▲ 2015年1月6日の UPI より。
「忽然と消息を絶った」着陸機フィラエ
アメリカの科学誌サイエンスは、毎年、前年の科学ニュースのベスト 10を選びますが、「 2014年の科学的10大ニュース」のトップは下のように、チュ(略)彗星への着陸成功が輝いています。
・Science
サイエンスの10大ニュースは1位だけが順位付けされ、他は順不同ですので、グリグリの1位だったことになります。
ところが、今年になって、冒頭の記事にありますように、彗星探査機ロゼッタの着陸機(ランダー)であるフィラエが「行方不明」となっていることが ESA (欧州宇宙機関)の発表によって明らかになりました。
正確に書けば、発表は「接近写真でフィラエの痕跡を確認できなかった」とのことです。
フィラエは、着陸時に書きました記事、
・彗星の正体の判明はどうなる?:彗星に着陸した探査機ロゼッタの着陸機フィラエが電力不足により稼働できなくなる可能性
2014年11月14日
などに書いていますが、フィラエは、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星への着陸に成功はしたものの、当初の着陸予定ポイントからずれてしまい、太陽光のあたり当たらない場所に着陸してしまいました。
フィラエの「着陸予定地点」と「実際の着陸地点」
・Earthfiles
そのため、太陽電池の充電がうまくいかず、フィラエはその後に、「休眠」に入ります。
しかし、着陸地点は特定しているために、「そのままの状態」であれば、フィラエの位置は、その後にロゼッタから送信される写真からでも特定できるはずですが、2015年になってから送信されてきた写真には、「フィラエが写っていなかった」のでした。
探査機ロゼッタが送信してきた最新の彗星のクローズアップ写真
・UPI/ESA/ROSETTA
もしかすると、フィラエに「何か」が起きたかもしれません。
着陸機フィラエは、大きさが「家庭用の食器洗い機くらい」のサイズの小さな探査マシンです。下の GIF 動画は、ロゼッタから切り離されたフィラエが、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に向かう時の様子です。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸に向かうフィラエ
・Daily Mail
それにしても、ほとんど重力のない彗星の上に、特に完全に地表と固定しているわけでもないのに、このくらいの小さなものが、「秒速」10キロメートル程度の超高速で飛行していて、しかも真空の彗星表面に居続けられるのか、私は着陸時より疑問ではありました。
この環境だと、宇宙空間を飛んでいる何か非常に小さなもの、たとえば、2〜3センチくらいの小さな隕石がぶつかるだけで吹っ飛んでしまうのでは? とは思います。
ちなみに、欧州宇宙機関( ESA )は、この「フィラエの行方不明発表」の少し前に、下のように希望を持たせる発表をしていました。
欧州の彗星探査、休眠中の実験機「フィラエ」は3月復活か
AFP 2015.01.06
世界初の彗星着陸に成功したものの電池切れで休眠状態にある欧州宇宙機関の実験機「フィラエ」が、3月にも十分な日照を得て復活しそうだという。
フランス国立宇宙センターのジャンイブ・ルガル所長は5日、パリで記者会見し、彗星周回探査機「ロゼッタ」の実験用着陸機について、「フィラエの冒険物語は終わらない」と述べた。
このフランス国立宇宙センターの所長は、「フィラエの冒険物語は終わらない」と、は述べていますけれど、この 1月5日には、実はすでに、フィラエが行方不明となっていることはわかっていた時で、なかなか心苦しいものはあったと思います。
あるいは、フィラエの冒険物語が終わってしまった可能性が少し浮上したともいえます。
とはいっても、単に画像上で発見できないだけで、チュ彗星の上の存在している可能性はもちろんあります。通信が再開した場合、自ら居所を伝えてくる可能性は残されています(機体が存在するならば、ですが)。
冒頭の UPI の記事をご紹介しておきます。
Philae lander still missing on comet
UPI 2015.01.06
着陸機フィラエはいまだに彗星上の行方がわからず
科学者たちは新しく送信された写真にフィラエの位置を把握できない状況のままとなっている。
科学者たちは、彗星探査機ロゼッタが撮影して送信してきた新たなクローズアップ画像に、着陸船フィラエの存在を確かめることができなかった。
ロゼッタよる最近の偵察活動では、現在休眠中の着陸船フィラエの所在についての新しい情報を得ることはできなかった。食器洗い機ほどの大きさの小型のローダーが、現在、67P- チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の上のどこにあるのか、その行方がわからなくなっている。
今月はじめ、欧州宇宙機関( ESA )のロゼッタ・ミッションの科学者たちは、ロゼッタに、彗星上のフィラエの位置情報を掴むための調査を指示した。ロゼッタは、彗星上空約 20キロメートルの高さから、指示された地域のクローズアップ画像の撮影に成功した。
しかし、この努力は実らなかった。
その新しい画像にフィラエの痕跡を確認することができなかったのだ。
それでも、ESA のスタッフたちは、フィラエが休眠から目覚めた時に、自らの存在を信号として伝えてくると確信している。科学者たちは、フィラエが、早ければ、2月にも休眠から目覚めて再稼働を始める可能性があると述べる。
ここまでです。
最も遅い場合でも、3月の終わりくらいまでにフィラエから信号、あるいは再稼働した証拠の画像が得られなければ、理由はともかく「フィラエは消滅した」ということになるのかもしれません。
先にリンクした過去記事「彗星の正体の判明はどうなる?…」の最後は、
人類という存在は、「自然摂理の真実」を知らずに生きていたほうがいいと考える「見えざる力」が、フィラエにかかったりしたのかもしれませんけれど。
というような文章で締めくくったのですが、やや皮肉な感じもいたします。
この「消える」という同じキーワードで、火星探査機オポチュニティが「記憶喪失」に陥りつつあるというニュースも報道されていました。
火星で過ごした「 11年間の記憶」が消えていく
▲ 2014年12月31日の BBC NASA to hack Mars rover Opportunity to fix 'amnesia' fault より。
火星探査機については、キュリオシティと共に、よく記事で取り上げさせていただいて、オポチュニティも何度か取り上げたことがあります。
最近で驚かせてくれたこととしては、過去記事の、
・最近の火星では何かが起きている:火星の環境が激変しているかもしれない証拠になり得るかも知れないさまざまなこと
2014年05月25日
でご紹介しました、「オポチュニティの自己クリーニング」のことでした。
砂の嵐が吹き荒れる火星では、探査の期間が長くなればなるほど、機体は砂まみれとなっていきます。
火星探査機オポチュニティが火星に到着したのは、2004年1月のことですが、下の写真は、左が 2005年 8月にオポチュニティを上から撮影した写真で、右は9年後の 2014年 1月の写真です。
・NASA
砂まみれになってしまったオポチュニティの姿が写っていますが、ところが、それから3ヶ月後の 2014年4月に、オポチュニティは、少しではありますが、「きれいになっていた」のです。
どんどん汚れていくのは理解できますが、少しではあっても「突然きれいになったのはなぜ?」と話題になりましたが、 NASA 発表では「風によるもの」と明確な答えでした。
しかし、これまでこんなに唐突に機体が清掃されたことはなかったわけで、これが風だとした場合、火星でも「この 10年間になかったような突風が吹き荒れた」という可能性を考えたりもして、火星でも環境の激変が起きているのかもしれないとは思います。
そんな火星で 11年間探査活動をおこなってきたオポチュニティが、 BBC の報道のタイトルのまま書きますと「記憶喪失」となりつつあります。
これは、ちょっと面倒くさい単語かもしれないですが、
「不揮発性メモリが故障した」
ということで、不揮発性メモリというのは、パソコンになどでは ROM とかフラッシュメモリとかにあたるものようですが、これが完全にダメになると、家庭のパソコンであっても火星探査機であっても、「データの保存は不可能」という状態なるだけではなく、これまでのデータも消えてしまうことになりそうです。
こうなりますと、オポチュニティは、その後も火星上を走り続けたとしても、自身のデータ保存能力がなくなった場合は、探査機としての使命は基本的に終わることになるのかもしれません。
現在は、 NASA が、地球上からオポチュニティの再プログラミングの試行をおこなっているようです。
しかし、BBC の記事によれば、オポチュニティは、すでに当初の予想した耐用年数を越えて働き続けていて、これも一種の「寿命」だと NASA のプロジェクトマネージャーは述べています。
宇宙のいろいろなものが消えていきそうな 2015年ですが、それこそ、「見えざる力」の、何かの示唆なのかもしれません。