
▲ 2015年2月9日の PHYS.org No Big Bang? Quantum equation predicts universe has no beginning より。直訳だと「量子式」となりますが、馴染みのない言葉ですので、「量子力学」としています。
今回は上のことをご紹介したいと思いますが、今回はそれだけが本題ではありません。
「あまのじゃくフレッド・ホイル」
今週の最初くらいに強いめまいに見舞われた時、「寝込む時間が多くなりそう」とか思いまして、Amazon で何冊か古本を物色して購入したんですね。
その中に、アメリカの理論物理学者ミチオ・カク博士の本が含まれていました。

・ミチオ・カクさん。日系3世です。Wikipedia
ミチオ・カクさんは、素粒子論ではアメリカで有名な科学者で、何となく言うこと書くことが難解なイメージがあるのですが、Amazon で、ふと、『パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ
先日の記事で、
・多くの人類の松果体が破壊されようとしている現在に考える「多次元宇宙空間を理解する将来のために松果体を守るべき」時代
2015年02月22日
という「多次元宇宙」などという単語をタイトル<をつけたものを書いたこともあることもありますが、4次元や 5次元を超えて、「 11次元」とあるところに着目いたしまして、しかも、レビューがとても楽しそうな感じでしたので、注文してみました。
すぐに到着したのですが、四百数十ページある大著でしたので、いつもするように、読みはせずに、ザラーッと全体をペラペラ飛ばしていましたら、途中で
「ホイル」
という文字が何ページにもわたって出てくるセクションに当たったのです。
そのあたりで手を止めますと、そこは「第三章 ビッグバン」という章の中のセクションでした。
この章では、
・エドウィン・ハッブル(現代の宇宙論の基礎を築く)
・ジョージ・ガモフ(ビッグバン理論の提唱者)
・フレッド・ホイル(ビッグバン理論の反対者であり、皮肉にも命名者)
の3人が大きく取り上げられています。
特に、ホイル博士が出てくるのは、「ガモフ vs ホイル」の「ビッグバンをめぐる全面戦争」について、非常に面白く書かれていたのでした。
私はフレッド・ホイル博士のことについて、今まで何度も書いてきたことがあるにも関わらず、
「どんな人だったのか」
とか、
「ビッグバン命名騒動の実際の顛末」
などをよく知らなかったのです。
ところが、このミチオ・カクさんの本には、それらのことが非常に丁寧に、しかも「とんでもなく面白く」書かれていたのでした。
これはもう私にとってお宝本です(他のセクションを読まなくとも)。
この本を手にしたのも「めまいのお陰」ということは確かで、ひどいめまいに襲われでもしなければ、素粒子論の科学者の本など買おうとは思わなかったはずですから、めまいは憎いとはいえ、いいタイミングに貢献してくれました。「めまい、ナイス・ジョブ!」とまでは言いませんが。
そしてですね。
私は、その中の「ホイル博士の人となり」を読んで、実に感動したのです。
その感動は、生まれて初めて英国のパンクにふれた時と同じようなタイプのもので、子どもの頃から反骨の中に生きた、後の大科学者ホイル博士の姿を知り、「オレは昔からこの手の人ばっかり好きになるなあ」というように思うのでした。
その、ホイル博士が紹介されている章の一部をご紹介します。
ちなみに、そのセクションの見出しは「あまのじゃくフレッド・ホイル」でした(笑)。
あまのじゃくフレッド・ホイル
ミチオ・カク著『パラレル・ワールド』より
ホイルはいわゆる学会のはぐれ者で、理知的なあまのじゃくとして、ときに喧嘩腰であえて主流の考えに逆らった。ハッブルは、オックスフォードの紳士の流儀をまねて、どこまでも高貴であろうとし、ガモフは、ひょうきん者で、軽口や五行戯詩や茶目っ気で聴衆を惹きつける博識家だった。
これに対し、ホイルの態度はいかついブルドッグに似ており、かつてアイザック・ニュートンがいた伝統あるケンブリッジ大学にはそぐわない存在に見えた。
彼は子どもの頃から反骨精神にあふれていた。三歳で九九の表を覚えてしまっていたので、先生からローマ数字を覚えるように言われたことがあった。「8をわざわざ [ と書くなんて、ばかばかしくてしょうがないじゃないか」とホイルは鼻で笑いながら思い出している。一方で、法律にしたがって学校に行かなければならないと言われたときのことは、こう書いている。
「不幸にも、強大でろくでもない『法律』とかいう獰猛な怪物が支配する世界に生まれついてしまったのだとあきらめた」
権威を見下すホイルの態度は、別の女の先生との諍(いさか)いで揺るぎないものとなる。その先生は授業で、ある花びらの数が五枚だと言った。先生が間違っていることを示そうと、ホイルはその花で花びらが六枚あるものを学校へ持っていった。
すると、生意気さにかちんときた先生は、彼の左の耳を強くひっぱたいたのである(のちにホイルはその耳が聞こえなくなっている)。
学校に行かなければならない年齢が当時の英国で、いくつだったかわからないですが、多分、まだ幼かったと思います。そんな年齢で、
> 不幸にも、強大でろくでもない『法律』とかいう獰猛な怪物が…
というような感覚を覚えるというのはすごい。
生まれについては、
一九一五年、ホイルはイングランド北部の羊毛業の盛んな地域で、織物商の息子として生まれた。
とありますので、労働者階級という言い方でいいのかどうかはわからないですが、いわゆるエリート層とは無縁の出身のようで、それでも、ホイル少年は子ども時代に、両親から望遠鏡を買ってもらったことが科学と宇宙への興味の始まりだったと述べていたようです。
ちなみに、さきほどの文章に出てきた、ハップル、ガモフ、そして、ホイルの三氏について、一応、説明のようなものを添付しておきます。
エドウィン・ハッブル - Wikipedia
エドウィン・パウエル・ハッブル(1889年 - 1953年)はアメリカ合衆国の天文学者。我々の銀河系の外にも銀河が存在することや、それらの銀河からの光が宇宙膨張に伴って赤方偏移していることを発見した。現代の宇宙論の基礎を築いた人物である。
ジョージ・ガモフ - JAXA 宇宙情報センター
ジョージ・ガモフ(1904〜1968)は、ロシア生まれのアメリカの物理学者。1948年に発表した共同論文で、ガモフは「火の玉宇宙」というアイデアを発表しました。初期の宇宙が高温・高密度で、膨張につれてしだいに冷えていったというものでした。
この考えは、当時としては非常にユニークなものだったので、他の科学者から、からかいの意味をこめて「ビッグバン(爆発音、ばーん)理論」と呼ばれます。
フレッド・ホイル
フレッド・ホイル(Sir Fred Hoyle, 1915年 - 2001年)は、イギリスウェスト・ヨークシャー州ブラッドフォード出身の天文学者、SF小説作家。
元素合成の理論の発展に大きな貢献をした。現在の天文学の主流に反する数々の理論を提唱したことでも知られる。研究生活の大半をケンブリッジ大学天文学研究所で過ごし、同研究所所長を長年に渡って務めた。
上の、ジョージ・ガモフについての JAXA の説明の中に、
> 他の科学者から、からかいの意味をこめて「ビッグバン(爆発音、ばーん)理論」と呼ばれます。
とありますが、この「他の科学者」は、フレッド・ホイル博士のことです。また、「からかいの意味をこめて」は間違いで、そのことも、ミチオ・カク博士の著作にその顛末が記されています。
ミチオ・カク著『パラレル・ワールド』より
ホイルは全面戦争もいとわなかった。1949年、英国放送協会(BBC)は、ホイルとガモフの双方をラジオ番組に呼んで、宇宙の起源について議論をさせた。
番組で相手の理論をたたく際に、ホイルは歴史に残る言葉を口にした。
「そうした理論は、宇宙のすべての物質が遠い昔のあるとき、どでかい爆発(「ビッグバン」)」によってできたという仮説に基づくものです」
この名前が定着した。こうしてその理論は、最大の敵によって正式に「ビッグバン」と名づけられたのである(のちにホイルは、けなすつもりはなかったと言っている。「けなそうとしてあの名前をこしらえたはずなんかない。注意を引こうとしたんだよ」)。
(その後しばらく、ビッグバン理論の支持者たちはあえてその名前を変えようとした。平凡でほとんど卑俗とも言える名前の意味や、最大の敵に名づけられた事実が不満だったのだ。
潔癖な人は、とくに事実として間違っていることにいらだった。第一に、ビッグバンはビッグでなく(原子よりずっと小さい特異点から始まったから)、第二に、バンという音もなかったのだ(宇宙空間には空気がないから)。
1993年8月には、『スカイ・アンド・テレスコープ』誌がビッグバン理論に新しい名前をつけるコンテストを実施した。コンテストには一万三千通の案が集まったが、審査員はもとの名前より良いものを見つけられなかった。)
当初は、ビッグバン派はこの「ビッグバン」という名称がイヤで、何とかして別の名称にしたかったのですけれど、結局どうやっても他にいい名前がなかったと。
そういう意味では、ホイルさんの命名センスは(皮肉的ではありますけれど)大したものだったのかもしれません。そして、それを採用したガモフ氏のセンスも。
この出来事の後、ホイル氏による BBC の科学番組が英国民の間で大変な評判となり、天文学者を志す若者たちに強烈な影響を与えることとなりました。その功績も大変に大きいとミチオ・カク氏は書いています。

▲ 1950年代に英国 BBC の科学講座(5回連続)に出演した際のフレッド・ホイル卿。Entendido y Anotado より。
ちなみに、当時、 BBC では「この男(ホイル博士)を番組に出してはいけない」という内部警告が存在していたそうなのですが、プロデューサーがその警告を無視ために番組は実現したのだそうです。
なぜ、ホイル博士が BBC 出演禁止だったのかの理由については書かれていません。
このように、ホイル博士の名前は世に轟いたのですが、その主張(定常宇宙論やパンスペルミア説)は、世の中にはあまり浸透しませんでした。
まあしかし、私は、ホイル博士がノーベル賞から(多分、意図的に)外されたことを残念に思っていたのですが、このホイル博士の気質を読みまして、ホイル博士本人の「権威を蔑む」という身に染みついた気質から見れば、ノーベル賞だの何だのは関係なかったのかもしれません。
過去記事では何度も何度もホイル博士の名前が出ていますが、特に私は、ホイル博士の著作のひとつ『生命はどこからきたか
生命と意識は宇宙の構造に全体として結びついていているもので、別々にはできない。
という最晩年にホイル博士が至った結論が大好きでした。
ホイル博士は、晩年は、この宇宙が巨大な知性の下にある(あるいは宇宙自体が巨大な知性)と考えていたようです。
他にも、反骨的な科学者として、ジョルダーノ・ブルーノとか、アレクサンドル・チジェフスキーなど、いろいろな科学者を取り上げることがありましたが、それぞれが、科学に興味のなかった私に、科学的な様々なことに興味を少しだけ向けさせてくれたことに感謝しています。
上の人たちがすべて出てくる記事としましては、
・「真実の太陽の時代」がやってくる(1):私たち人類は何もかも太陽活動に牛耳られている
2013年07月11日
というものがあります。
というわけで、ミチオ・カクさんの本で、予期せず知り得たフレッド・ホイル博士のことでしたが、今回は最近話題となっています科学記事「量子論はビッグバンを否定する」という内容の記事をご紹介して締めたいと思います。
記事は科学専門メディアの PHYS.org で、その内容は、とにかく難解で、正直、本来なら私の手に負えるものではないのですが、あくまで概要(しかも間違っている部分が多いと思います)の翻訳となりますが、生涯にわたってビッグバン理論の敵対者であり続けたホイル博士と同じページに載せるにはいい記事だと思います。
No Big Bang? Quantum equation predicts universe has no beginning
PHYS.ORG 2015.02.09
ビッグバンはない? 量子式は宇宙に始まりがないことを予測する
アインシュタインの一般相対性理論を補完するための量子補正項を適用した新しいモデルによれば、宇宙は、始まりや終わりがなく、永遠に存在するものである可能性がある。
そして、この新しいモデルは暗黒物質と暗黒エネルギーを説明することもでき、一度に複数の問題を解決できるものになり得るしれない。
現在一般に広く受け入れられている宇宙の年齢は、一般相対性理論によって推定される 138億年だ。現存するすべてのものは、最初に単一の無限に密な点、または特異点を占領したと考えられている。
この点である「ビッグバン」が拡大した後に宇宙が始まったとされる。
ビッグバンの特異点(時空特異点)は、一般相対性理論の計算から直接かつ不可避的に発生しているが、一部の科学者は計算では「その直後に何が起きたか」を説明することはできても、「その前」は説明できないことを問題としている。
「ビッグバンの特異点は、一般相対性理論の中で最も深刻な問題です。なぜなら、物理の法則がこの理論を打破してしまうように見えるのです」とエジプトのベンハー大学の科学者、アーメド・ファラグ・アリ(Ahmed Farag Ali )博士は私たちに語った。
アリ氏と、カナダのレスブリッジ大学のサウリャ・ダス( Saurya Das )氏の2人は学術雑誌『フィジックス・レターズB』( Physics Letters B )に発表した論文の中で、「宇宙には、始まりも終わりもない」という新しいモデルによって、ビッグバンの特異点を解決している。
昔の考えを再度見直す
彼らの研究は、理論物理学者デヴィッド・ボーム( David Bohm )氏によるアイデアに基づく。ボーム氏は、物理学の哲学に対しての貢献の業績で知られる。
ボーム氏は 1950年から量子軌跡と古典的な測地線の置換を探求した。
アリ氏とダス氏は、このボーム氏の軌道に、インドのプレジデンシー大学の物理学者アマル・クマール・ライチャウデュリ( Amal Kumar Raychaudhuri )氏が1950年代に開発した方程式を適用した。
時空特異点はなく暗黒物質もない
彼らの新しいモデルは、ビッグバン特異点を予測しないことに加え、「ビッグクランチ」特異点(ビッグバンと逆の宇宙の崩壊と説明される現象)も予測しない。
一般相対性理論では、宇宙の運命のひとつとしての可能性として、それがビッグクランチで自身が崩壊するまで縮小し、再び無限に密な点になるとされる。
宇宙論的にいえば、量子補正は、ダークエネルギーを必要とせずに、宇宙定数項および放射線起点として考えることができると彼らは説明する。
これらの起点は、有限のサイズで宇宙を保つために無限の時間を与える。
また、この起点は宇宙の宇宙定数と密度の現在の観測値と密接に同意する予測を行う。
ああもう限界であります(苦笑)。
内容というより、単語自体が難しくて、間違えている部分も多くあると思います。宇宙論にお詳しい方は、PHYS.org の記事そのものをお読みになることをお勧めさせていだきます。
朧気ながらですが、今回のことを簡単に書きますと、次のようになると思います。
現代の量子論と 1950年代の古い理論とを組み合わせた新しい宇宙モデルでは、宇宙の始まりも終わりも導かれず、ビッグバンも宇宙の終わりもないことになり、そして、このモデルで暗黒物質なども説明でき、既存の宇宙論の矛盾が解決する。
とする理論が発表されたということだと思います。
理解するには、その壁があまりにも高いために、私には難しいですが、こういう問題に関しての、物理学や現代宇宙論にお詳しい方々の今後の奮闘をお祈りしています。
そして、「永遠の宇宙」という概念を科学が導き出すのも、そんなに遠い未来ではないかもしれないと思ったりもします。これこそがフレッド・ホイル博士が生涯をかけて研究し続けていたものであるはずです。