2014年12月06日



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北半球の雪で覆われた面積が観測史上最高を記録。なのに、気温と海水表面温度は観測史上で最も高いという異常な矛盾(あるいは矛盾ではなくともイヤな冬の予感)



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▲ 2014年12月4日のワシントンポストより。






 


北半球の降雪面積が観測史上最大に

先日の記事、

元 NASA の気候学者が「地球はすでに今後30年以上続く寒冷期、あるいはミニ氷河期に突入した」と断定
 2014年12月04日

では、地球はすでにミニ氷河期に入っていると述べる気候学者の主張を取り上げました。

その気候学者で、元 NASA のコンサルタントのジョン・L・ケイシー( John L. Casey )氏が著作『ダーク・ウインター』で述べたことはおおむね以下の通りです。

・太陽活動の縮小による地球のミニ氷河期はもう始まっている。
・今後、地球は急速に寒冷化に入る。
・寒冷化は2020年代終わりから2030年代始めをピークとして数十年続くだろう。
・農業不振による食糧不足から社会情勢が不安定になる。
・アメリカは食糧輸出を停止するだろう。


などでした。

食糧輸出に関しては、「アメリカが輸出を停止する」とアメリカに言及しているのは、ケーシーさんご本人がアメリカ人だからだと思われます。世界的にそのような不作状態になれば、食糧輸出大国のカナダやロシアやオーストラリアなども同じような措置をとるでしょう。

ミニ氷河期には飢饉が起きやすいです。
小氷期 - Wikipedia には、

1315年には150万人もの餓死者を記録

とあり、食べられなくなりますと、体力も落ちて病気も流行しやすくなるためなのか、

疾病による死者も増加した。

ともあります。

このような状況となってきますと、自給率の低い、日本を含めた東アジアの国などはかなり厳しい状況となりそうですが、何か手はあるのかというと、数年間ならともかく、「数十年」も続くのであるならば、ちまちまと食糧備蓄をしてみても、個人ではどうにもならない面はありそうです。

さて、そんな「ミニ氷河期」の話題を書きました直後に、米国のワシントンポストの記事で、

今年の秋、北半球の雪で覆われた面積が観測史上最大になった

という報道を見つけました。

これは、ニュージャージー州のラトガース大学の降雪研究所が調査したもので、9月から11月の北半球の、「雪で覆われた面積」をデータ化したものです。

下のグラフで一目瞭然だと思います。

Northern-Hemisphere-snow2.gif

▲ 1967年から2014年までの雪で覆われた面積の推移。 ラトガース大学 全球降雪研究所( Rutgers University Global Snow Lab ) より。以下のデータも同じです。


これまでは 1976年が最も多い雪面積だったのですが、今年の秋はその記録を上回り、3500平方キロメートルを越える雪面積となりました。

下はそれぞれの年の平均との比較ですが、こちらに関しても今年は観測史上最大となっています。

snow-nov-na.gif

▲ 1967年から2014年までの雪で覆われた面積の偏差。




その一方で大気の温度と海水の表面温度も観測史上で最も高いとは、これいかに

このように、今年の秋(9月、10月、11月)は、雪の降った面積が、過去最大クラスに多いということがわかったわけで、それなら「気温もさぞや低かったのだろう」と考えるところですが、ワシントンポストの記事のタイトルにありますが、なんということか、

今年の北半球の秋の気温は観測史上で最も暖かった

のです。

私としては、むしろこちらのほうが信じられないところがありますが、下のように、アメリカ海洋大気庁( NOAA )の平年との気温の比較の図は、今年の秋の北半球は明らかに平年より気温が高いことがわかります。

2014年9月、10月の全世界の気温の偏差
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▲ NOAA が発表した2014年9月、10月の全世界の気温の平年との比較。赤が濃いほど、平年より気温が高いことを示します。


ワシントンポストによれば、

通常より少し暖かい気温は、大気中の水分含有量を増加させて、雪の量を増加させる可能性をもっている。

ということですので、「気温が高いために雪が増える」という理屈はわからないでもないのですが、しかし、何となく不思議な感じはいたします。

実は、大気温度だけではなく、「海面温度」もそうなんです。

過去記事、

冬のカオス:凍てつくアメリカ、焼け付くオーストラリア…
 2014年11月21日

で、私は下のように書いています。

現在、アメリカは強い寒波に見舞われていますが、実はアメリカ周辺の「海」では奇妙な現象が起きています。

それは「海水温が異常に高い」のです。

低いのならわかる気もするのですが、「高い」のです。
しかも、一過性のものではなく、最近ずっと高いままなのです。

下はアメリカ海洋大気庁( NOAA )による9月の世界の海水温度の平年との差異ですが、アメリカ西海岸からアラスカにかけての海域と、東海岸沿いの一部の海水温度が平年に比べて異常に高いことがわかります。


sea-temp-high.gif
・NOAA

上の記事ではアメリカについて書いていますが、記事にある全世界の海水温度の平年との差異を見てみますと、「今年の秋は全体として海水表面温度が高かった」ことがわかります。

さらに「来たるべき地球のかたち」の、

海に何が起きているのか:世界の海水の表面温度が観測史上の130年間で最も高くなっているけれど、その理由がわからない
 2014年11月26日

という記事には下の表を載せています。

1880年から2014年までの海水表面温度の推移
sea-temp-2014.gif
・NOAA

2014年は、太平洋も他の多くの海域も 1880年からの観測史上でもっとも海水の表面温度が高かったことがわかります。

しかし、秋が過ぎた 11月の終わりには、アメリカやカナダ、ロシア、ヨーロッパの一部、中国などに、「北極からの爆風(極渦」が、ジェット気流に乗ってやってきました。

これにより、アメリカでは、ニューヨーク州などで非常事態宣言まで発令されるような「異常な寒波」に見舞われたことはご記憶の方も多いと思われます。

emergency-us-cold.jpg

▲ 2014年11月22日のニューヨーク経済新聞より。


つまり、この秋の北半球、あるいはその一部は、

・観測史上で最も気温が高く暖かかった
・観測史上で最も高い海水表面温度だった


のにも関わらず、

・観測史上最も雪の降る面積が広かった

と同時に、

・北極からの寒気で100年以上の記録を更新する寒波

を経験する場所があったり、

・観測史上最大の積雪を記録する地域があった

などのムチャクチャな秋から冬の動きだったのですが、この「急変」という状態から感じることとしまして、先ほどリンクいたしました過去記事「冬のカオス…」に書きました、かつてのミニ氷河期はたった数ヶ月でその気温が定着し、その後、1300年間も続いたという調査などを思い出させてくれます。

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New Scientist

つまり、寒冷化は過去の場合には「急速にやってきた」という歴史もあるということですので、寒冷化に入る際にはあっという間にその状態になってしまうという可能性もあると思われます。




どう想像しても「荒れる」イメージしか湧かないこれからの冬

そして、世界各地から寒波と大雪のニュースが毎日飛び込んできています。

何より日本も昨日あたりから、かなり拾い範囲で雪の被害が出始めていて、毎日新聞の「大雪:四国と島根で次々車立ち往生 徳島では50世帯孤立」などを読みますと、改正災害対策基本法というものが初適用されたりしています。

ヨーロッパも、特に中央ヨーロッパはカオスじみた光景が寒気によって作られています。

オーストリア・コッテス 12月3日
kottes-01.jpg


オーストリア北部のヒムブルク 12月3日
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ハンガリーの首都ブダペスト 12月3日
Budapest-icy-01.jpg
DARK ROOM

ロシアも場所によっては大変なことになっているようで、ロシアの声には下のようなニュースがありました。

Khabarovsk-50.jpg

▲ 2014年12月3日のロシアの声より。


この先どんな冬になってくるのか、いよいよわからなくなりますが、海水の表面温度が高いということは、海から蒸発する水分などを考えますと、世界的に大気中の水分量が高くなっているのかもしれず、「大雪」という状況はしばらく続くのかもしれません。

そこに北極からの寒気が重なってくると、

暖かい気温と高い湿度の中に超寒気が突っ込んでくる

という図式になり、これだと、やはり「荒れる」というイメージしか湧かないのですが、どうなりますかね。

そして、元 NASA のケーシー氏は「ミニ氷河期は 30年続く」とか言っていたり、1万3千年前のミニ氷河期なんてのは 1300年間も続いたりしていたりなど、いろいろと「寒い話」は尽きません。

それでは、ここから、ワシントンポストの記事です。




Fall snow cover in Northern Hemisphere was most extensive on record, even with temperatures at high mark
Washington Post 2014.12.04


この秋の北半球は気温は高い状況にも関わらず、雪に覆われた面積が観測史上最高の広さを記録


過去46年の積雪面積の調査から、今年の秋の北半球では、他のすべての年よりも雪で覆われた面積が最も多くなっていることがわかった。

これは非常に驚くべき結果と言わざるを得ない。なぜなら、北半球の気温そのものは、過去の同時期と比べて最も高いレベルで推移しているからだ。

米国ラトガース大学の全球降雪研究所( Rutgers University Global Snow Lab )のデータによれば、この秋の北半球の雪面積は、2200平方マイル(約 3540万キロメートル)以上に拡大しており、これは、1976年に記録された積雪面積を大きく越えている。

研究をおこなっているニュージャージー州の気候学者、デビッド・ロビンソン( David Robinson )氏は、以下の積雪に関しての統計情報を追加する。

・9月、10月、11月に、北半球の雪面積が記録を更新した。
・北米は観測史上で最も広範囲での積雪があった。
・ユーラシア大陸では観測史上3番目の積雪面積があった。

さらに、11月に絞ると、

・北米は観測史上で最も広範囲での積雪があった。
・ハワイとアラスカを除くアメリカ本土48州で観測史上で最も広範囲での積雪があった。(これは北極からの爆風での豪雪があったことを考えると不思議ではない)
・カナダは観測史上2番目に多い積雪面積だった。

この結果は、アメリカ海洋大気庁( NOAA )の発表した今年 9月と 10月の全世界の平均気温が、観測史上で「最も暖かかった」という結果を考慮すると、まるで、お互いに反している現象のように見えるかもしれない。

また、アラバマ大学ハンツビル校の衛星解析データによると、11月の全世界の気温も観測史上2番目に高かった。

しかし、雪の量は、気温との相関関係を持つものではない。雪が降るには、単に氷点下、あるいは氷点下近くの気温が必要とされるだけだ。

平年より1〜2度高い気温は、多くの場所に降雪を与える可能性がある。

また、通常より少し暖かい気温は、大気中の水分含有量を増加させ、雪の量を増加させる可能性をもっている。

最近のモデリング研究によれば、地球温暖化のシナリオの中では、今世紀末までに雪の量は高緯度地域で 10パーセントほど増えるとされる。

降雪の条件としては、気温よりもむしろジェット気流の循環の要素が重要に関与している。ジェット気流は、中緯度へ北極からの冷たい空気を輸送することができる。この秋には北極からのジェット気流が、ふだんの秋なら降雪がないような地域に降雪をもたらした。

今年の秋の珍しいジェット気流の動きの理由については、科学研究で活発な議論がおこなわれており、現在、

1. アメリカは雪と寒さの進行中の中にいる。しかし、それはなぜか。

2. 地球温暖化がこの狂気的な冬を作り出しているという証拠が出始めている。

という2つを柱として議論が進められている。