2015年1月27日にサウジアラビアを訪問したオバマ大統領の到着を伝えるサウジの現地メディア

▲ サウジアラビアのテレビニュースでは、オバマ大統領の隣に「ぼかし」が入れられていました。その理由は後に記します。mz-mz より。
いろいろな「自由」はあるのでしょうけれど
それまで縁のなかったものが、些細なきっかけでその縁が続いていくというようなことはよくありますが、最近の私では、「サウジアラビア」なんてのがそうかもしれません。
今年 1月12日の「サウジアラビアの大雪報道から辿り着いた…」という記事において、 In Deep で初めて、サウジアラビアという国名が出てきたのですが、その後、
・ハッシュタグは「私は雪だるま」:サウジアラビアで宗教的な禁止勧告を出された「雪だるま作り」への反発とか…
2015年01月17日
という記事では、サウジアラビアでの雪だるま作りに対して、サウジの高名な宗教指導者シーク・ムハンマド・サラハ・アル=ムナッジド師により、
「雪だるま作りへのファトワー(イスラム教の見地からの禁止勧告)」
が宣言され、いろいろともめていたことなどを取り上げました。

・al-mlab
イスラム教の厳密な解釈では、「偶像や擬人化はすべていけない」とされているので、雪だるまであっても、上のように「人格」を持つようなタイプの雪だるまを作ってはいけないという理由によるファトワーでした。
とはいえ、確かに宗教的意味のある動議だとはいえ、「雪だるま作りを国の宗教の最高権威筋が禁止する」というのは聞いたことのないことで、珍しいニュースだと思い、取り上げたのでした。
しかし、それからほんの数日後に、このサウジアラビアのアブドラ国王(正式名:アブドゥッラー・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール=サウード国王)が逝去されるという事態が起きています。
このアブドラ国王は、サウジアラビアの初代国王であるサウード国王(正式名:アブドゥルアズィーズ・ビン・アブドゥルラハマーン・ビン・ファイサル・アール・サウード国王)の第8夫人のファハダ・ビント・アル=アースィー・アッ=シュライム夫人との間に生まれ……(サウジの王室の歴史はもうこのあたりで)。
そうですか。
この際、アブドラ国王の兄弟(全部で 36人)などもフルネームでご紹介しようと思いましたが、それは今度にしておきます。
さて、アブドラ国王の死去に伴い、新国王が就任したのですが、そのため、急遽、アメリカのオバマ大統領が、サウジアラビアを訪問するということになりました。
そのオバマ大統領が到着した際のサウジアラビアの現地メディアの報道が、冒頭に貼りました「なぜかオバマ大統領の隣にぼかしが入っている映像」なのでした。
何がぼかされているかは、下のウォール・ストリート・ジャーナルの記事で明確かと思います。

▲ 2015年1月28日のウォール・ストリート・ジャーナル「オバマ大統領がサウジ訪問、サルマン新国王と会談」より。
テレビ報道では、オバマ大統領のミッシェル夫人が消されていたのでした。
下が実際の報道の動画です。
時間は 10秒ほどですが、雰囲気はご理解いただけるかと思います。
オバマ大統領のサウジアラビア訪問時の現地報道メディア
なぜ、ミッシェル夫人が「修正された」のかというのは、
・サウジアラビアがイスラム教国であること
・現在は国家最大の喪中であること
などを考えると、改めて書くまでもないことかもしないですが、まずは、「髪を隠していない」ことが問題のようです。
アラビア語圏のイスラム国では、ベールのことをヒジャブと呼びますが、それをしていない。

・inayahcollection
さらに、「喪に服している期間なのに青い服」。
これに関しては、確かに私も「いくら何でも派手なのでは」とは思いました。
喪中、あるいはそれに類した場では、どの国であろうと、大体は「黒の系統の服」と決まっていると思いますが、サウジアラビアの現地の高官たちも黒い服を着ている中、ミッシェル夫人だけ、華やかな柄の衣装で登場しています。
確かにこれをこのままテレビで放映してしまいますと、サウジアラビアの保守層の人たちなどから、かなりの反感を買う可能性もあり、そのこともあり、「修正して放映した」ようです。
しかし、このことはすぐにサウジアラビア内で広がり、サウジの一部の人々は、「 #Michelle_Obama_NotVeile (ベールをしていないミッシェル・オバマ)」というハッシュタグで、ツイッター上に、怒りを表明したりしているそうです。
また、サウジアラビアのメディアでは、「ミッシェル・オバマ夫人は、かつての他の国への公式訪問の際にはベールをつけていた」ことなども報じられています。
前ローマ法王ベネディクト16世と謁見したバチカン訪問時のオバマ大統領夫妻

・mz-mz.net
2010年のインドネシア訪問時のオバマ大統領夫妻

・mz-mz.net
今回もベネディクト16世と会った際の格好のような出で立ちでサウジアラビアに赴けば、何の問題もなかったと思うのですが、なぜ今回はこのようなことに?
実はこのことに関しては、欧米の多くのメジャーメディアでも報じていますが、ヒジャブをせず、派手な服装で、喪中のイスラム国家に望んだ、というミッシェル夫人の行動の理由はわからないですが、しかし、サウジアラビアのメディアは、それ以上に、
「あまりにも終始、不機嫌な様子のミッシェル夫人の様子」
を報じています。


▲ 2015年1月28日の mz-mz.net より。
喪中なので、「悲しんでいる」様子なら問題はないのでしょうけれど、今回のサウジアラビア訪問のミッシェル夫人の表情は、不機嫌そのものに見えます。上の2枚目の写真の表情はちょっとひどいかも…。
ベール(ヒジャブ)や服装よりも、むしろ、この「表情」が、多くのサウジアラビアの人たちの反感を買ってしまったのかもしれません。
服装の問題だけなら、過去を見ますと、ファーストレディや指導者レベルの女性たちも、サウジアラビアを訪問する際、ベールをしていない人は多かったようです。
これについては、Think Progress というメディアの記事で、「過去にサウジアラビアを公式訪問した女性たち」が、特集されていますが、政治家では、ドイツのメルケル首相の 2010年の訪問、2012年のヒラリー・クリントン国務長官、2007年のライス国務長官などは、すべて、ベールをしていません。
ファーストレディでは、ブッシュ元大統領夫人のローラ・ブッシュさんが、2007年の訪問ではベールをしていましたが、2008年の訪問ではベールをしていませんでした。
2008年のローラ・ブッシュ夫人のサウジアラビア訪問時

・Think Progress
過去にはそんなに大きく問題となったことはないようなのですが、今回のミッシェル・オバマさんのサウジアラビア訪問は、国民の間でそれなりの問題となっているようで、先ほどのタグ「 #Michelle_Obama_NotVeile (ベールをしていないミッシェル・オバマ)」でのツイッターへの投稿は、すでに「 240万」に上っているそうです。
微妙な「イスラムと西側諸国」の対峙の中で
今は、ここ何十年の中でも、最も「イスラム教の国々、あるいはイスラム教の人々」と、そうではない主要国との間の、軋みのようなものが強くなっています。
そういう中での、今回のファースト・レディの態度というのは、これはこれで十分に「何か」を投じている感じもします。
・「第三次世界大戦が侮辱画から始まるとは誰が想像しえたか」
2015年01月14日
に書きました、アメリカ南北戦争時の南部連合将軍であり、当時のフリーメーソンの最高位である 33位のアルバート・パイクが、1871年に手紙に書いたとされる、
第三次世界大戦は、政治的シオニストとイスラム世界の指導者たちとの間で、「エージェント」と「イルミナティ」によって引き起こされる両者の意見の相違を利用することによって助長されなければならない。
戦争はイスラムと、政治的シオニズムが相互に破壊し合うような方法で行われなければならない。(略)
そこら中にいる市民たちに、世界の少数派の革命家たちから市民各々が自らで守ることを義務づけることによって、市民たちは文明の破壊者たちを駆逐するだろう。
というようなことを思い出したりするわけです。
にも書きましたけれど、今の中東では下のようなことになっていて、中東の問題が、さらに「 33度線のあたりで混乱しつつある」といえそうな感じでもあります。

・過去記事「中東のカオスと英国エコノミスト誌の表紙を見て思う…」より。
そして、このあたりの国は最近の原油価格の急落で、大なり小なり損害を受けている国が多いと思われ、そのあたりにも混乱の要素はあります。
今回のオバマ夫人の行動そのものは些細なことでも、これは「中東とイスラムとアメリカが絡んでいる出来事」であるということに気づきます。
しかし、基本的に、たとえば、多くの日本人のように宗教的なこととは無縁で生きているとした場合、クレアの記事に書いたことがあります「アメリカ先住民の倫理の規範」にあります、
他の人々の宗教的な信念を尊重しなさい。あなたの信念を他の人々に押しつけてはならない。
ということだけでOKなのではないかとも思います。