2014年11月18日



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1918年のパンデミック(スペインかぜの世界的流行)で「日本人の致死率が世界平均と比べて極端に低かった理由」はどこにあったのか



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▲ 2014年11月17日の英国 BBC Egyptian woman dies of H5N1 virus より。



1918年のパンデミックと似た傾向が見られる気のする最近のインフルエンザ

昨年と今年は、病気の報道を数多くご紹介した年でした。多くが「ウイルス」によるものであったことが特徴で、アフリカの過去最大のエボラの流行、東南アジアのかつてない規模のデング熱の流行、そして、昨シーズンのアメリカなどを中心にした記録的な数のインフルエンザ患者と死者数が報じられたりもしていました。

この「病気の時代」と言えるような状態については今後も継続していくと、私自身は思っているのですが、気づけば時期も 11月ということで、またインフルエンザの流行する時期がやってきました。

そして、人間のインフルエンザの流行と時期を合わせるように世界各地で鳥インフルエンザが発見されたり、あるいは鳥インフルエンザによるヒトの死者が発生しています。

東京でも江東区で鳥インフルエンザの鳥の死骸が発見されています(報道)。

それらのことと関係あるというわけではないのですが、

「昨年からのインフルエンザの傾向として気になっていること」

があります。

それは、冒頭の BBC の記事にも示されていますので、まずはこの記事をご紹介したいと思います。



Egyptian woman dies of H5N1 virus
BBC 2014.11.17

鳥インフルエンザ:エジプト人女性が H5N1 ウイルスによって死亡

エジプト人女性が、鳥インフルエンザウイルス H5N1 型に感染した鳥と接触した後に死亡した。女性は 19歳で、エジプト南部の町アシュートの病院で死亡した。

当局の発表によると、今年になってからエジプト国内での鳥インフルエンザの感染者数は7人となり、死亡例は今回が2例目となる。これ以前に、英国、ドイツ、オランダで、エジプトのウイルスとは異なる種の鳥インフルエンザが確認されている。

エジプト保健省は、他の2人が鳥インフルエンザに感染していると発表した。そのうちの1人は3歳の子どもだが、現在順調に回復しているという。もう1人は 30歳の女性。エジプトでの H5N1 での最初の死亡例は今年6月に起きた。

鳥インフルエンザ H5N1 型は、1993年に香港で初めてヒトへの感染が確認されて以来、世界中に広がっている。世界保健機関(WHO)によると、2003年以降、全世界で H5N1 のヒトでの発症例は 667 件にのぼる。

現在までの H5N1 のヒト感染での死亡率は約 60パーセントに達する。




というものです。

上に出てきたエジプト、英国、ドイツ、オランダの他に、韓国、日本などで、鳥インフルエンザに感染した鳥が見つかっていて、世界で「同時多発的」に発生した感じがあります。

しかし、これらの鳥インフルエンザについてはともかく、上の BBC の記事の中で、先ほど書きました「昨年からのインフルエンザの傾向として気になっていること」とは何かというと、症例が1件だけでどうのこうの言うのもあれなんですが、「死亡したのが 19歳の女性」だということです。

今年2月の、

病気の時代 : 太陽活動での地磁気の乱れが誘発するもの。そして「新種」の病気の出現に震え上がるアメリカ国民
 2014年02月27日

という記事の中で、アメリカでの昨シーズンのインフルエンザ流行シーズンの特徴として、

「若い世代のほうが患者数も死亡者数も多かった」

という特徴があったことを書きました。
下はその時の CNN の報道です。

今年の米国のインフルエンザは「若い世代」を直撃
CNN 2014.02.24

米疾病対策センター(CDC)がこのほどまとめた統計で、今シーズンのインフルエンザは前年に比べて65歳未満の患者が大幅に増えていることが分かった。

それによると、今シーズンにインフルエンザ関連の症状で入院した患者は、18〜64歳の層が61%を占め、前年の約35%を大幅に上回った。

65歳未満の死者も例年以上に多く、死者の半数強は25〜64歳だった。昨年の死者に占めるこの世代の割合は25%未満だった。

通常なら、インフルエンザは、

高齢者や赤ちゃんが重症化することが多い

のですが、昨シーズンのアメリカのインフルエンザは、

通常だと死亡者の少ない 25〜 64歳での死者が非常に多かった

というものだったのです。

そして、この特徴は、史上最大の鳥インフルエンザのパンデミックである 1918年のスペインかぜの際の特徴とも似ているということが気になったのでした。




死亡者の99パーセントが65歳以下だったスペインかぜ(第二波の流行時)

下は、2006年の日経BPの記事からの抜粋です。

多くの若者を殺した「パンデミック」の真実
日経BP 2006.03.20

インフルエンザウイルスは毎年、慢性疾患や免疫力の低下している患者、小児やお年寄りを中心に数多くの命を奪っている。だが、1918年の「スペイン風邪」のインフルエンザウイルスでは、20歳〜40歳代の若者たちが最も多く亡くなっていたことに大きな特徴があった。

とあります。

東京都健康安全研究センターにある資料「日本におけるスペインかぜの精密分析」という資料にある「日本でのスペインかぜの死亡者年齢のピーク」を見ても、そのことがよくわかります。

死亡者年齢の分布

男子
1917-19年 21-23歳の年齢域で死亡者数のピーク

女子
1917-19年 24-26歳の年齢域で死亡者数のピーク

体力的に最も充実している時、つまり普通に考えれば「最も病気に対しての抵抗力を持っている」といえる二十代が中心として亡くなっていく。

お年寄りや赤ちゃんたちは生きのびる。

特に流行第二波(1918年の秋)では「高齢者はまったくといっていいほど死亡しなかった」のです。国立感染症研究所のページに下のような記述があります。

国立感染症情報センター インフルエンザ・パンデミックに関するQ&Aより

1918年の晩秋から始まった第二波は10倍の致死率となり、しかも15〜35歳の健康な若年者層においてもっとも多くの死がみられ、死亡例の99%が65歳以下の若い年齢層に発生したという、過去にも、またそれ以降にも例のみられない現象が確認されています。

この、

> 死亡例の99%が65歳以下

というのは、現在の通常のインフルエンザと比較しましても、死者の年齢の分布が極めて異質であることを示しています。

さきほど抜粋しました昨年の CNN の報道の中にある、

> 死者の半数強は25〜64歳だった。

という記述からスペインかぜのことを思い出したのは、ここに理由があります。

アメリカのインフルエンザは通常のインフルエンザですが、「何かが少し変化してきている」ように感じたのです。

いずれにしても、スペインかぜとはそのような「若者を中心に殺す」インフルエンザだったのですね。
そして、そのスペインかぜは、上記の日経BP の記述によりますと、

この間、たった6カ月間の間に地球上の人類すべてに当たる20億人が「スペイン風邪」を患ったという。ところが、翌1919年の春頃から、いつの間にか消え去った。何が「スペイン風邪」を引き起こしたのか、まったくわからないままに……。

というように、パンデミックは「自然と」収まっていきました。なお、「20億人がスペイン風邪を患った」とありますが、現在では、感染者は世界で5億人から6億人だったとされています。

> 何が「スペイン風邪」を引き起こしたのか

という部分に関しては、小さな声で「彗星……」と呼応したくなりますが、今回はパンスペルミア説のことを書きたいわけではないので、そこには触れません。




何が日本のパンデミックでの致死率を大幅に低下させた?

全世界で5億人から6億人が感染したとされるスペインかぜですが、日本での流行の全期間(1918年8月から 1921年7月)の間の感染者数は 2380万 4673人で、当時の日本人口約 5,000万人のほぼ半数が鳥インフルエンザに感染したことになります。

そのうち、死者は 38万 8,727人

非常に多くの方々が亡くなった……とはいえ、ふと気づくのは、この約 2380万人の患者に対して、死亡者が約 39万人というのは、感染者の致死率が 1.6 パーセント程度という計算になることに初めて気づきました。

というのも、たとえば、スペインかぜ - Wikipedia には、全世界の死者に関して、

感染者6億人、死者4,000〜5,000万人。

という記述があります。

スペインかぜの世界的な正確な統計は存在しないですので、上の数字そのものは確かに曖昧でしょうが、それでも、大ざっぱに考えても、上の「 6億人の感染者に対して、4000万人くらいの死者」ということは、感染者の 7パーセントから 8パーセントは死亡していたという計算になります。

国立感染症研究所のページでは、患者数約 5億人としていて、死亡者数に関しては、 WHO の推計で 4,000万人、その後の科学者たちの研究で約 5,000万人となっていますが、どちらの推計にしても、この 「5億人の患者に対して5,000万人の死者」というのは、

致死率 10パーセント前後にも達する

というようなことも意味しそうで、日本の 1パーセント台の致死率とは、ずいぶんとかけ離れていることがわかります。

この「日本人の致死率の低さ」は今まで気づいていなかったことですけど、しかし、なぜ……?。

たとえば、現在の普通のインフルエンザの死者数は、大まかなところでは、日本も他の主要国と同程度だと思われます。

現在のインフルエンザでの死亡者数は、直接的な死因としてだけでなく、間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する「超過死亡概念」という定義に基づいて出されることが多く、こちらの方が実態と近くなりますが、これで日本のインフルエンザでの年間の死亡者を見てみますと以下のようになります。

ちょっと古いものですが、厚生労働省の人口動態統計のグラフを数値化したものです。

2000年 13,845人
2001年   913人
2002年  1,078人
2003年 11,215人
2004年  2,400人
2005年 15,100人


2001年のように非常に死亡者が少ない年もありますが、多い時には「日本では、1年間で普通のインフルエンザが原因で1万人程度の方が亡くなっている」ということが言えます。

ちなみに、全世界のインフルエンザによる死者は、厚生労働省のサイトによりますと、25万人〜50万人という非常に大ざっぱな数が記載されています。変動はあっても、毎年、世界で通常のインフルエンザだけで数十万人が亡くなっているということのようです。

こう見ると、インフルエンザの死亡者というのはかなりのものであることがわかります。




当時の日本人の生活スタイルのどこかに何かのポイントが潜んでいるような気が

それにしても、スペインかぜの日本人の致死率の低さは、どうしてなんでしょうかね。

まあ……これは関係ないことですが、世界で海藻を「常食」しているのは、日本人と韓国人くらいでしょうが、海藻、特にわかめや昆布に含まれる「フコイダン」というのがあって、これがインフルエンザ・ウイルスに対しての抗体の生産を上昇させることが知られています。

下のは「ふえるわかめちゃん」などで知られる理研の2010年のニュースリリース「メカブのねばり成分「フコイダン」のインフルエンザ感染予防作用をヒト試験で実証」から抜粋したものです。

理研ビタミン株式会社は、共同研究で、わかめのメカブから抽出したフコイダンが、ヒトにおいてインフルエンザウイルスに対する抗体の産生を上昇させる働きがあることを確認しました。(略)メカブフコイダンを摂食した人々では対照食を摂取した人々と比較し、全ての インフルエンザウイルス株に対して、抗体の産生が上昇していました。

とあり、フコイダンにはインフルエンザへの抗体を体内に作る働きがあるようですが、「抗体が増える」というのは、インフルエンザの予防とは結びつく可能性はあっても、致死率と関係するものとは思えませんので、致死率の低さとは関係ないでしょうね。

ちなみに、海藻といえば、海藻の中でも海苔に関して、海苔を消化できる酵素を腸内に持っているのは日本人だけで、日本人以外の外国人は海苔を胃腸で消化することができない、ということも思い出します。

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「どうして日本人だけが海苔を消化できるのか」ということについては、2010年に、フランスの研究所の調査によって、「日本人だけが腸内に持つ微生物の遺伝子」のためだと明らかになっています。

日本人がノリを消化できる理由を発見、仏研究
AFP 2010.04.08

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▲ ノリを分解する酵素を持つ海洋性バクテリア。これと同じ働きを持つ遺伝子を持つ微生物が、日本人の腸内だけに存在しています。

日本人の腸が海草に含まれる多糖類を分解できるのは、分解酵素を作る遺伝子を腸内に住む細菌が海洋性の微生物から取り込んでいるためだとする論文が、英科学誌ネイチャーに発表された。

フランスの海洋生物学と海洋学の研究・教育機関「ロスコフ生物学研究所」の研究チームは、ゾベリア・ガラクタニボランという海洋性バクテリアが、アマノリ属の海草に含まれる多糖類を分解する酵素を持っていることを発見した。公開されているDNAのデータベースを調べたところ、ヒトの腸内に住むバクテロイデス・プレビウスという微生物が、同じ酵素を作る遺伝子を持っていることが分かった。

このバクテリアはこれまで、日本人の排泄物からしか見つかっていない。

ということは、世界の中では、韓国の人たちも頻繁に海苔を食べますけれど、韓国人は海苔を消化できて食べているわけではないということになるみたいですね。

いずれにしても、こういうような、

・海藻(ワカメとかコンブ)をかなり頻繁に食べる民族
・世界で唯一、海苔を消化できる遺伝子を体内に持つ民族


などという「海との関係性において他の国とは違う食習慣や遺伝子を持っている日本人」ですが、こういうことと何らかの関係あるのかどうか。

食べ物(日常的な食生活)はかなり関係しているような気はしますが……。

インフルエンザの療養と食べ物の関係といえば、かなり前の記事ですが、

1918年の「死のインフルエンザ」へのケロッグ博士の対処法
 2011年11月22日

では、スペインかぜの際、ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士が米国ミシガン州に開いていた富裕層向けのバトルクリーク療養所という非医療機関でおこなった治療のことを書いています。

ケロッグ博士は「医薬品をいっさい使わない治療」によって、この療養所でスペインかぜの死者をひとりも出さなかったことが記録されています。細かい内容は上の記事を読まれていただくと幸いですが、その中に、

ケロッグ博士は、インフルエンザを発病している間に、砂糖、加工食品、ジャンクフードを食べることを避けるように警告している。

としています。

甘いものが悪いのではなく、果物やジュース(果樹だけのもの)以外の「砂糖を使った加工品」はとらない方がいいと記されています。



インフルエンザのシーズンに際して

ところで、今年も大流行するかもしれない通常のインフルエンザですが、日本では病院に行くことが優先されますが、欧米では「安静にしている」ことが最大の治療法だというの常識のようです。

日本で乱れ撃ち気味に処方される抗インフルエンザ薬タミフルは、薬効の基本は「発熱期間を1日短縮する」だけのものの上に、罹患後 48時間後内に服用しないと意味がありません(長く熱が引かないので病院に駆けつけた時にはもう遅いことが多いと思われます)。

大久保医院という病院のサイトでは、「日本で大量のタミフルが処方されているのは、日本の医療環境の特異性と断言せざるを得ません」として、下のように説明しています。

欧米では、「インフルエンザには安静」が常識で、タミフルのような「抗インフルエンザ薬」は、感染症などの合併症の危険性が大きくなる免疫系が弱っている人達、高齢者や慢性の病気などの要因を持つ人達以外には、ほとんど使われていません。

タミフルを服用しなくても、健康な個体では、自己免疫防御力を最大限応用すれば、1峰性または2峰性の発熱で1週間以内にインフルエンザは自然治癒します。

ちなみに、タミフルの製造元のスイス・ロシュ社の数値に基づけば、

過去5年間に日本で約2400万人がタミフルの処方を受け、この処方量は世界の75%を占め、このうち子供は約1200万人で、使用量は米国の約13倍に上ったとのことです。

とのこと。

> この(日本の)処方量は世界の75%を占め

を見ると、インフルエンザでも、抗うつ剤同様、日本は世界の製薬会社の「いいお客さん」とならされてしまっているようです。

このあたりは、過去記事の、

エボラを世界に拡大させるかもしれない神の伝道者や軍人たち。そして、ふと思い出す「世界を支配する医薬品ビジネス」
 2014年10月18日

の最後のほうで、抗うつ剤を例にとって、製薬会社が販売拡大をおこなう具体的な方法を書きました。

しかし実際には、かなり多くの病気に対して、人間は自然の治癒力を持っています。

なので、本来の「医療の方向」というのは、そのような「隠された人間の自己治癒力を高めること」にあると私は思うのですが、現代の医療はなかなかそちらの方向には進んではくれません。

もちろん、そのような試みをされているお医者さんもたくさんいらっしゃると思いますが、製薬会社の存在という「高い壁」を越えるのはなかなか難しいことなのかもしれません。

結局、病気になれば、病院に行き薬をもらうというだけの医療が続いています。

もちろん、適切に投薬しなければならない病気も多くあることは確かですが、過度な薬への依存や、「薬がお守りになっている」状況は、本来の人間の治癒力を落とすだけのような気がします。

まあ、これは自戒の意味もありますが。

それにしても、日本人……少なくとも、1918年当時の日本人の生活スタイルの中に存在していたかもしれない「インフルエンザの致死率を低下させた要素」とは何だったのか。