▲ 2014年10月14日の米国ニュー・サイエンティストより。
彗星の香り…それは「強烈な悪臭」だった
今年夏に書きました、
・アイスランドの火山の状況のその後と、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
2014年08月29日
という記事で、「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」というものを取り上げたことがあります。
欧州宇宙機関( ESA )の観測衛星ロゼッタが「 10年 5ヵ月の旅」を経て 8月 6日に、このチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の軌道に入ったという報道をご紹介したものでした。ロゼッタは、今年の 11月にはこの彗星に着陸する予定です。
そのチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星ですが、大きさは、最大部分で約3キロメートルある彗星で、下の写真のような形をしています。
現在、観測衛星ロゼッタは、この彗星の観測と分析をおこなっているわけですが、最近、ロゼッタが、このチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の「匂い」のデータを送信してきました。
そして、その匂いが「きわめて悪臭」だということがわかったのですね。
後で再びふれますが、これは、過去記事の、
・宇宙空間に「強烈な匂い」が漂っていることを知った日: 「それは焼けたステーキと金属の匂い」と語る NASA の宇宙飛行士たち
2012年07月24日
などとも関係しそうな話でもあると共に、この観測結果は、彗星が単なる無機的な氷の塊ではないことを意味します。
ロゼッタには、成分の分析のための「機械の鼻」がついていて、それによって緻密に成分を分析するのですが、送られてきたデータの主な成分は、
・硫化水素
・アンモニア
・シアン化水素
・ホルムアルデヒド
・メタノール
・二酸化硫黄
などで、つまり、この彗星は硫黄やらアンモニア臭やらが混合した「ものすごい悪臭」を発していることがわかったのです。
先に、冒頭のニュー・サイエンティストの記事の翻訳を載せておきます。
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Comet stinks of rotten eggs and cat wee, finds Rosetta
NewScientist 2014.10.24
彗星は、腐った卵や猫のおしっこの悪臭を放つことを探査機ロゼッタが発見
彗星とはどのような「匂い」がするものだと思われるだろうか?
その答えを端的にいえば、かなりひどい匂いのようだ。
欧州宇宙機関( ESA )の彗星探査衛星ロゼッタから送信されたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星のデータからは、この彗星からは腐った卵や猫の尿やアーモンドの匂いなどが混合した匂いが放たれていることが明らかとなった。
しかし、この悪臭は、実は朗報といえる。
この悪臭の背後にある硫化水素、アンモニア、および、シアン化水素は、凍結した水と二酸化炭素と混合されたものだが、ロゼッタの分光計がこのような様々を検出するとは誰も思ってはいなかったのだ。
成分中には、さらに、ホルムアルデヒド、メタノールおよび二酸化硫黄が含まれていた。
「これは本当に素晴らしいものです。10年待ち続けた後、突然、私たちの前にこのようなもの(匂いの成分のこと)が現れたのです」
と、スイス、ベルン大学のカスリン・アルトウェッグ( Kathrin Altwegg )教授は言う。
アルトウェッグ教授は、 ROSINA と呼ばれるロゼッタのイオン分析計と中性分析計、つまりロゼッタの機械の「鼻」の担当者だ。
「驚くべきは、太陽からこれだけの距離がありながら、非常に豊富な化学的性質を持っているということです」
氷の彗星がさらに熱を帯びると、 ROSINA は、より複雑な分子を検出することができるであろう。
アルトウェッグ教授は、それらの匂いの成分が共通の発生起源を持っているかどうかを判断するために、他の氷玉とチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の分子を比較しようとしている。
彗星は、太陽系の初期の時代から残ったビルディング・ブロックであり、彗星観測衛星ロゼッタの目的のひとつが、それらの彗星がすべて同じ発生源から来ているものかどうかを同定することにある。
もし、彗星それぞれの発生源が違った場合、それは地球上に生命が発生するために必要な分子の起源を説明することができる可能性がある。
ちなみに、このチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の匂いは非常に低い成分であり、人間の鼻では気づかない程度のものだ。「私たち人間が彗星の上に立っても、この匂いを検出するには犬の力を必要とするでしょう」とアルトウェッグ教授は言う。
翻訳記事はここまでです。
それにしても、このチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から検出された成分を見ていると、
「妙に毒性の強いものが多い」
ことに気づきます。
今回の彗星から検出された成分の性質は下のようなものです。
すべて Wikipedia の説明を引用しています。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から検出された成分
・硫化水素 → 水によく溶け弱い酸性を示し、腐った卵に似た特徴的な強い刺激臭があり、目、皮膚、粘膜を刺激する有毒な気体である。
・アンモニア → 無機化合物。特有の強い刺激臭を持つ。
・シアン化水素 → メタンニトリル、ホルモニトリル、ギ酸ニトリルとも呼ばれる猛毒の物質である。
・ホルムアルデヒド → 有機化合物の一種で、最も簡単なアルデヒド。毒性は強い。
・メタノール → 有機溶媒などとして用いられるアルコールの一種である。
・二酸化硫黄 → 無機化合物。刺激臭を有する気体で、別名亜硫酸ガス。自動車の排気ガス等で大量に排出される硫黄酸化物の一種であり、環境破壊、自動車公害の一因となっている。
彗星とは、かくも毒々しいものでもあるようですが、しかし一方で、この成分たちからは、一部、「生命」の雰囲気が漂います。生命というか「有機物」といったレベルでの話ですが、少なくとも、彗星は「単なる汚れた氷の塊ではない」ということが今回のデータでわかったのではないかと感じます。
さて、この「宇宙の悪臭」ですが、上にもリンクしました過去記事「宇宙空間に「強烈な匂い」が漂っていることを知った日……」では、宇宙飛行たちが「自分が宇宙空間で感じた匂い」を、考え得る限り挙げたディスカバリーの記事をピックアップしていますが、宇宙空間というのは、おおむね、
・アジア料理の香辛料
・ガソリン
・汗をかいた足の匂い
・体臭
・マニキュア取りの薬剤
・肉を焼いた匂い
などが混じったような強烈な匂いがするのだそうです。
▲ 何となく「無臭」のように思える宇宙空間には、実は「強力な匂い」が漂っています。
上の記事では、宇宙ステーションでの任務をおこなった NASA のドン・ペティット宇宙飛行士が、自らのブログに記した以下の文章をご紹介しています。
「宇宙空間の匂いを説明することは難しいです。これと同じ匂いを持つものの比喩ができないのです。強いていえば、『チキンの料理の味がする金属の匂い』というような感じでしょうか。甘い金属のような感覚の匂い。溶接とデザートの甘さが混じったような匂い。それが宇宙の匂いです」
どうして「匂い」がするのかというと、その理由として、現在の科学では、
・酸素原子
・イオンの高エネルギーの振動
などの理由ではないかとされていますが、しかし、よくは分からないながらも、そのような理由で、
・アジア料理の香辛料
・ガソリン
・汗をかいた足の匂い
・体臭
・マニキュア取りの薬剤
・肉を焼いた匂い
の匂いが全部出ますかね?
特に「汗をかいた足の匂い」などという臨場感に富んだ匂いからは「生物」という雰囲気をとても感じます。
ちなみに、私自身はぶっちゃけ、これらは「有機物や、大量の微生物」だと思っていますし、あるいは、彗星の「悪臭」を作っているものもそうだと思います。
とはいえ、そのようなことを私のような科学の素人が書いても説得力がないわけで、ここは、現代物理化学の神様的な存在でもあるスヴァンテ・アレニウスと、フレッド・ホイル博士にご登場いただきたいと思います。
宇宙の「チリ」自身がすべて生命だと考えたアレニウス
スヴァンテ・アレニウスという科学者は、Wikipedia の説明をお借りしますと、
スヴァンテ・アレニウス( 1859 – 1927年)は、スウェーデンの科学者で、物理学・化学の領域で活動した。物理化学の創始者の1人といえる。1903年に電解質の解離の理論に関する業績により、ノーベル化学賞を受賞。
という方です。
そのアレニウスは、19世紀以降の科学者の中で最初に「地球の生命は地球外の宇宙から飛来してきたものだ」とする説を持ち、この説に「パンスペルミア」という名をつけました。この言葉はギリシャ語で、「パン」は日本語で「汎」を意味して、「スペルミア」は「種」という意味です。
要するに、パンスペルミアという言葉自体は、
「生物のタネは(宇宙も含めて)広くそのすべてにわたる」
という意味の言葉で「どこにでも生物はある」ということを表しただけであり、言葉の意味自体は難しいものではないです。
・宇宙塵自身が生命であることに言及した 100年前のノーベル賞学者の実験
2011年05月07日
という過去記事にも抜粋したことがありますが、「エピソードで知るノーベル賞の世界」というサイトにはこのように記されています。
「生命の地球外起源説」にも挑戦したアレニウス
アレニウスは、化学の分野のみならず、あらゆる科学にも通じていた。彼が貢献しなかった科学の分野はほとんどなかったとも言われている。
彼は、宇宙空間を漂っている「生命の種子」を想定し、これが太古に地球上に降り注いだ可能性もあり、地球上の生命の発生にもつながったのではないかとする「パンスペルミア説」(汎宇宙胚種説)なども提唱。
彼は、そうした生命種子は「太陽風を受けて、秒速100Kmの速度で宇宙を旅してきた」とまで計算していた。
その後、20世紀に入ってから、「地球の生命は、原始の海の中で《偶然》発生した」という珍説が登場して以降、生命が偶然に発生したという説(自然発生説)が科学上での一般学問となっていたことがありました。
さすがに最近では、遺伝子学などが進み、生物のあまりにも複雑な構造を知るにつれて、この「自然発生説」を信じる科学者はあまりいないと思われます。
たとえば、上のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の記事にも、
> もし、彗星それぞれの発生源が違った場合、それは地球上に生命が発生するために必要な分子の起源を説明することができる可能性がある。
というような記述があることからわかるように、いつの間にか、地球の生命は宇宙からもたらされたとする考え方が、現在の科学界ではむしろ主流になっているという事実があります。
生物学や生物の DNA 構造などが明らかになるにつれて、「物質が偶然組み合わさって DNA やアミノ酸ができて、そこから細胞ができ、そしてそこから何百万という種類の生き物ができる」などということは「無理だ」と考えざるを得なくなったということもあると思います。
それほど生命の構造は複雑です。
だから、科学の探求を真剣におこなった科学者ほど、「神」や「この世の始まり」ということを多く考えるものなのかもしれません。
近代物理学の祖であるニュートンが、現代では一種のオカルト扱いをされているエメラルド・タブレットの解読で「この世の仕組み」を解明しようと試みたり、前述したアレニウスが、『宇宙の始まり』という、天地創造神話を科学的側面から検討するような著作を記したりするというのも、そのようなことかもしれません。
それほど、この「現実の世界」は複雑で「奇跡のようなもの」とも言え、優秀な科学者になればなるほど、そのことを強く感じる傾向はあるようです。
フレッド・ホイル博士も、晩年は、お釈迦様の言う「無限の宇宙」を自著で語っていました。
話をパンスペルミアに戻しますと、結局、
宇宙塵そのものが生命(アミノ酸、 DNA 、バクテリアなどを含めて)である
ということなのだと、私はアレニウスの言葉を解釈しています。
宇宙塵などと書くと難しいですが、宇宙塵というのは Wikipedia の説明を借りますと、単に、
宇宙空間に分布する固体の微粒子のことである。
というもので、つまり、宇宙空間に漂っている微粒子の総称です。
アレニウスは、それらの宇宙塵を含めて、
> 宇宙空間を漂っている「生命の種子」を想定した
のですが、しかし、これだけでは問題があります。
塵は推進力を持ちません。
単に「漂う」だけでは、宇宙空間に生命(あるいは DNA やアミノ酸などの生命の素材)が存在していたとしても「宇宙塵そのものに推進力も方向性もない」という重大な問題があります。
アレニウスは「太陽風に乗って、宇宙空間を生命が移動する」と想定していたようですが、それだと、生命の移動が太陽活動の強弱に支配される(太陽活動が弱い時には推進力が弱い)と共に、太陽から遠く離れた場所に生命が到達することはなくなってしまいます。
宇宙空間全体に生命を行き渡らせるためは、太陽とは関係なく、「何らかの推進力」が必要です。
そんな中で、彗星の観測と分析の中から
「彗星は微生物の塊なのではないか」
とし、彗星こそが生命の運搬役ではないかとしたのが、フレッド・ホイル博士でした。
彗星は自ら軌道をもち、推進力を持ちます。
推進力を持つものには小惑星もありますが、小惑星が「岩」なのに対して、彗星は基本的に「氷の塊」ですので、衝突の際や、あるいは太陽のような熱をもつ天体近くを通過する際でも内部が保護されやすい構造です。
また、今回のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の「匂い」は、彗星が、単なる氷ではないことも示唆していますが、この「匂いの原因」の可能性として考えられるのが「バクテリア(細菌)」です。
これは、フレッド・ホイル博士たちが、1980年代に彗星の尾が「バクテリアである可能性」を観測・分析したことによります。
彗星は生命の運搬を担う
この観測については、過去記事の、
・良い時代と悪い時代(3): 2013年の巨大彗星アイソンのこと。そして宇宙から地球に降り続ける生命のこと
2012年10月11日
に書いたことをそのまま抜粋したいと思います。
ちなみに、彗星は以下のような構造となっています。
・コニカミノルタ プラネタリウム
ここから抜粋です。
良い時代と悪い時代(3)より
彗星はそのほとんどが軌道周期を持っており、ある意味では、「自主的に移動」しています。
さらに、彗星の内部に微生物が存在していれば、仮に彗星が大気を持つ惑星に突入しても、大きさにもよりますが、衝突と摩擦による熱から「内部」が守られる可能性があります。
このあたりは何年か前にクレアなひとときの「宇宙はすべて生き物からできている」に書いたことがあります。
そこに英国カーディフ大学のチャンドラ・ウィクラマシンゲ博士が、1986年に、シドニーのアングロ・オーストラリアン天文台にあるアングロ・オーストラリアン望遠鏡で観測した、「ハレー彗星の赤外線吸収スペクトル」のグラフを載せたことがあります。
下のグラフです。
この図が何を示しているかというと、「ハレー彗星と地球の大腸菌は、成分分析上で一致した」ということです。
この観測結果が「彗星は微生物の塊であるかもしれない」という推測につながっています。
また、隕石の場合にしても彗星の場合にしても、大気層に突入する際には表面は熱と衝撃によって、分子レベルで破壊されますので( DNA も残らないということ)、「守られる頑丈な外殻」は必要だと思います。そして、それが彗星の構造とメカニズムなのだと私は思っています。
あるいは、「摩擦熱の問題でそもそも微生物しか大気圏を突破できない」ということもあります。
抜粋はここまでです。
上にある「摩擦熱の問題」というのは「彗星の破片は時速3万6千キロ(秒速 10 キロ)という超高速で移動している」ということと、地球を含めた惑星が「非常に高速で自転している」ということと関係します。
大気のない惑星にこれらが衝突すると、その摩擦で生じる衝撃によって、その物体は分子レベルでバラバラに破壊され、生物が生き残る可能性はありません。しかし、地球には大気があり、高層圏では気体の密度が低いために、侵入した破片の速度は減速され、分子レベルでの破壊は免れます。
それでも摩擦による非常に高い熱が生じるのですが、摩擦熱は、「小さな物質であればあるほど、熱も小さく」なります。
▲ 大きさの比較。髪の毛の直径が 0.1ミリメートルで、細胞は髪の毛の直径の10分の1の大きさ。大腸菌は髪の毛の直径の 100 分の 1 の大きさ。ウイルスは、大腸菌の 10 分の 1 なので、髪の毛の……えーと、計算できないですが、このようになっています。図は、東京都臨床医学総合研究所より。
摩擦熱については、フレッド・ホイル博士の著作『生命はどこからきたか』から抜粋します。
フレッド・ホイル『生命はどこからきたか』より
地球大気に秒速 10キロのスピードで物体が突っ込んできた場合、その摩擦熱は物体の大きさ(粒子の直径の4乗根)と比例する。その場合、物体が針の先くらいのものでも、摩擦温度は 3000度に達し、ほとんどの物質は残らない。あるいは生物なら生きられるものはいないはずだ。可能性があるとすると、それより小さなものだ。
たとえば、細菌やウイルスくらいの大きさの粒子なら、突入した際の摩擦温度は約500度となる。摩擦で加熱される時間は約1秒間と推定される。この「1秒間の500度の状態」を生き残ることができない限り、生物は彗星に乗って地球に侵入してくることはできない。
ホイル博士は、英国カーディフ大学のチームと共に執拗な大腸菌の実験を続けます。そして、大腸菌たちは、「1秒間の 500 度」をクリアしたのでした。
つまり、 DNA や、アミノ酸といった「生命の部品」ではなく、大腸菌のような、生物として完成している大型の生き物でも宇宙から降ってくることが可能であることがわかります。ウイルスは細菌よりさらに小さいですので、摩擦熱も小さくなり、いくらでも地球に降り立つことが可能だと思われます。
この地球において、病気が「突然現れる」ということを不思議に思われたことはないですか?
どんな細菌でもウイルスでも歴史の中で「唐突に」現れる。
それほど広大とも言えない地球で、しかも、たとえば、エイズにしてもエボラにしても、サルとかコウモリなどの動物由来でヒトに伝わったとされていますが、人間より短い寿命の彼らが何千万年も代々、ウイルスを温存して伝えてきた? このことは昔から不思議に思っていました。
まあしかし、そのことはともかく、今回の彗星の「匂い」で、さらに彗星そのものが生命の塊であることを確信した次第です。