史上初の彗星への着陸を果たした欧州宇宙機関の探査機ロゼッタの子機が着陸したチュラメシンコ・グラメサテ彗星・・・・・ああ何か違う、と資料を見てみると、ああ惜しい。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星でした。
ところで、この難しい名前の彗星、「漢字だけの中国語ではどう書くんだろう」と思い、香港のメディアを見てみますと「楚留莫夫 格拉希門克 彗星」と書くようです。こちらも覚えるのに苦労している中国人が多いと見ました。

▲ 2014年11月14日の香港メディア apple.nextmedia.com より。
この記事のタイトルの「探査機が停電に陥る可能性」については後のほうで書きますとして、この「彗星への着陸」という(多分)記念すべき出来事に際して、これまでの In Deep の「彗星との関わり」をしみじみと思い出します。
見たり観測する対象としての彗星ではなく、「地球に生命をもたらした天体としての彗星」として、何度も書かせていただいたことがあります。
それにしても、上の香港の報道の写真のキャプションにある「生命の起源の謎の解明へ」というようなものを見ますと、結局は「彗星と地球の生命の関係」は、現代宇宙学の「隠れスタンダード」になっているのだなあと改めて思います。
彗星の意味を改めて振り返る
このブログの初期からのメインテーマのひとつに、
地球の生命は彗星が運んできた。
という説に対しての理論的な追求というものがありました。
しかし、長らく、その証明法は地球上からの観測と分析によるものでしかなかったのですが、この数年の間に状況は変わってきました。
2010年 11月4日には、NASA の探査機ディープインパクトが、ハートレー第2彗星( 103P/Hartley 2 )の中心核から約 700 キロメートルまで近づき、史上初めて「彗星の中心核の正確な写真」を撮影することに成功しました。

・Spaceweather
このハートレー第2彗星は、地上から観測すると、下のように青く光って見えます。

・GITZO
この青い光の「核」はさきほどのような不思議な形をしたものだったのでした。
彗星が実際にはどのようなものなのかということに関しては、核の形状も、その組成も含めて、長い間、正確なところはわからないままでした。
しかし、科学者たちの推測としての「何か無機的な氷のかたまり」というような考え方が長く主流で、たとえば、彼らが彗星を「汚れた雪だるま」という呼び方をしていたこともそれをあらわしていると思います。
どうしてそのように呼ばれるかという理由は、国立天文台の彗星とはどのような天体かに下のようにあります。
彗星の主成分は水(氷)で、表面に砂がついた「汚れた雪だるま」にたとえられます。太陽に近づくと、その熱で彗星本体(核)の表面が少しずつとけて崩壊します。
しかし、これはあまり正しい表現ではないことが、今回、チュ何とか彗星(省略すな)に着陸した欧州宇宙機関( ESA )の探査機ロゼッタの過去の観測でわかってきていました。
下は、2005年、つまり今から9年前の ESA のサイトの記事です。

▲ 2005年10月12日の欧州宇宙機関ウェブサイトより。
ロゼッタは 2004年に打ち上げられましたが、上の記事では、2005年にロゼッタが、テンペル第1彗星という彗星から放出された「ダスト(塵)と水の質量の比率」の計測について記されています。
その観測結果は、ダストの比率が氷より多いことを示し、「汚れた雪だるま」というより「凍った泥の玉」というほうが適していることを示していました。
ちなみに、英国カーディフ大学の研究チームのハレー彗星の観測と分析により、「彗星のダストの成分は、大腸菌と近い性質」だと判明しています。

▲ チャンドラ・ウィクラマシンゲ博士らのチームによる 1986年のハレー彗星の際のスペクトル分析データ。2011年05月07日の記事「宇宙塵自身が生命であることに言及した 100年前のノーベル賞学者の実験」より。
しかし、このことは書くと長くなりますので、上にリンクした記事をご参考いただければ幸いです。
その5年後、さきほどご紹介しましたように、NASA は、彗星の「核」に撮影に成功します。科学者たちは、その時に初めて彗星の核の詳細な画像を目にしたのでした。
過去記事の、
・NASAの探査機ディープインパクトがハートレー彗星の中心核の近影に成功
2010年11月05日
には、NASA の担当者たちの会見の内容を以下のように記しています。
彗星は、ダンベル形をしており、端側には起伏が多く、中央部分は滑らかになっていることに注目した。起伏の多い部分は、地球での間欠泉などが噴射している特定の地形などと似ているような感じだ。
比較的滑らかな表面の彗星の中央部は、広い地形の上に何かほこりのような細かい物質が集まり、それで覆われているかのように見える。
研究者たちは、彗星が活発な活動を継続し続けていることに驚きを表明した。彗星は、夜側の面でさえガスが激しく噴出しており、氷が太陽の熱から彗星を保護する役割を持っていた。
上の説明からわかるのは、彗星は「激しい活動を続ける天体」であり、「動的」で「生命的」である天体であるということです。そこが小惑星との決定的な違いです。
地球の生命は彗星が運んできた
この「地球の生命は彗星が運んできた」という説は今はそれほど特別な説ではなく、ここ数年で数多くの研究論文などが出されていまして、たとえば、米国エネルギー省が所有するローレンス・リバモア国立研究所の科学者たちは、2010年に「原始の地球に衝突した彗星がアミノ酸を生産した可能性」についての論文を発表しました。
このことは、
・[彗星が地球に生命の素材を持ってきた]米国ローレンス・リバモア国立研究所でも地球の生命が宇宙から来たアミノ酸だという研究発表
2010年09月16日
という記事に、デイリーギャラクシーの記事を翻訳していますので、ご参考いただければ幸いです。
この記事には、パンスペルミア説(地球の生命は宇宙に由来するという考え方)研究の第一人者だったフレッド・ホイル博士(2001年に死去)と共に 1980年代から彗星と生命の研究を続けた人物で、現在は英国カーディフ大学の教授であり、アストロバイオロジーセンターの所長であるチャンドラ・ウィクラマシンゲ博士の以下の言葉が掲載されています。
「彗星に関しての驚くべき発見が続いているが、これらは、パンスペルミア説に対しての議論を補強している。我々は、それがどのようにして起きるのかというメカニズムも解明しつつある。土、有機分子、水 、の生命に必要な要素がすべてそこにある。数多くある彗星たちは確実に地球の生命に関与している」
2013年9月には、英国シェフィールド大学の研究チームが、「上空 25キロメートルの成層圏に気球を上げ、生物の存在の有無を確かめる」という実験をしました。上空 25キロという高さは、地上から上昇される生物の存在を考えがたい高さとなります。
この実験の報道については、
・パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりにおこなわれ、成層圏で宇宙から地球への「侵入者」が捕獲される
2013年09月23日
という記事を書きました。
その実験では上空 25キロメートルの成層圏で、下の写真の珪藻(ケイソウ)という単細胞生物などを回収しました。

この上空25キロメートルというのは、火山噴火でも、そこまで気流を浮上させるのは無理な高さで、シェフィールド大学の分子生物学者のミルトン・ウェインライト教授は、
「このような大きさの粒子が地球から成層圏まで運ばれることが可能なメカニズムは地球には存在しないため、この生物学的存在は宇宙由来であると結論付けることができます。私たちの結論は、生命が絶えず宇宙から地球に到達しているということです」
としています。
この時は上空 25キロメートルの実験ですが、実は 1960年代にはアメリカで、そして 1970年代には旧ソ連で、「さらに高い上空において微生物を回収」しているのです。
下の図が示しますように、地球の大気構造は下から上へは上がりにくいということを考えますと、上層大気で「生きたバクテリア」が回収されるという理由は、当時の科学的定説(宇宙から地球に生命などは来ていない)では説明が難しいところです。

・過去記事より。
アメリカは高度 40キロメートルの上空で回収実験を行い、ソ連は高度 50キロメートルの上空で回収実験を行っていますが、そのうちのアメリカ NASA の実験について記されているフレッド・ホイル博士の著『生命(DNA)は宇宙からやってきた』から抜粋します。
『生命(DNA)は宇宙からやってきた』 第2章「地球大気へ侵入する彗星の物質たち」より
1960年代には、アメリカの科学者たちが高度 40キロメートルまで気球を飛ばして、成層圏にバクテリアがいるかどうか調査した。その結果、ごく普通のテクニックで培養できる生きたバクテリアが回収され、実験者を当惑させた。
さらに問題だったのは、バクテリアの密度分布だった。成層圏の中でも高めのところでは、1立方メートルあたり平均 0.1個のバクテリアがいて、低めのところでは 0.01しかいないという結果になったのだ。
高度が高いほど多くのバクテリアがいるという結果は、バクテリアが地上から吹き上げられたと考える人々が期待していたのとは正反対の傾向だった。不思議な結果に、研究資金を出していたNASAはこれを打ち切ってしまった。
これは、要するに、
・高度が高くなればなるほど(宇宙に近くなればなるほど)バクテリアが多く回収された
上に、
・それらは生きていた
ということを示し、今思えば、その時代の科学的概念を覆すような実験結果だったのにも関わらず、
> 不思議な結果に、研究資金を出していたNASAはこれを打ち切ってしまった。
のでした。
当時の NASA が、科学的な新しい発見よりも、「当時確立されつつあった既成観念(生命は地球の原始の海で偶然発生した)」を優先していたことがわかります。
この NASA の態度は今でも続いているように思います。
ただ、これに関しては陰謀論で語られることも多いですが、まあ、それもあるのかもしれないですけれど、私自身は、陰謀というより「保身」という面を強く感じます。 NASA に在籍している多くが科学者という「職業」を持つ人たちであり、学会的常識に逆らう結果は出したくないはずです。
まあしかし、その話はいいとして、上記した英国シェフィールド大学の高層大気圏での生物回収実験の少し前、米国カリフォルニア大学バークレー校の化学者たちが、「生命の分子などの構造は、宇宙の星間での氷の塵の中で形成された後、地球へともたらされたかもしれない」という観測結果を発表し、
「彗星は、複雑な分子の温床となりうる。そして、彗星は地球に衝突した際に、これらの分子、あるいは「生命の種」を地球にばらまいている可能性がある」
と発表しました。
カリフォルニア大学の科学者たちが「星間雲で形成され得る可能性がある物質」としたものは以下の通りです。

・Daily Galaxy
それぞれ文字に起こしますと、
メチルトリアセチレン
アセトアミド
シアノアレン
プロペナール
プロパナール
シクロプロペノン
メチルシアノジアセチレン
ケテンイミン
シアノメチレン
となり、何がどういう作用の物質だかわからないですが、これらはアミノ酸を作り出すために必要なものらしいです。
これらを含めた様々な「生命の部品」を彗星が運んでいるという学説が、最近では亜流ではなく、主流となってきているのが現実ですが、教科書が書き換えられるところにまでは至ってはいません。
それには「明確な証拠」が必要です。
今回のロゼッタのミッションはその可能性を「多少は」帯びたものだと思います。「多少は」と書いたのは、「彗星の内部深くまでは調べられないため」です。
彗星にバクテリアなどが生きた状態で存在するとすれば、凍結した上に温度変化の少ない彗星の内部でなければ無理です。基本的に微生物は、絶対零度(マイナス 273℃)などの超低温になっても死にませんし、むしろ長く保存されます。
これは、たとえば、精子の保存を考えるとわかりやすいと思います。これは動物の精子の保存についでてすが、高知大学農学部のサイトの、
細胞や組織を−196℃の液体窒素の温度に冷却すると、(略)生存させたまま半永久的に保存することができます。
というように、大型生物は無理でしょうが、気温が低い中では微生物なら事実上永久に保存されます。
幸い宇宙空間はそのような気温(マイナス 270℃)の場所で、「小さな生命の保存場所としては最適」の空間ですが、太陽などの近くを通る時には、彗星の表面温度が激しく変化しますので、彗星の表面は生命の居場所としては適しません。
そんなこともあり、表面だけの調査は、パンスペルミア説の証明にとってはそんなに意味があるわけではないというのが正直なところですが……それでも、探査機ロゼッタをチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に向かわせたミッションに、彗星と生命の関係の調査が含まれることは確かだとは思います。
もっとも、昨日の、
・探査機ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から受信した「謎の信号」をめぐり展開する様々な説
2014年11月12日
の中でご紹介した Examiner の記事のように「彗星から発信されている信号とエイリアンの存在に関しての陰謀論」的な話もあるわけですが、そういうことについては私には何ともわかりません。
ただ、彗星というのは、一般的に秒速30キロメートルという途方もないスピードで飛行しているわけで、30キロメートルを1秒間で進んでいるような小さな物体の表面で高等生物がどうのこうのしようとするのは難しいかなとも思います。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は直径が最長部分で4キロメートルしかなく、そのように小さな天体ですので、重力は「地球の10万分の1」しかなく、ロゼッタの子機もそんなところによく着陸などできたなあと思いますが、日本のはやぶさが 2005年に着陸した小惑星イトカワはさらに小さな天体だったわけですし、できるものなのだなあと。
しかしミッションがうまくいかない懸念が発生
さきほど、パソコンに「ちゅ」と打ち込めば、「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」と変換される単語登録をしまして、順調に彗星の名前も書くことができていますが、こういう便利な機能を使えば使うほど、「本質的にはいつまでも覚えない」ということもわかってはいます。
さて、いずれにしても、無事、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に子機を着陸させたロゼッタですが、最初のほうの香港の記事にありますように、太陽電池の充電がうまくいかず、探査に影響が出る可能性が出ています。
ロゼッタは、フィラエという名前の子機を着陸させたのですが、フィラエの着陸の際、機体がバウンドしてしまって、そのため、機体は崖状になったクレーターの縁に着陸してしまいました。
予定していた着陸点と、現在の位置としては下のような状況になっていると考えられています。

・Earthfiles
この位置は陰に入る時間が多いため、現状、太陽電池で十分に発電できていないということのようです。 ESA によりますと、本来、このロゼッタの子機フィラエは、毎日6〜7時間の太陽光を必要とするらしいのですが、現在の位置では日に1時間半程度の太陽光しか受けられないのだそう。
フィラエのオペレーション責任者のコーエン・ゲウルツ( Koen Geurts )博士は、会見で、
「現在、私たちはこれが近い将来のミッションにどのように影響するのかを計算しているところです。今のところ私からは多くを語ることはできませんが、ただ、残念ながら、これは私たちの期待していた状況ではありません」
と語っています。
フィラエがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星からデータを送信できなければ、彗星の表面の詳細な分析データは得られない可能性もあります。
この彗星の成分に関しては、過去記事にも書きましたように、匂いなどでも多少想像つく部分がありますが、その詳細がわかれば、彗星という存在に対しての考えが変わる転換点になる可能性もあると思うのですけれど、多少、微妙な状況となってきているようです。
それとも、人類という存在は、「自然摂理の真実」を知らずに生きていたほうがいいと考える「見えざる力」が、フィラエにかかったりしたのかもしれませんけれど。