10万羽規模となった米国西海岸のウミドリの大量死

▲ 2015年1月24日のナショナルジオグラフィックより。
人間は動物の大量死には介入できない
今年5月の始めに、
・米国アイオワ州で1600万羽以上への鳥インフルエンザの感染拡大により非常事態宣言
2015年05月04日
というようなことがありました。
タイトルの通りに、アメリカのアイオワ州で 1600万羽という途方もない数の鶏や七面鳥が鳥インフルエンザに感染し、 5月1日にアイオワ州知事が非常事態を宣言したという出来事でした。
5日2日の米国ニューヨーク・ポストの記事によりますと、
> この非常事態宣言は、当局に予防措置を実施する権限を与える。
というものでした。
感染拡大と予防措置のために「州が全権を掌握する」ことによって、さらなる感染を抑えようという試みだったと思われます。
この頃、このアイオワ州と、周辺の5〜6州では、今年3月から、アメリカの歴史上で最悪の鳥インフルエンザのパンデミックが続いていまして、5月1日の時点で、下の図のように、2100万羽の七面鳥と鶏が鳥インフルエンザに感染するという大災害となっていました。

・TRIB LIVE
しかし、アイオワ州での非常事態宣言によって、この異常な流行は、ひとまず終息に向かうだろう・・・と思われていました。
ところが・・・。
下は、非常事態宣言から 18日後の 5月19日のアイオワ州の状態です。

▲ 2015年05月19日の USA トゥディより。
非常事態の宣言後、感染は終息に向かうどころか、
1600万羽 → 2600万羽
と、1千万羽も感染数が増えている上に、しかも、どうも、非常事態宣言後のほうが、それ以前より感染ペースが早くなっているようにも感じます。
下は、今から1ヶ月前の記事です。
米で鳥インフル530万羽 過去最大、感染拡大阻止急ぐ
日本経済新聞 2015.04.22
米アイオワ州で鳥インフルエンザ(H5N2型)が大量に発生した。米農務省によると、同州オセオラ郡の養鶏場で530万羽が感染した。感染規模は米国内で過去最大。政府は感染拡大の阻止を急いでいる。
米国の鳥インフル発生は2004年にテキサスの養鶏場で7千羽が感染して以来、約10年ぶり。
とありまして、1ヶ月前に 530万羽の感染だったのが、現在その5倍弱あたりの数へと拡大しているという、文字通りの緊急事態となっているようです。
しかも、1ヶ月前の 530万羽の感染も、
> 感染規模は米国内で過去最大
とありますので、現在の感染状況がいかに異常かがよくわかります。
そして、何よりも、この非常事態宣言後に、全力で感染拡大の阻止を試みたであろう状況で、このようなことになってしまっていることを見てみますと、
「人の力で動物の感染症を食い止めることは難しい」
ことがわかります(人間の感染症もですが)。
非常事態宣言の後に、どのような対策が取られてきたのかは具体的にはわかりませんが、常に最大規模でおこなわれるのが「殺処分」ですので、今回もそのようなことになっているのしれません。
世界中で、いろいろな大量死が起き続けているわけですが、アメリカは特に顕著な感じがします。
多くが継続しているアメリカの大量死
冒頭に載せましたのは、アメリカ西海岸で起きていたウミドリの大量死で、以前、
・米国オレゴン州の海岸でウミドリが謎の「餓死」での大量死。推定では「数万羽」が死亡
2015年01月09日
などの記事で記したことがありますが、原因はいまだにわかっていません。
このウミドリも「鳥」ですが、鳥に関しては、他にもいろいろと起きています。
アメリカのアイダホ州では、3月にハクガンという鳥が 2,200羽以上の大量死を起こしていることが発見されました。
しかし、これも原因はわからずに、当局が調査を進めていて、最近、下のような報道がありました。

▲ 2015年05月18日の Ravalli Republic より。
しかし、この調査は曖昧な結果となったようで、
・リン化亜鉛(殺鼠剤に使われる)
・鳥コレラ
のどちらかによるものだろうということのようです。
殺鼠剤は、農家がネズミの被害を防ぐために撒くものらしいですが、仮に殺鼠剤が原因なら、わりと大きな鳥であるハクガンを数千羽単位で殺すという事態が起きるのなら、他の種類の鳥や動物にも同じような大量死が起きていても不思議ではないですが、そういう報道はありません。「ハクガンだけ」が死んでいる、のです。
この「同一の種類だけが大量死する」というのは、たとえば、さきほどの、西海岸のウミドリも、大量死しているのは、アメリカウミスズメ(学名 : Ptychoramphus aleuticus )という海鳥ですが、他の海鳥は死なずに、「これだけが大量死している」のです。
この海鳥の大量死を報じたパーフェクト・サイエンスの記事には以下のような下りがあります。
考えられる大量死の理由としては、原油の流出や、エサの毒性化などがあるとされる。
しかし、生物学者でもあるパリッシュ氏は、疑問を呈する。というのも、アメリカウミスズメは、他の海鳥たちと同じタイプのエビやプランクトンをエサにしているが、アメリカウミスズメ以外の海鳥たちは影響を受けていないのだ。
科学者たちは原因を見出そうとしているが、現在のところは明確な理由はわかっていない。
原油の流出や、エサの毒性化などのわかりやすい原因なら、「いろいろな生物種が死ぬ」はずなのに、1種類だけが大量死するというのは、大量死の原因を普通の理由だけでは探れないかもしれないことをあらわしているかもしれません。
鳥といえば、これはアメリカではなく、チリですが、5月18日に 1000羽以上の鳥が海岸で死んでいるのが発見されました。
こちらも、ミズナギドリ科というものに属する1種類の鳥の大量死のようです。

▲ 2015年05月18日の FRANCE24 より。
このチリの場合も、原因がわかっていない「1種類の大量死」となります。
大量死に関してましては、比較的最近の、
・途方もない「大量死の時代」の進行が加速していた : 2015年最初の4ヶ月だけで270件を超える大量死報道があることを知り
2015年04月30日
という記事に、2015年に報道された、おびただしい数の大量死報道をご紹介したことがありますが、一般的には、大量死は夏を中心として増加しますので(海や湖などの水質が藻の発生などにより悪化しやすいため)、これからの季節も増え続けると思います。
最近では、アメリカの西海岸に、「クジラ」が次々と死亡して打ち上げられています。
・カリフォルニアの海岸に多数のクジラが死んで打ち上げられている
2015年05月17日

・NBC
そのカリフォルニアでは、
・カリフォルニアに打ち上げられたアシカの子どもの数が1800頭に達する
2015年03月25日
など、過去何度か記事にしました「アシカの座礁」も止まっていません。
ガーディアンでは、「海の砂漠の犠牲者」というタイトルで、このアシカの大量死を報じていました。

▲ 2015年05月08日のガーディアンより。
さて、今年のアメリカの大量死、陸地での鳥インフルエンザは別として、「海」においては、圧倒的に「西」が多いわけですが、この理由が次第に明らかになってきています。
上の記事に「海の砂漠」とありますが、その出現を予測していたかのような現象は、昨年から続いていました。
アメリカ西海岸の海域に出現した「デッドゾーン」
昨年 12月の記事、
・太平洋が爆発する? あるいは地球の海がデッドゾーンと化す?: 海水温度の上昇で膨大な量のメタンが太平洋の海底から噴出している
2014年12月15日
の中で、2014年のアメリカ西海岸の海水温度が、平年に比べて異様なほど高いことを示す図を載せました。

・Climate Observations
最近の、海水温度を見てみますと、さらにその「高い海水温度」の状態が激しくなっているようなのです。
下は、2015年 2月から 3月のアメリカ西海岸の海水温度の平年との差です。

・The Conversation
これが、2014年はどうだったかといいますと、下になります。

2015年になって「赤い領域」、つまり、異常に海水温度が高い海域が飛躍的に増えていることがわかります。
しかも、 NOAA (アメリカ海洋大気庁)の、海水温度の偏差グラフは、「最大で差異が2度」となっていて、この図でだけでは「平年より2度以上高くはあるけれど、どのくらい高いかよくわからない」ということも言えそうです。
どうにも、アメリカ西海岸周辺の海域は「未知の領域」に踏み込んでいるともいえるようでもあり、これが直接、海洋生物の大量死と関係あるかどうかはわからないにしても、ここまでの激しさですと、「まったく関係がない」とはいえないと思われます。
現在のアメリカ西海岸沖は、もしかすると、生きものが住みにくくなっている海域、すなわち「デッドゾーン」と化しつつある可能性があります。
そして、このアメリカ西海岸の異常に高い海水温度が、このまま続いた場合、生態系の異常がさらに広がる可能性を指摘するメディアも多くなっています。
アメリカ西海岸は、海も大変ですが、陸地に上がれば、そこはもう激しい干ばつが今でも続いているようでして、打開の目処があるのかどうか・・・。
カリフォルニアなどでは、その干ばつのせいで、ネズミたちの水やエサが不足していて、
「ネズミたちが住宅を襲っている」
というようなことも、少し前に報じられていました。

▲ 2015年04月22日のアメリカ CBS より。
いっぽうでは、海の中で死んでいく動物たちが多数いる中で、たくましく人間たちを襲い続けている動物の一群というものもあるようです。
ほしいものは消えていき、あまり喜ばしくないものは増えていく・・・いやいや、ここはシュタイナーのいう、あるいは、フランス映画『美しき緑の星』で表現される「肯定的な態度の重要性」を思い出すべきかもしれません。
あらゆるものを肯定的な面から見てみる。
「ああ、ネズミさん、何と美しい歯なんでしょう」
「さあ、ネズミさん、どんどん襲ってください」
うーん・・・。
やはり、こう素直には思えないなあ。