「太陽系が生成される数十億年前から地球の生命は継続し続けている」
- アレクセイ・シャロフ(アメリカ国立老化研究所)
- アレクセイ・シャロフ(アメリカ国立老化研究所)

パンスペルミア説も動き始めた2015年
9月に入って以来、「地球の生命の正体」や「パンスペルミア」に関しての、いくつかの興味深い報道を目にしていました。
しかし、最近は、ユダヤとかシュミータとか長野県とか、そういう記事が多くて、なかなかパンスペルミア関係の記事は書けなかったのですが、ここに来て、ろいろいろと大きく動いている感じがします。
パンスペルミア説とは、平たく書けば、
他の天体で発生した微生物の芽胞( DNA を組成する物質や、あるいはアミノ酸などの生命の素材を含めて)が地球に常に飛来していて、地球の生命はすべてそこから始まっていて、今もなお、生命の飛来は続いている。
という主張で、古代の時代からあったですが、近代の科学史で登場したのは、物理化学の祖ともいえるスヴァンテ・アレニウスが、ノーベル化学賞を受賞した1903年に、
「微生物の芽胞が恒星からの光の圧力で宇宙空間を移動する」
と主張したのが始まりです。
アレニウス(1859-1927年)

・Wikipedia
その後、いろいろな科学者たちが、この説を主張してきましたが、20世紀の世の中はダーウィンの「進化論」に包まれていて、なかなかパンスペルミア説は陽の目を見ませんでした。
私がこの In Deep を書き始めた大きな動機のひとつが、パンスペルミア説の強力な提案者であった、フレッド・ホイル博士の著書『生命はどこからきたか』と、『生命(DNA)は宇宙を流れる』などを読んで感銘を受けたことによるものでした。
その時初めて、
地球の生命は、自分の起源も含めて、始まりは宇宙のどこかだった
ということを知ったのです。
フレッド・ホイル(1915-2001年)

・panspermia.org
ホイル博士の主張は複雑ですが、パンスペルミア - Wikipedia には、一言で、
1978年にはフレッド・ホイルが、生命は彗星で発生しており彗星と地球が衝突することで地球上に生命がもたらされた、とした。
と書かれてあります。
実際には、「遺伝子を変化させるウイルスが生物を(遺伝子ごと変化させることによって)進化させてきた」というようにニュアンスの方が強いと想います。
著作から少し抜粋します。
『生命(DNA) は宇宙を流れる』 第4章「進化のメカニズム」より
生物が進化するには、遺伝子が変化する必要がある。
もともときわめて安定している遺伝子が、コピー・ミスによる突然変異を起こしたおかげで優れた形質を獲得すると考えるのは、かなり無理がある。
けれども、ウイルスなら、宿主がそれまでもっていなかったまったく新しい遺伝子を導入することができ、生物の基本的な構造を一新させることもできるのだ。ウイルス感染による遺伝子の移動は、まさに理想的な進化の原動力となりうるのだ。
ウイルスの本質は、もっぱら他の生物に感染して、これを病気にさせたり、死に至らしめることにあるように考えられている。
けれどもそれは、ウイルスが病気の原因となる微生物の一種として発見され、研究されてきたことに由来する偏見である。
ウイルス感染の影響は、細胞破壊だけではない。細胞を壊すかわりに、細胞の代謝や機能を変えたりする場合もあるのだ。
> ウイルスが生物の基本的な構造を一新させる
これが、地球の生命の進化の根幹だと述べているのです。
そのウイルスたちもまた、すべて宇宙空間を旅してきていると。
人類を含む生命を進化させるために。
ただし、生命の素材もウイルスたちも、一体宇宙のどこで生まれたものなのかはわからない(生まれたという言い方が正しいかどうかもわかりません)。
しかし、それらのメカニズムは私たちが知ることのできることではなく、「宇宙(神)のみぞ知る」ことか、あるいは宇宙も知らない巨大な知性の下に存在する「秩序」というだけの話なのかもしれない、と、まあ、この話をし始めると、ややこしいことになるのですが、いずれにしても、このホイル博士の主張を知ってから、私の「地球観」、「生命観」がすべて変わったといってもいいと思います。
私たちは、何か得体の知れない生物から環境に適応して進化してきたのではなく、
宇宙の明確な意志の下に進化している
と思うに至ったのも、ホイル博士の著作を読んだおかけです。
そんなわけで、少しパンスペルミアと関係した記事を久しぶりに書いてみたいと思いました。
過去のパンスペルミア説に関しての記事は、
・カテゴリー:パンスペミア
に一覧があります。
パンスペルミア関係の記事の最も最近のものは、
・確証が進むパンスペミア仮説 : 「DNAの大気圏突破の熱と衝撃に耐えられるか」というロケット打ち上げ実験が行われ、DNAは無事に「生還」
2014年12月09日
でした。
ちなみに、冒頭に載せました「英国バッキンガム大学が発表した宇宙大気圏で採取された生命」は、地球の上空 30キロメートルの高層大気圏で採取された微生物で、バッキンガム大学の科学者たちは、「完全な宇宙生物」と述べています。
このバッキンガム大学の発表も興味深いですが、次の(2)のあたりで、ご紹介したいと思います。
この発表と似た内容のものとしては、
・パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりにおこなわれ、成層圏で宇宙から地球への「侵入者」が捕獲される
2013年09月23日
という記事で、英国シェフィールド大学が、上空 25キロメートルで「珪藻」(ケイソウ)という単細胞生の藻類を捕獲したことをご紹介したことがあります。
下がその時に捕獲された珪藻の写真です。

その記事でも書きましたけれど、こういうものが高層圏で「地上から上に上がっていく」という可能性はほとんどないのが地球の環境なんです。
下の図のように、高層大気圏は「垂直(上下に推進力が基本的にない」ので、火山の噴火の影響が及ぶ上空 10キロメートルくらいまでなら、それで説明もできますが、それ以上の高層大気圏となると、重力に則って、上のものが下に落ちるという運動しか起こりえないのです。

さて、今回ご紹介するのは、いろいろな意味で大変に興味深いデイリーギャラクシーの記事です。
地球の生命の歴史は100億年に達する
それは、アメリカのふたつの国立研究所の科学者が、研究によって、
地球の生命の継続時間は、地球や太陽系が作られた時より以前に遡る可能性がある
という発表をしたのです。
まあ、基本的には、この発表は「進化論」に基づいているものですので、実際なのかどうかということを別にしましても、たとえば、
「地球ができるはるか前から、地球の生命は進化し続けていた」
という概念は、まさにパンスペルミア的であり、また、何だか楽しげな感じがしたのですね。
それでご紹介したいと思いました。
なお、地球の年齢の方ですが、一般的なところでは、「 46億年」というように教えられることが多いですが、以前、
・「地球の年齢がわからない」: ミシガン工科大学の調査が地質学に与えるショック
2011年11月26日
という記事で、これまでの調査での結果は、
地球の年齢に関しての主張は「 200億年から 5000年」と多岐にわたる
というようなことを書いたこともありますが、地球の歴史というもの自体もわからないことのひとつです(私は、地球に歴史はないと思っていますが)。
なお、ご紹介する記事のタイトルになっている「ムーアの法則」というのは、生物学や宇宙物理学とは関係のないもので、インテルの創業者のゴードン・ムーアという方が提唱した、半導体の性能に関しての法則です。
ムーアの法則
ムーアの法則とは、世界最大の半導体メーカーIntel社の創設者の一人であるGordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度は18〜24ヶ月で倍増する」という法則。
この法則によれば、半導体の性能は指数関数的に向上していくことになる。
(コトバンク)
今回ご紹介する記事の内容自体は、かなり専門的で、あまりわかりやすくはないのですが、とにかく、「地球の生命の歴史は非常に古い」というひとつの示唆があったということをお知らせできれば幸いだと思います。
では、ここからです。
Life Older Than Earth --"Does Moore's Law Imply Its Existence?"
Daily Galaxy 2015.09.14
生命は地球より古くからある - ムーアの法則はその存在を暗示する?
地球の生命は、その進化と共に、まるで集積回路上のトランジスタの数が2年ごとに約2倍になることを述べたムーアの法則のように、生命としての複雑さを指数関数的に増加させてきた。
それはまるで、集積回路上のトランジスタの数が2年ごとに約2倍になることを述べたムーアの法則のようだ。
ボルチモアのアメリカ国立老化研究所( NIA )の遺伝学者アレクセイ・シャロフ( Alexei Sharov )氏と、フロリダにある湾岸標本海洋研究所( Gulf Specimen Marine Laboratory )のリチャード・ゴードン( Richard Gordon )氏のふたりは、この傾向を既知の事柄から推定することにより、地球の生命が、ムーアの法則に尺度によっていることを見出した。
そして、それに従えば、「地球の生命は地球自身の歴史よりも古い」ということが示されるのだ。
研究チームは、ムーアの法則を、生命のゼロの地点である生命の起源の地点まで戻し適用した。
そして、原核生物から真核生物へと、生命としての複雑さが増加した速度を測定することにより、次に、虫や魚などの、より複雑な生命、そして、両生類や、最終的には哺乳類に至るまでの進化の速度を測定した。
その結果は、生命の構造が複雑化していく進化の倍加時間とムーアの法則の背後にあるものとは同一の指数関数的増加を見せることがわかった。
ところが、この見地から、1塩基対の遺伝的複雑さの線形回帰から推測すると、「生命の起源は 97億年前」という時間軸を示唆するのだ。
つまり、これらの示唆は、生命の進化のための宇宙時間スケールに関して重要な結果をもたらす。
----- それは、地球の生命が、まずは、バクテリアのような複雑な生命に達するためにも「 50億年」かかるという結論だ。
生命の起源と、原核生物への進化の時間的スケールの環境は、この地球で想定されているものとはかなり違っていたのだ。
このことは、もし、生命がホモ・サピエンスと関連するほどの複雑さに進化するのに 100億年かかるとすれば、私たち人類という存在は「まったく最初のこのレベルの複雑さを持つ生命」だと言えるかもしれない。
(※訳者注 「人類という複雑な生命体としての存在は、この宇宙で初めてのもの」というような意味かと思います)
もし、私たちが最初のそのような複雑な生命ではないとすれば、宇宙にどのくらいの高度な地球外生命が分布しているのかを推定する「ドレイクの方程式」を否定することになる。
下のグラフは、ヌクレオチド塩基対(bp)によって、ゲノムごとのの非重複 DNA の長さから、生命の複雑さを示すものだ。時間の経過と共に、生命の複雑さは直線的に進化する。
時間は、現在の時間を「0」として、その前の 100億年までをカウントしている。

高度な生物の進化は、情報処理システムの進化をも伴う。たとえば、それは、エピジェネティック( DNAの配列変化によらない遺伝子の発現を制御・伝達するシステム)な記憶や、原始的な心、多細胞な脳、言語、書籍、コンピュータ、そして、インターネット。その結果、複雑さの倍加時間は 20年ごとに到達することがわかった。
シャロフ氏とゴードン氏はまた、天文学者たちは、私たちの太陽系が、それ以前の星の残骸から形成されていることを確信していることを指摘する。
これは、パンスペルミア説の概念においては、元々あったガス、塵、氷の雲などの中に生命が保存されていた概念を示唆するものだ。
地球上の生命は、私たちの太陽系が形成されるより数十億年も前から、生命のプロセスを継続している可能性があるのだ。