスに頼んだ。
「アドニスが暗い冥府で過ごすのはかわいそうだから、せめて夏だけ、私のそばに置いてください」
それで今でも、アネモネは夏になると、可憐な花を咲かすのである。
というものだそう。
「なるほど」と、ここで、私は、『秋日子かく語りき』を最初に読んでから約 25年も経過した後に、『秋日子かく語りき』の最後の台詞、それは、秋日子の友人の言葉ですが、その意味に辿り着くことができたのでした。
下がその台詞です。
それぞれが未来の転生のことを夢みてた
しかし、わたしは、
花や蝶になりたいというのでなければ、
我々はとっても近い今生のうちに
それぞれの夢をかなえることをできるのだと
固くそう思っていた
ギリシャ神話のアドニスのように(死後に)花に生まれ変わるというようなことは、生きているあいだには無理だけれど、それぞれの夢は(死ぬ前に)かなえられるのだ、と作品中の彼女は言っていたのだと。
まあ、私のように年齢的に五十代という冥府の王ハーデスか、あるいは、人生の希望の確率がアナザーゴッドハーデス(1/8192)のレベルまで下がりつつあるところまで年をとりますと、今生に夢がかなう・・・というフレーズは、なかなか受けつけないようになってしまいますが、若い人などには、こんな素敵な言葉はないのかもしれないとも思ったりします。
ところで、「アネモネ転生」を解き明かすキッカケとなりました、川端康成さんの『抒情歌』という小説は、先ほどリンクしました、 Wikipedia をさらに読みますと、川端康成さんは「死後の生存」という概念について考えていたようです。
というわけで、余談どころではない逸脱となってしまいましたが、
・大量死
という言葉は、文字通り、「多くの死」のことです。
その「死」の先に何があるのかを最近は考えざるを得ないような世界の趨勢ではあるように思います。
それでは、最近の地中海の現状についての記事です。
なお、下の地図は、国連難民高等弁務官事務所( UNHCR )が 2011年に作成した「他国への難民流出の数」を示したものです。
・Guardian
国によっての差は大きいですが、年間単位での難民発生数がかなりのものになることがおわかりかと思います。
そして、正確な比率はわからないですが、その中のかなりの人びとが、地中海からヨーロッパを目指すルートを試みます。
news.chosun.com
今年だけでボートピープル 1800人が死亡…今や「死の海」と化した地中海
・Independent
アフリカの正常不安により 12万人が EU に密入国
8月22日、リビアの首都トリポリから東へ 60キロメートルの地中海の海上で、北へ向かっていた長さ 16メートルの木造船が突然転覆した。
船には、ヨーロッパに密入国しようとしていたエチオピアやエリトリアなど、アフリカ諸国の難民約 200人が乗っていた。そのうち 180人あまりが死亡した。
次の日、地中海のイタリア・ラムペ二の南の沖でエンジン故障で漂流していた船から18人の遺体が発見された。その翌日には数百人を乗せて密航していた漁船が沈没し、6人が死亡した。
死者はすべて「より良い生活」を夢見てヨーロッパへ船に乗ったアフリカ難民たちだった。
地中海を介して欧州連合( EU )に密入国した件数は今年だけで 12万 4380人(8月時点)に達し、「アラブの春」で、中東情勢が混乱に陥った 2011年の 6万 9000人以来、最大となった。
イギリスのエコノミスト誌は、「昨年、密航船の沈没で 368人が死亡した事件を契機として、イタリア海軍が密航船の遭難者の救助活動に積極的に乗り出したことにより、むしろ流入が急増した」と分析した。
密航が多くなり、船舶の転覆等による死亡件数も急増している。今年(8月まで)の密航による死亡者は 1880人にのぼる。
これは、現時点で、昨年1年間の 600件の3倍を越えた数となっている。
米国 CNN は「地中海が『死の海』に変わった」と述べた。
密航の現実は冷徹だ。 CNNは、「業者が監視レーダーを避けるために小さな船を利用する」こと、そして「収益のためにを船に人びとを最大限まで詰め込む」ことなどの現状を報じた。
20日あまりゴムボートに乗る際に、ライフジャケットを着るためには 200ドル(約2万円)、良い席を確保するためには 300ドル(約3万円)を追加で支払わなければならない。
水と食べ物は 100ドル(約1万円)だ。
業者たちは、密航ビジネスで最大 100万ユーロ(約 1億 3,000万円)を手にしていると、イタリアの日刊紙は伝えている。
これらの「ボートピープル」のほとんどは、アフリカおよび中東出身だ。懸命に働いて、一日2〜3ドル( 200〜 300円)をやっと手にできるかどうかという人ばかりともいえる。
それにも関わらず、彼らが平均で 2,500ドル(約 25万円)にものぼる金額を業者に支払ってまで「死の海」を渡るのは、母国の慢性的な政治的、社会的不安に原因がある。
内戦中の中央アフリカ共和国の難民は、すでに 62万人にも達していることなどが代表的な例だ。
ドイツのシュピーゲル紙は「密航船への搭乗の機会を待ち続けている人がモロッコだけでも4万人いる」とし、「リビアで不法入国を準備している難民は 30万人いると推測される」とした。
難民問題で、欧州域内の対立も激しくなっている。
昨年だけで約 4万 3000人の難民が入国したイタリアは、海上密入国の「関門」と呼ばれるほどだ。
今年、地中海で難民約 10万人を救ったイタリア海軍は、救助作業だけで毎月約 900万ユーロ(約 12億円)を費やしている。イタリア内務長官は最近、「この現状では 10月からは、難民救出の仕事をすることができない」と述べている。
しかし、北欧諸国は、「最初に入国した南欧諸国から難民申請をすることはダブリン条約に準拠している」と意見は真っ向から対立している。
昨年、EU 加盟国 28カ国全体の難民申請 32万件のうち 56%はドイツ、スウェーデン、フランスに集中した。
しかし、実際に難民として認められた割合は、昨年が 15%( EU 28カ国平均)に過ぎない。
フランス国内では、不法移民が 20万〜40万人いると推測されるほどの状態だ。
移民問題は、ヨーロッパ内の極右派の勢力拡大につながる。ドイツのシュピーゲル紙は「これまで人権を強調してきたヨーロッパの難民問題が道徳的ジレンマに直面している」と記した。