
▲ 2014年11月28日のイラン国営 Press TV より。11月第4木曜日の「感謝祭」と同じ日におこなわれる「全米哀悼の日」の行進をおこなう人たち。上の写真の旗には、「私たちは消滅していない。私たちは征服されていない。私たちはこれまでと同様に強い」と書かれてあります。
感謝祭は誰が何に感謝しているのか
アメリカのサイトでは、昨日あたりからやたらと「 Thanksgiving Day」という単語が出ていて、これは日本語では「感謝祭」ということになるのでしょうけれど、
「そもそも感謝祭って何だっけ? 何に感謝してるんだ?」
というように、アメリカの感謝祭について何も知らないことに気づきます。
私は「神とかそのあたりに感謝しているというような行事なのかな」というような曖昧なイメージしか持っていませんでした。感謝祭 -Wikipedia には、
感謝祭の起源として一般に信じられているのは、イギリスから現在のマサチューセッツ州のプリマスに宗教的自由を求めて移住して来たピルグリムと呼ばれる入植者の一団が、本国から持ってきた種子などで農耕を始めたところ、現地の土壌に合わず飢饉による餓死者まで出したところ、アメリカ先住民の助けにより危機を脱したので、その感謝を表す目的で1621年に先住民を招いて収穫を祝う宴会を開いたことである。
とあります。
要するに、現地のアメリカ先住民の助けで収穫ができたことを、白人と先住民が共に祝ったことが起源だと。
下の絵画のような 1621年のお祝いが起源だということのようです。

▲ ジーン・レオン・ジェローム・フェリス( Jean Leon Gerome Ferris )という画家が 1899年に描いた『最初の感謝祭( The First Thanksgiving )』。白人と先住民が仲良く宴会をしています。
しかし、上の Wikipedia の表記の中に、感謝祭の起源として「一般的に信じられているのは」と書かれているということは、歴史的に確定した何らかの出来事を記念する行事ではないということを示している部分もありそうです。
そして、長い感謝祭の Wikipedia ページの下のほうには、以下のような項目があります。
インディアンにとっての感謝祭
一方、インディアン達は「感謝祭」は、この日を境に先祖達の知識や土地がヨーロッパからの移民達に奪われた、「大量虐殺の始まりの日」としている。
ニューイングランドのインディアン部族が結成する「ニューイングランド・アメリカインディアン連合」は、この「感謝祭」にぶつけて同じ日に、「全米哀悼の日」としてデモ抗議を毎年行い、喪服を着て虐殺された先祖達に祈りを捧げている。
とあり、どうやら、アメリカでの一般認識と、アメリカ先住民たちの間では、対極したとらえ方のある記念日でもあるようです。
ちなみに、インディアン部族の同盟であるユナイテッド・アメリカ・インディアン・オブ・ニューイングランド( UAINE ) - Wikipedia を見ますと、
1970年、彼らは、全米を挙げて11月に行われる、ニューイングランドのプリマスに上陸した白人たちの「上陸記念感謝祭」に対する抗議運動である、「全米哀悼の日」を行って注目された。
この抗議デモは今日まで毎年、「上陸記念感謝祭」の日にぶつけて行われている。
とありまして、ここに「上陸記念感謝祭」という言葉が出てきます。
どうやら、白人側から見ても、アメリカ先住民から見ても、この
「イギリス人清教徒がアメリカ大陸に上陸した日」
ということが感謝祭に直接結びつく歴史上の出来事だったように思えます。
そして、その白人側の主張(現在のアメリカの一般的認識)は、
現地のインディアンと神の助けによって、白人が最初の収穫を得た記念日。
であるのに対して、アメリカ先住民から見れば、
インディアンの伝統の地にイギリス人が入り、彼らによるインディアンの虐殺が始まった日。
という追悼の記念日というようになっているようです。
ちなみに、この「感謝祭の起源」となったピルグリム・ファーザーズという清教徒(ピューリタン)の「感謝の後の行動」は、ピルグリム・ファーザーズ - Wikipedia によりますと、以下の通りです。
ピルグリムはまず1630年にマサチューセッツ族の領土に進入。ピルグリムの白人が持ち込んだ天然痘により、天然痘に対して免疫力があまりなかったマサチューセッツ族の大半は病死した。
1636年には1人の白人がピクォート族に殺された事が切っ掛けでピクォート戦争が発生。ピルグリムは容疑者の引き渡しを要求したがピクォート族がそれに応じなかったため、ピクォート族の村を襲い、大量虐殺を行った。
このピクォート戦争 - Wikipedia よりは実質的に「民族浄化」(特定の民族集団を強制的にその地域から排除する方策)だったようで、
> 村は一方的に破壊され、400人から700人のピクォート族が殺された。その多くは女性や子供など非戦闘員だった。
とあり、そして、逃げたピクォート族もほぼすべて捕まり、
> 白人侵略者たちによって殺され、ニューイングランド周辺やバミューダ諸島に奴隷として売り飛ばされた。
という記述が続きます。
ううう……この、いわゆるインディアン戦争のことを書いていたら、気分が悪くなってきた……。これはあれだ……あのトラウマだ……。
9歳頃に見てしまった『ソルジャー・ブルー』に対してのトラウマ
この「インディアン戦争」に関して、強く記憶に残っているのは、小学生の時に『ソルジャーブルー』という 1970年公開のアメリカ映画がテレビで放映されているのを偶然見てしまったことです。
まだ小学3年か4年くらいだったと思うのですが、ラストのほうのシーンで、白人たちの騎兵隊がインディアンの村を襲い、人々を虐殺しまくり、女性は徹底的に陵辱されて殺される。
あの様子は今でも悪夢のように頭に焼き付いています。

・ソルジャー・プルーのDVDジャケット。 IMDb より。
その頃、私はたまに「夜驚症」というものになっていて、これはメルクマニュアル医学百科の説明をお借りしますと、
夜驚症は眠りについてからあまり時間が経たないうちに、極度の不安から目覚めてしまうことですが、完全に覚醒しているわけではありません。夜驚症が起きるのはノンレム睡眠時で、3〜8歳に最も多く起こります。
小児は悲鳴を上げて怖がり、心拍数が上昇し呼吸も速まります。小児は親がいることに気づいていないようです。激しく転げ回ることもあり、なだめようとしても反応しません。小児がしゃべることもありますが、質問には答えられないでしょう。
というもので、上には「小児は親がいることに気づいていないようです」とありますが、「その空間にいながら、別の世界にいる」感じなのです。別の世界で恐怖によって、もがき苦しんでいる。
基本的にその間の記憶はないとされますので(ただ、私は結構覚えていました)、子どもの「夢遊病 + パニック障害」みたいな病気ですが、ソルジャー・ブルーを見てしまったことは……まあ関係ないでしょうけれど、同じような時期でした。
それにしても、いろんな病気をやってますね、私は。
夜驚症は、メルクマニュアルにもありますように、年齢と共に症状は消えましたけど、長い間あのシーンのトラウマがややこびりついていた部分もありますし、そのせいもあってか、大人になってからもこの映画は見直していないんですよね。今後も見ないと思います。
なので、詳しいストーリーとかはよくわからないのです。
この映画は、Wikipedia の説明では、1864年に起きた「サンドクリークの虐殺」という事実を描いたものだそうで、
米国史の暗部を提示することで、1960年代のベトナム戦争でのソンミ村事件へのアンチテーゼを掲げた映画だとも云われている。また、これ以降ネイティブ・アメリカンを単純な悪役として表現することがなくなった。
という映画だそう。
その虐殺がどんなものだったかというと、サンドクリークの虐殺 - Wikipedia の記述では、
サンドクリークの虐殺は、1864年11月29日にアメリカのコロラド地方で、米軍が無抵抗のシャイアン族とアラパホー族インディアンの村に対しておこなった無差別虐殺。
ということで、映画で小学生だった私が見た光景は、1864年12月8日のデンバーの地元新聞『ロッキー山脈ニュース』の以下の下りのようだったようです。
ロッキー山脈ニュースの記事より
インディアンとの大会戦! 野蛮人どもは追い散らされた! インディアンの死者500人、わが軍の損害は死者9人、負傷者38人!
血も流さぬ第三連隊は、ミズーリ西で、野蛮人を相手にこの上ない大勝利をおさめた。わが軍はこの部族を完全粉砕したから、もう入植者が奴らに悩まされることは無いだろう。
ああダメだ。こんなのコピペしていたら吐き気がして具合悪くなってきた。『ソルジャー・ブルー』の記憶恐るべし。
それにしても、アメリカの祝日は「血と虐殺の祝日」が多いですね。
この「アメリカ先住民の虐殺のスタイル」を確立したのが、コロンブスで、そのことについては、過去記事の、
・虐殺の祝日コロンブス・デー:彼らは「理想的な人類像」を破壊し、そしてそれは「4回続く皆既月食」の渦中で起きた
2014年10月14日
の中に書いたことがあります。
それでも時は過ぎ、数百年後の今、感謝祭はアメリカの大きな祝日となっています。
そして、この感謝祭は別名「ターキー・デー」と言われるように、家族や知人と共に七面鳥を食べるということが習慣になっています。
それから400年後の感謝祭に消費される4千万羽の七面鳥

・Times Union
この感謝祭の「1日」だけで食べられる七面鳥の数をご存じでしょうか。
下は 2012年の記事ですが、今でもそれほど変わらないと思われます。
【ターキー】感謝祭に4,600万羽が消費!
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ 2014.11.22
アメリカ農務省によると、昨年1年間にアメリカ国内で2.48億羽の七面鳥が飼育され、そのうち90%が国内で消費されている。消費量別にみると、イースターのターキー消費量は1,900万羽、クリスマスが2,200万羽、そしてダントツの消費量となるのが11月の第4木曜日の祝日「感謝祭」だ。
感謝祭の1日だけで全米の食卓に上がるターキーは約4,600万羽にもなる。感謝祭に向けて購入されるターキーの平均重量は16ポンド(約7.3キロ)にも及ぶのだ。
感謝祭の日だけで4千6百万羽!
1年の合計だとアメリカだけで2億羽以上の消費!
日本では七面鳥を食べる習慣がほとんどないので、私も食べたことがあるのかないのかわからないほど馴染みがないですが、習慣とはいえ、1日でのこの消費量はすごい。
肉……。
ちょっと気になって、「アメリカの肉の消費」を調べてみますと、アメリカ人はニワトリもよく食べますね。
下の表はアメリカ農務省のデータを元に作成したもので、1999年のものと古いですが、それほど変化しているわけでもないと思います。

・チキンQ&A
じゃあ、牛肉。
こちらもアメリカ農務省のデータです。
世界の牛肉消費量(単位は千トン)

・NOCS
これもダントツの1位ですね。
中国の倍の消費量で、EU 27カ国すべてを上回るというすごさで、日本の 10倍ほどあります。
しかし、人口差(中国約13億、アメリカ約3億、日本約1億2千万)を考えると、日本人は中国人より牛肉を食べているのかも。
世界の豚肉の消費量(単位は千トン)

・NOCS
豚肉は中国がすごいですね。日本の 20、30倍くらい豚肉を食べてる。
人口差を勘案しても、日本の数倍食べている感じですね。
つーか、なんかこう……国を問わず、何だかみんな肉食べすぎな感じが……。
ちょっと考えちゃう部分もありますね。
何だか話が変な方向にきてしまいましたが、「感謝祭」ということについて、はじめてその「始まりの意味」を知りました。そして、ついでに古いトラウマも刺激されてしまいました。
米軍憎し(何だよ突然)。
ま、それはともかく、今年の感謝祭の日、イランの国営放送プレスTVで「ネイティブ・アメリカンたちにとっての感謝祭の意味」についての記事が掲載されていましたので、ご紹介したいと思います。
Native Americans mourn Thanksgiving holiday
Press TV 2014.11.28
ネイティブアメリカンたちは感謝祭の祝日に哀悼を捧げる
11月27日の感謝祭の祝日の日、マサチューセッツ州のプリマスでは、多くのアメリカ人たちが、17世紀にヨーロッパから入植した白人たちにより虐殺され続けたネイティブ・アメリカンたちに哀しみの意を表した。
このイベントは、「全米哀悼の日」( National Day of Mourning )と呼ばれており、ヨーロッパからの侵略で犠牲となった多くのアメリカ先住民たちへの哀悼の意を示すために、毎年、感謝祭の日におこなわれる。
感謝祭の背後には血塗られた歴史がある。
この「全米哀悼の日」は、1970年にアメリカ先住民族ワンパノアグ族のワムスッタ・フランク・ジェームズ( Wamsutta Frank James )氏が始めたもので、感謝祭の背後にある恐ろしいストーリーだけではなく、現在の米国のネイティブ・アメリカンが直面している問題にも言及する。
現在、感謝祭が白人によるネイティブ・アメリカンに対しての征服と虐殺の祝日であることを認識し始めているアメリカ人たちが増えている。
公式的には、感謝祭は 1621年にプリムスに入植した白人たちの最初の収穫を祝った宴の日にちなんで行われているとされており、毎年、11月の第4木曜日をその国家的な祝日としている。
アメリカ・インディアン・オブ・ニューイングランド連合の前代表マートウィン・マンロー( Mahtowin Munro )氏は、以下のように述べる。
「これまで感謝祭が始まったエピソードは、アメリカで入植者たちとインディアンたちが仲良く宴会を開き、その後もいい友人として生活していった、というような神話が教えられ続けていました。しかし、それは真実ではありません。私たちは、現実には何があったのかを話して、それを伝えていくことが重要だと思っています」
スミソニアン国立博物館の歴史文化の専門家であるデニス・ツォティ( Dennis Zotigh )氏は、「子どもたちと私たちが共有している幸せな歴史認識の半分、あるいはそれ以上の真実を提示します」と言う。
ツォティ氏に「あなたは感謝祭のお祝いをしますか?」と質問すると、
「いえ、私は祝いません」
と答えた。
アメリカ保健福祉省の少数民族事務局によると、アメリカインディアンとアラスカ先住民の 28パーセントが貧困と直面している。また、アメリカインディアン政策研究国民会議( National Congress of American Indians Policy Research )によると 18歳未満のネイティブ・アメリカンの 32パーセントが貧困に苦しんでいる。
「全米哀悼の日」を始めたワムスッタ氏の息子のムーナヌム・ジェイムス( Moonanum James )氏はこう語る。
「私たちがこの日を全米哀悼の日と呼ぶ理由は、巡礼者たちとコロンブスがこの地に上陸した日が、私たちのそれまでの生活がすべて終わった日だからです。土地も何もかも彼らに盗まれた」
ファーガソンで十代の黒人青年を射殺した白人警官に対して大陪審が不起訴処分とした後にミズーリ州のアフリカ系アメリカ人がデモや暴動を繰り返しているが、この日のデモ参加者は彼らアフリカ系アメリカ人との連帯を表明した。